吃音とNHK|番組がきっかけになった人・障害福祉賞の手記

目次

吃音(きつおん)がNHKで取り上げられたと聞いて、その回を探しにきた方が多いと思います。番組表をさかのぼっても、いつ放送されたのか、どこで見られるのかは、なかなか出てきません。ラジオやポッドキャストで扱われたものとなると、さらに見つかりません。

先にお伝えすると、この記事は番組の一覧でも放送予定でもありません。その代わりに、NHKと吃音のあいだで実際に何が起きたのかを、4人の記録から追います。NHKが公募している障害福祉賞に入選し、全文が無料で公開されている当事者の手記。テレビの番組を見たその日から動き出した小学6年生。ドラマ化された小説の作者が、大学生に向けて話したこと。そして番組で流れた一曲に泣いた大学生。それぞれに、東京都立大学・東京医療保健大学・ゲント大学病院の研究者らが日本の一般市民303人に行った調査、日本吃音・流暢性障害学会(事務局は金沢大学)の解説、英国王立言語聴覚士会の承認を受けた当事者団体の語り方の指針を、出典つきで添えます。

ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる症状があるときは、言語聴覚士やことばの教室にご相談ください。

まず結論から

  • 日本で街頭で集めた303人に質問紙で尋ねた調査では、回答者のおよそ半数が吃音のある人の話を聞いたことがある、あるいは会ったことがあると答えた一方で、吃音を誤解する傾向があり、吃音のある人の割合を高く見積もっていたと報告されています。
  • 同じ調査は、知識の量が年齢・性別・教育水準によって違い、年長の人・女性・教育水準の高い人ほど吃音についての知識が多い傾向だったとしています。
  • 番組で耳にする「100人に1人」は、学童期以降成人までの時点有症率0.8%を指しています。
  • 英国の当事者団体の語り方の指針は、吃音の声がテレビ・ラジオ・映画で聞こえるようにしてほしい、ただし誰かが吃音を「克服した」「打ち負かされた」「治した」という文脈ではなく、と求めています。この指針は英国王立言語聴覚士会の承認を受けており、放送で使う・学校や職場に持っていく・地元のラジオ局に送る、といった使い方が呼びかけられています。

ただし、NHKで吃音を扱った番組の一覧や放送回、再放送の予定、ラジオ番組やポッドキャストの一覧は、この記事が参照した資料の中にはありません。ここで名前が出る番組は当事者自身が自分の記録に書き残したものだけで、引く手記もNHK厚生文化事業団の障害福祉賞に入選して全文が公開されている2編だけです(台帳: V0155・V0112)。

NHKの賞に届いた手記が、いちばん先に説明していること

NHKと吃音の接点は、放送の中だけにあるわけではありません。NHK厚生文化事業団が毎年公募している障害福祉賞には、障害のある本人が書いた手記の部門があり、そこに吃音のある人の作品が繰り返し入選しています。入選作は全文が無料で読めます。そして、どの手記もほとんど同じところから書き始められています——吃音がどういう状態なのか、という説明からです。

当事者本人の声(千葉県・大学4年/NHK厚生文化事業団「第60回NHK障害福祉賞」ハートネット賞受賞作「伝えられなかった言葉と、伝わった想い」)

私には三歳の頃から「吃音」があり、約二十年間吃音と共に生きてきました。吃音は、話し言葉が滑らかに出ない発話障害のひとつです。私はその中でも、言葉が出にくく、言葉を発するまでに時間がかかってしまう「難発」という症状があります。想像しづらいと思いますが、言葉を出そうとするのに、言葉が喉で詰まってしまい、声として出てくれないような状態です。

また、吃音の症状には非常に大きな個人差があります。私の場合は、特に母音が出しにくく、また電話や人前での発表などで症状が強く出てしまいます。同じ吃音と呼ばれていても、その種類や症状が現れやすい場面、出しにくい言葉などは一人ひとり異なります。

賞に応募した手記の、一行目から四段落目までがこれです。自分の身に起きたことを語り出す前に、まず「難発とはどういう状態か」を読む人に手渡している。この人は同じ手記の中で、これまで自分から吃音を誰かに打ち明けたことはほとんどないこと、その理由が「普通でいたい」という気持ちと「周りから理解されるのだろうか」という不安だったことも書いています。言いにくい言葉を別の表現に置き換え、詰まりそうな言葉の前では一拍おき、日々頭をフル回転させながら話してきた、とも。打ち明けてこなかった人が、公募の場では最初に説明から入る——その順番は、吃音がどれだけ知られていないかを、そのまま映しています。

出典: 伝えられなかった言葉と、伝わった想い(NHK厚生文化事業団「第60回NHK障害福祉賞」ハートネット賞受賞作品)(台帳: V0155)

日本の一般の人が吃音をどれだけ知っているのかは、実際に調べられています。街頭で集めた303人に質問紙で答えてもらった調査では、吃音のある人の割合・発症する時期・男女の分布・人種による違い・原因・治療・知能との関係・遺伝について尋ねました。結果として、回答者のおよそ半数は吃音のある人の話を聞いたことがある、あるいは会ったことがあると答えたにもかかわらず、吃音を誤解する傾向があり、たとえば吃音のある人の割合を高く見積もっていたと報告されています。研究者らは、ほとんどの回答者はある程度は吃音になじみがあったものの、吃音についての全体的な知識は限られていたと結論づけ、吃音についての知識と認識を広げる必要があるとしています。

日本で街頭サンプリングにより集めた一般市民303人への質問紙調査で、何を尋ね、何が分かったかを左右に並べた図。ベルギーで作られた質問紙の日本語版を使用。尋ねた8つのことは、吃音のある人の割合、発症する時期、男女の分布、人種による違い、原因、治療、知能との関係、遺伝。分かったことは4つで、A回答者の約半数が吃音のある人の話を聞いた・会ったことがあると回答、Bそれでも吃音を誤解する傾向があり、吃音のある人の割合を高く見積もっていた、C知識は年齢・性別・教育水準で違い、年長の人・女性・教育水準の高い人ほど知識が多い傾向だった、D全体としての知識は限られており、知識と認識を広げる必要がある。割合の細かい数値は原典の要旨に示されていないため、この図には載せていない
図1: 日本の一般市民303人に、吃音の何を尋ね、何が分かったか。出典: Iimura, Yada, Imaizumi, Takeuchi, Miyawaki & Van Borsel (2018) Public awareness and knowledge of stuttering in Japan. J Commun Disord.

手記が説明から始まるのは、書き手の律儀さではなく、読み手の側の事情に合わせた結果だということになります。

テレビ番組を見た小学6年生が、その日に動き出した

吃音を扱った番組が放送されて、いちばん大きなことが起きるのは、たいてい画面の外です。同じ話し方をしている人が映るのを見て、それまで一人で抱えていた子どもが、初めて誰かに話す。別の年の障害福祉賞に入選した手記に、その場面が残っています。

当事者本人の声(東京都・21歳前後/NHK厚生文化事業団「第56回NHK障害福祉賞」佳作「これが私の人生と言える様に 〜吃音と過ごした21年〜」)

小学6年生のある日、家族とあるテレビを見ていた。それは介護施設で働く吃音のあるお兄さんが、仕事の一つである施設内放送に奮闘するドキュメンタリー番組だった。

(「私の他にも、このことで悩み頑張っている人がいるなら会いたい」)

と私はこころに思い、母にこのことを伝えた気がする。そこから、小学校の先生等と連絡を取ってくれ、私は別の小学校にある通級指導教室の「きこえとことばの教室」に通えることとなった。通えたのはほんの数回だと思うが、本当に私にとって大切な時間となった。

3歳で吃音が始まり、小学2年の日記に「歓迎の催しで声が出なくて悲しくなった。心の中で大丈夫と言いました」と書いた子どもが、小学6年生までなるべく目立たないように、話さないように日常生活を送っていた——手記はそう書いています。その日々を動かしたのが、家族と一緒に見ていた1本の番組でした。通えた回数は数回。それでも本人は、そこでしていたことをこう振り返っています。吃音の知識を学ぶ時間はあったが、決して吃音を治す勉強はしていなかったと思う、と。番組が運んだのは治し方ではなく、相談できる場所の名前でした。子どもの吃音の相談先として学会の解説が挙げているのも、まさにこの二つです。

出典: これが私の人生と言える様に 〜吃音と過ごした21年〜(NHK厚生文化事業団「第56回NHK障害福祉賞」佳作作品)(台帳: V0112)

日本吃音・流暢性障害学会の解説は、子どもへの専門家の関わりについて、楽に話しやすくなるために周囲のコミュニケーション環境を整える方法(環境調整)や、直接発話に働きかける方法、吃音のことを理解する方法など、年齢や状態に合わせた指導を行うとしたうえで、小児を扱う言語聴覚士や、ことばの教室の教員に相談しましょうと書いています。この人が通った「きこえとことばの教室」は、後者にあたります。

同じ解説は、学齢期の子どもについて、周囲が吃音の指摘やからかいを減らすことによって、本人が安心して吃音を出しながら話し続けてよいのだと実感できるとも述べています。番組を見て子どものことが気になった家族にできるのは、話し方を直させることではなく、この順番で相談先にたどり着くことのほうです。

ドラマになった小説の作者が、「100人に1人」をどう言ったか

放送された作品には、原作があることがあります。吃音のある主人公を描いた小説がNHKでドラマ化されたとき、その作者自身も吃音のある人でした。ドラマ化に際して大学新聞のインタビューに答えた記事が、2021年5月3日に公開されています。そこで作者は、数字の話をしています。

作家・重松清さんの声(自身も吃音当事者。小説『きよしこ』のNHKドラマ化に際した大学新聞のインタビュー・一人称の聞き書き)

吃音の一番の難しさは話してみなければ分からないところだ。100人に1人が吃音だ。身の回りに置き換えてみてほしい。高校で3クラスあれば1人いたはずだし、大学の大教室にも1人はいるはずだ。誰もが、これまでに吃音の人と会ったことがあるはずだ。そう考えれば、吃音が一気に身近になるのではないだろうか。

ドラマの原作では、さまざまなスタンスの大人が登場し、その間で主人公の心が揺れ動く——作者はそう説明しています。ある人は吃音なんかに負けるなと言うが、吃音「なんか」という言葉では表しきれない。別の人は吃音を気にせずに生きていけと言うが、気にしないには重すぎる。だから小説の中では、これはこうだと決めつけ、正解を出すことはしなかった、と。そのうえで数字を持ち出したのは、視聴者や読者を責めるためではなく、「会ったことがないから知らない」という思い込みを外すためでした。ここで挙げられた割合は、専門の資料が示している数字と重なります。

出典: 重松清さんインタビュー 沈黙から想像する思い〜100人に1人の吃音と向き合う〜(慶應塾生新聞デジタル)(台帳: V0023)

日本吃音・流暢性障害学会の解説によると、海外の調査からは、学童期以降成人までの吃音の時点有症率(ある特定の時点での全人口における吃音のある人の割合)は、1%より少ない0.8%が妥当だといわれています。番組やドラマの紹介で耳にする「100人に1人」は、この数字のことです。

ここで、先ほどの街頭調査の結果がもう一度効いてきます。一般の回答者は、吃音のある人の割合を実際より高く見積もる傾向があったと報告されています。つまり「100人に1人」は、多くの人にとって数を知らせる数字ではなく、思っているより身近にいることを知らせる数字として働きます。作者が「高校で3クラスあれば1人」と言い換えたのは、まさにその向きの使い方でした。

もう一つ、この人が繰り返し言っているのは、吃音をどう生きるかに唯一の正解は無い、ということです。吃音を克服しようとする人もいれば、個性として受け入れていこうとする人もいる、どのように吃音と生きていくかは人それぞれで、その人がより生きやすいほうで良い——手記ではなくインタビューの言葉として、そう述べています。作品の中で吃音がどう描かれるかについては、作品の吃音描写と実際のズレの記事でも扱っています。

番組で流れた一曲が、画面の前の人に届くとき

番組が届けるのは、解説や特集だけではありません。番組の中で流れた音楽が、その人の一日を変えてしまうこともあります。大学生がその日のうちにブログに書き残した記録があります。

当事者本人の声(投稿時は大学生・吃音歴18年/個人ブログ)

今日、NHKのテレビ番組「オイコノミア」という番組内でハンバート ハンバートさんの「ぼくのお日さま」という曲を聴きました。

ハンバート ハンバートさんの名前も知らなかったくらい全く初めて聴く曲だったのですが思わず泣いてしまうほど感動してしまいました。

曲の冒頭を聴いた時点で、この人は「もしや」と思ったと書いています。そして、それが吃音のある人の歌だと分かる。本人はそこから、自分のことを書き出します。いちばん嫌だったのは小学校のクラス替えで、初めて会う友達に吃音のことを笑われたり、「なんで普通に言えないの?」「落ち着けよ」と言われるのが嫌で、学校に行くのが億劫だったこと。いまは経験則で積み重ねた対処法を使って話しているが、どもりは『波』でくるので、ひどい時期もあり、会話やプレゼンにはいまも苦手意識があること。大学生になってもどもりを笑う人が実際にいて、見ると悲しくなってしまうこと。そして、この歌が自分たちの言葉をそのまま代弁しているようで、少し理解者がいたと感じ、多少救われたこと。当事者団体が放送に求めているのは、まさにこの届き方です。

出典: ぼくのお日さま 〜吃音もちのきもち〜(Ameba の個人ブログ)(台帳: V0299)

英国の当事者団体 STAMMA が公開している語り方の指針は、メディアに向けて、吃音の声がテレビ・ラジオ・映画で聞こえるようにしてほしいと求めています。ただし、誰かが吃音を「克服した」「打ち負かされた」「治した」という文脈でではなく、あらゆる中身をかたちづくるアクセントと声の豊かな模様の一部として——という条件つきです。この人を救ったのは、克服の物語ではなく、自分の言葉を代弁している一曲でした。

この指針は、配布物としても公開されています。受け取った人への呼びかけは具体的で、放送で使ってほしい、学校や大学や職場へ持っていってほしい、掲示板に貼ってほしい、地元のラジオ局にメールで送ってほしい、と並びます。そして、線を越えた表現に出会ったら、どの線を越えたのかを相手に伝えてほしい、変化は一人や一つの運動で成し遂げられるものではなく、力は人数にある、と結んでいます。テレビで吃音を見た人が次にできることとして、これはかなり具体的な案内です。

英国の当事者団体が、語り方の指針の配布ページで並べている5つの呼びかけを一覧にした図。数を比べる図ではない。1、放送で使ってほしい。2、学校・大学・職場へ持っていってほしい。3、掲示板に貼ってほしい。4、地元のラジオ局にメールで送ってほしい。5、線を越えた表現に出会ったら、どの線を越えたのかを相手に伝えてほしい。配布ページは「変化は一人や一つの運動で成し遂げられるものではなく、力は人数にある」と結んでおり、指針は英国王立言語聴覚士会の承認を受けたと書かれている
図2: 語り方の指針を受け取った人への、5つの呼びかけ。出典: STAMMA「Stammering Editorial Guidelines」(語り方の指針の配布ページ)

NHKの吃音の番組を一覧できるか、ラジオやポッドキャストはあるか

先に書いたとおり、この記事が参照した資料の中に、NHKで吃音を扱った番組を継続して集めた一覧はありません。放送回・放送年・再放送の予定も同じです。ここで名前が出た『オイコノミア』と、ドラマ化された『きよしこ』は、当事者自身が自分の記録に書き残していたから書けているだけで、網羅ではありません。ラジオ番組やポッドキャストについても、手元の資料には一覧がなく、この記事では扱えません。

ただ、一覧が見つからないこと自体が、何かを伝えてはいます。英国の当事者団体が「吃音の声がテレビ・ラジオ・映画で聞こえるようにしてほしい」とわざわざ求めているのは、聞こえている状態がまだ当たり前ではないからです。同じ団体は、吃音や「どもる」という語を、失敗や出来の悪さの言い換えとして使うのをやめてほしいとも求めており、メディアで働いていて吃音を扱う番組を企画するなら、関係者にこの指針を共有してほしいと呼びかけています。

指針の中身は、書く人・話す人がそのまま使える言い換えの規則になっています。吃音に「苦しんでいる」「冒されている」と言う代わりに「その人は吃る」と書くこと。誰かの吃音を「ひどい」「衰弱させる」と形容せず、同じく「その人は吃る」と書くこと。吃音を「打ち負かす」「克服する」と言うのを避けること(治せるものではないため)。物事が滞ったり失敗したりする様子を表すのに「どもる」という語を使わないこと。誰かの吃音を「今日は調子が悪い」と評さないこと——その人はただ話しているだけだから、というのが理由です。番組の感想を誰かに伝えるときにも、そのまま当てはまります。

なお、映像作品を入口に吃音を論じた日本語の文献もあります。日本の脳神経の専門誌に載った解説は、吃音があったとされる英国王と、その治療にあたったオーストラリア出身の言語療法士との交友を史実にもとづいて描いた2010年の映画を題材に、発話と、障害としての吃音を神経科学の視点から検討したものだと述べています。作品をきっかけに関心を持った人が、日本語で科学の側へ渡れる足場の一つです。

番組や手記を読んで気になったら——相談先

放送や手記をきっかけに、自分や家族のことが気になった人のために、相談先を置いておきます。日本吃音・流暢性障害学会の解説は、子どもについて、小児を扱う言語聴覚士や、ことばの教室の教員に相談しましょうと書いています。中高生以上の子どもと成人については、本人が吃音の治療を希望する場合に言語聴覚士による発話訓練を受けるという選択肢があり、発話訓練だけで症状が改善しない場合や吃音に対する不安が強い場合は、カウンセリングや心理療法が役立つこともあるとしています。

もう一つの行き先が自助団体です。解説によると、団体によって活動の目的や規模は異なるものの、吃音のある当事者が「吃音があるのは自分だけではない」ということを認識し、共通の体験を語り合い、苦悩を分かち合い、互いに援助し合うことが概ね活動の中心だとされています。1965年に発足した言友会が日本で最も歴史が古く、近年では若者を対象とした団体や、吃音のある女性の集いを開催する団体もあると紹介されています。吃音の自助団体に参加し、ほかの吃音のある人と出会うことが、吃音を否定的に捉えることが減るといった心理的な変化のきっかけになることもある、とも書かれています。

学校や職場については、本人が望む場合に、苦手な場面(たとえば発表や音読など)への配慮や支援を求め、安心して学校生活を送れるように環境を整えることが大切だとされています。社会人の場合も、吃音について上司や同僚に相談することによって、職場の配置や電話業務などで配慮を得られることがあります。

次のようなときは、番組を見て終わりにせず、相談を考えてみてください(あくまで目安で、当てはまらなくても相談して構いません)。

  • 番組や手記で読んだ症状と、自分や子どもの話し方が似ていて、様子を見るべきか判断がつかない
  • 話しにくさを気にして、発表や電話、人と話す場面を避け始めている
  • 番組を見たあとで、自分や子どもが「あの人のようにはなれない」と感じて落ち込んでいる

この3つは相談を考えるきっかけとして挙げたもので、特定の資料が「受診の目安」として定めているものではありません。

NHKで吃音を知ったあとに陥りがちな3つの落とし穴

落とし穴1 − 番組に映った1人を、吃音の代表だと思う

手記の書き手自身が、吃音の症状には非常に大きな個人差があり、種類も、症状が現れやすい場面も、出しにくい言葉も一人ひとり異なると書いています(台帳: V0155)。別の書き手は、受賞のことばで「吃音のある人が10人いたら、10通りの症状や思い、考えがあります」と述べ、自分の作品は吃音のある人の中の一つとして読んでほしい、としています(台帳: V0112)。番組に出ている人が話せているから、あるいは話せていないから、というだけで、目の前の人のことを決めないほうが安全です。

落とし穴2 − 「克服した人」の物語として受け取る

英国の当事者団体の指針は、人が吃音を「打ち負かす」「克服する」と言うのを避けるよう求めています。治せるものではないから、というのが理由です。同じ指針は、吃音の声がメディアで聞こえるようにしてほしい、ただし誰かが吃音を「克服した」「治した」という文脈ではなく、とも書いています。番組を克服の物語として要約してしまうと、そうなれない人にとっては、見なかったほうがましな情報になります。

落とし穴3 − 数字を「そんなに多いのか」で止めてしまう

学童期以降成人までの時点有症率は0.8%とされています。一方、街頭で集めた303人への調査では、一般の回答者は吃音のある人の割合を高く見積もる傾向があり、全体としての知識は限られていたと報告されています。数字を覚えることが目的ではありません。作家が言ったように、「これまでに吃音の人と会ったことがあるはずだ」と自分の身の回りに置き換えるところまで来て、初めて数字が働きます(台帳: V0023)。

そのうえで、番組や手記を読んで自分のことが気になったなら、どんな場面で話しにくいか、そのとき周りがどう応じたかを書き留めておくと、相談のときに伝えやすくなります。相談できる場合は、言語聴覚士やことばの教室に相談するのが確実です。

よくある質問

NHKで吃音を扱った番組を、まとめて探せる場所はありますか?

この記事が参照した資料の中に、吃音を扱った番組を継続して集めた一覧はありませんでした。この記事も番組表の代わりではなく、当事者自身が記録に書き残した番組を、その人に何が起きたかとともに並べたものです。英国の当事者団体が「吃音の声がテレビ・ラジオ・映画で聞こえるようにしてほしい」とメディアに求めていること自体が、まだ当たり前ではないことを示しています。

吃音を扱ったラジオ番組やポッドキャストはありますか?

手元の資料には、ラジオ番組やポッドキャストの一覧がないため、この記事では扱えません。ただし英国の当事者団体は、語り方の指針を配布物として公開し、放送で使ってほしい、地元のラジオ局に送ってほしいと呼びかけています。音声のメディアも、当事者団体が働きかけの対象として名指ししている場所です。

NHK障害福祉賞の手記は、誰でも読めるのですか?

この記事が引いた2編は、いずれもNHK厚生文化事業団のサイトで全文が無料で公開されていたものです(台帳: V0155・V0112)。障害のある本人が書く部門があり、吃音のある人の作品が複数の回で入選しています。応募の方法や締め切りなど、賞そのものの運用については、この記事が参照した範囲には記載がありませんでした。

番組を見て「自分も吃音かもしれない」と思いました。どうすればいいですか?

学童期以降成人までの時点有症率は0.8%とされ、およそ100人に1人にあたります。気になるときは、子どもなら小児を扱う言語聴覚士やことばの教室の教員に相談しましょうとされています。大人で治療を希望する場合は言語聴覚士による発話訓練という選択肢があり、不安が強い場合はカウンセリングや心理療法が役立つこともあるとされています。自助団体で他の当事者と出会うことが心理的な変化のきっかけになることもあります。

番組を見た感想を、吃音のある家族や友人にどう伝えればいいですか?

英国の当事者団体の指針が、そのまま参考になります。吃音に「苦しんでいる」と言う代わりに「その人は吃る」と書くこと、誰かの吃音を「ひどい」と形容しないこと、「打ち負かす」「克服する」という言い方を避けること、誰かの吃音を「今日は調子が悪い」と評さないこと——その人はただ話しているだけだから、というのが理由です。この指針は英国王立言語聴覚士会の承認を受けており、配布物として誰でも入手できます。

まとめ

  • NHKと吃音の接点は放送の中だけではない。NHK厚生文化事業団が公募する障害福祉賞には吃音のある人の手記が繰り返し入選し、全文が無料で公開されている(台帳: V0155・V0112)。
  • 手記はどれも「難発とはどういう状態か」という説明から始まる。街頭で集めた303人への調査では、およそ半数が吃音のある人を見聞きしたことがある一方、吃音を誤解する傾向があり、割合を高く見積もっていたと報告されている。
  • 1本のドキュメンタリー番組を見た小学6年生が、その日に家族へ話し、通級指導教室の「きこえとことばの教室」につながった(台帳: V0112)。学会の解説も、子どもの相談先として小児を扱う言語聴覚士とことばの教室の教員を挙げている。
  • ドラマ化された小説の作者は「100人に1人」を、身の回りに置き換える言葉として使った(台帳: V0023)。学童期以降の時点有症率は0.8%とされる。
  • 英国の当事者団体は、吃音の声がテレビ・ラジオ・映画で聞こえるようにしてほしい、ただし「克服した」「治した」という文脈ではなく、と求めている。その指針は配布物として公開され、放送や職場、地元のラジオ局へ持ち込むことが呼びかけられている。

参考文献

  1. Iimura, Yada, Imaizumi, Takeuchi, Miyawaki & Van Borsel (2018) Public awareness and knowledge of stuttering in Japan. J Commun Disord.(東京都立大学人文科学研究科・東京医療保健大学・ゲント大学病院ほか)
  2. 日本吃音・流暢性障害学会 広報委員会「吃音(きつおん)について」(文責: 原由紀・吉澤健太郎〈北里大学〉)
  3. STAMMA「Talking About Stammering — Guidelines for talking about stammering」(英国王立言語聴覚士会 Royal College of Speech & Language Therapists の承認を受けたと記載・2024年1月最終更新)
  4. STAMMA「Stammering Editorial Guidelines」(語り方の指針の配布ページ。英国王立言語聴覚士会の承認を受けたと記載)
  5. Mushiake (2022) [The King's Speech: Understanding Speech Act and Stuttering]. Brain Nerve.(東北大学医学部 生理学)

当事者の声の出典: V0155(NHK厚生文化事業団「第60回NHK障害福祉賞」ハートネット賞受賞作・福井春香さん)/ V0112(同「第56回NHK障害福祉賞」佳作・和智南生さん)/ V0023(慶應塾生新聞デジタル・重松清さんへのインタビュー)/ V0299(個人ブログ・Ameba)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-09-12 公開