ジストニアと吃音の違い|痙攣性発声障害との見分け・相談先

目次

「声が出ないのは吃音なのか、それともジストニアという別の病気なのか」——そう思って調べ始めると、出てくるのは「痙攣性発声障害(けいれんせいはっせいしょうがい)」という耳慣れない名前ばかりで、肝心の「じゃあ吃音とどこが違うのか」がどこにも書かれていない。自分(あるいは家族)がどちらの側にいるのか分からないまま、ページだけが増えていく。そんな行き止まりに立っている方は少なくありません。

この記事は、その問いに吃音の側から答えます。よりどころにするのは、日本耳鼻咽喉科学会の会報に載った総説、九州大学の研究者データベースに掲載されている「思春期以降の吃音症と発声障害の問診上の鑑別」という研究の著者抄録、日本吃音・流暢性障害学会の解説、そして査読を受けた研究論文です。加えて、実際に耳鼻咽喉科の診察室で名前が決まっていった4人の記録を並べます。ジストニアそのものの治療(薬や手術)は、この記事が持っている資料の外にあるので扱いません。書けるのは「吃音の側から見て、何がどう違うのか」と「どこへ相談すればよいのか」です。

ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。ここに並べた手がかりは、自分で名前を決めるための基準ではなく、相談のときに伝える材料です。声が出ない・話が詰まるといった症状があるときは、耳鼻咽喉科や言語聴覚士のいる医療機関にご相談ください。

まず結論から

  • 吃音と発声障害(声そのものの障害)は、別のものとして扱われています。日本耳鼻咽喉科学会の会報に載った総説は、吃音と見分けるべき状態として、ことばの発達の遅れや異常・構音障害(発音の障害)・発声障害・チック・場面緘黙(ばめんかんもく。場面や人によって話せなくなること)・脳損傷などを挙げています。
  • 見分けの手がかりは、実際に測られています。耳鼻咽喉科・頭頸部外科を受診した人を比べた日本語の研究では、症状に気づいた年齢が、吃音症と診断された46名では平均7.8歳、過緊張性・内転型の痙攣性発声障害の12名では平均33.7歳で、統計的な差がありました。
  • 同じ研究は、問診の22項目のうち11項目で吃音症の側が有意に多かったと報告しています。そこには「歌では言葉がつっかえない」「ひとり言ではすらすらしゃべれることが多い」「言いにくいことばがあると、言いやすいことばに置き換える」が含まれます。
  • 大人になってから急に出た「どもり」には、いくつもの入口があります。電子カルテから吃音の症例を集めた研究は、生まれつきの吃音(発達性吃音)と区別するために、脳卒中や頭部外傷に伴うもの(神経原性)・薬の副作用によるもの(薬剤性)・精神の病に伴うもの(心因性)の3つを外しています。そして、話し方の聞こえ方だけでこれらを確実に見分けることはできないと報告されています。
  • 「吃音はジストニアの一種かもしれない」という説は、提案の段階にとどまります。2014年の総説は、吃音が口や顔の筋肉の局所的なジストニアを表している可能性があるという提案を紹介していますが、同じ総説は吃音の原因がいまも不明であることを繰り返し断っています。

ただし、ここに並べた手がかりは集団を比べて出てきた傾向であって、目の前のあなた(やご家族)がどちらなのかを決めるものではありません。上に挙げた研究自体、病歴と音声と喉の内視鏡の所見を合わせて診断した人たちを比べたものです。名前を自分で決めずに、耳鼻咽喉科や言語聴覚士のいる医療機関へ持っていってください。

喉を診てもらえば、どちらか分かるのか

「声が出ないのだから、まず喉を診てもらえばいい」——多くの人がそう考えます。実際、その順番で名前にたどり着いた人がいます。高齢者福祉の分野で支援相談員として働き、30年近く「どもり」と付き合ってきた人が、正式な診断を受けたくなって動き出した記録です。大きな病院の予約窓口から紹介状を勧められ、近所にできたばかりのボイスクリニック(声を専門に診る耳鼻咽喉科)を訪ねた場面から始まります。

当事者本人(高齢者福祉の支援相談員・社会福祉士。30年近く症状が続いてきた/個人ブログ note の受診体験記)

先生「おそらく吃音でしょうね。まだ出てないみたいだけど。念のため、声帯の動きを確認しましょうか。」

鼻から内視鏡の管が入り、指定された言葉を発音してみるものの、やっぱりつっかえない。

検査が終わってお礼を言おうとした時、一文字目の「あ」が出なくなった。

無意識に手で身体をポン!と叩き、「……ありがとうございました。」と発音できた。

もうクセになっている不随運動だ。

先生「あ、出たね。やっぱり吃音ですね。」

診察室では、それまでの経緯を説明するあいだも、ほとんど詰まらずに話せていたと本人は書いています。「なんで吃音がらみの行動を起こす時は、言葉がつっかえにくいんだろう?」という戸惑いも、そのまま記されています。喉の動きを見る検査の最中も出ませんでした。出たのは、検査が終わって礼を言おうとした一瞬です。体を叩いてから声が続いた——この動作を、本人は「もうクセになっている」と呼んでいます。声を出そうとして体に力が入り、必要のない動きが伴うことは、吃音の随伴症状(ずいはんしょうじょう)として学会の解説にも挙げられています。そしてこの日の出来事は、喉を診るという手続きが、吃音かどうかを決める過程の一部として実際に踏まれていることを示しています。

出典: 吃音外来に行ってみました!受診体験記|吃音×社会福祉士(note)(台帳: V0252)

喉を診る手続きは、名前を決める材料の一つです。九州大学の研究者データベースに掲載されている「思春期以降の吃音症と発声障害の問診上の鑑別」という研究の著者抄録によれば、この研究は、話し方の訴えで耳鼻咽喉科・頭頸部外科を受診した人のうち、病歴・音声・喉頭内視鏡所見(喉の奥を内視鏡で見た所見)から吃音症と診断した10歳以上の46名と、過緊張性・内転型の痙攣性発声障害の12名を比べたものです。喉を見ることは、どちらでもある人を分けるための入口であって、そこで終わる手続きではない、ということになります。

そして、この研究がいちばん実用的なのは、問診だけで手がかりになる項目を数えたところです。症状に気づいた年齢は、吃音症の群が平均7.8歳、痙攣性発声障害の群が平均33.7歳で、統計的な差がありました。問診の22項目のうち、吃音症の群で有意に多かったのは11項目です。抄録には、そのうち次のようなものが挙げられています。

  • 「相手に、つっかえることを知られたくない」
  • 「話す前にうまく言えるか、つっかえるかどうか不安になる」
  • 「苦手なことばがある」
  • 「言いにくいことばがあると、言いやすいことばに置き換える」
  • 「ひとり言ではすらすらしゃべれることが多い」
  • 「歌では言葉がつっかえない」
  • 「からかいやいじめを受けた」
  • 「落ち着いて、ゆっくり話して、と話し方のアドバイスを受けたことがある」
  • 「ことばがつっかえるからできないことがある」
吃音症と痙攣性発声障害で、症状に気づいた年齢の平均を比べた図。吃音症と診断された46名(A群)は平均7.8歳、過緊張性・内転型の痙攣性発声障害の12名(B群)は平均33.7歳で、統計的な差があった。いずれも耳鼻咽喉科・頭頸部外科を受診した58名で、受診時の平均年齢はA群25.2歳・B群39.2歳。問診22項目のうち11項目で吃音症の群が有意に多かった。
図1: 症状に気づいた年齢の平均。診断は病歴・音声・喉頭内視鏡所見を合わせて行われたもので、年齢だけで決まるものではありません。出典: 菊池良和ほか (2014)「思春期以降の吃音症と発声障害の問診上の鑑別」音声言語医学(著者抄録)

並べてみると、喉の中の所見ではなく、暮らしの中での出方と歴史が手がかりになっていることが分かります。いつ気づいたか。ひとりのときはどうか。歌ならどうか。言い換えをしているか。これらは診察室に入る前に思い出しておけることばかりです。学会の解説も、歌を歌うときや2人で声を合わせるとき、独り言を言うときには一時的に流暢(りゅうちょう。なめらか)になる人が多いことを、吃音の特徴として挙げています。診断そのものは医療機関の仕事ですが、伝える材料は自分で用意できます

「喉に異常はない」と言われたのに、声が出ない

喉を診てもらって、異常がないと言われる。それでも声は出ない。このとき、吃音とは別の名前が示されることがあります。次の語り手は、34歳でテレビのレギュラー番組のナレーションを担当することになったフリーランスのナレーターです。夢だった仕事の初回収録で、原稿が読めませんでした。

当事者本人(フリーランスのナレーター。34歳のときの出来事/個人ブログ note のエッセイ。医師から伝えられた名前は「心因性の発声障害」で、吃音の診断を受けたとは書かれていない)

医師に相談すると「心因性の発声障害」と言われた。吃音に似た症状で、特定の言葉で声が詰まるという。喉に異常はないのに、心が声を止めている。

薬には頼りたくなかった。どうしても、自分の力で治したかった。けれど、どんな療法を試しても、すぐには良くならなかった。

この人が書いているのは、スタジオで「声が出なかった」日の続きです。喉が固まり、息だけが空気を揺れさせた。何度読み直しても同じところで詰まった。頭の中では分かっているのに声にならない——そう記しています。その後1年続けても変わらず、番組は降板になりました。現在は宅録と講師の仕事を続けており、「今でも、声が詰まる瞬間はある。完治したわけじゃない」とも書いています。ここで押さえておきたいのは、この人が受け取った名前が吃音ではなかったことです。声が出ないという同じ体験に、別の名前がつくことがある。実際、大人になってから現れる話し方の乱れには、複数の入口が知られています。

出典: 発生障害(吃音症)になるまでの経緯③(note)(台帳: V0217)

大人になってから始まる話し方の乱れを、研究はどう仕分けているのでしょうか。アメリカの大学病院の電子カルテから吃音の症例を探し出した研究は、生まれつきの吃音(発達性吃音)だけを集めるために、次の3つを除外しています。①脳卒中や頭部外傷に伴うもの(研究では「神経原性」と呼ばれます)、②薬の副作用によるもの(同じく「薬剤性」)、③精神の病や統合失調症に伴う原因のはっきりしないもの(同じく「心因性」)です。同じ研究は、これらが発達性吃音と似た現れ方をすることがあり、大人になってから始まって一過性であることが多いものの、成り立ちは別だと考えられる、と書いています。

問題は、聞いただけでは分けられないことです。脳の損傷のあとに始まる吃音を扱った総説は、神経原性のものと心因性のものを、話し方の聞こえ方の特徴だけで見分けることは信頼できない、とはっきり書いています。同じ総説は、両者を分けるのにいちばん役立つのは、治療への反応が速く良好かどうかのほうだと述べています。

見分けにくさは、専門職の耳でも同じです。大人になってから出た吃音と、子どものころから続いている吃音の録音を言語聴覚士が聞いて評価した研究では、二つのどもり方は聞き分けが難しいと報告されています。この論文はさらに、80年を超える吃音研究の歴史のなかで、この二つを直接比べた研究はごくわずかしかないとも指摘しています。つまり「録音を聞けば分かるはず」という期待は、研究の側から見ても成り立ちません。名前を決めるのに時間がかかるのは、調べ方が足りないからではなく、もともと難しいからです。

大人になって、ある日突然止まらなくなった

「ジストニア 吃音」という組み合わせで調べる人の多くは、大人です。子どものころから続いていた人もいれば、ある日を境に変わった人もいます。次の語り手は研究職の当事者で、子どものころから「声」と「話し方」が引っかかりだったと書いています。その引っかかりが、ある日はっきりした形になりました。

当事者本人(石黒栄亀さん・研究職。幼いころから吃音があり、大人になって悪化した/NPO法人日本吃音協会のメディアへの寄稿)

そしてある日のこと。それは突然訪れました。

その日は朝から誰かと話すことはなく、開催された会議の場がその日に初めて話す機会でした。

会議で話し始めた時、語頭の繰り返しが止まらなくなってしまったのです。

その場にいた人が全員怪訝な顔で私を見ています。

しかし、話せば話すほど言葉は吃り、ある時には出なくなることを繰り返すようになりました。

この人は、思春期に「オマエ、なんでそんなしゃべり方なの?」と面と向かって言われた経験を書き、大学院から研究発表へと話す場面が増えるなかで「頭にある言葉が口から出てこない」出来事が増えていった経過を記しています。会議の日の前から心療内科に通っており、主治医は薬の影響を疑って処方を1つ変えましたが、結果は変わりませんでした。その後、以前かかっていた耳鼻咽喉科では「悪いけれど、私も吃音は専門外なんだ」と言われ、しかしその医師の紹介で、3か月待って遠くの街の吃音外来にたどり着いています。突然に見えた変化が、実は子どものころから続いていたものの悪化だった——この順序は、大人になって急に困り始めた人にとって珍しくありません。脳の回路を扱った総説も、小児期にいったん治まった吃音が、大人になって現れる神経の病気の文脈で再発しうることを明記しています。

出典: 大人になり悪化した吃音「先生、私はこのままなんですか?」(HAPPY FOX・NPO法人日本吃音協会)(台帳: V0093)

では、もともと吃音が無かった人に、脳の側の出来事をきっかけとして吃音が現れることは、どのくらいあるのでしょうか。2024年に Brain 誌に載った研究は、脳卒中が脳の損傷に伴って始まる吃音(神経原性の吃音)の最も多い原因で、文献に報告された症例の半分を占めると述べています。同じ箇所は、脳卒中後の発生率を調べた研究では患者の5%が神経原性の吃音の診断基準を満たしたと紹介しています。拳を握る・語を避けるといった行動や、いらだちのような感情を伴うこともあると書かれています。

場所についても報告があります。2014年の総説は、生まれつきの吃音が左の感覚運動皮質のすぐ下の白質の変化と結びつくのに対し、後天的な吃音は皮質よりも皮質下、とくに大脳基底核(だいのうきていかく。脳の奥にある、動きの選び方に関わる部分)の病巣と結びつくことが多いと対比しています。同じ総説が引く報告では、後天的な吃音のある人の80%に尾状核(びじょうかく)またはレンズ核という大脳基底核の一部の病巣があり、50%には小脳の損傷もあったとされています。

ただし、ここから「損傷はこの一か所だ」とは言えません。症例報告の病巣を集めて整理した総説は、後天的な吃音は神経系の特定の一か所の損傷に対応づけられていないと述べ、左右の大脳の各葉・小脳・深部白質・視床・脳幹と広い範囲が挙がっていることを示しています。2014年の総説も、後天的な吃音は脳のほぼどの部位の病巣でも起こりうるため、場所から意味を決めにくいと留保しています。

この食い違いに、2024年の研究が一つの答えを出しました。吃音を起こした病巣の位置は脳の中で大きくばらついていたのに、それらがすべて左の被殻(ひかく。大脳基底核の一部)を中心とする共通のネットワークに機能的につながっていたというものです。この所見は吃音に特有で、独立した別の患者群でも再現されたと報告されています。研究は結論として、後天的な神経原性の吃音を起こす病巣は、左の被殻・前障・扁桃体線条体移行部を中心とする共通の脳のネットワークに収まる、と述べています。原因は一か所ではないが、回路は共通している——そういう整理です。大人になって出た吃音そのものについては大人の吃音の記事にまとめています。

脳卒中のあとに吃音が出た症例報告20例(16〜77歳)で、病巣がどちら側にあったかを数えた図。左側の病巣が11例、両側の病巣が6例、右側の病巣が3例。病巣は前頭葉から脳幹まで散らばっていた。
図2: 文献から集めた20例の病巣の側性。位置はばらついていましたが、研究はそれらが左の被殻を中心とする共通のネットワークにつながっていたと報告しています。出典: Theys, Jaakkola et al. (2024) Brain.

「イップスに近いのかもしれない」と感じる人へ

もう一つ、名前を探している人がたどり着きやすい言葉があります。スポーツの「イップス」です。人前でうまく話せない状態をどう呼べばいいのか決めかねている人が、自分の感覚をこう書いています。診断は受けていない段階の記録です。

当事者本人(診断は受けていない段階。人前で話すと詰まる状態について書いた/個人ブログ note)

それは、話す瞬間に頭の中で「本当にこんな答え方、伝え方でいいのだろうか」「誤解されないか」と自然とストップが掛かってしまうのだ。つまり、何か言葉を発する際に脳内にプレッシャーがかかっているようだ。これだと吃音というよりイップスに近いともとれる。

引用のはじめにある「それは」は、その直前に置かれた本人の疑い——うまく返答できずに吃ってしまうのは、本当は吃音ではなく自分の意思の弱さではないか——の、理由を指しています。同じ文章には、書くときは言葉がすぐ浮かぶのに、発しようとすると途中で詰まる、という対比も記されています。ここで断っておきたいことが一つあります。学会の解説は、吃音は本人がわざとやっているものではなく、緊張やストレスや家庭環境のみから生じるものでもないと、はっきり書いています。意思の強さの問題ではありません。そのうえで、この人が感じ取った「イップスに近い」という手ざわりのほうは、研究の側にも同じ指摘があります。

出典: [悩み]吃音症かイップスか、言葉に詰まる理由(note)(台帳: V0372)

2022年の理論研究は、どもる瞬間に起きているコントロールの失われ方を、大脳基底核が関わる他の状態と並べています。挙げられているのは、パーキンソン病で歩行や発話が固まってしまう現象と、プレッシャーのかかった場面で運動が意のままにならなくなる「あがり」「イップス」です。イップスの代表的な説明は、自分に注意を向けすぎる制御の処理が、身についた自動的な動きを壊してしまうというもので、吃音のある人が制御の処理に頼りすぎることと同じ構図になる、とこの論文は述べています。そのうえで、イップスの主観的な体験は、どもっている瞬間の体験と驚くほど似ているという報告にも触れています。

なぜ似るのか。2020年の総説は、発話の制御を「筋肉の動きの型を作る回路」と「その型を適切な瞬間にオン・オフする始動回路」に分け、後者にあたるのが大脳皮質・大脳基底核・視床を結ぶループだとして、吃音の中核はこのループの不調ではないかと提案しています。大脳基底核の役割は、動きそのものを作ることではなく、いまの状況で正しい動きを選び、同時に立ち上がろうとするほかの動きのほうを抑えることだと説明されています。「次の音のゴーサインを出す係」だと考えると分かりやすくなります。言いたい語は分かっているのに出てこないという体験は、この係の側の出来事として説明できる、という立場です。

そして、この「選ぶ係」が傷むと何が起きるか。2014年の総説は、大脳基底核が、皮質と小脳が生み出す「同時に立ち上がろうとするいくつもの動きの計画」から一つを選ぶことに関わり、選ばれた一つの抑制を解除して、同時に他のすべてを抑えることで動きの実行を許す仕組みだと説明しています。そのうえで、大脳基底核の変性する病気が、動作の遅さ・意図しない筋活動・異常な姿勢を特徴とする運動の障害を起こすことを挙げ、その例としてパーキンソン病・ジストニア・振戦を並べています。ジストニアと吃音が同じ文の中に出てくる理由は、ここにあります。症状が似ているからではなく、話題になっている脳の場所が同じだからです。

「歌えば出るか」という物差しは、どこまで使えるか

問診の項目に「歌では言葉がつっかえない」が入っていたことを思い出してください。この物差しは、研究の側からも裏づけがあります。

2014年の総説は、その場で一時的になめらかに話せるようになる条件(研究の言葉では流暢性誘発条件)として、声をそろえて話したり読んだりすること、メトロノームに合わせて話すこと、外国語のなまり・役割演技・演技のような、いつもの自分の話し方から離れた発話、ホワイトノイズ、そして歌うことを挙げています。同じ総説は、こうした条件で改善することは、問題が声道(せいどう。声の通り道)や末梢の神経の異常ではなく、話す動きを組み立てる水準で脳の側にあることを示唆する、と解釈しています。学会の解説も、歌を歌うとき・2人で声を合わせるとき・独り言のときには一時的に流暢になる人が多いと書いています。

ここからが、この記事の主題に関わる部分です。パーキンソン病の人と生まれつきの吃音のある人を比べた2018年の研究は、その背景の説明で、生まれつきの吃音ではこうした条件でなめらかに出ない話し方がすぐに減るのに対し、後天的な神経原性の吃音では同じ減り方が観察されないと整理しています。同じ研究が実際に測った結果でも、パーキンソン病の群でも吃音の群でも、吃音らしい詰まりは一人で自由に話すときと一人で音読するときに多く、臨床家と声をそろえて読むと大きく減っていましたなめらかに話す対照群では、課題による差は見られませんでした。

発話課題ごとに、吃音らしい詰まりが平均で何個あったかを比べた図。流暢な200音節ごとに数えた平均の個数で、発達性吃音20名・パーキンソン病20名・なめらかに話す対照40名。一人で自由に話すときは発達性吃音31.1、パーキンソン病3.9、対照0.22。一人で音読するときは発達性吃音25.2、パーキンソン病1.8、対照0.17。声をそろえて音読するときは発達性吃音1.3、パーキンソン病0.20、対照0。
図3: 発話課題ごとの、吃音らしい詰まりの平均の個数。声をそろえて読む課題ではどちらの群でも大きく減りました。出典: Juste, Sassi, Costa & de Andrade (2018) PLOS ONE.

なぜそうなるのかも説明が試みられています。2020年の総説は、声をそろえて読むときやメトロノームに合わせて話すときは、「いつ動きを始めるか」というタイミングの合図が外から感覚の皮質に入ってきて、そのまま運動の準備に関わる領域へ渡されるため、大脳基底核のループが自前でタイミングの合図を作る必要が減ると説明できると述べています。歌については、ふつうの発話とは別の仕組みで音のタイミングを作っている可能性が高いとしています。歌でどもらない現象そのものは吃音症の無声型(難発)の記事で詳しく扱っています。

ただし、この物差しを自分ひとりの判定に使わないでください「歌える/歌えない」は、上に挙げた11項目のうちの1つにすぎません。そして先に見たとおり、大人になってから出た話し方の乱れは、聞こえ方だけでは確実に分けられないと報告されています。物差しは、診察室で「歌のときは出ません」「ひとりのときは出ません」と伝えるための言葉として使うのが、いちばん役に立ちます。

「吃音はジストニアの一種かもしれない」という説をどう読むか

ここまでは「吃音と、それに似た別のもの」を分ける話でした。最後に、逆向きの議論にも触れておきます。日本語のページではあまり見かけませんが、研究の世界では、吃音そのものをジストニアの一種と見る提案が出ています。

2014年の総説は、吃音が口や顔の筋肉の局所的・分節性のジストニアを表している可能性がある、という提案を紹介しています。その根拠として並べられているのは、吃音で見られる意図しない動きがジストニアのものと似ていること、情動的なストレスへの感受性が吃音と局所のジストニアに共通すること、特発性捻転ジストニアの患者では吃音の家族歴が一般の人口より多いこと、そして両者にドーパミン(脳内で信号を伝える物質の一つ)が過剰な状態の証拠があることです。同じ総説は別の議論として、吃音のある人に大脳基底核の運動の障害や複雑な運動チックに似た意図しない動きがあることから、チックと吃音に共通の成り立ちを想定する見方も併記しています。チックとの見分けは吃音症とチックの記事で扱っています。

ここで大事なのは、この提案がどれくらいの強さで書かれているかです。総説は「可能性がある」という書き方をしており、確かめられた事実として述べてはいません。根拠として挙がったドーパミンについても、同じ総説は神経薬理学の研究がドーパミン過剰の仮説を決定的には示せていないと明記しています。パーキンソン病でレボドパという薬がなめらかに出ない話し方を増やしうるという報告と、ドーパミンの働きを抑える薬で吃音が改善したという報告がある一方で、ドーパミンの状態が低い患者と高い患者でなめらかに出ない話し方に有意差がなかったという報告もある、と両方向に並べられています。総説の結論部も、吃音の原因はいまも不明だと述べています。

だから、この説を「吃音はジストニアだった」と読むのは早すぎます。読み方としては、二つが同じ脳の場所を舞台にしている可能性が議論されている、というところまでです。そして、それは実務的には大きな意味を持ちません。この記事の前半で見たとおり、あなたが伝えるべき材料は「いつ気づいたか」「ひとりのときはどうか」「歌ならどうか」「言い換えをしているか」であって、脳の中の仮説ではないからです。

なお、2024年の研究は、生まれつきの吃音と後天的な吃音について、神経の土台の水準でも共通点があることを示したと述べています。同じ研究は、被殻が複雑な動きの内的なタイミングと順序づけを担っており、この研究で示された後方の領域が顔(唇の動きを含む)の運動の調節を担う領域として知られていることも説明しています。生まれつきか後天的かで名前は分かれますが、回路の話としてはつながっている——現時点の研究はそこまで進んでいます。

どこに相談すればいい? 受診の目安と、伝えるとよいこと

名前が決まらないうちは、どの窓口に行けばいいのかも決まりません。ここまでに出てきた資料から、現実的な順番を整理します。

まず、この記事で引いた見分けの研究は、耳鼻咽喉科・頭頸部外科を受診した人を対象にしたものです。声が出ない・話が詰まるという訴えが最初に持ち込まれる場所として、耳鼻咽喉科は自然な入口だということになります。大学病院の耳鼻咽喉科が、吃音とクラタリング(早口言語症)をまとめて「発話流暢性障害」として解説している例もあります。

吃音の側の相談先として、日本吃音・流暢性障害学会が挙げているのは言語聴覚士ことばの教室です。子どもの場合は、小児を扱う言語聴覚士やことばの教室の教員に相談するようすすめられています。大人の場合は、本人が治療を希望するなら言語聴覚士による発話訓練という選択肢があり、発話訓練だけで症状が改善しない場合や不安が強い場合には、カウンセリングや心理療法が役立つこともあるとされています。言語聴覚士の探し方には注意点があるので、吃音と言語聴覚士の記事にまとめました。

子どもについては、いつ相談するかの目安も示されています。日本耳鼻咽喉科学会の会報に載った総説は、幼児期はまず楽に話せる環境を整えながら経過を追い、話すときに苦悶や努力がある・悪化の傾向があるとき、あるいは就学の1年前ごろになっても改善の傾向がないときに言語治療を開始する、としています。同じ総説は、発吃(吃音が出はじめること)から2〜3年程度までの経過で7割以上が自然治癒すると述べています。

そして、名前がどちらであっても役に立つのが、持っていく材料です。上で見た問診の項目は、そのまま思い出しておけるものばかりでした。次の5つを、いつ・どの場面で起きたかとあわせて書き留めておくと、診察室で短く伝えられます。

  • いつ気づいたか。子どものころからか、大人になってからか。何歳ごろだったか。
  • ひとりのときはどうか。独り言でもつっかえるか、すらすら話せるか。
  • 歌のときはどうか。歌でも言葉が詰まるか、詰まらないか。
  • 言い換えをしているか。言いにくい言葉を、言いやすい言葉に置き換えているか。
  • 詰まるときに体はどうなるか。顔や体に力が入る、手足が動くといった、必要のない動きを伴うか。

この5つは、上に挙げた研究や学会の資料に出てくる項目から、家庭で思い出せるものを選んだものです。特定の資料が「受診の目安」として定めているものではなく、当てはまる数で名前が決まるものでもありません。声が出ない状態が急に始まった場合や、話し方以外にも体の動かしにくさがある場合は、当てはまるかどうかに関わらず、早めに医療機関に相談してください。

「どちらなのか」を調べるときに陥りがちな3つの落とし穴

落とし穴1 − 症状の似ている・似ていないだけで、自分で名前を決める

大人になってから出た話し方の乱れについて、神経原性のものと心因性のものを、話し方の聞こえ方の特徴だけで見分けることは信頼できないと報告されています。言語聴覚士が録音を聞いて評価した研究でも、大人になって出た吃音と子どものころから続く吃音のどもり方は聞き分けが難しいとされています。専門職の耳でも難しいものを、説明文との照らし合わせで決めることはできません。名前を決めるのではなく、伝える材料を集めるほうに時間を使うのが近道です。

落とし穴2 −「喉に異常がないと言われた」で行き止まりにする

喉を見る検査は、名前を決める材料の一つです。この記事で引いた研究も、病歴と音声と喉頭内視鏡所見を合わせて診断した人たちを比べています。異常が無いという結果は「何も起きていない」という意味ではなく、次に見るところがあるという意味です。実際、研究が整理している手がかりの大半は、喉の中ではなく、いつ気づいたか・どの場面で出るかという暮らしの側にありました。専門外だと言われたら、その医師に「では、どこへ行けばよいか」を聞いてみてください。この記事に登場した人も、そこから紹介につながっています。

落とし穴3 − 一度の診察の印象で、記録をやめてしまう

吃音には、状況によって症状が出やすかったり出にくくなったりする特徴があり、調子の良い状態・悪い状態が数週間から数か月にわたって続く人も多いとされています。診察室でちょうど出なかった、という日は起こります。短い時間の印象より、期間をとった記録のほうが伝わります。いつ・どの場面で・どんな詰まり方だったか、歌や独り言ではどうだったかを書き留めておくと、そのまま持っていけます。まずは記録から小さく始めるのが現実的で、発話の記録を続けたいときは、記録を助けるアプリを補助的に使う方法もあります(あくまで記録・継続の支援であって、治療の効果を示すものではありません)。耳鼻咽喉科や言語聴覚士に相談できる場合は、そちらが確実です。

よくある質問

ジストニアと吃音はどう違うのですか?

日本耳鼻咽喉科学会の会報に載った総説は、吃音と見分けるべき状態として、ことばの発達の遅れや異常・構音障害・発声障害・チック・場面緘黙・脳損傷などを挙げており、吃音と発声障害は別のものとして扱われています。耳鼻咽喉科・頭頸部外科を受診した人を比べた日本語の研究では、症状に気づいた年齢が、吃音症と診断された46名で平均7.8歳、過緊張性・内転型の痙攣性発声障害の12名で平均33.7歳と差がありました。ただし診断は病歴・音声・喉の内視鏡の所見を合わせて行われるもので、この数字だけで決まるものではありません。

「歌うときは詰まらない」なら吃音ということですか?

手がかりの一つではありますが、それだけでは決まりません。上の研究では、問診の22項目のうち11項目で吃音症の側が有意に多く、「歌では言葉がつっかえない」はそのうちの1つです。学会の解説も、歌を歌うとき・2人で声を合わせるとき・独り言のときには一時的に流暢になる人が多いとしています。研究の側でも、生まれつきの吃音ではこうした条件でなめらかに出ない話し方がすぐ減るのに対し、後天的な神経原性の吃音では同じ減り方が観察されないと整理されています。診察室で伝える材料として使ってください。

大人になって急に声が出なくなりました。何科に行けばいいですか?

声が出ない・話が詰まるという訴えの入口として、耳鼻咽喉科があります。この記事で引いた見分けの研究も、耳鼻咽喉科・頭頸部外科を受診した人を対象にしたものです。吃音の側の相談先としては、日本吃音・流暢性障害学会が言語聴覚士とことばの教室を挙げています。なお、大人になってから始まる話し方の乱れには、脳卒中や頭部外傷に伴うもの・薬の副作用によるもの・精神の病に伴うものといった別の入口が知られており、聞こえ方だけでは確実に分けられないとされているため、自己判断で様子を見るより早めの受診が安心です。

脳の検査を受ければ、吃音かどうか分かりますか?

個人の画像から吃音を判定できるわけではありません。2024年の研究は、脳の損傷で始まった吃音について、病巣の位置は脳の中で大きくばらついていたものの、それらが左の被殻を中心とする共通のネットワークに機能的につながっていたと報告しています。一方、後天的な吃音は神経系の特定の一か所の損傷に対応づけられていないとも整理されています。研究は集団を比べて傾向を出す段階にあり、検査で名前が決まるという段階ではありません。

「吃音はジストニアの一種」と書いているページを見ました。本当ですか?

提案として紹介されている説であり、確かめられた事実ではありません。2014年の総説は、吃音が口や顔の筋肉の局所的・分節性のジストニアを表している可能性があるという提案を紹介し、意図しない動きが似ていることや情動的なストレスへの感受性が共通することを根拠として並べています。ただし同じ総説は、根拠として挙げたドーパミン過剰の仮説について神経薬理学の研究が決定的な証拠を出せていないと明記し、結論部でも吃音の原因はいまも不明だと述べています。

まとめ

  • 吃音と発声障害は別のものとして扱われている。日本耳鼻咽喉科学会の会報の総説は、吃音と見分けるべき状態として発声障害・構音障害・チック・場面緘黙・脳損傷などを挙げている。
  • 見分けの手がかりは実際に測られている。症状に気づいた年齢は吃音症の46名で平均7.8歳、過緊張性・内転型の痙攣性発声障害の12名で平均33.7歳。問診22項目のうち11項目で吃音症の側が有意に多く、「歌では言葉がつっかえない」「ひとり言ではすらすらしゃべれる」「言い換えをする」が含まれる。
  • 大人になって出た話し方の乱れには、神経原性・薬剤性・心因性という別の入口がある。聞こえ方だけでは確実に分けられず、言語聴覚士が録音を聞いても見分けは難しいと報告されている。
  • 脳の側では、後天的な吃音の病巣がばらついていても左の被殻を中心とする共通のネットワークにつながっていた。吃音の中核を、次の音のゴーサインを出す始動回路の不調と見る立場もある。ジストニアと吃音が同じ文に出てくるのは、症状ではなく舞台が同じだから。
  • 「吃音はジストニアの一種かもしれない」は提案の段階で、総説自身が原因は不明だと断っている。名前は自分で決めず、いつ気づいたか・ひとりのとき・歌のとき・言い換え・体の力みの5つを書き留めて、耳鼻咽喉科や言語聴覚士に持っていくのが近道。

参考文献

  1. 森浩一(2020)「吃音(どもり)の評価と対応」日本耳鼻咽喉科学会会報 123(9)(J-STAGE 抄録)
  2. 九州大学 教員データベース「研究者詳細 - 菊池 良和」(2026年8月30日取得)。本文で引いたのは、同ページに掲載された菊池良和・梅崎俊郎・安達一雄ほか「思春期以降の吃音症と発声障害の問診上の鑑別」音声言語医学(2014年10月)の著者抄録
  3. 日本吃音・流暢性障害学会 広報委員会「吃音(きつおん)について」(2023年10月1日)
  4. 慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト KOMPAS「発話流暢性障害(吃音、クラタリング)」(2022年)
  5. Craig-McQuaide, Akram, Zrinzo & Tripoliti (2014) A review of brain circuitries involved in stuttering. Front Hum Neurosci.(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)
  6. Chang & Guenther (2020) Involvement of the Cortico-Basal Ganglia-Thalamocortical Loop in Developmental Stuttering. Front Psychol.
  7. Pruett et al. (2021) Identifying developmental stuttering and associated comorbidities in electronic health records and creating a phenome risk classifier. J Fluency Disord.
  8. Lundgren, Helm-Estabrooks & Klein (2010) Stuttering Following Acquired Brain Damage: A Review of the Literature. Journal of Neurolinguistics.
  9. Juste, Sassi, Costa & de Andrade (2018) Frequency of speech disruptions in Parkinson's Disease and developmental stuttering: A comparison among speech tasks. PLOS ONE.(サンパウロ大学)
  10. Usler (2022) Why Stuttering Occurs: The Role of Cognitive Conflict and Control. Topics in Language Disorders.
  11. Max, Kadri, Mitsuya & Balasubramanian (2019) Similar within-utterance loci of dysfluency in acquired neurogenic and persistent developmental stuttering. Brain and Language.
  12. Theys, Jaakkola et al. (2024) Localization of stuttering based on causal brain lesions. Brain.(カンタベリー大学ほか)

当事者の声の出典: V0252(note・吃音外来の受診体験記)/ V0217(note・ナレーターのエッセイ。医師から伝えられた名前は「心因性の発声障害」で、吃音の診断を受けたとは書かれていません)/ V0093(NPO法人日本吃音協会「HAPPY FOX」・石黒栄亀さんの寄稿)/ V0372(note・吃音かイップスかを決めかねている段階の記録)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-09-11 公開