まず結論から
- 吃音は、話し言葉が滑らかに出ない発話障害です。音を繰り返す(連発)、音を引き伸ばす(伸発)、ことばを出せずに間があく(難発)の3つが中核の症状とされています。
- ディスレクシアは、読むことに困難がある状態です。読む・書く・計算するといった特定の学びだけがうまくいかない状態は「限局性学習症(学習障害・LD)」と呼ばれ、発達性ディスレクシアもこのまとまりに含まれます。
- つまり、困る場所が「話すとき」と「読み書きするとき」で違います。
- ただし、同じ人に両方が重なることはあります。学会の資料は、吃音に比較的多い併存症の筆頭に学習障害(LD)を挙げています。
- 気づかれないまま過ぎることもあります。6歳児289人を対象に、リスクのある子を直接検査した研究では、21.5%に神経発達症がみられ、研究チームは、それまで診断を受けていなかった子が相当な割合を占めたことを挙げて、早期に気づくための取り組みが必要だと結論しています。
ただし、この記事に書く見分けの目安は、相談に行く前に「どちらの方向で相談するか」を決めるための手がかりであって、診断ではありません。神経発達症はたがいに重なることが多く、単独で現れるほうがまれだとされており、両方が重なっている場合もあります。当てはまりそうなら片方に決めきらず、発達を総合的にみてくれる機関でまとめて相談するほうが整理しやすくなります。
家庭でできる見分けの目安3つ
受診や相談の前に、家庭で手がかりにできることを3つに絞ります。どれも「決めつけるため」ではなく、「どちらの方向で相談するか」を決めるためのものです。
- 1. 困っているのは、どの場面か。 読む・書く場面で困るのか、話す場面で困るのか。吃音は話し言葉が滑らかに出ない発話障害で、ディスレクシアは読みの困難で、限局性学習症(学習障害)に含まれます。
- 2. 話す場面での崩れ方は、3つの形のどれかか。 最初の音を繰り返す(「か、か、からす」)、音を引き伸ばす(「かーーらす」)、ことばが出せずに間があく(「・・・・からす」)。これが吃音の中核症状です。
- 3. 場面によって出方が変わるか。 歌を歌うとき、2人で声を合わせるとき、独り言のときには一時的に滑らかになる人が多い——この場面差は吃音の特徴として知られています。
そのうえで、いちばん紛らわしいのが音読です。教科書を声に出して読む場面では、読むことに困っていても、声が出ないことに困っていても、外からは同じ「つっかえて読めない」に見えます。次の節は、そこで実際に何が起きていたかの話です。
音読でつっかえる子は、「読めていない」のか
国語の時間、順番が回ってきて、教科書の前で止まる。周りは待っている。この場面は、読みの困難でも、吃音でも起こります。では、止まっている本人の中では何が起きているのか。吃音のある人が、当時のことを書き残しています。
幼少期から吃音がある当事者(千葉県出身・ライター名義 Kay さん/NPO法人日本吃音協会の運営するメディアへの寄稿)
できるだけ最初の文字が言いやすい段落で順番が回ってくることを祈ったり、どうしても出てこないときは、漢字が読めなくて考えているフリをしたりして、なんとかその場を凌ごうとしました。
特に出席番号と日付が被る日は当てられることが多いため、朝から憂鬱だったのを覚えています。
順番を待つあいだ、この人が見ていたのは段落でした。最初の文字が言いやすい段落が自分に回ってきますように——祈っていたのは、そこです。それでも声が出てこないとき、教室に向けて差し出したのは「漢字が読めなくて考えている」という顔でした。読めないから止まっているのではなく、読めているのに声にならない。けれども外から見える形は、「読めない子」のほうに寄ります。本人は、意見を発表する場面なら言いやすいことばに言い換えられるぶん気持ちは楽だったが、音読は教科書どおりに読まなければならないのでストレスだった、とも書いています。当時は吃音ということば自体を知らなかったといいます。吃音では、音を繰り返す・引き伸ばす・ことばが出せずに間があく、という3つが中核の症状とされています。
出典: タイムマシンに乗って当時の自分に教えたい!音読時の不安解消法(HAPPY FOX/NPO法人日本吃音協会)(台帳: V0219)
学齢期は、先生の対応や友達関係の影響が大きい時期です。吃音をからかわれたり、発表や音読で思ったように滑らかに話せない経験が重なったりすると、吃音を否定的にとらえるようになり、難発が強くなったり、言いにくいことばを別のことばに置きかえる工夫が増えたりして、状態が悪くなっていくことがあるとされています。この「言い換え」は、外からは吃音が減ったように見えます。実際には、出ないように警戒しながら生活している状態です。
つまり、音読の場面だけを見て「読めない子」と決めると、二重に取り違えます。読みの困難を見落とすこともあれば、逆に、声が出ないことを「読めない」と数えてしまうこともあります。
同じ子に、吃音とディスレクシアが重なることはある
「別のもの」だと分かったうえで、次に来るのが「では、両方ということはあるのか」という問いです。あります。実際に、吃音で言語聴覚士(ことばや聞こえの専門職)につながり、いまは別の名前の経過を見てもらっている子の記録があります。
10歳の長男に吃音がある母親の声(4人の子どもについて書き続けている個人ブログ)
今でも言語聴覚士に年に1〜2回診て貰っています。
でも今は吃音の為ではなく学習障害(LD)のディスレクシアの診断がつき、それについて経過を診て貰っています。
この母親が最初に気にしたのは、長男の「お、お、おかあさん」でした。幼稚園の年少・年中のころはそれほど目立たず、周りの子が育っていくなかで「このままで良いのか」が分からなくなり、療育センターに相談したところ言語聴覚士につないでもらえた、と書いています。気になっていたのは吃音だけではありませんでした。人の顔と名前が覚えられないこと、お父さんを見ながら「お母さん」と言ってしまうこと、さ行がた行になること——並べて書き留めていた小さな引っかかりのうち、滑舌のほうは小学生になって無くなりました。そして10歳のいま、年に1〜2回の面談で追いかけているのは、吃音ではないほうの名前です。学会の資料も、吃音に比較的多い併存症の一覧の先頭に学習障害(LD)を挙げています。
出典: 吃音(ブログ「うちの子は宇宙と交信中」)(台帳: V0168)
資料の側から確かめます。日本吃音・流暢性障害学会の解説は、吃音の併存症として比較的多いものに、限局性学習症/学習障害(LD)、注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)、知的発達症、てんかん、構音障害を挙げています。ディスレクシアは読みの困難で、この一覧の先頭にある限局性学習症/学習障害(LD)に含まれます。つまり、吃音と読みの困難が重なることは、この資料の中ではじめから想定されている、ということになります。
吃音が単独で現れるとは限らないことは、実際の診療記録からも見えています。米国の医療センターの電子カルテから発達性吃音の症例1,143例を見つけ出し、そのうち572例を、条件をそろえた比較対象2,765人と比べた研究では、比較対象より多く現れた項目として、発達の遅れや発話・言語の障害、難聴、睡眠の問題、アトピー関連、多数の感染症、神経学的な所見、体重に関する項目が挙がりました。
では、どのくらいの割合で重なるのか。ここは慎重に見る必要があります。
スペイン・メノルカ島の6歳児289人を対象に、リスクのある子を直接検査した研究では、読みの困難をともなう学習障害が10%、書字の困難をともなう学習障害が5.8%、算数の困難をともなう学習障害が3.11%にみられました。話しことばのやりとりに関わる困難をまとめた「コミュニケーション症」という区分は9.54%で、その内訳は、ことばの理解や表現がうまくいかない状態(言語症)5.8%、音をうまく作れない状態(音韻症)3.4%、吃音0.34%です。
ここで注意したいのは、吃音の0.34%が289人中1人だということです——研究の表でも、吃音にあたる子は1人と記載されています。1人しかいない以上、この調査から「吃音のある子のうち何%に読みの困難があるか」を読み取ることはできません。研究チーム自身が示しているのは、ことばの困難(言語症・音韻症)と学習障害・ADHDが結びついて現れることが、この集団でも見てとれた、というところまでです。
つまり、併存は「あり得る」までは確かに言えて、「どのくらいの頻度か」は手元の資料では言えません。片方が目立っているときに、もう片方が隠れていないかを気にかけておく——実際的な受け止め方は、そのあたりになります。
似ているけれど、別の名前がつくこともある
ここまでは子どもの話でした。けれども「ディスレクシア 吃音」で検索する人のなかには、大人になってから急に話しにくくなった人もいます。その場合、話しにくさに付く名前は、吃音とは限りません。
34歳で声が出なくなったナレーター(名義 馬殿宗和さん/本人の note 記事。医師の説明は「心因性の発声障害」)
医師に相談すると「心因性の発声障害」と言われた。
吃音に似た症状で、特定の言葉で声が詰まるという。
喉に異常はないのに、心が声を止めている。
34歳のとき、この人のもとに届いたのは、テレビのレギュラー番組のナレーションの依頼でした。フリーランスとして受け取った、夢だった「自分の番組」です。初回収録の日、原稿を手に取り、深呼吸をして、いつものように読み始めたところで声が出なくなります。喉が固まり、息だけが空気を揺らす——その日のスタジオの静けさは今でも忘れられない、と本人は書いています。相談した先で示されたのは、吃音そのものではなく別の名前でした。その後1年続けても改善せず番組は降板になり、いまは宅録と講師の仕事で声を使い続けています。本人は「完治したわけじゃない」とも書き添えています。吃音の分類でも、大人になってから出るものは低年齢から始まるものと分けて扱われます。
出典: 発生障害(吃音症)になるまでの経緯③(note)(台帳: V0217)
吃音は、低年齢から発症する「発達性吃音(小児期発症流暢症)」と、それ以外の「獲得性吃音」に分けられ、9割以上は発達性吃音です。獲得性のほうには、脳腫瘍・脳の外傷・脳卒中など脳が傷つくことで起きる「神経原性吃音」があり、成人してからは心理的な原因によって吃音が生じることもあります。薬の副作用で出ることもあります。
そして、この「脳の側から起きたのか、心理的な出来事から起きたのか」は、話し方の聞こえ方だけでは見分けにくいことが知られています。脳の損傷のあとに始まった吃音について、これまでの症例報告を集めて整理した論文は、この2つには重なる特徴が多く、発話の聞こえ方だけを手がかりにした見分けは信頼できないことが示されている、とまとめています。同じ論文は、あとから出てくる吃音は神経系の特定の一か所の損傷に対応づけられてはいないようだ、とも述べています。
大人になって話しにくくなったとき、名前を自分で決めないほうがよいのは、このためです。名前が違えば、たどるべき窓口も変わります。
分類の地図も置いておきます。アメリカ精神医学会がまとめた診断の手引きの最新版(DSM-5-TR)では、吃音もディスレクシアも、生まれつきの脳や体質の特性に根ざして発達の過程で見えてくる状態のまとまり——「神経発達症(発達障害)」——に含まれます。ただし同じまとまりの中でも区分は別で、吃音は話しことばのやりとりに関わる「コミュニケーション症」、ディスレクシアは読み書き計算に関わる「限局性学習症」に置かれています。同じ家の別の部屋にいる、というイメージが近いかもしれません。だからこそ、まとめて「発達障害」と呼ばれても、必要な支援の中身は別々に考える必要があります。
何科・誰に相談する? — 名前にたどりつくまで
名前は、いつも「それを相談しに行った場所」でつくとは限りません。別の困りごとで通っていた場所で、ついでのように分かることもあります。
高校2年生頃にどもり始めた当事者(堤野瑛一さん・会社員25歳/日本吃音臨床研究会のサイトに寄せられた手記)
僕は、高校2年生頃からどもり始めました。何故だか言葉を発しようとすると息が詰まり、足で地面を叩かないと声が出なくなったりして、初めはこれが吃音だと分からず、「何だろう?」と思っていました。
僕は吃音である以前にチック症で、その事もあり神経科の病院へ通ったところ、先生の前でどもると、「あー、どもりの症状も出ているのかあ」と言われ、そこで初めて自分の声の出ない症状が吃音である事を知りました。
手記を寄せたのは、25歳の会社員です。高校2年生の頃、ことばを出そうとすると息が詰まり、足で地面を叩かないと声が出ないことがある——それが何なのか、本人には分かりませんでした。名前がついたのは、吃音を相談しに行った場所ではありません。もともとチック症で神経科に通っており、診察室で医師の前でどもったときに掛けられた一言が、最初の手がかりでした。そこから先、症状は家族の前だけでなく学校でも出るようになりますが、学校の先生も友達も、本人が悩んでいることを知らないままだった、と書いています。授業で当てられ、答えが分かっているのにどもって言えず、しぶしぶ「分かりません」と答えた経験も何度もあったといいます。
出典: 成人のどもるあなたへ(日本吃音臨床研究会)(台帳: V0107)
吃音については、相談先がはっきりしています。小児を扱う言語聴覚士や、ことばの教室の教員に相談することが勧められています。そこでは、周りの人の接し方や場面のほうを変えていく方法(「環境調整」と呼ばれます)、直接発話に働きかける方法、吃音のことを理解する方法などを、年齢や状態に合わせて組み合わせた指導が行われます。中高生や大人の場合は、言語聴覚士による発話訓練のほか、不安が強いときのカウンセリングや心理療法、自助団体への参加といった選択肢も挙げられています。
読み書きの困難の相談先については、この記事で参照した学会資料にも研究にも記載がありません。一般には学校の特別支援の担当や、発達を診る医療機関が窓口になりますが、地域によって仕組みが違うため、まずは通っている園・学校か、かかりつけの小児科に尋ねるのが確実です。
迷ったときに「様子見」だけを選ばないほうがよい理由もあります。6歳児289人を対象に、リスクのある子を直接検査した研究では、21.5%に神経発達症がみられました。研究チームは、それまで診断を受けていなかった子が相当な割合を占めたことを挙げて、早期に気づくための取り組みが推奨されると結論づけています。両方が疑われるときは、吃音とディスレクシアを別々に回るより、発達を総合的にみてくれる機関でまとめて相談するほうが整理しやすくなります。
見分けようとするときに陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 「読めない=頭が悪い」「どもる=緊張しい」と決めつける
神経発達症(発達障害)は、発達の時期に現れて多くは就学前から見えてくる状態のまとまりで、脳の働きの発達の違いによって生活や学習の面に影響が出るものとされています。吃音もディスレクシアも、ここに含まれます。どちらも、本人の性格や努力の量で説明される状態としては扱われていません。吃音についても、2000年頃以降の双子研究・脳研究・遺伝子研究から、環境的な要因より、生まれ持った体質的な要因が原因の多くを占めることが分かっています。ラベルではなく「どんな場面で困るか」を見てください。
落とし穴2 − 目立つ片方だけを見て、もう片方を見落とす
吃音の併存症として比較的多いものの筆頭に、学習障害(LD)が挙げられています。話し方が目立つときに読み書きの困りが、あるいはその逆が、見えにくくなることがあります。片方が気になったら、もう片方も一度見ておくと安心です。
落とし穴3 − 「言い換えでしのげている」を、良くなったと読む
言いにくいことばを別のことばに置きかえる工夫が増えると、吃音は目立たなくなります。ただしその状態は、出ないかどうかを日々警戒しながら生活している状態でもあると説明されています。音読で「漢字が読めなくて考えているフリ」をしてしのぐのも、この形の一つです。しのげているように見える時期こそ、本人が何にエネルギーを使っているかを聞いてみてください。
相談のときは「いつ・どんな場面で・どんなふうに困ったか」を具体的に伝えられると、話が早くなります。日々の様子を記録に残しておくと、この共有がぐっと楽になります。アプリ「toVoice」は、こうした毎日の発話の記録と経過の見える化を支えるための道具で、治療そのものを行うものではありません。まずは手元のメモから小さく始め、専門機関に相談できる場合はそちらが確実です。
よくある質問
ディスレクシアと吃音は違うものですか?
はい、別の状態です。吃音は話し言葉が滑らかに出ない発話障害で、ディスレクシアは読みの困難で、限局性学習症(学習障害)に含まれます。困る場所が「話すとき」と「読み書きするとき」で違います。
ディスレクシアと吃音は併存しますか?
併存することはあります。学会の資料は、吃音に比較的多い併存症の筆頭に限局性学習症/学習障害(LD)を挙げています。ただし、どのくらいの頻度で重なるかを示せる資料は手元にありません。6歳児289人を対象にした研究でも、吃音にあたる子は1人だけでした。
音読でつっかえるのは、読めていないからですか?
そうとは限りません。吃音では、読めていても最初の音が出ない・繰り返す・引き伸ばす、という形で止まります。読みの困難と吃音は音読の場面で同じように見えるので、音読だけで判断せず、黙って読むときや、書くときにも困っているかを合わせて見てください。
大人になってから急に話しにくくなりました。これも吃音ですか?
吃音の9割以上は低年齢から始まる発達性吃音ですが、脳の損傷によるもの、成人してからの心理的な原因によるもの、薬の副作用によるものもあるとされています。ただし、脳の側から起きたのか心理的な出来事から起きたのかを、話し方の聞こえ方だけで見分けることは信頼できないと報告されています。自己判断せず、受診して確かめてください。
何科・誰に相談すればいいですか?
吃音は、小児を扱う言語聴覚士やことばの教室の教員に相談することが勧められています。読み書きの困難の相談先はここで参照した資料に記載がないため、通っている園・学校やかかりつけの小児科に尋ねてください。併存が疑われるときは、発達を総合的にみてくれる機関でまとめて相談すると整理しやすくなります。
まとめ
- 吃音は「話し言葉の流暢さ」の困難(連発・伸発・難発)、ディスレクシアは「読み」の困難=学習障害の一つで、困る場所が違います。
- 家庭での見分けの目安は、①困るのはどの場面か ②話す場面での崩れ方は3つの形か ③歌や斉唱では滑らかになるか、の3つです。
- 音読は両方が同じに見える場面です。読めているのに声が出ず、読めないフリでしのいでいることもあるので、音読だけで決めないでください。
- 併存はあり得ます(吃音の併存症の筆頭に学習障害)。ただし頻度は手元の資料では言えません。6歳児289人の調査で吃音にあたる子は1人でした。
- 大人になってから出た話しにくさは、聞こえ方だけでは原因を見分けられません。吃音の相談先は言語聴覚士・ことばの教室、迷ったら様子見だけにせず相談を。
