まず結論から
- 日本語で読める一次資料は3系統にまとまっています。日本吃音・流暢性障害学会の学会誌と、第1回からの大会抄録集(PDF)、幼児吃音臨床ガイドライン2021の本文と一般向け添付資料(PDF)、そして日本耳鼻咽喉科学会会報の総説「吃音(どもり)の評価と対応」(J-STAGE)です。
- 英語の論文を「どこで探すか」は、系統的レビューが自分の方法の節に書いています。子どもの介入を集めたレビューは9つのデータベースと試験登録簿を横断し、薬と食事療法のレビューは CENTRAL・MEDLINE・Embase・Cochrane などを開設時から2024年6月まで探しています。
- 根拠の強さには段階があります。幼児吃音臨床ガイドライン2021は、メタ分析(複数の研究の結果を統合して調べる方法)を Ia、専門家の意見を IV とする6段階で根拠を格付けし、推奨を A〜D で示しています。系統的レビューと無作為割付比較試験をいちばん強い根拠と位置づける階層は、海外のレビューも同じです。
- 論文の数字は「誰を、どう数えたか」で動きます。教科書に載る生涯の発症率のおおよその値は、1964年の英国の1本の追跡研究に多くを負っていて、原典はこれを過小評価の可能性があると述べています。同じ子どもたちでも、回復の基準を変えると回復率は13%から95%まで動きました。
- 最新の総説は、吃音は「かつて医学の謎とされた」状態から複雑な神経発達の状態と理解されるようになった一方で、生物学と行動を結ぶ仕組みの説明はまだ欠けている、と結論しています。
ただし、論文を読めば答えが一つに決まるわけではありません。ガイドライン自身が、根拠は確率や平均で表されていて、個別の子どもについて0%や100%といった確実な予後(この先の経過)を予測することはまずできない、と断っています。診断や治療の判断は、言語聴覚士や医師と一緒に行ってください。
「ネットで調べても、望んだ情報がない」——日本語で読める入口はどこか
吃音の論文を読みたいと思った人が最初にぶつかるのは、英語の壁より前に、「そもそも日本語で書かれた確かなものはどこにあるのか」という問いです。論文と海外の文献を読んで自分の吃音に向き合ってきた当事者が、その入口を自分でまとめています。
当事者本人(名義「サラリン」・吃音のある会社員。吃音で休職した経験がある/個人ブログ note)
吃音関連の情報について、ネットで色々調べようと思っても、望んだ情報がないことをずっと感じていました。
私は論文や海外文献を通して吃音の勉強をしてきましたが、やはり難しいところがあります。
そこで、私が今まで色々調べた中で、分かりやすく、かつ非常に参考になるサイト等のリンクをまとめていこうと思います。
吃音で休職したことがあり、吃音で多くを失ってきた人生を何とかしなければと、吃音や心理学、脳科学の文献を読み漁ってきたと自己紹介する書き手が、自分用にまとめていたリンクを公開した記事です。並べられている先頭は、国立障害者リハビリテーションセンターや大学の研究者がまとめたという「発達性吃音(どもり)の研究プロジェクト」のサイト。次に「吃音(どもり)の評価と対応」という総説で、論文なのでちょっと読みにくいと断りながら「まずはこれを見て!」と添えています。そして幼児吃音臨床ガイドライン。本来は臨床家向けで一般人が読むものではないと思う、と書いたうえで、子どもが吃音のときにどう対応すればよいかが分かるので自信を持って向き合える、と続けています。この総説とガイドラインは、実際に手元で開いて確かめることができます。
出典: 吃音関係で役立つリンク集(随時更新)(note・サラリン_吃音論文)(台帳: V0492)
まず、書き手が「まずはこれを見て」と挙げた総説です。日本耳鼻咽喉科学会会報の123巻9号(2020年)に載った「吃音(どもり)の評価と対応」で、著者は森浩一(国立障害者リハビリテーションセンター)、J-STAGE(日本の学術誌を電子公開している場所)で読むことができます。総説とは、一つの研究を報告する論文(原著)と違って、それまでの研究を見渡してまとめた論文のことです。この総説の要旨には、診断の基準(吃音検査で中核症状——繰り返し・引き伸ばし・ブロック——が100文節あたり合計3以上あること)、発症要因の7割以上が遺伝性であること、発吃(吃音が始まること)から2〜3年程度の経過で7割以上が自然治癒することが、続けて書かれています。
次にガイドラインです。幼児吃音臨床ガイドライン2021は、わが国の疫学的知見(集団の中で吃音がどれだけ起きるかの調査結果)を踏まえ、限られた人的・施設的資源で最大限の効果を上げるための戦略的な指針を示すことを目的に作られました。想定している読み手は、幼児の吃音に接する医師(主に小児科医・耳鼻咽喉科医・児童精神科医)、症状の評価と治療を担当する言語聴覚士、保健センター等で相談を受ける保健師です。医学の専門家を主な利用者と想定しているため、医学知識のない人には理解しにくいところがあるかと思われる、とガイドライン自身が書いています。その代わり一般向けには付録として資料が作られ、本文と同じサイト(plaza.umin.ac.jp/kitsuon-kenkyu)から PDF で配布されています。ただしこの資料は、医学的な専門知識のない人が利用して医療機関での専門的な評価や治療を省略できるようにすることを意図したものではない、と明記されています。書き手が「本来は臨床家向け」と断ったのは、ガイドライン自身の位置づけと一致します。
そして学会です。日本吃音・流暢性障害学会は、吃音と流暢性障害(クラタリング=早口言語症など)の研究の発展と、研究・医療・福祉・セルフヘルプグループ活動に関わる者どうしの交流を目的とした学会で、事業として学術集会の開催、知識の普及、国内外の関連団体の連携、機関誌の発行を挙げています。サイトの案内には学会誌『吃音・流暢性障害学研究』の名前があります。過去の大会のページには、第1回からの大会が開催日・会場とともに並び、各回のプログラム・抄録集(発表の要旨を集めた冊子)が PDF でダウンロードできるようになっています。最新の第13回は2025年8月23・24日に九州大学医学部百年講堂で、第12回は2024年9月7・8日に川崎医療福祉大学で開かれました。2018年の第6回は吃音・クラタリングの世界合同会議として広島国際会議場で開かれ、抄録集には英語版と日本語版の両方があります。日本語で書かれた吃音研究の要旨がまとまって読める場所は、ここです。学会そのものと大会の中身は、学会の記事に分けます。
「もと論文はコチラ」——保護者が一次論文を読んだら、何が見えたか
日本語の入口の先には、英語の一次論文(研究者が自分の調べた結果を初めて報告する論文)があります。読めるのは研究者だけ、と思われがちですが、二人の娘の吃音のために治療法を比べていた保護者が、その1本を開いています。
二人の娘に吃音がある保護者(名義「mmmmakaron」/育児ブログ「吃音のある子どもと親の成長記録」)
リッカムプログラムは、12名途中で脱落してフォローできなかったようで・・・DCMは9名だそうですが、脱落した12名が気になるところです。
欲を言うなら、無治療の子どもも一緒に比較してほしかった・・・でも、無治療で様子を見る事を希望する人も少なそうですもんね。
吃音治療の効果の問題は、同じ子供を、治療をした場合としなかった場合で比べられない事ですね。治療で良くなったのか、自然に良くなったのか、それはよく分からない・・
幼児の吃音の治療法として、リッカム・プログラム(子どもが流暢に話せたときに大人が決まった反応を返す方法)と DCM(子どもに求められる水準を下げて負担を減らす考え方)を調べていた保護者の記事です。対象年齢が3〜6歳とされるリッカムに「長女はもうギリギリ」で、受けられる場所を探しながら、この保護者は2つを比べる研究のために作られた DCM の手引きを読み、「もと論文はコチラ」と PubMed(英語の医学論文を探すためのデータベース)のページを貼ります。そこから書き写しているのは、対象の年齢、2つの方法に約100人ずつを振り分けて18か月追ったこと、途中の時点と終わりの時点で差があったかどうか。そして目が止まったのが、上の一節にある「脱落した12名」と「無治療の子ども」でした。研究者が集めた論文を評価するとき、実は同じところを見ています。
出典: DCMとリッカムプログラムの効果(吃音のある子どもと親の成長記録)(台帳: V0357)
保護者が読んだのは、2つの方法を比べた1本の試験です。こうした試験を、決めた手順で世界中から集めて評価し直す論文を「系統的レビュー」といいます。2021年に出た子どもと思春期の介入の系統的レビューは、PRISMA という報告の手引きに従い、2019年1月20日に CINAHL、Cochrane Reviews、Embase/Medline、PsycExtra、PsycINFO、ClinicalTrials.gov、WHO の国際臨床試験登録プラットフォームなど9つのデータベースと試験登録簿を横断して探しています。集まった482件(別の経路の5件を含む)は重複を除いて363件になり、そこから条件に合うものだけが残りました。対象は2〜18歳の吃音のある子どもで、吃音を減らすために設計された介入を使った研究に限り、薬の研究は除いています。
このレビューが採ったのは、系統的レビュー(レベルI)と無作為割付比較試験(レベルII)だけです。後者は参加者をくじ引きのように2つの群に分けて比べる試験のことで、オーストラリアの評価機関の階層ではいちばん強い根拠にあたります。研究の質は、吃音の研究に関わったことのない二人の著者がコクラン(医療の研究を評価する国際組織)の基準で評価しました。その結果は「偏りのリスクは全体として中等度」で、理由は割り付けの隠し方の報告が不十分なこと、参加者を盲検(誰がどの群か分からない状態)にできないこと、結果の評価が標準化されておらず盲検でもないこと、そして脱落が明確に記述されていないことでした。保護者が「気になる」と書いた脱落は、レビューの評価項目そのものです。さらにレビューは、リッカム・プログラムを調べた8件のうち6件が、その方法をもともと開発した著者たちによる研究だったことを注記しています。
「無治療の子どもも一緒に比較してほしかった」という願いにも、レビューは自分の限界として答えています。統合できた研究の数が少なかったため、下位集団の解析も、研究間の結果の食い違いの原因の検討もできなかった、と書かれています。しかもレビューは英語で過去14年間に公表された研究に限っていて、それより前の初期の試験の上に積み重ねる位置にあります。一次論文を1本読んで気づいた疑問は、系統的レビューが「限界」の節に書いている疑問と重なります。就学前のリッカム・プログラムの格付けと、学齢期以降に比較試験が1件も無いという空白は、吃音治療の記事で図にしています。
「7割が3〜4年で自然治癒」——同じ言葉なのに、数字が資料で違う理由
論文を読み始めると、次にぶつかるのが数字です。自然に治る割合は、資料によって7割だったり8割だったり、もっと幅があったりします。娘の吃音が急に重くなった夜、その数字を探した母親がいます。
年長の娘の母(名義「ちゃんしー」。娘は約2歳5か月で吃音が始まった/個人ブログ note)
不安を感じている中、希望をくれたのは
・幼児期に発症した場合、7割ぐらいが3~4年で自然治癒する
という情報。
これは当時見たもので、今調べると違う情報も出てきますが(おそらくこの分野の研究はまだ発展途上でどんどん変わっていくと思う)、私はこの情報を希望を感じ頑張れたところが大きかったです。
逆に現実味を覚え心がざわざわしたのが
・発症後3~4年を過ぎると治りにくくなる
・小学生に上がると治りにくくなる
という情報。この数字をリミットとして、それでも治らなかったら動こう。
と思っていました。
娘の吃音が数日のうちに、顔を真っ赤にして体に力を入れても言えない状態まで進んだあと、この母親は夜ごと調べました。得た情報として並ぶのは、本人に意識させないほうがよい、親は落ち着いて見守る、といった対応の目安です。そのなかで希望になった数字が「7割ぐらいが3〜4年」で、逆に心がざわついたのが「3〜4年を過ぎると」「小学生に上がると」治りにくくなるという情報でした。母親はその数字を期限に決め、それでも治らなければ動く、と書いています。「当時見たもので、今調べると違う情報も出てくる」という一言が、そのまま次の問いになります。同じ「自然に治る割合」が、なぜ資料で違うのか。答えは、研究の側にきちんと書いてあります。
出典: 娘の吃音、はじまりとおわり(note・ちゃんしー)(台帳: V0079)
手元の資料を並べてみます。幼児吃音臨床ガイドライン2021は「幼児期の発症率はおよそ8%、自然治癒率は70〜80%と考えられている」と答え、その根拠の段階を IIb(よくデザインされた準実験的研究)としています。国際的な疫学の総説は、就学前に追跡に参加した子どもについて、自然回復率は68%から96%の範囲だと述べ、挙げた9件のうち7件が幼い子ども、2件が大人を対象にし、8件が縦断(同じ子どもを何年も追う)方法、1件が過去を振り返る方法だったと内訳を書いています。日本耳鼻咽喉科学会会報の総説は、発吃から2〜3年程度の経過で7割以上が自然治癒するとしています。「7割以上」「70〜80%」「68〜96%」——どれも間違いではなく、何年後に、誰が、どう数えたかが違います。
数え方は3通りある、と疫学の総説は整理しています。臨床家が多数の症例から見積もる方法、親や本人に過去を思い出してもらう方法、そして発症直後から何年も追いかける方法です。思い出してもらう方法は、大人が自分について答えたり親が何年も前を思い出したりするため、記憶の欠落によって回復を少なめに見積もることになります。同じ総説は、そもそも「生涯で一度でも吃音になる人の割合」を測るのがいかに難しいかも書いています。理想は大人数を生後まもなくから何年も追う前向きの追跡ですが、費用がかかり現実的ではなく、代わりの方法では取りこぼしと過少報告が起きて、控えめな数字になります。
決定的なのは、2025年の論文が冒頭で紹介している2020年の観察研究です。子どもの回復を判定する基準を4通り用意し、同じ子どもたちに当てはめたところ、どの基準を選ぶかで回復率は13%から95%まで動きました。だから、違う基準や違う定義を使った研究どうしで結果が食い違うのは驚くことではない、と論文は続けます。とくに、目に見える吃音の行動だけで判定すると、避けたり言い換えたりして観察される吃音が減っている人を見落とし、持続を少なく報告する危険がある、とも書かれています。ただしこの研究は、参加した人数が元の縦断研究のごく一部にすぎないという限界を著者自身が明記していて、ここに出てくる割合を「回復率」として持ち出すことはできません。回復率の幅そのものを図にしたものは、遺伝と回復の記事にあります。母親が「今調べると違う情報も出てくる」と感じたのは、研究が進んで数字が動いたからでもあり、最初から測り方の違う数字が並んでいたからでもあります。
「研究によると」を見つけたとき——19人中6人を、どう読むか
論文そのものではなく、「研究によると」と書かれたコラムやブログに行き当たることのほうが、実際には多いと思います。そこに載っている数字をどう扱うか。海外のコラムで見つけた研究を、自分で試してみた当事者がいます。
当事者本人(名義「すけ」/個人ブログ)
半信半疑で買ったのが正直です。
また、それを一ヶ月近く服用していて、劇的に改善したという実感もありません。
ですが、これらを飲む事によって自分自身、吃音に向き合っている気がしていて、非常にポジティブな感情になっているのは確かです。
吃音の改善策が近い将来に開発され、吃音に悩む人が少しでも減っていけばいいなと思います。
吃音について調べるうちに、ビタミンB1を摂ると吃音がよくなるという趣旨のコラムを見つけた、と書き出す記事です。コラムが紹介していたのは、吃音のある成人男性19人がビタミンB1を1日300mg摂り、そのうち6人が「ほぼ解消された」と報告した、という研究の要約でした。書き手は3月にサプリメントを買い、飲み忘れながら一か月近く続けたうえで、上の一節を書いています。劇的に改善した実感はない。それでも向き合っている気がして前向きになれる。効いたとも効かないとも書かず、半年は続けてみると締めています。ここで確かめておきたいのは、この人の体験ではなく、コラムのほうです。19人のうち6人という数字は、研究として何を言えるのか。薬と食事療法の研究を集めた系統的レビューが、まさにこの問いを扱っています。
出典: 吃音とビタミンB1の関係性(ひ、ひ、ひとりごとを言わせてくれ。)(台帳: V0413)
2025年に出た系統的レビューは、発達性吃音に対する薬と食事療法の研究を、CENTRAL、MEDLINE、Embase、Cochrane などのデータベースで開設時から2024年6月まで探し、研究のデザインを限定せずに集めました。集まったのは39件で、17種類の薬のクラスと4つの食事療法を扱い、87%が青年・成人の持続する吃音を対象にしていました。そして食事療法(銅、チアミン、緑茶、アーユルヴェーダのサプリメント)は根拠が不十分と評価されています。チアミンはビタミンB1のことです。「効かないと証明された」のではなく、「判断できるだけの証拠が無い」という結果です。
なぜ判断できないのか。レビューは、偏りの評価に無作為化試験用と非無作為化研究用の標準的な道具を使い、無作為割付比較試験19件のうち偏りのリスクが低いか許容範囲と評価されたのは7件だけだった、と報告しています。結論では、新しい抗精神病薬などに有望な所見はあるが、方法の限界のため確定的な治療の推奨はできない、とし、主な問題として無作為化したプラセボ対照試験(本物と偽薬をくじ引きで割り付けて比べる試験)が無いこと、結果の測り方がばらばらなこと、標本(調べた人数)が小さいことを挙げています。19人に飲んでもらい、比較の群を置かず、本人の報告で数えた研究は、この3つの問題をそのまま抱えています。
もう一つ、コラムには載らない事情があります。米国の国立衛生研究所(NIH)の一部門である NIDCD が2023年6月に開いたワークショップをまとめた総説は、脳刺激の研究について、肯定的な結果だけが報告される出版バイアスや、否定的な結果が公表されない問題(お蔵入り)の可能性が高い、と書いています。効いた報告は残り、効かなかった報告は表に出にくい。コラムやブログで「研究によると」と紹介される研究がどちら側の報告なのかは、読み手には分かりません。サプリメントを含め、飲むものを変える判断は、自己判断ではなく医師や薬剤師に相談してください。
論文の種類と「根拠の強さ」の読み方
ここまでに、原著(一つの研究の報告)、総説、系統的レビュー、ガイドラインという4種類が出てきました。読み分けの物差しは、ガイドライン自身が表にしています。幼児吃音臨床ガイドライン2021は根拠の段階を6つに分けます。Ia は複数の無作為割付比較試験の結果を統計的に一つにまとめて調べたもの(メタ分析。試験の結果がほぼ一様)、Ib は無作為割付比較試験、IIa はよくデザインされた比較研究(無作為割付でない)、IIb はよくデザインされた準実験的研究、III はよくデザインされた非実験的記述研究(比較・相関・症例研究)、IV は専門家の報告・意見・経験です。推奨の等級は、A(行うよう強く勧められる。Ia または複数の Ib)、B(行うよう勧められる。少なくとも1つのレベル II)、C1(行うことを考慮してもよいが、十分な科学的根拠がない)、C2(十分な科学的根拠がないので勧められない。有害という証拠もない)、D(行わないよう勧められる)の5段階です。レベル Ib の論文でも症例数が不十分か1本だけなら B にする、という但し書きも付いています。
C1 と C2 の定義は、とくに読み違えやすいところです。どちらも「十分な科学的根拠がない」が本体で、「効く」「効かない」ではありません。同じガイドラインは読み方の注意として、ガイドラインは指標であって全症例を縛るものではないこと、領域ごと・個別事項ごとに根拠の強さが違うので領域の等級だけに依拠しないこと、そして「統計的に有意でない」は「同じか違うか分からない(判断できない)」であって「差がない」ではないことを、間違いが散見されると言い添えたうえで書いています。
ガイドラインがどう作られるかも、論文として公開されています。ドイツでは17の専門学会が、合意と根拠に基づく吃音・クラタリングの診療ガイドラインを作りました。治療の有効性という中心の問いについて、4人の研究者が独立に Web of Science、PubMed、PubPsych、Cochrane Library を探し、2000年から2016年4月までの文献のうち43件が方法の基準を満たしました。基準は、吃音を減らす効果を調べていること、参加者12人以上、効果の大きさが報告または計算できること、2回以上の繰り返し測定、6か月以上の追跡です。系統的レビューやメタ分析の質は SIGN、無作為割付比較試験などは AWMF のチェックリストで評価し、根拠の段階はオックスフォードの根拠に基づく医療センターの分類で付けています。文章は8人の著者グループが作り、合意グループで二段階の投票にかけました。まず利益相反(判断に影響しうる利害関係)のある人を除いて投票し、次に含めて繰り返し、結果に目立った食い違いは無かったといいます。日本の幼児吃音臨床ガイドライン2021も、Minds の診療ガイドライン作成マニュアル(2017)の手順を参照し、2016年度からの AMED の幼児吃音の研究全体から作られています。「ガイドラインに書いてある」は、この手続きを通った、という意味です。
最後に総説です。この記事で何度も引いている2025年の総説は、NIDCD が2023年6月28・29日に開いた2日間のオンラインのワークショップをまとめたもので、就学前の子どもの5%以上に吃音があり、世界の大人の約1%で慢性化する、という数字から始まります。総説は研究者が知見を見渡して書くもので、自分で新しいデータを取った論文ではありません。だから総説の数字を引くときは、その数字がどの研究から来たのかを、総説の引用先まで戻って確かめる必要があります。同じ理由で、原著の「はじめに」に書かれた背景の数字は、その原著の成果ではありません。この点は落とし穴の節でもう一度触れます。
総説自身が「まだ分かっていない」と書いていること
論文を読む目的が「答えを知る」ではなく「これから調べる」なら、いちばん役に立つのは、総説やレビューが自分で挙げている空白です。
2025年の総説は結論で、数十年の研究によって、かつて医学の謎とされた吃音の性質はよりよく理解され、いまは複雑な神経発達の状態(生まれつきの脳の育ち方に関わる状態)と広く見なされている、としたうえで、生物学的な基盤には多くの疑問が残り、生物学と行動を結ぶ仕組みの説明はまだ欠けている、と書いています。この空白が、科学に導かれた新しい介入の開発を妨げてきた、とも。突破口として挙げられているのは、厳密な基礎研究と臨床試験を支える大規模で多分野にまたがる共同研究、標本の多様性を増やすこと、介入の目標についての見方を広げることです。
同じ総説は、研究の設計そのものにも注文を付けています。吃音は社会的なやりとりの中で起きるのに、実験の場面はそれとかけ離れている。脳画像の研究の大半は臨床の場や装置の中で行われ、ふだんより流暢な発話を引き出してしまう。しかも解析は表に出た吃音との関係ばかりを見て、当事者がよく訴える「コントロールを失う」という心の状態を扱えていない。脳の側で何が確かめられ、何が仮説にとどまるかは、吃音のメカニズムの記事にまとめました。
子どもの介入では、学齢期の子どもと思春期の当事者を対象にした無作為割付比較試験が1件も無く、クリニックの外で提供された介入の研究は遠隔医療版の2件だけ、集団形式は1件でした。研究ごとに測っている結果がばらばらで、サービスの利用量を測った研究はごく少ない、ともレビューは書いています。ドイツのガイドラインは、治療法とその形(個別か集団か、分散型か集中型か)の長期的な有効性と効率、治療の成功と再発を予測する因子、根拠に基づく適応の定め方、患者が特定の治療法を選ぶ理由について研究が必要だとしています。薬については、そろった手順で行う大規模な試験が要る、というのが2025年のレビューの結論です。これから研究を始める人にとって、この列挙はそのままテーマの候補です。
論文を読んだあとに、どこへ相談するか
論文は、相談の代わりにはなりません。幼児吃音臨床ガイドライン2021は、吃音を疑ったら早期に、幼児の発達ないし吃音に関する知識がある専門家の評価と指導を少なくとも一度は受けることを推奨しています(それまでに吃音が消えた場合はその限りではありません)。相談先としては、幼児の吃音の治療経験がある言語聴覚士のいる病院やクリニック、自治体の(小児)リハビリテーションセンター、大学教育学部に付属する発達や言語の相談室、児童発達支援センター、就学後は小学校の通級指導教室である「ことばの教室」が挙げられています。ただし、相談に対応している機関の多くは治療には対応できないことも多い、という注意が添えられています。
読んだ論文を持って相談に行くのは、悪いことではありません。ガイドライン自身が、根拠は確率や平均で表され、個別の子どもの予後を確実に言い当てるものではないと書いているとおり、論文が答えているのは「大勢ではどうか」で、目の前の一人については、専門職と一緒に見るしかありません。学会も、研究者だけでなく医療・福祉・セルフヘルプグループ活動に関わる人どうしの交流を目的に掲げています。当事者が書いた本を手がかりにするなら、『吃音の世界』を読んだ人向けの記事があります。診断の基準がどう書かれているかは、診断基準(DSM-5)の記事に分けます。
次のようなときは、論文で分かったつもりで止まらず、相談を考えてみてください(あくまで目安で、当てはまらなくても相談して構いません)。
- 子どもの吃音が続いていて、就学が近づいている
- 本人が話す場面を避け始めている
- 論文やコラムで読んだ治療法・食事・サプリメントを、自分で試そうとしている
この3つは相談を考えるきっかけとして挙げたもので、特定の資料が「受診の目安」として定めているものではありません。なお、専門家の評価と指導を少なくとも一度は受けることは、幼児吃音臨床ガイドライン2021が実際に推奨しているものです。
論文を読むときに陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 「はじめに」に書かれた数字を、その論文の成果として引く
原著の「はじめに」や総説の背景に書かれた数字は、その論文が測った値ではなく、別の研究から引いてきた値です。教科書や公的機関のサイトに載る生涯の発症率のおおよその値は、英国で約1000人の子どもを出生から16年間追った1964年の追跡研究1本に多くを負っていて、そこで吃音と判定された子は数十人にとどまり、追跡は家庭訪問と親の報告に頼っていたため、4.9%という数字は過小評価の可能性がある、と疫学の総説は指摘しています。数字を引くなら、それを実際に測った論文まで戻る。総説は入口であって、出典ではありません。
落とし穴2 − 「有意差なし」を「効かない」、「示唆」を「確認」と読む
ガイドラインは、「有意差がない」を「差がない」と読む間違いが散見される、と明記しています。逆に、19人中6人のような小さな報告を「効いた」と読むのも同じ型です。薬と食事療法のレビューが確定的な推奨を出せなかった理由は、プラセボ対照の無作為化試験が無いこと、測り方がばらばらなこと、標本が小さいことでした。肯定的な結果だけが報告される偏りの可能性も、総説自身が認めています。「示唆する」「かもしれない」と書かれた文は、そのまま推量として読んでください。
落とし穴3 − 論文で分かったつもりになって、専門家に行かない
ガイドラインの一般向け資料は、医学的な専門知識のない人が利用して医療機関での専門的な評価や治療を省略できるようにすることを意図したものではない、と自ら断っています。論文を読む力は、相談の場で「この数字はどの研究のものですか」と聞ける力になります。まずは気づいたこと——どんな場面で出やすいか、どのくらい続いているか——を書き留めておくことから小さく始め、言語聴覚士やことばの教室に相談できる場合はそちらが確実です。
よくある質問
吃音の論文は日本語で読めますか?
読めます。日本吃音・流暢性障害学会は機関誌の発行を事業に掲げ、サイトの案内には学会誌『吃音・流暢性障害学研究』の名前があります。同学会のサイトでは第1回からの大会のプログラム・抄録集が PDF で公開されています。幼児吃音臨床ガイドライン2021は本文と一般向けの添付資料を PDF で配布し、日本耳鼻咽喉科学会会報の総説「吃音(どもり)の評価と対応」は J-STAGE で読めます。
英語の論文はどこで探せばいいですか?
系統的レビューが自分の探し方を書いています。子どもの介入のレビューは CINAHL、Cochrane Reviews、Embase/Medline、PsycINFO、ClinicalTrials.gov、WHO の国際臨床試験登録プラットフォームなど9つを横断し、薬と食事療法のレビューは CENTRAL、MEDLINE、Embase、Cochrane などを開設時から2024年6月まで探しました。ドイツのガイドラインは Web of Science、PubMed、PubPsych、Cochrane Library の4つを使っています。まず PubMed で1本見つけ、その論文が引いている系統的レビューにたどると、探す範囲が決まります。
総説・系統的レビュー・メタ分析・ガイドラインは、何が違うのですか?
総説は研究者が知見を見渡して書くもので、自分で新しいデータを取ってはいません。系統的レビューは、決めた手順でデータベースを横断して研究を集め、質を評価して統合する論文で、結果を統計的に一つにまとめる部分をメタ分析と呼びます。ガイドラインは、こうしたレビューを根拠に、学会などが合意の手続きを経て推奨を定めたものです。幼児吃音臨床ガイドライン2021は、根拠の段階を Ia〜IV の6段階、推奨を A〜D の5段階で表しています。
論文によって、自然に治る割合の数字が違うのはなぜですか?
何年後に、誰が、どう数えたかが違うからです。就学前に追跡を始めた研究では68%から96%の幅があり、幼児吃音臨床ガイドライン2021は70〜80%としています。同じ子どもたちでも、回復の基準を4通り変えると回復率は13%から95%まで動いた、という2020年の報告もあります(P0077 が紹介)。親や本人に過去を思い出してもらう方法は、記憶の欠落で回復を少なめに見積もります。
論文を読めば、自分で治療法を選べますか?
論文が答えているのは「大勢ではどうか」で、個別の子どもについて確実な予後を予測することはまずできない、とガイドライン自身が書いています。ガイドラインの一般向け資料も、専門的な評価や治療を省略するためのものではないと明記しています。読んだ論文は、言語聴覚士や医師に相談するときの共通の材料として使ってください。相談先の種類はガイドラインに一覧があります。
まとめ
- 日本語で読める一次資料は、日本吃音・流暢性障害学会の学会誌と第1回からの大会抄録集、幼児吃音臨床ガイドライン2021の本文と一般向け添付資料、日本耳鼻咽喉科学会会報の総説の3系統。
- 英語の論文の探し場所は、系統的レビューの方法の節にある。9つのデータベースと試験登録簿、CENTRAL・MEDLINE・Embase・Cochrane、Web of Science・PubMed・PubPsych・Cochrane Library。
- 根拠には段階がある。Ia(無作為割付比較試験のメタ分析)から IV(専門家の意見)まで、推奨は A〜D。C1・C2 は「効く/効かない」ではなく「根拠が不十分」で、「有意差なし」は「差がない」ではない。
- 数字は「誰を、どう数えたか」で動く。生涯の発症率の定番の値は1964年の1本の研究に多くを負い、過小評価の可能性がある。同じ子どもたちでも回復の基準で13%から95%まで動いた、という報告を2025年の論文が紹介している。
- 最新の総説は、生物学と行動を結ぶ仕組みの説明はまだ欠けていると結論している。論文は相談の代わりにならず、ガイドラインは専門家の評価を少なくとも一度は受けることを推奨している。
