聴覚フィードバックと吃音|DAF・FAFの仕組みと研究でわかった効果の範囲

聴覚フィードバックと吃音|DAF・FAFの仕組みと研究でわかった効果の範囲
目次

「自分の声が遅れて聞こえると、どうして言葉がなめらかに出るんだろう」「DAFって本当に効くの?」「歌ならどもらないのに、なぜ会話だとだめなんだろう」——聴覚フィードバックのことを調べはじめると、専門用語ばかりが並んでいて、肝心の「で、どこまで期待していいのか」が分からないままになりがちです。

この記事は、結論を先に置いてから、装置を体験した人・電話で工夫している人・例会で手を振って第一声を出す人・体の力みが止められない人という4人の当事者の言葉と、それに対して研究が何を言えているのかを、一つずつ並べていきます。数値は図にまとめたので、細かい数字を追わなくても大づかみに分かるようにしました。

ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる症状があるときは、言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室にご相談ください。

まず結論から

  • 自分の声の聞こえ方を変えると、話し方は変わります。吃音のある9名が文章を音読した実験では、自分の声を遅らせて返す条件と、声の高さを変えて返す条件で、吃音の頻度が偶然では説明しにくいほど(統計的に有意に)下がったと報告されています。
  • 聞こえ方を変えること以外にも、声を合わせて読む、リズムに合わせる、雑音を流す、歌う——といった「流暢さを引き出す条件」が挙げられています。
  • 日本の学会の解説も、歌をうたうとき・2人で声を合わせるとき・独り言のときなどに、一時的に流暢になる人が多いと説明しています。
  • 声を出そうとして顔や体に力が入り、いらない動きが出てしまうことは「随伴症状(随伴運動)」と呼ばれ、吃音の二次的な症状として説明されています。
  • ただし機器やソフトについて、診療ガイドラインは「使っている間は吃音を消すことができるが、ふだんの治療に組み込むものとしては勧められない」としています。

ただし、自分の声を遅らせる方法と高さを変える方法は「一時的に流暢さをもたらしうる」ものとして報告されており、歌をうたうとき・2人で声を合わせるとき・独り言のときの変化も「一時的」だと説明されています。日常の会話にそのまま持ち出せるとは限りません。「使えば必ず効く」「ずっと効き続ける」と考えるより、自分に合うかどうかを確かめるための選択肢のひとつ、と位置づけるほうが現実に近いはずです。

自分の声を遅らせて聞くと、話し方はどう変わるのか

私たちは話しながら、自分の声を耳で聞いています。発話は、前もって用意しておいた運動の指令と、実際に出た声を聞いて直す働きの両方が組み合わさって成り立っていると考えられています。この「自分の声を聞いて話し方を整える働き」が聴覚フィードバックです。

DAF は Delayed Auditory Feedback の略で、日本語では「遅延聴覚フィードバック」と呼ばれます。自分がいま出した声を、ほんの少し遅らせて耳に返す仕組みです。国内の吃音研究プロジェクトが公開している治療の解説では、症状が重い場合にこの装置を授業中に使うことも選択肢になると紹介されています。声の高さ(周波数)を変えて返す方法は FAF と呼ばれ、DAF とあわせて「改変した聴覚フィードバック」としてまとめられています。

当事者の声(埼玉言友会メンバー/自助団体の活動記録・DAF体験勉強会)

DAFという機械はとても高価かつ壊れやすいそうで、扱う際は非常に緊張しましたが、ワンテンポ遅れて聞こえてくる自分の声を待って次の音に進むようにして朗読すると、非常に発話がゆっくり均質かつリズミカルになるのを体感できました。

2015年12月、埼玉言友会の勉強会で、参加者がDAF装置を実際に体験しました。読んだのは朗読文のテキスト教材です。会を担当したのは、かつて専門家のもとでこの装置を使った訓練を受けたことのある当事者で、遅れて聴こえる声を意識しながら話すのは難しく、ある程度の集中と練習が要ると報告に書き添えています。スマートフォンのアプリでも安価に手軽に試せるようになった一方で、試した当事者から「効果ないよ」という感想を多く聞くことにも触れ、遅れた声をしっかり聴けていないのではないか、と述べています。装置の中で話し方がどう変わるのかは、研究の側でも測られています。

出典: 第8回吃音勉強会 遅延聴覚フィードバック装置(DAF)を体験・考察する(埼玉言友会)(台帳: V0030)

1993年に報告された実験では、吃音のある9名が、それぞれ300音節の長さの文章を8種類、音読しました。このとき自分の声の聞こえ方を「そのまま」「雑音でおおう」「遅らせる」「高さを変える」の4通りに変え、さらに通常の速さと速い速さの2通りで読んでいます。結果は、遅らせた条件と高さを変えた条件で、通常の速さでも速い速さでも吃音の頻度が有意に下がった、というものでした。

聴覚フィードバックの4条件(そのまま/雑音でおおう=マスキング/遅らせる=DAF/高さを変える=FAF)と、通常の速さ・速い速さの2通りの話す速さを組み合わせたうち、どの組み合わせで吃音の頻度が有意に下がったと報告されたかの一覧。吃音のある9名が、それぞれ300音節の文章を8種類、音読した1993年の実験。遅らせる条件と高さを変える条件は、どちらの話す速さでも有意に低下(有意水準 p<0.05)。そのままは比較の基準で、雑音でおおう条件については原典の抄録に記載がない。参加者は音読課題で5%以上のなめらかでない発話がある人。この図は「下がった/下がらなかった」の別だけを示しており、条件ごとの吃音の頻度の値は原典が報告していない
図1: 4つの聞こえ方 × 2つの話す速さのうち、どの組み合わせで吃音の頻度が有意に下がったと報告されたか。出典: Kalinowski et al. (1993) Language and Speech.

この研究がもうひとつ示したのは、聞こえ方を変えた条件のもとでは、ゆっくり話すことは流暢さの必須条件ではない、という点です。「DAFを使うと自然にゆっくりになるから言葉が出る」という説明だけでは足りない、ということになります。そのうえでこの研究は、流暢さには「聴覚フィードバックを変えること」と「話し方そのものが変わること」という2つの要因が絡んでいるのではないか、と提案しています。

聞こえ方のほかにも、話しやすくなる条件がある

装置を持っていなくても、「この場面なら言える」「この読み方なら出る」という経験を持っている人は少なくありません。そしてその工夫は、たいてい誰かに教わったものではなく、自分で見つけたものです。

当事者の声(建設系の会社で事務職・20代後半女性/自助団体の就労体験記)

言い換えること、極力電話をしなくていいように仕事を進めること、電話中は、リズムをとったり、紙に書きながら話したり、身体を動かしながら注意を他にうつすようにしています。

吃音のある人たちの就労体験記に寄せられた回答のひとつです。社内の人や対面で話すときには症状が出にくい一方、事務職なので電話応対があり、極力出ないようにしていると書いています。社名の頭の音は出やすいので助かるけれど、自分の名前の頭の音では必ずといっていいほど詰まる——場面と音で出方が変わることを、本人が細かく書き分けています。並べられた工夫のうち「注意を他にうつす」という言い方は、話す行為そのものに注意が向くほど言葉が出にくくなるという専門家の説明と、ちょうど裏返しの関係になっています。

出典: 就労体験記 No.1〜20(うぃーすたプロジェクト)(台帳: V0099)

こうした条件は、研究の側でも一覧になっています。声を合わせて読むこと、メトロノームのようなリズムに合わせて話すこと、外国語のなまりをつけたり役を演じたりといった、いつもの自動的な話し方ではない話し方、雑音、そして歌——これらが「流暢さを引き出す条件」として挙げられています。自分の声を遅らせる方法と高さを変える方法も、この仲間として、一時的に流暢さをもたらしうると位置づけられています。

一時的に流暢さを引き出すとされる条件の一覧(量は描いていない)。海外の総説が挙げる「流暢さを引き出す条件」は、声を合わせて読む(斉読)、リズムに合わせて話す(メトロノーム)、いつもの自動的な話し方をしない(外国語のなまり・役を演じる・演技)、雑音(ホワイトノイズ)、歌。同じ総説は、自分の声を遅らせて返す(DAF)と声の高さを変えて返す(FAF)という改変した聴覚フィードバックについて、一時的に流暢さをもたらしうるとしている。日本の学会の解説は、歌をうたうとき・2人で声を合わせるとき・独り言を言うときに、一時的だが流暢になる人が多いとしている。「一時的」と書いてあるのは原典がそう書いている範囲だけで、それ以外の条件について原典は効果が続く時間に触れていない
図2: 一時的に流暢さを引き出すとされる条件。出典: Craig-McQuaide et al. (2014) Front Hum Neurosci / 日本吃音・流暢性障害学会「吃音(きつおん)について」.

日本の学会の解説も、同じことを書いています。歌をうたうとき、2人で声を合わせるとき、独り言を言うときなどに、一時的に流暢になる人が多い、というものです。学童期の訓練では、声を合わせて読むこと(斉読)やリズムに合わせた朗読が流暢さを引き出しやすいことを利用して、発話に自信を持たせる練習がよく行われます。

同じことを、自分ひとりで見つけていた人もいます。吃音のあるアナウンサーとして知られた小倉智昭さんは、犬を散歩に連れ出して何度も犬に話しかけたこと、大きな声で独り言を言い、歌をうたってみたことを手記に書き、相手がいないと決してどもらないことに注目した、と述べています。声を思い切り出したり、リズムに乗って話したり、呼吸を整えながら話すとどもらない、とも書いています。

体の動きで第一声を出す — 工夫と、無意識に出てしまう動きの境目

「言葉が出ないとき、体が勝手に動いてしまう」。これは吃音の話でよく出てくる困りごとですが、実は同じ「動き」が、意識して使われることもあります。自助団体の例会では、その両方が並べて語られていました。

自助団体の例会記録(○印が参加者の発言、続くのが担当者・伊藤伸二さんの応答)

○手を振って言う。

伊藤 はい。いいですね。声が出ないとき、動作をしたら声が出たことをきっかけに、どもる時その動作が無意識に出てしまうのが、「随伴症状」と言われています。私たちは、これを症状とは言わないが、自覚的なアクションとして活用したい。手を振るということも、指を折るということも、いいけれど、かっこいい、ユーモラスなアクションを自分なりの工夫で身につける。

大阪吃音教室は、1965年から続く自助グループが毎週金曜に開いている例会です。この日の講座の題は、どもって声が出ないときの対処法。担当者が、返事の「はい」の一言や、会社名・自分の名前が言えないときにどう切り抜けてきたかを問いかけ、参加者が順に答えていきます。最初に挙がったのが、この手を振る方法でした。担当者はこのあと、国際大会の挨拶で声が出なかった人がほおを叩いて言い、その仕草が大きな笑いを呼んで場がなごんだ例や、自分の名前が出ないときに大きく手を振り、少しずつ動きを小さくして、最後は手をポケットに入れて言えるようにしたという海外の研究者の例を続けて挙げています。

出典: どもって声が出ないときの対処法(吃音と上手につきあうための吃音相談室)(台帳: V0136)

声を出そうとして顔や体に力が入り、いらない体の動きが出てしまうことは、吃音の二次的な症状として説明されています。手足を振り下ろす、飛び跳ねる、前や後ろに体を曲げる、息を荒げる、顔をしかめる、目を固くつぶる——学会の解説はこうした動きを挙げ、幼児期にはさまざまな形で現れるため家族が驚くことが多い、としています。

これまでの研究をまとめた海外の論文(総説)も、同じものを「外から見える随伴」として整理しています。顔にはっきり分かる力みが出る、話しながら首を振る、まばたきをする、額にしわを寄せる、急に息を吐く——といったものです。同じ総説は、顔が赤くなる・青くなる、汗をかくといった、体の内側で起きる変化も並べています。

工夫は増えても、力みは自分では止められない

動作を使って第一声を出す手は、意識して身につけることができます。では、力が入ること自体はどうでしょうか。ここが、工夫の話といちばんずれるところです。

当事者の声(吃音歴30年の会社員・個人ブログ)

ただこの現象は、次の言葉を言いたいがための行動で、意識して力を入らなくできるようなものでもないのです。力が入った瞬間に意識的に力を抜くことはできますが、力を入らないようにすることは今の僕ではできません。

吃音と付き合って30年になる会社員が、自分のブログに書いた一節です。吃った瞬間に力が入るのは、のど・手・太もも・つま先だと部位まで挙げ、手は強い力で握りこぶしをつくり、つま先は背伸びしてしまうと書いています。最初は力が入っていることにも気づかなかったこと、どもり方を客観的に見られるようになってはじめて分かったことも書き添えられています。手をブンブン振る、かかとを上げ下げするなど、いくつもの方法を試したうえで、いちばん自然だったのがわざと咳き込む方法だったこと、会社の朝礼当番ではこれと口を大きく動かすことを組み合わせていることも記されています。どもらないための言い換えや、言いやすい言葉を先に置くといった工夫が積み重なっていくことは、学会の解説にも書かれています。

出典: 吃ったときの声の出し方(note・【吃音×サラリーマン】オールナイト)(台帳: V0141)

話す行為そのものに注意が向くほど、言葉は出にくくなります。吃る不安があると話す行為が意識的になり、自動的に行うことが難しくなって、そのためにさらに意識的になる——という悪循環が説明されています。工夫が増えていくこと自体は自然な反応ですが、注意の向け先を増やす方向にだけ働くと、この循環に乗ってしまうことがあります。

では、リズムをとる・呼吸を整えるといった方法を、練習の柱に据えるのはどうでしょうか。ドイツ語圏の診療ガイドラインは、リズムに合わせて話す方法や呼吸を整える方法を、単独あるいは主要な治療として行うことは勧められない、としています。ただし、そう判断した根拠は強くない、とも明記されています。ガイドラインの要点をまとめた項では、これらを単独あるいは主とする治療は効果が不十分だ、と述べられています。

ドイツ語圏の診療ガイドライン(2017年)が3つの方法をどう位置づけているかの一覧。リズムに合わせて話す方法は、単独あるいは主要な治療として行うことは勧められず、そう判断した根拠は弱い。呼吸を整える方法も同じく、単独あるいは主要な治療として行うことは勧められず、根拠は弱い。声を遅らせる・高さを変える機器やソフトは、使っている間は吃音を消せるがふだんの治療に組み込むものとしては勧められないとされ、根拠の強さはガイドラインに示されていない。流暢さを高めるソフトは、推奨される治療の枠組みの中で専門職の監督のもとで使うべきとされる
図3: リズム・呼吸・機器/ソフトについて、ガイドラインは何と言っているか(推奨の向きと、そう判断した根拠の強さ)。出典: Neumann et al. (2017) Dtsch Arztebl Int.

その場をしのぐ工夫とは別に、練習として組まれた方法もあります。話し方に直接は働きかけず、日常生活では話すことに意識を向けず工夫や回避をしないように指導しながら、夜寝る前に頭の中のイメージで毎日話す練習をする方法(メンタルリハーサル法)です。効果の維持は比較的よいとされる一方、治療そのものに平均2〜3年かかること、うつ病など精神疾患をあわせ持つ場合には用いることができないことが、限界として挙げられています。実施できる臨床家が少ないという問題も指摘されています。

なぜ聞こえ方を変えると変わるのか — 分かっていること・いないこと

ここまで「変わる」ことは繰り返し確かめられてきました。しかし「なぜ変わるのか」は、まだ仮説の段階です。

有力な説明のひとつは、発話の仕組みを再現したコンピュータのモデルを使ったシミュレーション研究から出ています。この研究は、吃音では前もって用意しておいた運動の指令をうまく読み出せず、そのぶん自分の声を聞いて直すやり方に頼りすぎた話し方になってしまう、と考えます。頼りすぎると小さなズレが生まれ、それが大きくなると発話の運動が「リセット」されて同じ音節を繰り返す——これが、同じ音を繰り返す症状(連発)として現れる、という説明です。

このモデルは、ゆっくり引き伸ばして話すときと、雑音でおおったときに流暢さが上がることを再現できました。ただし理由は別々です。ゆっくり話すときは、そもそも生じるズレ自体が小さくなります。雑音のときは、自分の声が聞き取りにくくなって小さなズレを見つけられなくなり、やり直しのほうが起きにくくなる、とされます。

では、自分の声を遅らせる方法にも同じ説明が当てはまるのか。この研究は「当てはまるかもしれない」と述べるにとどめ、実際には確かめておらず、今後の課題としています。しかも同じ研究は、自分の声を遅らせることには流暢さを高める以外の効果もあり、その一部はむしろ流暢さを下げる方向に働くと注記しています。効き目の理由も、効き目の全体像も、まだ整理の途中だということです。

もっと素朴な謎も残っています。2024年の総説は、吃音の脳科学に残る謎を3つに絞り、そのひとつとして「話すときには吃音が出るのに、歌うときには出ないのはなぜか」を挙げています。歌唱では、最も重い例でも吃音が劇的に消えるとされ、話すときに比べて母音が長くなり、発音の速さが落ち、発声が安定することが指摘されています。もうひとつの謎は、声に出した独り言には吃音が出ないのに、人や聞き手に向けた発話では出る、という点です。つまり、この記事の冒頭で挙げた「歌ならどもらないのに、なぜ会話だとだめなのか」という疑問は、研究者がいま正面から抱えている問いと同じものです。

機器・アプリを試すときに知っておきたいこと

装置やアプリを検討するときに、いちばん知っておく価値があるのは「どこまでが確かめられているか」です。

ドイツ語圏の診療ガイドラインは、話す速さの目安を与える機器や、自分の声を遅らせて/高さを変えて返す機器・ソフトについて、使っている間は吃音を消すことができるが、ふだんの治療に組み込むものとしては勧められないと述べています。発話の流暢さを高めるソフトは、推奨される治療の枠組みの中で、専門職の監督のもとで使うべきだ、ともしています。一方で、声や筋肉の動きを機械で測って本人に返す方法(バイオフィードバック)は、治療の一要素として検討しうる、と位置づけられています。

国内の治療の解説には、効き方の範囲がもう少し具体的に書かれています。学童期では、症状が重い場合に装置を授業中に使うことも選択肢になるとされ、装置は装用している間のみ効果があるとされるものの、数か月以上使うことで吃音の頻度も下がるという研究がある、と紹介されています。青年期以降でも、症状が重い場合の選択肢ではあるものの、有効なのは半数程度だとされています。

DAF(自分の声を少し遅らせて耳に返す装置)がどこまで効くとされているかの一覧。青年期以降では症状が重い場合の選択肢とされるが、有効なのは半数程度。学童期では症状が重い場合に授業中に使うことも選択肢。装用している間のみ効果があるとされる一方、数か月以上使うことで吃音の頻度も下がるという研究がある。「半数程度」は原典の表現で、何パーセントかは書かれていない
図4: DAFはどこまで効くとされているか(有効なのは半数程度・装用中のみ)。出典: 「治療の解説」(発達性吃音(どもり)の研究プロジェクト/2017).

そのうえで、自宅で試すときに気をつけたい点を整理します。

  • 遅れた自分の声が、実際に聞こえているか:遅れた声をしっかり聴けていないと効果を感じにくいのではないか、と装置を体験した当事者が書いています。イヤホンやヘッドホンの装着と音量を調整し、遅れた声が聞き取れる状態にしてから試しましょう。
  • 治療効果をうたっていないか:市販のアプリや機器は発話を試したり練習したりするための道具で、吃音の治療効果が保証されているものではありません。「必ず治る」といった表現には慎重になってください。
  • 音量と使用時間:ヘッドホンで長時間・大音量にならないよう気をつけ、体調に合わせて無理のない範囲で使いましょう。
  • 会話にそのまま持ち出せるとは限らない:研究で頻度の低下が確かめられたのは、文章を音読するという限られた場面です。ガイドラインも、ソフトは専門職の監督のもとで使うべきだとしています。
  • 合う・合わないの記録を残す:どの場面で話しやすく、どの場面で話しにくかったかは日によって波があります。気づいたときに書き留めておくと、相談のときの材料になります。

どこに相談すればいい? 受診科・相談先

吃音の評価や指導を専門に扱うのは言語聴覚士です。国家資格で、養成課程に吃音が含まれています。ただし業務が多岐にわたるため、すべての言語聴覚士が吃音の指導や支援を行えるわけではない、とも明記されています。

  • 言語聴覚士のいる医療機関:病院のリハビリテーション科や耳鼻咽喉科などに勤務している場合が多く、相談したいときは病院に直接問い合わせるか、日本言語聴覚士協会や各都道府県の言語聴覚士会に尋ねるとよい、と案内されています。
  • ことばの教室:子どもの場合は、小児を扱う言語聴覚士か、ことばの教室の教員に相談するよう学会の解説が案内しています。
  • 吃音の自助グループ(言友会など):当事者の集まりなので、言語聴覚士のような学術的な知識や、専門的な指導・支援が受けられる場ではないと明記されています。一方で、同じ悩みを持つ立場からの具体的な助言が得られる、とも書かれています。診療ガイドラインも、自助グループへの参加を専門家の合意にもとづいて勧めています。

この記事に出てきたDAF体験の勉強会も、例会での工夫の出し合いも、こうした自助グループの活動の中で行われたものです。装置が自分に合うかどうか、体の動きを工夫として使うかどうかも、独りで決めきらずに、専門職と、あるいは同じ立場の人たちと一緒に見きわめていくほうが現実的です。

聴覚フィードバックで陥りがちな3つの落とし穴

落とし穴1 − 「装置さえあれば治る」と期待しすぎる

頻度の低下が報告されたのは、文章を音読するという限られた場面です。ガイドラインも、機器やソフトは使っている間は吃音を消せるが、ふだんの治療に組み込むものとしては勧められないとしています。魔法の道具ではなく、自分に合うかどうかを確かめる選択肢のひとつと考えるほうが、落差が小さくて済みます。

落とし穴2 − 工夫を「隠すための道具」にしてしまう

言い換えや、言いやすい言葉を先に置く工夫は、多くの人が自然に身につけていきます。ただ学会の解説は、吃音を恥ずかしいと思うようになり、隠そうとして発話を避けるためのさまざまな工夫をするようになること、悩みを打ち明けることも恥ずかしいと思って孤独感を感じるようになることにも触れています。工夫が「言うための手」なのか「言わずに済ませる手」なのかは、ときどき自分で確かめる価値があります。

落とし穴3 − うまくいった場面を記録しないまま忘れてしまう

調子が良い状態・悪い状態が数週間から数か月続くことも多く、この変動は「波」と呼ばれます。波がある以上、1回や2回試した印象だけでは、自分に合うかどうかは判断できません。どんな場面で話しやすかったかを気づいたときに記録しておくと、自分に合う条件が見えやすくなり、相談のときの材料にもなります。

まずは日々の発話を記録することから小さく始めるのが現実的です。言語聴覚士など専門機関に相談できる場合は、そちらが確実です。

よくある質問

DAF(自分の声を遅らせて聞く方法)は本当に吃音に効きますか?

吃音のある9名が文章を音読した実験では、自分の声を遅らせる条件と高さを変える条件で、吃音の頻度が有意に下がったと報告されています。ただし国内の治療の解説では、症状が重い場合の選択肢とされる一方で、有効なのは半数程度だと書かれています。診療ガイドラインは、こうした機器やソフトについて、使っている間は吃音を消すことができるがふだんの治療に組み込むものとしては勧められない、としています。

なぜ自分の声を遅らせて聞くと言葉が出やすくなるのですか?

発話の仕組みを再現したモデルを使った研究では、吃音では前もって用意しておいた運動の指令をうまく読み出せず、自分の声を聞いて直すやり方に頼りすぎた話し方になりやすいと考えられています。同じ研究は、雑音で自分の声を聞こえにくくすると小さなズレを見つけられなくなり、やり直しが減ると説明しています。ただし、自分の声を遅らせる方法に同じ説明が当てはまるかは確かめておらず、今後の課題とされています。

歌うときやリズムに乗ると言えるのに、会話だとどもるのはなぜですか?

歌をうたうとき、2人で声を合わせるとき、独り言のときなどに一時的に流暢になる人が多いことは、学会の解説にも書かれています。理由はまだ分かっていません。2024年の総説は、この「話すときには出るのに歌うときには出ない」ことと「独り言では出ないのに人に向けた発話では出る」ことを、吃音の脳科学に残る未解決の謎として挙げています。会話で出やすいこと自体は珍しくなく、あなただけの問題ではありません。

スマートフォンのアプリを自宅で使っても大丈夫ですか?

手軽に試せますが、あくまで練習や体験のための道具で、治療効果が保証されているものではありません。診療ガイドラインは、発話の流暢さを高めるソフトは推奨される治療の枠組みの中で専門職の監督のもとで使うべきだとしています。研究で頻度の低下が確かめられたのも、文章を音読するという限られた場面でした。ヘッドホンでの長時間・大音量の使用は避け、合うかどうかが気になるときは、吃音の指導・支援を行う言語聴覚士に相談できます。

どもるときに手を振ったり体が動いたりします。やめたほうがいいですか?

声を出そうとして顔や体に力が入り、いらない動きが出てしまうことは、吃音の二次的な症状として説明されています。海外の総説も、顔の力みや話しながらの首の動き、まばたきなどを、外から見える随伴として整理しています。やめるべきかどうかを一律に決める根拠は、この記事で参照した資料の中にはなく、自助団体の例会では、動作を自覚的に使う手として語られてもいます。気になるときは、吃音の指導・支援を行う言語聴覚士に相談できます。

まとめ

  • 聴覚フィードバックとは、話しながら自分の声を聞いて発話を整える働きのこと。DAFは自分の声を遅らせて、FAFは声の高さを変えて返す方法で、あわせて「改変した聴覚フィードバック」と呼ばれます。
  • 吃音のある9名の音読実験では、遅らせる条件と高さを変える条件で吃音の頻度が有意に下がりました。聞こえ方を変えた条件のもとでは、ゆっくり話すことは流暢さの必須条件ではない、とも結論されています。
  • 聞こえ方以外にも、声を合わせて読む・リズムに合わせる・雑音・歌といった条件が流暢さを引き出すとされ、歌・2人で声を合わせる・独り言のときは一時的だが流暢になる人が多いと説明されています。歌や独り言でどうして吃音が出ないのかは、いまも未解決の謎として扱われています。
  • 機器やソフトは、使っている間は吃音を消せるが、ふだんの治療に組み込むものとしては勧められない——というのがガイドラインの位置づけです。青年期以降で有効なのは半数程度とされています。
  • 声を出そうとして出てしまう体の動きは「随伴症状(随伴運動)」として説明されており、力が入ること自体を意志で止められないという当事者の記述もあります。装置も工夫も、独りで決めきらずに、吃音の指導・支援を行う言語聴覚士に相談できます。

参考文献

  1. Kalinowski, Armson, Roland-Mieszkowski, Stuart & Gracco (1993) Effects of alterations in auditory feedback and speech rate on stuttering frequency. Language and Speech.
  2. Civier, Tasko & Guenther (2010) Overreliance on auditory feedback may lead to sound/syllable repetitions: simulations of stuttering and fluency-inducing conditions with a neural model of speech production. J Fluency Disord.
  3. Craig-McQuaide et al. (2014) A review of brain circuitries involved in stuttering. Front Hum Neurosci.
  4. Neumann et al. (2017) The Pathogenesis, Assessment and Treatment of Speech Fluency Disorders. Dtsch Arztebl Int.(ドイツ語圏の診療ガイドライン)
  5. Neef & Chang (2024) Knowns and unknowns about the neurobiology of stuttering. PLoS Biol.
  6. 日本吃音・流暢性障害学会 広報委員会「吃音(きつおん)について」(2023)
  7. 「治療の解説」(発達性吃音(どもり)の研究プロジェクト/2017)
  8. 北條具仁「〔トピックス〕青年期吃音に対する認知行動療法を用いた最新治療−グループ介入研究のご紹介−」(国立障害者リハビリテーションセンター リハニュース No.361)
  9. 「吃音キャスター」(吃音と上手につきあうための吃音相談室/小倉智昭氏の手記の再掲・初出は日本心理学会『心理学ワールド』2007)
  10. 吃音ポータルサイト「成人の方:相談や支援」

当事者の声の出典: V0030(埼玉言友会 活動記録・DAF体験勉強会)/ V0099(うぃーすたプロジェクト 就労体験記 No.1〜20)/ V0136(日本吃音臨床研究会・大阪吃音教室の例会記録)/ V0141(note・【吃音×サラリーマン】オールナイト)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-07-22 公開/2026-08-27 骨格v2へ全面リライト(声の入れ替え・出典の追加と訂正・専門語の平易化・図スロットの設置)