まず結論から
- 学苑社は吃音の本を続けて出している版元です。九州大学の教員データベースには、同じ著者の吃音関連書だけで2012年から2024年まで9冊が学苑社から出ていることが、刊行年月つきで記録されています。
- 本は立場ごとに分かれています。『子どもの吃音 ママ応援BOOK』『もう迷わない!ことばの教室の吃音指導』『吃音の合理的配慮』のように、書名そのものが読み手を名指ししているので、そこが最初の手がかりになります。
- 公的な指針である幼児吃音臨床ガイドライン2021は、引用文献欄に学苑社から出た本を複数挙げています。本と研究は別々の世界にあるわけではありません。
- ただし本の内容は、その本が出た年で止まります。ガイドラインは、育て方が悪いから吃音を発症するという説はすでに否定されているのに、その知見が浸透していないと書いています。
- 本で知った方法の効き目は、本とは別に確かめられます。自分の声を少し遅らせて聞かせる装置(DAF)は、2026年に出たメタ分析(複数の研究を統合して評価する方法)で、それだけでは言葉の詰まりを有意には減らさないと結論されています。
ただし、この記事は本の中身を読んだうえでの評価ではありません。扱えるのは、公的な資料や当事者の記録に書き残されている書名・著者・出版年といった範囲までで、どの本がその人に合うかは、読む目的と立場によって変わります。
学苑社から、どんな吃音の本が出ているのか
出版社のサイトを開くと新刊順に並びますが、それでは「誰向けか」が分かりません。手元で確かめられるのは、九州大学が公開している教員データベースの「書籍等出版物」欄です。吃音の診療にあたっている耳鼻咽喉科の医師のページで、本人の著書が書名・共著者・出版社・刊行年月つきで時系列に並んでいます。そこに載っている学苑社刊のものを、古い順に並べるとこうなります。
- 『エビデンスに基づいた吃音支援入門』(2012年5月・総ページ数157p)
- 『吃音のリスクマネジメント:備えあれば憂いなし』(2014年9月・総ページ数128p)
- 『小児吃音臨床のエッセンス-初回面接のテクニック-』(2015年11月・編集)
- 『子どもの吃音 ママ応援BOOK』(はやしみことの共著・2016年1月・総ページ数124)
- 『心理・医療・教育の視点から学ぶ吃音臨床入門講座』(早坂菊子・小林宏明との共著・2017年8月・総ページ数121p)
- 『吃音の合理的配慮』(2019年8月・総ページ数144p)
- 『保護者の声に寄り添い、学ぶ 吃音のある子どもと家族の支援:暮らしから社会へつなげるために』(堅田利明との編集・2020年8月)
- 『もう迷わない!ことばの教室の吃音指導』(高橋三郎・仲野里香との編著・2022年7月)
- 『吃音ドクターが教える「なおしたい」吃音との向き合い方:初診時の悩みから導く合理的配慮』(2024年・ISBN 9784761408527)
ここから見えるのは2つです。1つは、書名が読み手を名指ししていること。「ママ」「ことばの教室」「保護者」「臨床入門講座」と書いてあれば、それがそのまま対象読者です。もう1つは、同じ著者が10年以上にわたって書き続けているので、同じ主題の本が年を変えて並ぶこと。2019年の『吃音の合理的配慮』と2024年の本は、どちらも合理的配慮(雇う側や学校の側が、負担が重くなりすぎない範囲で用意する対応のこと)を扱っています。この場合、新しいほうを見るのが基本になります。
もちろん、学苑社の吃音の本がこの9冊だけということではありません。ここで確かめられるのは、この著者の書誌に載っている範囲までです。検査に使う道具として知られる『吃音検査法』も同社から出ていますが、これは実施する人向けの専門書なので、吃音検査法の記事に分けてあります。
子どもの吃音が気になって、親が最初に開く一冊
子どもが言葉を繰り返すようになったとき、多くの保護者はまず画面の中で調べます。そこで拾えるのは断片で、しかも不安をあおる側の情報ほど目に留まります。本を一冊持っておくことの意味は、実はそこにあります。
3歳の娘に吃音がある母の記録(個人ブログ「あおぴん旅ブログ」・発達検査を受けたあとの回)
今回の結果を受けて、菊池良和先生のほかの著書を集めて読み始めました。
アメリカの思想家、詩人のエマーソンの有名な名言に「恐れはつねに無知から生まれる」というのがあります。
「ストレスが原因?」「私のせい?」「このまま治らなかったら?」「いじめられたら?」
吃音がでた当初、ネットで検索してもネガティブな情報ばかりひろってしまいすごく不安でした。
それが知識を身につけたことで、もしもの時に備えることができるようになり、気持ちも楽になりました。
娘が2歳4か月で吃音を発症してから、市の相談窓口を経てことばの発達支援の部署につながり、3歳で発達検査を受けるまでを書き続けてきた母親の記録です。同じ回には、検査の前に園の担任へ普段の様子を聞き、結果を報告し、本の巻末にある「吃音の子どもを受け持つ先生用の文章」をコピーして渡したことも書かれています。「先生もご存じの内容かと思うので恐縮なのですが」と添えて渡したところ、「知らないこともあったので勉強になりました」と返ってきた、と続きます。ここで本は、読むものであると同時に、園に手渡す道具になっています。楽になったのは母親自身の気持ちについての記述で、吃音そのものが変わったという話ではありません。子どもの側に何が起きるかは、指針の側が別に書いています。
出典: 3歳の子どもの吃音症ー発達検査のあとにしたことー(あおぴん旅ブログ)(台帳: V0061)
幼児吃音臨床ガイドライン2021は、園の学年で区切って対応の時機を示しています。3歳児クラス(年少組)までは経過観察を基本とし、4歳児クラス(年中組)で積極的な介入の開始を検討し、5歳児クラス(年長組)では開始を推奨する、というのが基本の形です。理由は両側から書かれていて、早すぎれば自然に良くなったはずの多くの子に不要な手をかけることになり、遅すぎれば十分な改善を得られないまま小学校に上がる子が多く出てしまう、とされています。
では、その経過観察の期間に何をするのか。ここが、保護者向けの本が実際に役に立つ場面です。ガイドラインは、保護者が過度に心配することがないように資料を提供しながら、適切な吃音の知識と、家庭・集団での望ましい関わり方を伝え、定期的な面談で経過を見る、と書いています。さらに、家庭で日々の吃音の様子を記録してもらい、面談ではその記録をもとに変化を評価すること、1年経過するなかで悪化が認められる場合は言語聴覚士(ことばの専門職)につなぐことが挙げられています。「様子を見ましょう」で終わらせないための中身が、ここに書かれているということです。
園や学校に渡す資料についても、支援する側の解説が具体的です。吃音のある子どもは話す場面でしか症状が出ないため悩みが過小評価されやすく、他の子から話し方を真似されたり、笑われたり、「なんでそんな話し方なの?」と質問されたりすることが多い、と国立障害者リハビリテーションセンター系の解説は述べています。そのうえで、担任・養育者・支援者が本人に「真似されていない?」「笑われていない?」「話し方を質問されていない?」とオープンに聞くことを勧め、学校では毎年クラス替えがあるので、早く気づいて対応をオープンに話すことが予防につながる、と続けています。上の母親が毎年の面談で先生に資料を渡しているのは、この「毎年」という区切りと同じ動きです。
大人の当事者が、自分のために読む本
子ども向けの本は比較的見つけやすい一方、大人が自分のために読む本となると、何を基準に選べばいいのか分かりにくくなります。実際に読んで、その中身を自分の言葉で書き残している人がいます。次の一節に出てくる予期不安(また詰まるかもしれないと、話す前から不安になること)は、大人の吃音を扱う本でよく出てくる言い方です。
吃音のある本人の読書記録(はてなブログ「吃音(どもり)ネタを貼ってくブログ」・名義「sadakiti」/北海道言友会の会員と自ら書いている)
認知行動療法で吃音改善の本は数冊読んでいるので正直驚きはないのですが
皆さんに伝われと思いました。良本です。
「クラタリングとの親和性」「遺伝由来の症状って吃音だけじゃないし」「予期不安の解釈」
が自分には新鮮でした。
最新本なので吃音に関する知見もアップデートされていてそれも参考になると思います。
約100ページで正直1時間で読めました。
読んだのは『自分でできる 吃音の認知行動療法』(富里周太)で、版元は学苑社だと、この記録自身が書名のあとに書き添えています。1部で知識を、2部で実践を扱う構成で、実践は各段階に1週間以上かけるよう本に書いてある、という進め方まで記録されています。書き手は当事者会に通ってきた人で、後半では参加のモチベーションが上がらない時期があることや、自分の価値観を語るのが気が引けるという迷いまで正直に書いています。本の中身そのものより、読んだ人がどこで足を止めたかが見える記録です。ここで扱われている認知行動療法(考え方と行動のくせを整える心理療法)が、大人の吃音でどう位置づけられているかは、公的な解説の側が書いています。
出典: 「自分でできる 吃音の認知行動療法」感想(吃音(どもり)ネタを貼ってくブログ)(台帳: V0390)
青年・成人の吃音について、発達性吃音の研究プロジェクトの解説は、話し方の訓練だけで改善する例は少なく、過半数で心の面の評価と対応も必要になる、としています。認知行動療法を用いた治療では、話す行為に注目すること自体が言葉の詰まりの主な原因だと理解させ、どもるかどうかにこだわらず、楽なやりとりを目標にする。そのほうが話す行為そのものから注意が外れるので、かえって症状も改善しやすい、と説明されています。周囲への対応としては、本人が自分がどもることを開示して協力を求めることになり、わざとどもってみせる(随意吃といいます)などで先に伝えておくと心理的な負担が減る、とも書かれています。
国立障害者リハビリテーションセンターのリハニュースに載ったグループ訓練の紹介は、さらに踏み込んでいます。この訓練が従来と違うのは、症状を軽くするための意図的で自然ではない話し方のコントロールは練習せず、自然で楽な発話の力のほうを強化していく点だ、というのです。掲げている目標は3つで、どもることを(ほとんど)忘れて自然に話せる能力があると理解してそれを使うようになること、やりとりの目標を「どもらない」以外の前向きで具体的なものにすること、吃音に注意を取られずに自分の向けたい方へ注意を向けられるようになること、とされています。上の記録の書き手が「吃音抜きで考えてみよう」という項目を挙げていたのは、この発想の転換と同じ方向を向いています。
本で知った方法を、そのまま試していいのか
本のいいところは、自分では思いつかなかった選択肢を教えてくれることです。難しいのは、教えてもらった選択肢が、どのくらい確かなものなのかまでは本の中では分からないことがある点です。
吃音のある大学生の記録(アメブロ「れもんの吃音にっき」・札幌在住の大学生「れもん」さん)
ただ、空気伝導、骨伝導うんぬんの効果より、
周りが話していると話しやすい、「コーラス状態」を作り出していることの方が大きいのではないかと思います。
自分の声を少し遅らせて耳に返す装置(DAF)の存在を知り、使い始めた初日の記録です。書き手は、装置のことをネットで知ったあと、本屋で吃音の本を立ち読みしたらそこにも詳しく書いてあった、と経緯を書いています。専用の機器は高いのでスマートフォンのアプリを2つ入れてみた、という具体的な行動まで残っています。上の一節の直前には、効果についてはまだ一日しか使っていないので何とも言えない、と自分で断ってあります。注目したいのは、初日の時点で効果を断定していないことと、自分で別の説明(周りが話していると話しやすいという感覚)を思いついているところです。この感覚は、研究の側でも古くから知られている現象と重なります。そして、装置そのものの効き目については、いま最も新しい検証があります。
出典: DAF(聴覚遅延フィードバック)について(れもんの吃音にっき)(台帳: V0527)
2026年に出た系統的レビューとメタ分析は、DAF単独の効果だけを取り出して評価したものとしては初めてのものです。194件の記録をふるいにかけ、基準を満たしたのは8件・合計98人。そのうち数量的に統合できたのは5件・61人でした。統合した結果、DAFと通常の聞こえ方を比べたときの差は統計的に有意ではありませんでした。平均差は −1.46 で、95%信頼区間(推定値のぶれの幅)は −4.83〜1.91 です。研究どうしのばらつきも大きいものでした。結論として、DAFだけでは言葉の詰まりは有意には減らないと書かれています。
ただし、この論文は「効果がありえない」と言っているわけではありません。研究ごとにばらつきがあることは、それ自体が個人差の存在を示しているかもしれないと断っており、十分な人数と、条件をよく揃えた設計の研究が必要だとも強調しています。組み入れられた研究は1件あたり8〜20人と小さく、対象も学齢期の子どもから大人までと幅があり、多くが男性で、重さも軽度から重度まで混ざっていました。ここが、本を読んだだけでは届かない層です。本は「そういう方法がある」ところまでを教えてくれますが、「それがどのくらい効くか」は、その後に出た研究のほうが答えを持っていることがあります。研究そのものをどこで探すかは、吃音の論文の探し方の記事にまとめました。
公的な指針は、学苑社の本をどう引いているか
「この出版社の本は信用していいのか」という問いには、本の外から答える方法があります。幼児吃音臨床ガイドライン2021の引用文献欄を見ることです。ここには、日本語の本も英語の論文も同じ並びで載っていて、一つ一つに根拠の強さを表す記号が添えられています。学苑社から出た本も、そこに複数入っています。
- 小澤恵美・原由紀・鈴木夏枝・森山晴之・大橋由紀江ほか(2016)『吃音検査法 第2版』学苑社 [IIa]
- 阿部法子・坂田善政(2015)『なゆたのきろく:吃音のある子どもの子育てと支援』学苑社 [IV]
- ギター, B.(2007)『吃音の基礎と臨床:統合的アプローチ』長澤泰子監訳・学苑社 [総説、IV]
- 小林宏明・川合紀宗編著『特別支援教育における吃音・流暢性障害のある子どもの理解と支援』学苑社 [IV]
- 飯高京子・若葉陽子・長崎勤編『吃音の診断と指導』学苑社 [IV]
- 『クラタリング[早口言語症]:特徴・診断・治療の最新知見』森浩一・宮本昌子 日本語監訳・学苑社(2018) [IV]
同じ出版社の本でも、付いている記号は同じではありません。検査の手引きと、ひとりの子の育ちを追った記録では、根拠としての性格が違うからです。記号の意味はガイドライン自身が冒頭で定義していて、無作為割付比較試験(参加者をくじ引きのように振り分けて比べる試験)をまとめたものから、専門家の意見までの段階になっています。
ガイドラインは、この記号の読み方についても釘を刺しています。領域ごと・個別の事項ごとに根拠の強さが違うので、その領域の記号だけに依拠せず、個々の判断が何にもとづいているかに常に注意する必要がある、というものです。さらに、統計的に有意でないことを「差がない」と読むのは間違いで、有意差がないというのは「同じか違うかわからない」という意味であって、「同じである」と決めつけてはならない、とも書かれています。前の節のDAFの話も、この読み方で受け取るのが正確です。
もう一つ、本を選ぶときに効く事実があります。ガイドラインは序文で、近年の研究の結果、吃音の発症の原因の大半は遺伝によるもので、育て方が悪いから吃音を発症するという説は否定されている、と書いています。そのうえで、この知見は浸透しておらず、育て方が悪かったからかもしれないという罪悪感をいだく母親がいまだ多い、と続けています。古い本には、否定される前の考え方がそのまま載っていることがあります。出版年を見る理由はここにあります。原因そのものについては吃音の原因の記事に、一冊を読み終えたあとの確かめ方は『吃音の世界』を読んだ人向けの記事に分けてあります。
出版社の本だけが入口ではない
吃音の本は、商業出版社だけが出しているわけではありません。当事者の団体と、臨床の研究会が、それぞれ自分たちで出しているものがあります。目的も読者もはっきり書かれているので、立場から選ぶときはこちらのほうが分かりやすいことがあります。
全国言友会連絡協議会は、吃音のある人の体験談集を出しています。様々な年代や立場の吃音のある人の体験に触れることができ、体験についての認知・行動・感情が丁寧に書かれている、と発行者自身が説明しています。同じ団体は、ことばの教室など学校の先生や言語聴覚士といった支援者を主な対象とした指導教材と、吃音についての啓発資料も作っていると案内しています。啓発資料は幼児編・学童編・中高生編に分かれており、就職を目指す人向けのサポートブックや企業向けの資料もあります。
日本吃音臨床研究会の案内ページにも、支援する側に向けた本が並びます。両親指導の手引き書は「保護者の皆さんへ、ことばの教室の先生へ、通常の学級の先生へ」と読み手を三つ名指しして、どもる子どもが幸せに生きるための具体的な提案を55ページの小冊子にまとめたものだと説明されています。ことばの教室で子どもと一緒に話し合い、演習として取り組むための教材もあり、こちらは親・教師・言語聴覚士が使えることを掲げています。幼児期・学齢期の吃音についてよく出される24の質問に答えた一問一答もあり、親や教師が子どもに、子どもがクラスの子に吃音を説明するときに役に立つ、と書かれています。これらは全国の書店やネットの書店でも買える、と案内ページにあります。クラスへの伝え方そのものを扱った実践は、吃音かるたの記事にまとめました。
働く場面の配慮について本を探している方には、先に押さえておくと読みやすくなる区別があります。「合理的」とは、雇い主に過大な負担を生じさせない範囲で、という意味です。電話が難しければ他の人にとってもらう人員の配置、口頭での報告が難しければメールでの報告に変える業務手順の変更が、配慮の例として挙げられています。一方で、診断書があっても配慮してもらえない場合もあります。障害者差別解消法では、私企業において合理的配慮が法的義務にはなっていないからです。障害者手帳があれば私企業でも義務になりますが、これは別の法律によるもので、一般就労ではなく福祉就労の枠での対応になる場合があります。日本吃音・流暢性障害学会の解説も、発表や電話応対の免除、試験などでの面接時間の延長といった配慮を求めることができるとしたうえで、その際に医師の診断書や言語聴覚士の報告書の提出を求められる場合があると書いています。
本を読んだあとで人に会いたくなったときの行き先も、資料に書かれています。日本には様々な吃音の自助団体があり、吃音のある当事者が「吃音があるのは自分だけではない」ということを認識し、共通の体験を語り合い、苦悩を分かち合い、互いに援助し合うことが概ね活動の中心だ、と学会の解説は述べています。1965年に発足した言友会が日本で最も歴史が古く、近年では若者を対象とした団体や、女性の集いを開催する団体も設立されています。
専門職に相談したい場合の窓口は、ガイドラインが種類を列挙しています。幼児の吃音の治療経験がある言語聴覚士のいる病院やクリニック、自治体の(小児)リハビリテーションセンター、大学教育学部に付属する発達や言語の相談室などがあり、地域の児童発達支援センターには言語聴覚士が在籍する場合が多く相談窓口になっている、とされています。就学後は小学校の通級指導教室である「ことばの教室」が指導にあたります。ただし、相談対応機関の多くは治療には対応できないことも多い、という注意がガイドライン自身に添えられています。本を読んで疑問がはっきりしたら、次のようなときは相談を考えてみてください(あくまで目安で、当てはまらなくても相談して構いません)。
- 読んだ本が書かれた年と今とで、書かれていることが食い違って見える
- 本に載っていた方法を試してみたいが、自分や子どもに合うかどうかが判断できない
- 学校や職場で配慮を求めるために、診断書など医療機関の記録が必要になりそうである
この3つは相談を考えるきっかけとして挙げたもので、特定の資料が「受診の目安」として定めているものではありません。なお、経過観察の期間に家庭で日々の様子を記録することは、ガイドラインが実際に求めているものです。
吃音の本を選ぶときに陥りやすい3つの落とし穴
落とし穴1 − 出版年を見ずに選ぶ
吃音の分かっていることは、この10年ほどで動きました。幼児吃音臨床ガイドライン2021は、育て方が悪いから吃音を発症するという説はすでに否定されているとしたうえで、その知見が浸透せず罪悪感をいだく母親がいまだ多い、と序文に書いています。古い本には、否定される前の説明がそのまま残っていることがあります。同じ著者が同じ主題で年を変えて書いている場合は、新しいほうを見るのが基本です。
落とし穴2 − 立場を確かめずに「吃音の本」として選ぶ
書名に「ことばの教室」「臨床入門講座」「初回面接のテクニック」とあるものは、支援する側が読む本です。保護者や本人が読んで悪いということはありませんが、知りたいことがそこに書かれているとは限りません。当事者の団体や研究会の資料は、「保護者の皆さんへ、ことばの教室の先生へ、通常の学級の先生へ」のように読み手を先に名指ししているものが多く、幼児編・学童編・中高生編と層で分かれているものもあります。選ぶ順番としては、立場が先、主題が後です。
落とし穴3 − 本で見つけた方法を、本だけを根拠に続ける
本に載っている方法が、そのあとの研究でどう評価されたかまでは、本の中には書かれていません。DAFのように、本で詳しく紹介されていても、単独では言葉の詰まりが有意には減らないと新しいメタ分析が結論しているものもあります。同時に、有意差がないことは「差がない」ことの証明ではない、とガイドラインは釘を刺しています。どちらの読み違いも避けるには、試したことと、そのときの様子を自分で記録しておくのが確実です。ガイドライン自身が、経過観察の期間に家庭で日々の症状を記録し、面談ではその記録をもとに変化を評価するよう求めています。
まずは読んだ本の名前と、気になった箇所、試したこととその日の様子を書き留めておくところから小さく始め、言語聴覚士やことばの教室に相談できる場合はそちらが確実です。
よくある質問
学苑社は吃音の本を出している出版社ですか?
はい。九州大学の教員データベースには、吃音の診療にあたっている医師の著書として、2012年から2024年までに学苑社から出た吃音関連書が9冊、刊行年月つきで並んでいます。また、幼児吃音臨床ガイドライン2021の引用文献欄にも、学苑社から出た本が複数挙げられています。
学苑社の吃音の本は、どれから読めばいいですか?
立場から選ぶのが分かりやすいと思います。書名に「ママ」「保護者」とあるものは保護者向け、「ことばの教室」「臨床入門講座」「初回面接のテクニック」とあるものは支援する側が読む本です。働く場面の配慮を知りたい場合は、合理的配慮を主題にした本が2019年と2024年の両方にあり、同じ主題なら新しいほうを見るのが基本です。
本に書いてあることは、そのまま信用していいのですか?
本の外で確かめる方法があります。幼児吃音臨床ガイドライン2021の引用文献欄には根拠の強さを表す記号が添えられており、同じ出版社の本でも付いている記号は同じではありません。ガイドライン自身も、領域の記号だけに依拠せず個々の判断が何にもとづくかに注意するよう求めています。そして本の内容は出版年で止まるので、刊行年を確かめるのが先になります。
本を読めば、吃音は改善しますか?
本そのものの効果を測った研究は、手元の資料にはありません。分かっているのは、青年・成人では話し方の訓練だけで改善する例は少なく、過半数で心の面の評価と対応も必要になるとされていること、幼児では園の学年で区切った対応の時機が示されていることです。本で知った方法についても、たとえばDAFは、それだけでは言葉の詰まりを有意には減らさないとメタ分析が結論しています。
本以外に、支援者向けの資料はありますか?
あります。全国言友会連絡協議会は、ことばの教室など学校の先生や言語聴覚士といった支援者を主な対象とした指導教材と、幼児編・学童編・中高生編に分かれた啓発資料、就職を目指す人向けのサポートブック、企業向けの資料を作っていると案内しています。日本吃音臨床研究会にも、保護者・ことばの教室の先生・通常の学級の先生を名指しした手引き書や、親・教師・言語聴覚士が使える教材があります。
まとめ
- 学苑社は吃音の本を続けて出している版元で、九州大学の教員データベースには同じ著者の学苑社刊の吃音関連書だけで2012年から2024年までの9冊が刊行年月つきで残っている。
- 選ぶ順番は「立場が先、主題が後」。書名が「ママ」「保護者」「ことばの教室」「臨床入門講座」と読み手を名指ししているので、そこが最初の手がかりになる。
- 幼児吃音臨床ガイドライン2021は、引用文献欄に学苑社の本を複数挙げ、一つ一つに根拠の強さの記号を添えている。同じ出版社でも記号は同じではない。
- 本の内容は出版年で止まる。育て方が原因という説は否定されているのに知見が浸透していない、とガイドラインが序文で書いている。刊行年を確かめるのが先。
- 本で知った方法の効き目は、本とは別に確かめられる。DAFは単独では言葉の詰まりを有意には減らさないとメタ分析が結論しているが、有意差がないことは「差がない」ことの証明ではない。
- 本以外の入口として、当事者団体と研究会が出している体験談集・指導教材・層別の啓発資料がある。相談先はガイドラインが種類を列挙しているが、相談対応機関の多くは治療には対応できないことも多い。