筑波大学の吃音研究|調べてきたこと・当事者との接点・相談窓口

筑波大学の吃音研究|調べてきたこと・当事者との接点・相談窓口
目次

「筑波大学で吃音(きつおん)の研究をしているらしい」——そう聞いて調べ始めた方、あるいは、大学なら診てもらえるのではないか、研究に協力できないか、と考えている方へ。大学の名前だけが先に届いて、そこで何が調べられ、それが自分や子どもの暮らしに何を返してくれたのかは、たいてい見えないままです。

この記事は、国立障害者リハビリテーションセンターを中心とする日本の3歳児の全国調査と幼児吃音臨床ガイドライン、筑波大学の研究者らによる当事者と職場の調査、日本吃音・流暢性障害学会の大会記録、日本吃音臨床研究会の出版物といった原典に「筑波大学」の名前が実際に書かれている範囲だけで、筑波大学が吃音の何を調べてきたかを地図にします。そのうえで、研究者と当事者がどこで出会ってきたかを3人の記録で追い、大学の研究室と相談窓口の違いまでを整理します。

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吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。研究室の体制や研究課題は年ごとに変わるため、最新の情報は大学・研究室の公式ページで確かめてください。気になる症状があるときは、言語聴覚士やことばの教室にご相談ください。

まず結論から

  • 筑波大学は、国立障害者リハビリテーションセンターを中心とする日本の3歳児の吃音調査(5県・2016〜2018年)に加わり、筑波大学人間系の倫理委員会がその審査を担い、大学院生・学部生が健診会場のデータ収集に参加しました。結果は、健診の時点で6.5%、3歳までに一度でも始まった子で8.9%です。
  • 同じ時期の研究班が作った幼児吃音臨床ガイドライン(2021年公開)の参加施設にも、筑波大学の名前があります。
  • 筑波大学人間系の研究者を筆頭とする研究班は、吃音のある日本の大人180人が自分から吃音を伝える度合いを調べ、その前には日本の一般の成人671人に職場での吃音のある人への受け止め方を尋ねています。
  • 治療法の検証も出ています。自分の声を遅らせて聞かせる装置だけでは非流暢(繰り返し・引き伸ばし・詰まり)は一貫して減らない、というメタ分析は筑波大学の研究費で行われ、吃音のある成人への心理的介入は心理面の症状を和らげたというメタ分析も、著者3人のうち2人が筑波大学の所属です。
  • この記事で参照した資料の範囲には、筑波大学に吃音の外来や相談窓口があるという記載はありません。ガイドラインは、専門家が足りない前提で、身近な相談機関が説明と経過観察を担い、必要なときに治療施設へ紹介する連携を求めています。

ただし、ここに並べたのは手元の原典に「筑波大学」の名前が書かれている研究だけで、筑波大学で行われている吃音研究の全体ではありません。研究室の主宰者や研究課題は年ごとに変わるので、この記事は「どんな研究があるか」までにとどめ、個々の研究者の評価はしません。

筑波大学は吃音の何を調べてきたか——原典に名前のある研究の地図

まず、手元の資料に「筑波大学」の名前が実際に書かれている研究を、テーマごとに並べます。どの研究も、筑波大学だけで行われたものではなく、複数の大学や施設の共同研究です。

日本の3歳児に、どのくらい吃音があるのか。国立障害者リハビリテーションセンター研究所、筑波大学人間系、北里大学、九州大学、金沢大学などの研究者が共同で、日本の複数の地域の3歳児健診を使って吃音の割合を調べました。協力したのは著者5人の所属機関がある福岡・石川・茨城・神奈川・徳島の5県で、15か所の保健センターが加わり、調査は2016年7月から2018年2月まで行われました。健診の案内に質問紙を同封して配り、吃音を疑う回答が一つでもあった子について、保護者への面接・子どもの発話の直接評価・確認用の質問紙・電話のいずれかで確かめる、二段階の手続きです。配られた2,448部のうち2,055人の保護者が同意書と質問紙を返し、最終的に1,988人の子どもが解析されました。結果は、健診の時点で吃音のある子が6.5%(95%信頼区間、つまり推定のぶれの幅のことで、5.4〜7.7%)、過去にあって今は収まっている子を含めた「3歳までに一度でも始まった子」が8.9%(同7.7〜10.2%)でした。この研究の倫理審査(参加者の権利と安全を守るための事前の審査)は、国立障害者リハビリテーションセンターのほか筑波大学人間系の倫理委員会を含む5つの機関が担い、健診会場でのデータ収集には筑波大学・北里大学・金沢大学の大学院生と学部生も加わったと謝辞に記されています。論文は、3歳までに始まっていた8.9%のうち健診の時点で吃音があったのは6.5%だったことから、始まった子の全員がすぐに治療を必要とするわけではなく、自分で回復していく子と長引きやすい子を早く見分ける手立てが要る、と結んでいます。数字の読み方そのものは、『吃音の世界』を読んだ人向けの記事に分けてあります。

日本の3歳児健診で、5県15か所の保健センターから1,988人分のデータが残るまでを段階ごとに示した図。健診を受けた3,336人のうち、調査の案内が配られなかった子が888人、質問紙が返ってこなかったのが393人、発話がまだない・年齢が範囲外・記入もれ・同意の撤回・判定できなかったといった理由で除外されたのが67人で、解析できたのは1,988人。調査は2016年7月から2018年2月まで行われた。
図1: 3歳児健診の場から、解析された1,988人分が残るまで。出典: Sakai et al. (2025) Multiple-Community-Based Epidemiological Study of Stuttering among 3-Year-Old Children in Japan. Folia Phoniatr Logop.
スクリーニングで吃音の疑いが出た465人を確かめたときに、吃音ありと判定された割合を方法ごとに並べた図。電話での聞き取りが45.0%(120人のうち54人)、対面の観察と面接が44.1%(204人のうち90人)、確認用の質問紙が31.7%(104人のうち33人)で、質問紙が最も低かった(p<0.01)。どの方法で確かめるかは割り当てではなく、子どもと保護者の都合で選ばれている。
図2: 同じ二段階の手続きでも、確かめ方によって判定された割合は違った。出典: Sakai et al. (2025) Multiple-Community-Based Epidemiological Study of Stuttering among 3-Year-Old Children in Japan. Folia Phoniatr Logop.

研究がガイドラインになった。この調査と同じ時期、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の補助による研究「発達性吃音の最新治療法の開発と実践に基づいたガイドライン作成」(平成28〜30年度)が進められ、その成果として2021年9月30日に「幼児吃音臨床ガイドライン」第1版が公開されました。国立障害者リハビリテーションセンターの特集は、センター以外の参加施設として金沢大学、北里大学、九州大学、国際医療福祉大学、筑波大学、広島大学、福岡教育大学、宇高耳鼻咽喉科医院を挙げ、5名の外部専門家による査読と2回のパブリックコメントを経たと書いています。中身は、7割以上ある自然治癒をできるだけいかし、最初の1年の重症度は予後(この先の経過)と関連しないので待機し、就学の1年程度前になっても軽快の傾向がなければ治療施設に紹介する、という戦略です。医療関係者以外の人や保護者が読めるよう、平易に書いた添付資料も作られました。ガイドラインの読み方は論文の探し方の記事にあります。

幼児吃音臨床ガイドラインを作った9つの施設を並べた図。中心は国立障害者リハビリテーションセンターで、それ以外の参加施設は金沢大学、北里大学、九州大学、国際医療福祉大学、筑波大学、広島大学、福岡教育大学、宇高耳鼻咽喉科医院(順不同)。AMEDの補助による研究(平成28〜30年度)の成果として2021年9月30日に第1版が公開され、それまでに5名の外部専門家による査読と2回のパブリックコメントを経ている。筑波大学は、この一覧に並ぶ参加施設の一つとして名前がある。
図3: 幼児吃音臨床ガイドラインの参加施設。筑波大学はその一つ。出典: 国立障害者リハビリテーションセンター リハニュース No.370 特集「幼児吃音臨床ガイドライン」の作成と公開(2022)。

吃音のある大人と、職場の側。筑波大学人間系の研究者を筆頭とする研究班は2026年に、吃音のある日本の成人が自分から吃音を伝える度合い(研究では「自己開示」と呼びます)を調べました。参加者は日本の吃音の自助グループと著者らの伝手を通じて募り、オンライン調査で180人を解析しています。伝える度合いは同じ尺度を使った米国の調査より低く、男性であること、自助グループの経験があること、自分の吃音を受け入れている度合いが高いこと、吃音への偏見を自分自身に向けてしまう度合い(自己スティグマ)が低いことが、より高い自己開示と結びついていました。その前、2021年には同じ筆頭著者らが、日本全国の一般の成人730人にウェブで質問し、671人分を解析して、職場での吃音のある人への受け止め方を調べています。職場・友人・家族のいずれかに吃音のある人を知っている人は41.3%で、職場に吃音のある人がいて知っているという経験だけが、より肯定的な態度と結びついていました。この2つの調査が当事者の生活に何を示したかは、吃音の認知度の記事で扱っています。

日本語を話す子どもは、どこでどもりやすいか。筑波大学の大学院や人間系に所属する研究者らは、日本語を話す吃音のある子どもの会話を分析してきました。就学前の10人(平均5歳9か月)と保護者の約20分の自由な会話を調べた研究では、音節の軽い・重いや、語の頭が子音か母音かによる差は見られず、語の頭と長い語で吃音らしい非流暢が多く出ていました。5〜10歳の30人を3つの年齢群に分けた研究では、文の長さ、文節(「私は/学校へ」のように文を区切った単位)の長さ、音節の重さ、よくある2拍の並びの出現頻度が、どの年齢でも非流暢の頻度に関わっていました。「あ行で詰まる」という実感がどこまで裏づけられるかは、母音で詰まる吃音の記事にまとめました。

治療法の検証。筑波大学の研究者らは、治療法の根拠を集めて確かめる研究も出しています。自分の声を少し遅らせて聞かせる遅延聴覚フィードバック(DAF)だけを取り出して効果を調べた系統的レビュー(決めた手順で世界中の研究を集めて評価する論文)とメタ分析(集めた結果を統計的に一つにまとめる方法)は、2000〜2024年の文献194件から8件(参加者98人)を選び、5件(61人)を統合しました。結果は、通常の聞こえ方と比べて全体として有意な差はなく(平均差 −1.46、95%信頼区間 −4.83〜1.91)、研究間のばらつきが大きいものでした。結論は、DAF単独では非流暢は一貫して減らない、ただし特定の人や条件では利益があるかもしれない、というもので、この研究は筑波大学の基礎研究支援プログラムの支援を受けています。もう一つ、吃音のある成人への心理的介入をまとめたメタ分析が2026年に日本の心理学の学術誌に載りました。24件を検討し13件(311人・85の効果量)を統合したところ、多くは認知行動療法(考え方と行動のくせを整える心理療法)か、マインドフルネス・受容にもとづく介入で、心理面の症状を和らげる効果が全体として認められました(効果の大きさは0.63、95%信頼区間 0.49〜0.76)。これは心理面の症状についての値で、どもりの量が減ったという意味ではありません。日本で開発されたメンタルリハーサルの効果は、介入期間の長さで説明されたとも書かれています。さらに、場面緘黙(特定の場面で話せなくなる状態)の改善後に吃音が表面化した小学2年生の男児に1年3か月の介入を行った経過報告も、筑波大学人間系の研究者が筆頭で発表しています。装置については聴覚フィードバックの記事、心理的介入については逆説志向の記事、場面緘黙との併発は併発の記事に分けています。

ここから先は、こうした研究をしている人と当事者が、実際にどこで出会ってきたかを、3人の記録から見ていきます。

研究者と会ったのは、大学ではなく当事者の集まりだった

「筑波大学の研究者」と聞くと、遠い場所にいる人のように思えます。けれど当事者の記録を読むと、研究者と最初に会った場所は大学ではありませんでした。

当事者の声(hiroさん・会社員/個人ブログ note「僕の吃音歴」)

遡ること数ヶ月。初めて東京言友会へ参加したとき(過去記事参照)に、僕はある人と出会っていました。飯村大智さんという方です(本人の許可を得をえたうえで実名を記載させていただきます)。飯村さんは吃音に関する研究などをされている方で、ご本人も吃音当事者です。当時は学生でした。

埼玉の言友会に毎月通っていた2014年の初めごろ、hiroさんに「関東で若者向けの自助グループを立ち上げたいのですが、興味はありませんか?」という連絡が届きます。差出人は、数か月前に東京言友会の例会で隣の席になった学生でした。当時は関西に住んでいて、たまたま東京に来ていたその人は、30代までの当事者を対象にした「うぃーすたプロジェクト」を京都の言友会から独立する形で立ち上げたばかりだったといいます。関東での最初の例会には二十代を中心に十数人が集まり、その学生も関西から駆けつけ、終わったあとに「ぜひうぃーすた関東の代表になってほしい」とhiroさんに頼みました。代表を引き受けてからの数年間、その活動が自分の吃音に関わる活動の中心になった、とhiroさんは書いています。研究者と当事者の集まりがこれほど近いことは、筑波大学の研究者らの調査の設計にもそのまま表れています。

出典: 僕の吃音歴(吃音に関わる活動編④「うぃーすた関東」発足)(note・hiro)(台帳: V0529)

hiroさんが書いた名前と同じ名前が、いまは筑波大学の所属として、研究の著者欄にあります。2026年に日本の心理学の学術誌に載った、吃音のある成人への心理的介入のメタ分析では、著者3人のうち2人が筑波大学の所属です。当事者の集まりで研究者と出会うという順序は、偶然だけではありません。筑波大学人間系の研究者を筆頭とする2026年の調査は、参加者を日本の吃音の自助グループと著者らの伝手を通じて募り、180人を解析しました。そして、自助グループの経験がある人ほど、自分から吃音を伝える度合いが高いという関連を報告しています。裏を返せば、この調査の参加者は自助グループを通じて集められているので、グループに来ていない人の姿は映りにくい、ということでもあります。

hiroさんが引き受けたのは、当事者どうしが出会う場を作る仕事でした。同じ筆頭著者らが日本の一般の成人を対象に行った調査では、職場に吃音のある人がいて知っているという経験だけが、より肯定的な態度と結びついていました。これは「関連がある」という結果であって、接する機会を作れば態度が変わることを確かめたものではありません。それでも、当事者が集まる場と、それを調べる研究と、周りの受け止め方が、同じ一本の線の上にあることは見えてきます。

調べる側にも、吃音のある人がいる

研究は「される」ものに見えます。けれど、調べる側に立った当事者の記録があります。大学の授業で、自分の話しにくさに「吃音」という名前があると初めて知り、それを研究のテーマに選んだ人です。

当事者で言語聴覚士・臨床心理士の声(南めぐみさん/当事者インタビュー媒体「きつ女録」)

研究のために、小学校の言語障害児学級に行って、吃音がある児童に意識調査をしました。吃音について気がついているか、気がついているとしたらどの程度自覚しているか、嫌な経験をしているのか、といったことを一人ひとりインタビューをするんです。

電話が苦手だったので、調査のために小学校に電話かけないといけないのですが「まーまー」としか言葉が出なくて、「喃語(乳児が言語を獲得する前に発する意味のない声)みたいだわ」と思ったことを覚えています。

大学の授業で、自分の喋りにくさは言語障害の一つである吃音だと初めて知り、知ってから症状が重くなった、と南さんは振り返ります。大学に吃音の研究をしている先生がいたことから「わたし、吃音をやんないといけないな」と思い、小学校の言語障害児学級を訪ねて、吃音のある児童に一人ひとり聞き取りをしました。調査のために学校へかける電話で「まーまー」としか出なかった、という上の場面は、調べる側と調べられる側の境目が本人の中で揺れていた時期の記録です。大学院では成人にも話を聞くために近くの言友会に入れてもらい、「自分は吃音者じゃない、調査させてもらってるだけ」という意識のまま、温かく迎えられたとも書いています。協力した人の側から見れば、聞きに来た学生もまた当事者だった、ということです。研究が誰の協力で成り立っているかは、筑波大学が加わった調査の記録にそのまま書かれています。

出典: 吃音者であり、セラピストである(きつ女録)(台帳: V0543)

日本の3歳児の調査は、健診会場で配られた2,448部の調査パッケージに対して2,055人の保護者が同意書と質問紙を返したことで成り立ちました。論文の謝辞は、健診会場でデータ収集にあたった保健センターの職員、言語聴覚士、特別支援学校の教員、筑波大学・北里大学・金沢大学の大学院生と学部生、研究補助者の名前を並べたうえで、参加したすべての子どもと保護者に感謝を記しています。大人の調査も同じで、自分から吃音を伝える度合いを調べた研究の180人は、自助グループと著者らの伝手を通じて集まった人たちです。研究の数字は、南さんが訪ねた学級の子どもたちや、言友会で迎えてくれた人たちのような、協力者の側から生まれています。

南さんが当事者の集まりに出るきっかけになった2018年の国際会議は、日本吃音・流暢性障害学会の大会記録では第6回大会(吃音・クラタリング世界合同会議)として、2018年7月13日から16日に広島国際会議場で開かれたと記されています。同じ学会の第11回大会は、2023年10月21・22日に茨城県つくば市のつくばカピオで開かれました。研究する人と当事者が同じ会場に集まる場は、こうして毎年どこかで開かれています。学会の中身は学会の記事に分けます。

当事者の会は、筑波大学の教授から何を学んできたか

大学と当事者の接点は、最近の調査だけではありません。1965年に言友会を作った当事者が、自分たちの会がどこから学んできたかを、名前を挙げて書いています。

当事者の声(伊藤伸二さん・日本吃音臨床研究会会長。1965年に言友会を創立/団体公式サイトの自伝)

アメリカの言語病理学者、ジョゼフ・G・シーアンは、吃音は氷山のようなもので、水面に浮かんでいる見える部分が吃音の症状で、本当の問題は水面下に沈んでいる大きな部分だとした。この吃音氷山説の水面下の部分である、吃音からくる行動、思考、感情については、臨床心理学、精神医学、社会心理学、哲学、教育学など、様々な分野で理論や技法が蓄積され、人間共通の財産になっている。それらを、劣等感、不安、恐怖などへの対処に活かすことができる。吃音に活かせるものなら何でも学ぼうと、年に一度の「吃音ワークショップ」や「親・教師・言語聴覚士のための吃音講習会」などで、様々な分野の第一人者から学んできた。

吃音研究の内須川洸・筑波大学教授。演出家の竹内敏晴さん。アサーティブ・トレーニングの平木典子・日本女子大学教授。詩人の谷川俊太郎さん。論理療法の石隈利紀・筑波大学教授。

小学2年の学芸会でセリフのある役を外され、「どもるくらいなら話すのをやめよう」と決めた少年が、大学1年で「必ず治る」と宣伝する矯正所に30日間入り、治らないまま、初めて大勢のどもる人と出会って言友会を作った——その人が、会の活動を支えてきた学びの出どころとして最初に挙げるのが、吃音研究の筑波大学教授です。自伝の別の箇所では、この教授が大阪教育大学に赴任してきて身近に学べたことを「幸い」と書いています。そしてもう一人、論理療法の筑波大学教授。年に一度のワークショップや講習会に招いて学んだことは書籍や冊子になり、活動を支えてくれている、と続きます。その本は、実際に当事者団体の書棚に並んでいます。

出典: 吃音を生き抜く伊藤伸二の人生(日本吃音臨床研究会「吃音と上手につきあうための吃音相談室」)(台帳: V0124)

日本吃音臨床研究会の書籍案内には、『やわらかに生きる 論理療法と吃音に学ぶ』が、石隈利紀(筑波大学教授)と伊藤伸二(日本吃音臨床研究会会長)の共著として載っています(金子書房、2005年)。紹介文は、どもるという事実が人を悩ませるのではなく、どもることを悪いこと・恥ずかしいことと捉え、どもってはいけないと考えるから人は悩むのだ、と論理療法は考える、と説明し、悩む人の「考え方の練習帳」だと位置づけています。同じ案内には、2015年の「親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会」での学びをもとに編集された年報『レジリエンス』(2021年1月)があり、特別ゲストとして迎えた元筑波大学副学長の講義と対談が主な内容だと書かれています。

この団体の案内には、愛媛大学の研究者と当事者の共著についても、吃音研究者と吃る当事者の共同の取り組みから生まれた世界的にも珍しい本だ、という紹介があります。大学の研究者が当事者の会に招かれ、その内容が本になって当事者の手元に戻る——筑波大学の教授が関わってきたのは、この経路です。なお「日本吃音臨床研究会」は「研究会」と名乗っていますが、当事者が会長を務め、書籍と教材を扱う団体で、大学の研究機関ではありません。本については『吃音の世界』の記事に、当事者の会そのものについては相談先の記事に分けています。

筑波大学に相談窓口はあるか——参照した範囲には無い

この記事で参照した資料の範囲には、筑波大学に吃音の外来や相談窓口があるという記載はありません。あるのは研究の記録だけです。大学の研究室は、調査や論文を通じて知見を作る場所で、診察や訓練の窓口とは別のものです。「大学で研究しているなら診てもらえるのでは」と思ったときに当てにできるのは、その研究班が作ったガイドラインが描く道筋のほうです。

ガイドラインの作成を伝える特集は、幼児の吃音について、吃音になる幼児の10分の1だけが医療機関を受診するとしても全員を診られるだけの専門家はいない、として「医療崩壊状態と言ってもいいくらい」と書いています。専門家はすぐには増やせないので、一般の相談・診療機関が吃音の詳しい説明と経過観察を担い、必要を見極めて治療施設に紹介する連携が要る、というのがその答えです。幼児の吃音の相談が寄せられる保健センター・幼稚園・保育園・小児科・耳鼻咽喉科・ことばの教室の多くには言語聴覚士(ことばの専門職)がいない、という現状認識がその前提にあります。どこに何を相談できるかは吃音の相談先の記事に、何科にかかるかは何科の記事にまとめています。

研究している人の話を直接聞ける場としては、学会があります。日本吃音・流暢性障害学会は、吃音と流暢性障害(クラタリングなど、話の流れに関わる障害)の研究の発展と、研究・医療・福祉・セルフヘルプグループ活動に関わる者どうしの交流を目的に掲げています。大会は2013年の第1回(金沢大学)から続き、第11回は2023年10月に茨城県つくば市、第13回は2025年8月に九州大学医学部百年講堂で開かれ、各回のプログラム・抄録集(発表の要旨を集めた冊子)はPDFで公開されています。学会そのものは学会の記事に、論文の探し方は論文の記事に分けます。

次のようなときは、研究の記事で分かったつもりで止まらず、相談を考えてみてください(あくまで目安で、当てはまらなくても相談して構いません)。

  • 子どもの吃音が続いていて、就学が近づいている
  • 本人が話す場面を避け始めている
  • 研究で読んだ装置や方法を、自分で試そうとしている

この3つは相談を考えるきっかけとして挙げたもので、特定の資料が「受診の目安」として定めているものではありません。なお、就学の1年程度前になっても軽快の傾向がなければ治療施設に紹介するという区切りは、幼児吃音臨床ガイドラインが実際に示しているものです。

「大学で研究している」で陥りがちな3つの落とし穴

落とし穴1 − 研究している大学を、診てもらえる場所だと思う

参照した資料の範囲に、筑波大学の相談窓口の記載はありません。研究室は知見を作る場所で、診察や訓練の窓口とは別です。ガイドラインは、専門家が足りない前提で、身近な相談・診療機関が説明と経過観察を担い、必要なときに治療施設へ紹介する連携を求めています。相談は、大学ではなく、その道筋のどこかから始めるのが近道です。

落とし穴2 − 「大学の研究で効くと分かった」と読む

筑波大学の研究費で行われたメタ分析の結論は、遅延聴覚フィードバック単独では非流暢は一貫して減らない、というものでした。心理的介入のメタ分析が示したのは心理面の症状の改善で、どもりの量が減ったという値ではありません。場面緘黙と吃音のある男児の経過報告では、セラピストとの場面では重症度と非流暢の頻度に明らかな低下は見られず、母親との遊び場面で重症度が下がった、という一人の記録です。研究がある、ということと、効く、ということは別です。

落とし穴3 − 「研究所」「研究会」「研究室」を同じものだと思う

「研究会」と名乗る団体でも、日本吃音臨床研究会は当事者が会長を務め、書籍と教材を扱う団体です。日本吃音・流暢性障害学会は、研究者と医療・福祉・自助グループの人が交流するための学会です。大学の研究室は、共同研究の一員として調査や論文に名前が出る場所です。名前が似ていても、してくれることは違います。どこかに連絡する前に、どんな場面で・どのくらい続いているか——気づいたことを書き留めておくことから小さく始め、言語聴覚士やことばの教室に相談できる場合はそちらが確実です。

よくある質問

筑波大学では、吃音のどんな研究をしていますか?

手元の原典に名前があるのは、国立障害者リハビリテーションセンターを中心とする日本の3歳児の吃音調査(筑波大学人間系の倫理委員会が審査を担い、学生がデータ収集に参加)、幼児吃音臨床ガイドラインへの参加、吃音のある大人が自分から吃音を伝える度合いの調査、一般の成人の職場での態度の調査、日本語を話す子どもの会話の分析、遅延聴覚フィードバックと心理的介入のメタ分析です。研究室の体制や課題は年ごとに変わるので、最新の情報は大学・研究室の公式ページで確かめてください。

筑波大学で吃音を診てもらえますか?

この記事で参照した資料の範囲には、筑波大学に吃音の外来や相談窓口があるという記載はありません。ガイドラインは、専門家が足りない前提で、身近な相談・診療機関が説明と経過観察を担い、必要なときに治療施設に紹介する連携を求めています。相談先の種類は吃音の相談先の記事にまとめています。

吃音の研究に協力したいのですが、どうすればいいですか?

手元の原典では、大人の調査は日本の吃音の自助グループと著者らの伝手を通じて参加者を募り、3歳児の調査は自治体の3歳児健診の案内に質問紙を同封する形で保護者に届けられました。募集の有無や時期は研究ごとに変わるので、この記事には書きません。自助グループに参加していると声がかかる経路があることまでが、原典から言えることです。

研究の成果は、当事者や保護者の手元にどう届いていますか?

幼児吃音臨床ガイドラインは、AMEDの研究班の成果として2021年9月30日に公開され、医療関係者以外の人や保護者が読めるよう平易に書いた添付資料も作られています。筑波大学の教授が当事者団体の講習会に招かれ、その内容が共著の本や年報になって当事者の手元に戻った例もあります。

筑波大学の研究者の論文は、どこで読めますか?

心理的介入のメタ分析と場面緘黙を伴う児童の経過報告は、日本の学術誌をインターネットで公開している J-STAGE に書誌と要旨があります。3歳児の調査や自己開示の調査などは英語の学術誌に載っています。日本語と英語それぞれの探し方は論文の探し方の記事に、学会の抄録集は学会の記事にまとめます。

まとめ

  • 筑波大学は、国立障害者リハビリテーションセンターを中心とする日本の3歳児の吃音調査(5県・1,988人・健診時点6.5%/3歳までに8.9%)に加わり、同じ時期の研究班が作った幼児吃音臨床ガイドラインの参加施設にも名前がある。
  • 筑波大学人間系の研究者を筆頭とする研究班は、当事者180人の自己開示と一般の成人671人の職場での態度を調べ、日本語を話す子どもの会話も分析している。
  • 治療法の検証では、遅延聴覚フィードバック単独では非流暢は一貫して減らず、心理的介入は心理面の症状を和らげたが、どもりの量の話ではない。
  • 研究者と当事者の接点は、当事者の集まり・調査への協力・学会・講習会にある。研究者が言友会の例会で当事者と出会い(V0529の記録)、当事者が調べる側に立ち、当事者団体が筑波大学の教授を講習会に招いて本にしてきた。学会の大会は2023年につくば市でも開かれた。
  • 参照した範囲に、筑波大学の吃音の相談窓口の記載は無い。ガイドラインは、身近な相談機関が説明と経過観察を担い、必要なときに治療施設へ紹介する連携を求めている。相談は大学ではなく、その道筋から始める。

参考文献

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  2. 国立障害者リハビリテーションセンター リハニュース No.370 特集「幼児吃音臨床ガイドライン」の作成と公開(2022)
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  10. 日本吃音臨床研究会「吃音に関する書籍と教材」(書籍・教材の案内ページ)
  11. 日本吃音・流暢性障害学会「日本吃音・流暢性障害学会とは(学会概要・目的)」(jssfd.org)
  12. 日本吃音・流暢性障害学会「これまで開催された大会・研修会」(jssfd.org)

当事者の声の出典: V0529(note「僕の吃音歴」・名義「hiro」)/ V0543(当事者インタビュー媒体「きつ女録」・南めぐみさん)/ V0124(日本吃音臨床研究会公式サイト・伊藤伸二さんの自伝ページ)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-09-05 公開