まず結論から
- 3歳ごろに吃音が始まるのは、めずらしいことではありません。2〜4歳をピークにほとんどが幼児期に発症し、わが国の研究では3歳までの発症率が8.9%と報告されています。
- 発症の4割は「急にある日」始まることが知られています。直前の出来事にきっかけを探しても、答えは見つかりません。
- 保護者の接し方のまずさが原因で、お子さんに吃音が生じるわけでは決してありません。
- 多くは自然に軽くなります。幼児期の吃音では、少なくとも半数の子が特別な指導や支援をしなくても小学校に入学するぐらいまでに吃音の問題が見られなくなるとされています。
- 国の発達障害情報のポータルサイトは、「幼児吃音臨床ガイドライン」の記載として、年少組までは経過観察的な支援を基本、年中組では積極的な介入の開始を検討、年長組では開始を推奨と紹介しています。3歳はその「まだ待ってよい」側にあたります。
ただし、自然に治る子とそうでない子を早い段階で見分けられる確実な指標は、まだありません。ここに並ぶ数字はどれも集団を比べたときの傾向で、お子さん一人の見通しを示すものではありませんし、症状が重い・悪化している・話すのが苦しそう・本人が気にしている、といったときは学年にかかわらず相談の対象とされています。
「先週までは、こんなふうじゃなかった」
3歳の子の話し方が急に詰まりはじめると、保護者はまず「何が起きたのか」を探します。ところが当の変化のほうは、たいてい前触れなくやってきます。
3歳の息子の母の声(ナレーター・都竹悦子さん/本人の公式サイトのブログ)
さて、吃音症状について。息子のタイプは、こんな感じです。
「おおおおお、お、お、おかあさん」「し、し、したーー(下)の階に降りようよ」。お母さん、が言えず「お、お、お、、、さん」となってしまうことも。
長年ラジオやテレビに携わってきた母親が、息子の話し方を仕事の耳で書き留めています。詰まるのは、積み木やプラレールで遊んでいた手を止めて母を呼ぶ、その切り替えの一言。ほんの先週までは幼児らしい滑舌の悪さはあっても吃音の症状は皆無だった、と同じ記事に書かれています。文頭で、伝えたいことがあるときに出る——この観察は、専門の資料が挙げる中核症状の説明とほとんど重なります。音の繰り返し(連発)、引き伸ばし(伸発)、ことばを出せずに間があいてしまう(難発、ブロック)の3つです。
出典: 息子についての悩み~吃音1~(都竹悦子公式サイト)(台帳: V0062)
発達性吃音は、典型的には2〜3歳で2語文以上の発話を始める頃に発症し、それまで普通に言葉が出ているぶん後天的な原因があると思われがちだ、と国立障害者リハビリテーションセンターの資料は説明しています。学会の解説も、2〜4歳をピークとしてほとんどが幼児期に発症するとし、近年の幼児期の調査から発症率は約8〜11%程度、わが国の研究では3歳までの発症率が8.9%と報告されていることを紹介しています。3歳は、発症がいちばん集中する時期のただ中にあります。
始まり方そのものにも特徴があります。国の発達障害情報のポータルサイトは、吃音は2歳から4歳の間に人口の約8〜11%に発症し、しかも発症の4割は急にある日始まることが知られている、と書いています。だからこそ「今まで流暢に話していたのに、何か悪いことをしたのではないか」と驚いて相談に来る場合がある、とも述べられています。前触れが無いのは、この障害の性質のほうです。
出方は日によって、週によって変わります。調子が良い状態、あるいは悪い状態が数週間から数か月にわたって続く人も多く、この症状の変動を「波」と呼ぶ、と学会の解説は説明しています。強く出る時期があること自体は、それだけで「悪くなって固定した」という意味にはなりません。
「わたしの関わり方のせいかもしれない」
きっかけ探しは、たいてい自分に向かいます。そしてその問いは、子どもの話し方が続いているあいだ、何年も消えません。
2歳から吃音のある息子(記事時点で8歳)の母の声(元保育士/個人ブログ)
ここは正直に書きたいのですが、親としてつらいと感じた瞬間も何度もありました。
スムーズに話せない我が子を見るのは、やはり胸が苦しくなります。
周りの子と比べてしまったり、「どうしてこの子だけ…」と思ってしまったこともありました。
そして何より、自分に余裕がないときは安心した環境を作ってあげられなかったなとか、もっとあのときこうしていたら改善していたかなと「自分の関わり方が治らない原因かもしれない」という不安がずっと頭から離れませんでした。
保育士歴10年以上という、元保育士の母親の言葉です。子どもを見る目も、待つ技術も持っている人が、それでも6年のあいだ同じ問いを抱えていました。息子の吃音は2歳ごろに「ぼ、ぼ、ぼくね…」という繰り返しで始まり、父方の家系にも吃音のある人がいる、と同じ記事に書かれています。ここで確認しておきたいのは、この不安が正しいかどうかです。吃音の専門ポータルサイトははっきり否定しています——保護者の接し方のまずさが原因で、お子さんに吃音が生じるわけでは決してありません。
出典: 【体験談】2歳から始まった吃音…8歳の今どうなった?親の本音と経過(KABろぐ)(台帳: V0063)
この誤解には名前が付いています。学会の解説は、最も問題のある間違った原因論として、親の接し方が悪かった(愛情不足)ことを原因とする説や、親が吃音だと思って対応することが原因であるとする吃音診断起因説を挙げ、そのため母親が周囲の人から非難されたという体験談を聞く、と書いています。そして2000年頃以降、双子研究・脳研究・遺伝子研究により、環境的要因よりも生まれ持った体質的な要因が吃音の原因の多くを占めることが分かった、と続けます。国立障害者リハビリテーションセンターの資料も、《親の育て方が悪いから吃音になる》という間違った考えを今でも信じている人が多く、そのため親子ともストレスが大きくなりがちだと指摘しています。
研究の側からも、いくつかのことが言えます。まず、子どもの気質については、まだ判断できる段階にありません。就学前に発症した子どもを追跡した研究をいくつも集めて、まとめて分析し直した研究は、吃音が持続した群と回復した群のあいだで、否定的な感情の出やすさ・活発さ・意図的な制御のいずれにも有意な差を検出しませんでした。ただし原典は、このうち感情の出やすさ・活発さについての所見を「根拠が不十分」の側に分類し、解析に入れられた研究が2〜3件しかなく、そのうち1件は有意な差を報告していたと断っています。吃音そのものの成り立ちについても、運動・言語・情動という複数の要因が非線形に影響し合いながら、就学前の急速な発達のただ中で立ち現れるものだと説明されています。単独の犯人はいません。
さらに踏み込んだ指摘もあります。親の話し方の速さや会話の交代のしかたを調整させる助言について、専門誌に載った反論の論説は、その提案されている治療が「回復を決めるのは親だ」という信念を強め続けており、その信念は根拠が不十分であるうえに害をもたらしうると述べています。自分を責める時間は、子どもにも自分にも返ってこないということです。
「治るのか」——3歳から先の見通し
いちばん知りたいのは、この先どうなるのかでしょう。まず、治まった側の記録から見ます。
年少の息子(記事時点で4歳になったばかり)の母の声(個人ブログ)
ピーク時の頻度ではないにしても、どもるような話し方は数ヶ月前(3歳後半頃)からしていました。
ですので、指摘された後も、数ヶ月もしくは数年のことになるかもしれないけれど、長い目でみてやって行こうと思っていました。
ところがピークからたったの1ヶ月(4歳になったばかり)でほぼ、どもり(繰り返し・吃音)が消滅しました。
ことの始まりは幼稚園の担任からの一言でした。それまで「子どもだからこんなもんだろう」と気に留めていなかった文頭の繰り返しが、指摘された当日の帰宅後から急に耳につくようになった、と母親は書いています。数か月か数年かと構えたところで、山は1か月で越えました。記事末尾には後日の追記があり、子どもは小学生になったが全く吃音の様子はない、と書き足されています。ここで大事なのは、この経過が例外ではないということです。幼児期の吃音では、少なくとも半数の子が特別な指導や支援をしなくても小学校入学ぐらいまでに吃音の問題が見られなくなることが知られています。
出典: 3歳〜4歳 子供のひどいどもり(吃音)は治るのか?対応は?(うちの子、天才かもしれん。)(台帳: V0059)
「どのくらい治るのか」の数字は、資料によってかなり違って見えます。理由は単純で、いつから数えて、いつまで追いかけた割合なのかが資料ごとに違うからです。
時間の軸で示しているのが学会の解説です。自然治癒率は、Yairi らの研究(2005年)によると、吃音が始まって2年後までだと31%、3年後までだと63%、4年後までだと74%であると報告されている、と紹介しています。そして発吃から4年以上経つと(あるいは8歳以上になると)、自然治癒の確率は減少するとも書かれています。国の発達障害情報のポータルサイトは同じことを男女別に示し、吃音を発症後、男児では3年で6割、女児では3年で8割が自然回復する、としています。
まとめて言うときの値も並べておきます。「幼児吃音臨床ガイドライン」を紹介した国立障害者リハビリテーションセンターの資料は、吃音は幼児の1割近くに発症し、4分の3程度は自然に治癒するとしています。海外の縦断研究を集めたレビューは、就学前に参加を始めた研究について自然回復率が68%から96%の範囲だったと述べています。数字の幅は大きいのですが、方向はどれも同じです。
「気づいたら2年たっていた」——続く子もいる
一方で、すべてが数か月で終わるわけではありません。3歳で始まった吃音が、そのまま日常の一部になっていく家庭もあります。
3歳前後から吃音のある娘(記事時点で4歳10か月)の母の声(フルタイムから時短勤務になったワーママ/個人ブログ)
で、時は2022年、現在。治ってないーーー
よく考えたら、もうすぐ5歳、、ってことは、吃音が始まってもうすぐ2年?
実は、最近は娘の話し方に慣れてしまってそういう話し方だと、あまり気に留めなくなっていました。
しかし、ハッとさせられる出来事がありました。
娘の吃音が始まったのは3歳前後。単語の初めの文字を繰り返す連発と、初めの文字を伸ばす伸発だった、と母親は書いています。ハッとさせられたのは保育園の朝でした。支度をしている脇で、娘が0歳児のころから顔なじみの友達の母親に話しかけ、そのお母さんが悪気なく「どもってない?! どーしたの??」と驚いた。そのびっくりした様子に母親のほうが衝撃を受け、「そろそろ何かしなくちゃまずいかも?」と考え直すところまでが、この1本の記事です。では、続くかどうかは何で決まるのか。就学前に吃音が始まった子を、そこから2年以上先まで追いかけた研究を集め、まとめて分析し直した研究が、この問いに正面から答えています。
出典: 1y8m&4y10m 4歳娘の吃音について①(かぞくじかん。)(台帳: V0060)
この研究がしたのは、言語聴覚士がふだんの評価でとれる特徴だけに絞って、持続した群と回復した群を比べることでした。そのうえで結果を「根拠が確立したもの」と「根拠が不十分なもの」に仕分けています。確立した側に入ったのは7つです。保護者への聞き取りで分かる3つ——家族に吃音のある人がいる子は、いない子より持続しやすく、その比は1.89倍。ただしこの1.89倍がつくのは「家族にどれかの吃音のある人がいる」場合で、家族歴を「続いた吃音」に限って調べたほうでは差が検出されず、結果も研究どうしで食い違っていました。男の子は女の子より1.48倍。吃音が始まった年齢が遅いほうが持続側でした。検査と発話サンプルで調べる4つ——吃音らしい詰まりの頻度が高いこと、音を正しく出す力が低いこと、聞いて理解する力が低いこと、話して伝える力が低いことです。この7つと、差が検出されなかったもの・まだ判断できないもの(どちらも主なものの抜粋)を、次の図にまとめました。差の大きさを表す数値とそのぶれの幅も、図の中に入れてあります。
逆に、差が検出されなかったものもあります。言語聴覚士による重症度の評定でも、保護者による重症度の評定でも、持続した子と回復した子は有意には違いませんでした。原典は、ひととおりの評価をするなら、重症度の印象だけで済ませるより、どんな詰まり方がどのくらい出ているかを数えて調べるほうが、見通しの情報を得やすいと述べています。「重く見えるかどうか」と「続くかどうか」は、同じではないということです。
3歳から5歳の子ども52人を回復か持続かまで追いかけた別の研究も、家族歴・音を正しく出す力やことばの音を扱う力(構音・音韻)の検査成績・ふだんの話しことばに吃音らしい詰まりがどのくらい出るか・意味のない音のならびを聞いて言い返せる正確さが、それぞれ持続の確率と関連し、これらを全部組み合わせたモデルがいちばん当てはまりがよかったと報告しています。ただし、これらはあくまで群と群を比べた結果であって、個々の子に当てはまるものではない、と、先にみた7つを挙げた研究の原典自身が断っています。自然に治らない子を早期に見分けられる確実な指標はない、というのが国立障害者リハビリテーションセンターの資料の書き方です。相談の場でも「男児で家族歴がある場合は、なおりづらい」としか返答できない状況だ、と国の発達障害情報のポータルサイトは率直に書いています。
「相談しよう」と決めてから、会えるまで
もう一つ、記事にはあまり書かれないことがあります。相談すると決めても、その日に専門家に会えるとは限らない、ということです。
3歳2か月の息子の母の声(富山市在住/個人ブログ)
保健師さんは「言葉はたくさん話せるようになって問題は無いですが「どもり」について心配でしたら「言葉の教室」の予約を取りましょう」とすすめられ、この言葉の教室、なかなか予約が取れないらしく最短でも数ヶ月先なんだそう。
保健師さんには「いますぐ緊急の問題はないので3歳になる月の予約を入れましょう」と言われ、半年後の予約を入れました。
それが9月だったのですが、予約日に私が風邪をひいてしまいキャンセル。代わりの予約を入れようとしても最短で来年の2月しか取れないと言われしかたなく2月に予約を入れていましたが、先月急に保健所から電話があり急なキャンセルが出たからどうですか?と言われて先日行ってきました。
この母親がたどった道のりは、1歳半健診で話せる単語が足りないと言われたところから始まっています。2歳健診、市の「のびのび教室」に3回。息子は2歳半で文章を話せるようになり、そのころから「どもり」が気になり始めた——保健師に勧められて予約を入れたのが半年後、風邪で流れて次は5か月後、結局はキャンセル待ちの電話で会えました。専門家の数が足りていないことは、公的な資料も認めています。
出典: 息子3歳のどもり(吃音)(息子を連れてハワイに行くぞー)(台帳: V0058)
国立障害者リハビリテーションセンターの資料は、吃音になる幼児の10分の1だけが医療機関を受診するとしても全員を診られるだけの人数の専門家はおらず、幼児の吃音についてはすでに医療崩壊状態と言ってもいいくらいだ、と書いています。だから同センターが紹介する「幼児吃音臨床ガイドライン」は、一般の相談・診療機関が吃音の詳しい説明や経過観察を担当し、必要を見極めて治療施設に紹介するという連携を勧めています。「様子見」は放置ではなく、誰かに経過を見てもらいながら待つことだ、という設計です。
では、いつ動くのか。国の発達障害情報のポータルサイトは、このガイドラインの記載として、積極的な介入(月2回以上の指導)を行うタイミングを「年少組までは経過観察的な支援を行うことを基本とする」「年中組では積極的な介入の開始を検討する」「年長組では積極的な介入の開始を推奨する」と紹介しています。同時に、待たずに治療の必要性を判断する基準も示されています——重症・悪化・発話が苦しそう・本人が気にしている、そして就学の1年程度前になっても軽快傾向がないこと。最初の1年の重症度は予後と関連しないので待機する(例外条件あり)、自然治癒まで2〜3年かかることもよくある、とも書かれています。
学会の解説は、幼児期・学齢期の子どもについて、小児を扱う言語聴覚士や「ことばの教室」の教員に相談しましょう、と書いています。幼児の吃音の相談が寄せられる場所としては、保健センター、幼稚園・保育園・認定こども園、小児科、耳鼻咽喉科、ことばの教室が挙げられています。就学前の子どもへの介入としては「リッカム・プログラム」があり、親子で言語聴覚士のもとに通い、各回で保護者が家庭での実施方法の指導を受けます。これを検討した、参加者をくじ引きのように2つのグループに分けて比べる研究(ランダム化比較試験)4件(2〜6歳の子ども151人)を集め、まとめて評価したコクランのレビューでは、待機していた子どもたちより吃音の頻度(%SS)が下がったと報告されていますが、原典はこれを確実性が非常に低いエビデンス——つまり、効くという結果は出ているものの、その結果はまだ当てにしきれない、という位置づけ——とし、含まれた研究のバイアスのリスクも高いため慎重に解釈すべきだと明記しています。プログラムは完了までに1〜2年かかる設計で、これらの研究では誰も全課程を終えていない、とも書かれています。
待っているあいだ、家庭でできること
「待つ」と決めた期間を、何もしない期間にしないための具体策は、公的な資料に行動のレベルで書かれています。吃音の専門ポータルサイトは、お子さんの特性に合わせた「特別な環境」を整えることを提案しています。
- 話しかける大人の側が「ゆっくり」「ゆったり」とした話し方で話す。子どもの話す速さと同じか、少しゆっくり目ぐらいの速さで
- 子どもが話し終わってから、一呼吸置いてから話しかける
- 相づちやうなずきをしながら、できるだけ最後まで話を聞く。話し終えるまで大人から別の話題を出さない
- 忙しいときは「あとで、お話を聞くから待っててね」と言い、あとで必ず聞く時間を設ける
- きょうだいで先を争うように話しかける状況があれば、「順番に話す」というルールを設ける
- 子どもに対して「ゆっくり」「落ち着いて」などの声かけは極力控える
本人が話し方を気にしはじめたときの構えも示されています。多くの保護者は、子どもが自分の吃音のことを話してきたときに動揺して曖昧にごまかしてしまいがちですが、そうすると子どもは「このことは話してはいけないことなんだ」と感じかねません。「吃音の話し方」は「くせ」のようなものであり、悪いことやいけないことではないと伝えること、背が高い子と低い子がいるように話し方にも色々あると話すことが勧められています。学会の解説も、昔は「吃音に気がつかせない方がよい」という対応が主流だったが今はそのような考え方は否定されている、とはっきり書いています。
ここで一つ、慎重に扱いたいことがあります。「親がゆっくり話せばよくなる」という定番の助言には、実は強い根拠がありません。吃音のある子とない子の親の発話速度と応答までの間を、助言を受ける前のベースライン録音で測った研究では、群間に有意な差はなく、発話速度や応答潜時と子どもの流暢性の関連も検出されませんでした。原典はこれを後ろ向きの観察研究だとして解釈に注意を求めたうえで、親に対して会話の時間的な調整を勧める一般的な助言に、治療結果の面でも同時期の流暢性の面でも、証拠を足すものではなかったと述べています。
それでも上に挙げた環境づくりに意味があるのは、「治すため」ではないからです。ガイドラインの紹介記事は、待機している期間の過ごし方として「楽しくお喋りできるように環境を整える」ことを挙げ、治癒しない結果になっても有用だと書き添えています。家庭でできるのは、治療ではなく、その子が話しやすい土台を保つことです。症状が続くときや気になるときは専門機関にご相談ください。
3歳の吃音で陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 「きっかけ」を突き止めようとする
「保育園に入ったから」「あの日叱ったから」「下の子が生まれたから」——探すほど事実から遠ざかります。発症の4割はそもそも急にある日始まりますし、原因は運動・言語・情動の要因が絡み合って立ち現れるものだと説明されています。単独犯はいません。時間は、きっかけ探しよりも、今から何をするかに使うほうが返ってきます。
落とし穴2 − 「軽く見えるから大丈夫」で判断する
相談の場でも、その子と話すと思ったほど症状が出ないことが多く、つい「気にならないですね」「軽い吃音ですね」という言葉をかけられがちですが、それが養育者にプラスに働くことは少ない、と国の資料は書いています。実際、持続した子と回復した子のあいだには、言語聴覚士による重症度の評定でも、保護者による重症度の評定でも、有意な差は検出されませんでした。見た目の重さだけでは、続くかどうかは測れないということです。
落とし穴3 − 予約が取れる時期を知らないまま待つ
幼児の吃音を診られる専門家の数は足りておらず、公的な資料自身が医療崩壊状態と言ってもいいくらいだと書いています。「年中になったら相談しよう」と考えているなら、その半年前に窓口を確かめておくくらいでちょうどいい、ということです。あわせて、評価では重症度の印象より「どんな詰まり方がどのくらい出ているか」の情報のほうが見通しに役立つとされています。
だからこそ、待つ期間に日々の様子(どんな場面で出やすいか、どのくらいの時期続いているか、波の山と谷)を書き留めておくと、相談のときにそのまま材料になります。アプリなどで記録を続けておくのも一つの方法です(記録は治療の代わりではありません)。言語聴覚士やことばの教室に相談できる場合は、そちらが確実です。
よくある質問
3歳の吃音は様子を見ていていいですか?
国の発達障害情報のポータルサイトは、「幼児吃音臨床ガイドライン」の記載として、積極的な介入を始めるタイミングを、年少組までは経過観察的な支援を基本、年中組では開始を検討、年長組では開始を推奨、と紹介しています。ただし、症状が重い・悪化している・話すのが苦しそう・本人が気にしている、就学の1年程度前になっても軽快傾向がない、といったことが治療の必要性を判断する基準として挙げられています。「様子見」は放置ではなく、経過を誰かに見てもらいながら待つことだと理解しておくと安心です。
3歳の吃音は自然に治りますか?
幼児期の吃音では、少なくとも半数の子が特別な指導や支援をしなくても小学校に入学するぐらいまでに吃音の問題が見られなくなるとされています。学会の解説はYairiらの研究(2005年)をもとに、吃音が始まって2年後までだと31%、3年後までだと63%、4年後までだと74%が自然治癒したと紹介しています。ただし続く子もおり、どちらになるかを早い段階で見分けられる確実な指標はまだありません。
3歳で吃音が出るのは親の育て方のせいですか?
いいえ。保護者の接し方のまずさが原因でお子さんに吃音が生じるわけでは決してない、と吃音の専門ポータルサイトは明言しています。学会の解説も、親の接し方や愛情不足を原因とする説を「最も問題のある間違った原因論」として挙げ、2000年頃以降の双子研究・脳研究・遺伝子研究から、環境的要因よりも生まれ持った体質的な要因が原因の多くを占めることが分かったと述べています。
吃音が続きやすい子には特徴がありますか?
就学前に発症した子を追跡した研究を集め、まとめて分析し直した研究は、家族歴がある(1.89倍)、男の子である(1.48倍)、発症した年齢が遅い、吃音らしい詰まりの頻度が高い、音を正しく出す力・聞いて理解する力・話して伝える力が低い、の7つを「根拠が確立した」手がかりとして挙げています。ただしこれは群と群を比べた結果で、個々の子に当てはまるものではないと原典自身が断っています。
3歳の吃音はどこに相談すればいいですか?
学会の解説は、幼児期・学齢期の子どもについて、小児を扱う言語聴覚士や「ことばの教室」の教員に相談しましょう、と書いています。幼児の吃音の相談が寄せられる場所としては、保健センター、幼稚園・保育園・認定こども園、小児科、耳鼻咽喉科、ことばの教室が挙げられています。就学前の介入としてはリッカム・プログラムがあり、親子で言語聴覚士のもとに通って保護者が家庭での実施方法の指導を受けます。
まとめ
- 3歳は発症がいちばん集中する時期のただ中。2〜4歳をピークにほとんどが幼児期に発症し、わが国の研究では3歳までの発症率が8.9%と報告されている。発症の4割は急にある日始まる。
- 保護者の接し方のまずさが原因ではない。親の接し方を原因とする説は「最も問題のある間違った原因論」とされ、「回復を決めるのは親だ」という信念は根拠が不十分で害をもたらしうるとも指摘されている。
- 多くは自然に軽くなる。少なくとも半数は就学までに問題が見られなくなり、学会の解説は発吃から2年で31%・3年で63%・4年で74%という研究を紹介している。
- 続きやすさの手がかりは7つあり、家族歴はその1つ。一方、重症度の評定では持続した子と回復した子の差は検出されなかった。自然に治らない子を早期に見分ける確実な指標はまだない。
- ガイドラインの目安は年少=経過観察、年中=開始を検討、年長=開始を推奨。重い・悪化・苦しそう・本人が気にしている、就学1年前で軽快傾向がない、のいずれかなら学年にかかわらず相談を。予約が数か月先になることもあるので、窓口は早めに確かめておくと安心。
