まず結論から
- 「発達性吃音」という名前は、原因が分かったという意味ではありません。脳の損傷などのはっきりした原因が見あたらないまま、思春期より前——多くは2歳から5歳のあいだに始まる吃音を指す呼び方です。
- 吃音の9割以上は、この発達性吃音です。
- 「親の接し方が悪かった(愛情不足)」「親が吃音だと思って対応したことが原因だ」という考え方を、学会は間違った原因論のうち最も問題のあるものとして名指しで退けています。
- 2000年ごろ以降の双子研究・脳研究・遺伝子研究によって、環境的な要因よりも、生まれ持った体質的な要因が原因の多くを占めることが分かってきました。
- 大人になってから始まる獲得性吃音では、脳卒中や頭部の外傷など原因を指させることがあります。それでも、脳のどこか一か所の傷には絞り込めていません。
ただし、発達性吃音が「なぜ、その子に、その時期に」始まるのかを言い当てられる段階には、まだ達していません。話す運動・ことば・気持ちという複数の要因が、単純な足し算ではない形で影響し合うという枠組みのもとで研究が進んでいる、というのが現在地です。
「発達性」が指しているのは、原因ではなく“始まり方”
「発達性」と付いていると、発達そのものに問題があるという意味に読めたり、逆に、名前が付くくらいだから原因は特定されているのだろうと読めたりします。この名前が実際に言っているのは、もっと限定的なことです。
まず、当事者の家族が「始まり」をどう体験しているかを見てください。
3歳の息子の母(ナレーター・イベントMC。長年ラジオやテレビに携わってきたと本人が書いている/本人の公式サイト内ブログ)
ほんの先週までは、幼児らしい滑舌の悪さはありましたが、吃音症状は皆無でした。不思議なものですね。実際、突然症状が現れる、というケースが多く、「あの日、強く叱ったせい?」といったように直前の出来事を振り返って自責する親御さんも多いようです(かくいう私もそうでした)
声を仕事にしてきた書き手が、3歳の息子の話し方の変化を書きはじめたのは、それが現れてまもない時期でした。同じ記事には、息子の言い方が「おおおおお、お、お、おかあさん」という形で出ること、積み木やプラレールで遊んでいた状態から呼びかけに切り替わる場面や、本人が伝えたいことを話し始める文の書き出しで起きやすいことも書き留められています。前の週まで無かったものが、ある日ある。だから、その直前に何をしたかのほうへ意識が向く——この順序は、めずらしいものではありません。なお引用した一文は、原文ではここで終わりません。書き手自身が、きっかけを後から探すよりこれから何をするかのほうを考えていきたい、と続けて結んでいます。
出典: 息子についての悩み~吃音1~(都竹悦子 公式サイト)(台帳: V0062)
発達性吃音とは、脳の損傷など見た目にはっきりした原因が見あたらないまま、思春期より前、多くは2歳から5歳のあいだに現れる吃音のことです。医学では、こういう「原因が見あたらない」ものを特発性(とくはつせい)と呼びます。英語の論文でも、発達性吃音の説明にこの語がそのまま添えられています。
始まり方についても、数字が出ています。国のポータルの解説によれば、吃音は2歳から4歳のあいだに人口の約8〜11%に発症し、しかも発症の4割は、急にある日始まることが知られています。同じ解説は、だからこそ「今まで流暢に話していたのに、何か悪いことをしたのではないか」と驚いて相談に来る保護者がいるのだとも書いています。
「どもりを作るのは母親の責任」——その説は、どこから来たのか
吃音の原因を調べていくと、どこかで必ず「親の育て方」に行き当たります。これは検索した人の思い込みではありません。20世紀に実際に唱えられ、本や指導を通じて広まった説が、いまもインターネットに残っているためです。
小学3年生の娘の母(自助団体・日本吃音臨床研究会「吃音と上手につきあうための吃音相談室」の《保護者の体験》ページに寄せられた手記。同じページには別の保護者の手記も並んでいる)
ある本には、どもりを作るのは母親の責任のように書いてあり、それを信じ込んで私の育て方に非があったのではないかとずっと考えていました。娘には「どもるのは、お母さんが悪いのよ。あなたのせいではない」と話していたことを伊藤伸二さんにお話しました。すると即座に、「誰のせいでもなく、母親の責任でも決してない」と断言され、心が軽くなりました。娘を救う以前に、私の心が救われました。
この手記の書き手は、新聞の案内で吃音相談会を知り、そこへ行けば娘の吃音は治ると期待して申し込んだと書いています。娘が「どもり」始めてから約5年、していたことは図書館で本を借りて読むことくらいだった、とも。自分の育て方に非があったのでは、という考えの出どころは、読んだ本の一冊でした。責めていた相手は自分ひとりで、しかも根拠は本の記述だけ——この構図には、専門の世界で付けられた名前があります。
出典: 保護者の体験(日本吃音臨床研究会「吃音と上手につきあうための吃音相談室」)(台帳: V0057)
親が「この子はどもっている」と受け取って対応することが吃音を作るのだ、という考え方は「吃音診断起因説」と呼ばれます。日本吃音・流暢性障害学会は、親の接し方が悪かった(愛情不足)とする説とあわせて、これを間違った原因論のうち最も問題のあるものとして名指しで挙げ、そのために母親が周囲から非難されたという体験談を聞く、と書いています。国のポータルの解説も、「利き手を矯正したことが悪い」「吃音を親が意識させたことが悪い」「下の子が生まれて愛情不足が原因」「習い事のストレスが悪い」といった、環境——とりわけ養育者を原因とする説が語られてきた歴史があると整理しています。
では、それはどう確かめられたのでしょうか。20世紀には吃音は心の問題(心因性の障害)だと考えられ、精神分析的なアプローチが試みられました。しかしその後、性格の特徴や親子のやりとりを調べた研究では、吃音と一貫して結びつく心理的なパターンは検出されませんでした。「幼児のふつうのつっかえに対する親の不利な反応から学習された行動だ」という説も、吃音の中心にある症状を説明できませんでした。
ここは、雑に「親は無関係」とまとめてしまわないほうがいい場所です。同じ総説は、その学習の枠組みが二次的な症状のほうは説明しうると述べ、障害そのものを起こす一次的な要因は脳の構造や働きの違いにある可能性が最も高いと整理しています。そのうえで、二番目の要因を「心理的」と呼ぶことには慎重であるべきだ——学習もまた、脳に測定できる変化を残すのだから、と付け加えています。
「体質が8割」と読んだあとに、何を知っておくといいか
「親のせいではない」の次に出てくるのが、体質・遺伝の話です。そしてこの数字は、読んだ人を必ずしも楽にしません。
2歳で吃音が始まった長男の母(元保育士・保育士歴10年以上。長男は記事の時点で8歳/個人ブログ)
吃音について調べると、「成長とともに自然に治ることも多い」と書かれている一方で、「長く続くケースもある」と知り、不安は大きくなるばかりでした。我が家はパパの家系が吃音持ちで吃音は約7,8割は遺伝的要因だということなので「このまま治らなかったらどうしよう」「何か間違った対応をしてしまったら…」と不安な日々を過ごしていました。
元保育士の母が、2歳の長男の「ぼ、ぼ、ぼくね…」に気づいたところから書き起こしたブログ記事の一節です。記事はそこから8歳の現在まで続き、幼児期は出たり落ち着いたりを繰り返したこと、小学校の個人面談で担任に詳しく伝えて連携したこと、2年生の終わりごろに友だちから真似をされて朝行きたがらない時期があったことが順に書かれ、いまは完全になくなったわけではないが出る場面が限られ、落ち着いている時期も増えた、と結ばれています。家族のなかに複数の当事者がいることは、たしかに体質の関与を示す手がかりです。
出典: 【体験談】2歳から始まった吃音…8歳の今どうなった?親の本音と経過(元保育士ママのくらし)(台帳: V0063)
家族内に当事者が複数みられることが遺伝的な要素を示唆する、というのは総説にもある見方です。なお、引用のなかの「約7,8割」は、この書き手が調べる過程で目にした数として書かれているもので、原文に出典は示されていません。国のポータルの解説は、双子を比べた研究から「原因の約8割はその子の生まれ持った体質」という見積もりを紹介しています。
ただし、体質の関与が大きいことと、体質だけで決まることは別です。同じ総説は、吃音が単純な形で遺伝するとは考えにくく、複数の要因がからむモデルが最も可能性が高いとしています。さらに、ある遺伝的な型が吃音を「起こす」のか、それとも「なりやすさ」を高めるだけで、発症には他の環境的な要因も必要なのかは、まだはっきりしていないとも書いています。
遺伝子そのものを探す研究も進んでいます。40年あまりの蓄積のなかで原因に関わる遺伝子が特定されはじめており、これまでに見つかったものはいずれも、細胞の内側で物質を運ぶしくみ(細胞内輸送)のつまずきを指していると報告されています。「どの遺伝子か」の答えが、そのまま「治るか治らないか」の答えになるわけではありませんが、原因の探索が心の領域から細胞の領域へ移ってきたことは、この一行がよく表しています。
大人になってから始まる吃音——「獲得性」は何が違うのか
クラスタで検索されているもう一つの語が「獲得性吃音」「後天性吃音」です。発達性の対になる呼び名で、こちらは原因を指させることがあります。
30代半ばに獲得性吃音となった40代男性(元営業職。発達性吃音は無かったと本人が述べている/自助団体・岡山言友会「例会参加者の声」。7名の声が並ぶページ)
吃音になるまでは、吃音というもの自体知りませんでした。営業マンとしていくつか成績を残し話すことは自信がありました。それが、いきなり声を失った時期がありリハビリして話せるまで回復したら吃音という障害が残りました。
岡山の自助グループが、例会に参加した人の声を並べたページに置かれた一節です。同じ回で職場の上司からの扱いと世の中の吃音の理解度について話し合ったこと、吃音の障害者マークを新しく作りたいと提案して意見をもらったことも、あわせて書かれています。同じ文章の中で、発達性吃音は無かったと本人が明言し、30代半ばから始まった吃音の原因として、脳の疾病と精神的・心理的な問題の両方を挙げています。大人になってから始まる吃音は発達性とは別の枠に置かれ、獲得性吃音と呼ばれます。
出典: 例会参加者の声(岡山言友会)(台帳: V0109)
獲得性吃音の原因として学会の解説が挙げているのは、脳腫瘍・脳の外傷・脳卒中など、脳に損傷を受けて起きるもの(神経原性=脳の傷が引き金になるタイプ)です。加えて、成人してから心理的な原因で吃音が生じることがあること、薬の副作用で出ることがあることも書かれています。総説の側でも、脳の損傷のあとに始まる吃音は、脳卒中・脳内出血・頭部外傷といったはっきりした損傷のあとに起きる、まれな現象として説明されています。
では「原因が分かっている」のかというと、そこまで単純ではありません。症例報告を集めたレビューは、獲得性吃音が神経系のどこか一か所の損傷と対応してはいない、と述べています。報告された傷の場所は、左右の大脳のすべての部分、小脳、脳の深いところにある神経の通り道、そして脳の奥にある視床や脳幹にまでまたがっていました。さらに、話し方の聞こえ方だけを手がかりに、脳の損傷によるものと心理的な原因によるものを見分けるやり方は、信頼できないと示されているとも書いています。
そして、発達性と獲得性の線引き自体が厳密ではありません。生まれる前後などに脳の損傷がある子どもでは吃音が同年代より多く、2つのタイプは重なりうる——総説はそう断っています。
原因を知ることは、重荷にもなり、足場にもなる
原因の話は、知れば楽になるとは限りません。同じ「遺伝」という一語が、人によって正反対の方向に働きます。
吃音のある50代男性(北海道在住・北海道言友会会員。父方の祖父と父も吃音、子ども2人も吃音と本人が記載/個人ブログ)
自分は遺伝だと知って、諦めて話し始めて5年後の27歳には”話す恐怖”ってのは薄れていて、30歳頃には「吃りで悩んでたっけ?」な感じになっていて。子供達も早めに吃音対策をすれば何とかなるのではないかと。
2013年から続く個人ブログに置かれた一本です。10代のころ自分を「突然変異」だと思っていたこと、22歳で父を亡くしたあとに叔父たちから父も吃音だったと聞かされたこと、結婚後に上の子がことばの教室に通いはじめてから実家で打ち明け、そのとき母が昔学校に相談していたと知ったこと——記事はそこまでを順に書いたうえで、この一節に入ります。本人が書いているのは吃音が消えたということではなく、話す恐怖のほうが薄れたということです。経過が気持ちの側から強く条件づけられることは、研究の側からも言われています。
出典: 自分語りな吃音の遺伝というか親子関係(吃音(どもり)ネタを貼ってくブログ)(台帳: V0084)
吃音は最終的には話す運動の乱れとして現れますが、その一生にわたる経過は、ことばの面と気持ちの面の要因によって強く左右される——多因子動的経路理論と呼ばれる枠組みは、そう整理しています。とくに就学前は多くの神経系がめまぐるしく変化していて、その相互作用が、吃音が続くか回復するかを大きく決めると考えられています。
裏を返せば、先の見通しは今のところ立てられません。どの子が回復するかを前もって正確に見分ける方法は、まだありません。国のポータルの解説も、「将来、吃音はなおりますか?」と尋ねられても「男児で家族歴がある場合は、なおりづらい」としか返答できない状況だと、正直に書いています。
同じ「どもり方」でも、成り立ちが同じとは限らない
「発達性」が原因ではなく始まり方を指している、と最初に書きました。その理由がよく分かる研究があります。2019年に発表されたこの研究は、子どものころから続く発達性吃音の大人35人と、脳卒中などの脳の損傷のあとに吃音が出た大人5人に文章を音読してもらい、群ごとに、どの語でどもったかを比べました。読んだ文章は同じではありません。発達性の35人は全員が共通の一つの文章を、脳の損傷後の5人は読む力に合わせてそれぞれ違う文章を読んでいます。
1930年代からの古典的な見方では、①語の頭の音が子音である ②5文字以上の長い語である ③名詞・動詞・形容詞・副詞などの内容語である ④文の書き出しから3語以内にある、という4つの条件に当てはまる語ほどどもりやすいとされてきました。この研究は、条件が当てはまるごとに1点を足した「つまずきやすさの点数」(最大4点)で、どもった語となめらかに言えた語を比べています。
結果はこうでした。どもった語の点数の平均は、発達性で2.51点、脳の損傷後で2.39点。なめらかに言えた語(同じ数だけ無作為に選び直したもの)は、発達性で1.80点、脳の損傷後で1.79点。どちらの群でも、どもった語のほうがはっきり高くなりました。4つの条件を1つずつ見ると、語の長さ・語頭が子音・内容語という3つは両方の群で効いていて、文の書き出し3語という条件だけは、どちらの群でも差が出ませんでした。
傷の場所がばらばらなのだから、脳の損傷後の側は人によって結果が散らばるだろう——そう予想されていましたが、そうはならず、5人とも同じ向きの結果でした。著者らはこれを、効いていた3つの条件がことばを組み立てる段階ではなく、話す動きを準備して実行する最後の段階に効いていることの表れではないか、と解釈しています。ただし著者ら自身が、これはこれから確かめる必要のある見方だと断っています。そして、結果が似ていることを「脳の同じしくみが働いている証拠」として読まないようにと、はっきり釘を刺しています。
もう一つ、この研究には保護者の方に関わる限界があります。発達性吃音の子どもについては、大人と逆に「が」「を」のような機能語でどもりやすいという報告が複数の言語であり、決着していません。つまり、大人の音読から得たこの結果を、そのまま子どもの吃音の説明に持ち込むことはできません。
「難発性吃音」は、別の病気の名前ではない
「難発性吃音症」「難発性吃音とは」と検索されることが多いのですが、学会の解説が分類として挙げているのは発達性と獲得性の2つで、難発はそのなかに現れる症状のひとつです。
吃音に特徴的な中心の症状は3つあります。音の繰り返し(連発。「か、か、からす」)、引き伸ばし(伸発。「かーーらす」)、そしてことばを出せずに間があいてしまうもの(難発、ブロック。「・・・・からす」)です。
この3つは、年齢とともに中心が移ります。吃音が始まってすぐの幼児期は繰り返しが多く、なかには引き伸ばしや、最初の音が出しにくい形で始まる子、比較的早い時期にそういう話し方に変わっていく子もいます。そして思春期以降になると、繰り返しや引き伸ばしよりも、最初の音が出しにくくなる難発が中心になります。学齢期に吃音を否定的にとらえるようになると、難発が強くなったり、言いにくい語を言い換える工夫をしたりして、状態が進んでいくことがあるとも書かれています。
声を出そうとして顔や体に力が入り、必要のない体の動きが出ることもあります。手足を振り下ろす、飛び跳ねる、体を前や後ろに曲げる、息を荒くする、顔をしかめる、目を固くつぶる——こうした動きは「随伴症状」と呼ばれ、吃音そのものではなく二次的に起きる症状として整理されています。幼児期はさまざまな形で出るので家族が驚くことが多い、と学会の解説は書いています。まばたきや体の動きだけを見て別の原因を探す前に、話そうとしている場面で出ていないかを見ておくと、相談のときに伝わりやすくなります。
「タイミング障害説」という言い方を見かけることもあります。伴奏に合わせて歌ったり、2人で同じことばを声を合わせて言ったりすると——つまり外から拍が与えられると——吃音が消えて流暢に話せるため、吃音は発話のタイミングの障害と言われています。症状の名前も、この言い方も、原因を特定した呼び名ではなく、観察されている性質に付けられた名前です。
どこに相談すればいい?受診の目安と相談先
相談先については、学会の解説がはっきり書いています。楽に話しやすくなるように周りの接し方や場面のほうを整える方法、直接発話に働きかける方法、吃音のことを理解する方法など、年齢や状態に合わせた指導があるので、小児を扱う言語聴覚士や、ことばの教室の教員に相談を、というものです。
いつ動くかについては、国のポータルの解説が、幼児吃音臨床ガイドライン第1版(2021)の内容として次の3段階を紹介しています。ここでいう積極的な介入とは、月2回以上の指導のことです。年少組までは経過を見ながらの支援を行うことを基本とし、年中組では積極的な介入の開始を検討し、年長組では積極的な介入の開始を推奨する——という順序です。
ここで一つ、知っておくと損をしない落とし穴があります。同じ解説は、相談に行っても、その場では思ったほど症状が出ないことが多いと指摘しています。そして、流暢に話す様子を見た相手からつい出る「気にならないですね」「軽い吃音ですね」ということばが、保護者にプラスに働くことは少ない、とも。家では出ているのに相談の場では出ない、というのは、この障害の性質のほうから説明がつくことです。
学齢期に入ったら、困る場面はかなり具体的です。日直の号令、音読、発表、かけ算の九九、学習発表会、卒業式——こうした場面を名指しで聞くことが、困りごとの早期発見につながると書かれています。「困っていない?」より「音読のときはどう?」のほうが答えやすい、ということです。
制度の面では、発達性吃音は2005年に施行された発達障害者支援法の対象に含まれています。そして経過そのものについては、幼児・児童期に出はじめるタイプがほとんどで、大半は自然に症状が消えたり軽くなったりする一方、青年・成人期まで続く人もいる、というのが公的資料の書き方です。
原因さがしで陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 「犯人」を一つに決めようとする
「保育園のせい」「あのとき叱ったせい」と単独の原因を探すほど、事実から遠ざかります。吃音は単一の要因の理論では説明できない、という点については、研究者の見方がおおむね一致しています。
落とし穴2 − 症状の名前を、原因の名前だと思ってしまう
「難発性吃音」も「タイミング障害」も、原因を特定した呼び名ではありません。難発は3つの中心症状のひとつで、思春期以降に中心になっていく症状です。名前が増えても、原因の数が増えたわけではありません。
落とし穴3 − 目の前で出ないことを根拠に、様子だけ見てしまう
相談の場では症状が出にくく、それが過小評価につながることが指摘されています。だからこそ、いつ・どんな場面で・どんな話し方が出たかを手元に残しておくと、伝わり方が変わります。学会の解説は、小児を扱う言語聴覚士や、ことばの教室の教員に相談しましょう、と案内しています。手元の記録は、その相談の場に持っていくためのものと考えてください。発話を毎日記録して経過を「見える化」する道具として、アプリ「toVoice」のような記録・継続の支援ツールを使う方法もあります(治療をうたうものではありません)。
よくある質問
発達性吃音の原因は何ですか?
一つの原因は特定されていません。生まれ持った体質的な要因の関与が大きいことは双子研究から示されており、そのうえで、話す運動・ことば・気持ちの要因が単純な足し算ではない形で影響し合って発症すると考えられています。2000年ごろ以降の双子研究・脳研究・遺伝子研究によって、環境的な要因よりも体質的な要因が原因の多くを占めることが分かってきたとされています。
「発達性」と「獲得性(後天性)」は何が違いますか?
発達性吃音は、脳の損傷などのはっきりした原因が見あたらないまま、思春期より前、多くは2歳から5歳のあいだに始まるタイプで、吃音の9割以上を占めます。獲得性吃音は、脳腫瘍・脳の外傷・脳卒中などで脳に損傷を受けて起きるもののほか、成人してからの心理的な原因や薬の副作用で生じるものが挙げられています。ただし2つの線引きは厳密ではなく、重なりうるとされています。
難発性吃音は、発達性吃音とは別のものですか?
別の病気の名前ではありません。学会の解説が分類として挙げているのは発達性と獲得性の2つで、連発(繰り返し)・伸発(引き伸ばし)・難発(ことばが出せず間があく)は、そのなかに現れる中心の症状として並べられています。思春期以降は、この難発が症状の中心になっていくとされています。
親の育て方やしつけが原因ですか?
いいえ。親の接し方が悪かった(愛情不足)とする説や、親が吃音だと思って対応することが原因だとする吃音診断起因説は、間違った原因論のうち最も問題のあるものとして学会が名指しで退けています。性格の特徴や親子のやりとりを調べた研究でも、吃音と一貫して結びつく心理的なパターンは検出されていません。
吃音といっしょに、まばたきや体の動きが出るのはなぜですか?
声を出そうとして顔や体に力が入り、必要のない動きが出ることがあります。これは「随伴症状」と呼ばれ、吃音そのものではなく二次的に起きる症状として整理されています。幼児期はさまざまな形で出るため家族が驚くことが多いとされています。気になるときは、小児を扱う言語聴覚士や、ことばの教室の教員に相談しましょう、というのが学会の案内です。
まとめ
- 「発達性」は原因の名前ではなく、はっきりした原因が見あたらないまま幼児期に始まる、という始まり方を指す呼び名です。吃音の9割以上がこれにあたります。
- 発症の4割は急にある日始まります。直前の出来事を探しても、そこに答えは見つかりません。
- 「親のせい」とする説は実際に唱えられ、そして検証されて退けられました。学会は吃音診断起因説を名指しで退けています。
- 体質の関与は大きいものの、単純な形で遺伝するとは考えにくく、「なりやすさ」を高めるだけなのかもまだ分かっていません。
- 成り立ちの違う2つの吃音で、どもりやすい語の性質はよく似ていました。どもり方から原因は読み取れません。心配なときは言語聴覚士やことばの教室へ。
