まず結論から
- 吃音が出はじめてからおよそ2〜3年のうちに、7割以上は自然におさまるとされています。一方で、出はじめてから4年以上たつ(あるいは8歳以上になる)と、自然におさまる確率は下がるとされています。
- 代わりにこの時期は、ひとりごとではほとんど出なくなり、どの場面で話すかによって出方の差が大きくなるとされています。
- 学齢期にはおよそ半数がいじめやからかいを経験するとされ、そこへの対策が重要だと位置づけられています。
- 就学前の子どもには効果が確かめられた働きかけがありますが、学齢期の子どもや思春期を対象にした質の高い研究は見つかっていません。
- それでも、就学後まで吃音が残った子どもについても、言語聴覚士やことばの教室の適した指導・支援があれば、日々の暮らしで大きな困りごとを抱えずにすむようになることが多いとされています。
ただし、これは「8歳を過ぎたら何をしても変わらない」という意味ではありません。ここに挙げた見通しは、幼児期から追いかけた調査と、学齢期をひとまとめにした記述にもとづくもので、8歳という年齢そのものを区切って調べた研究ではありません。経過は一人ひとり違うので、気になるときは様子見にとどめず、小児を扱う言語聴覚士や、ことばの教室の教員に相談してください。
「8歳」という区切りは、何を指しているのか
吃音の情報を調べていくと、「8歳」という数字にたびたび行き当たります。けれど、その数字が何を指しているのかまで書いてある記事は多くありません。
先に、8歳前後の家庭で実際に何が起きているのかを見ておきます。次に紹介するのは、小学3年生の子どもをもつ母親が、自助団体のキャンプに参加したあとに書いた手記です。
保護者の声(小学3年生の母親。吃音のある子どもと家族が集まる自助団体の会報に載った手記)
本人には、この吃音が治らないかもしれないということは前から伝えてありました。私もそれを受け入れていこうと思っていましたが、やはり気になるものです。完全に治らなくても、ましにはなるのでは、という気持ちは残っていました。
この母親は、吃音が治らないかもしれないということを、本人にはずいぶん前から伝えていました。それでも「ましにはなるのでは」という気持ちは残っていた、と書いています。この手記はこのあと、キャンプで同じ立場の親どうしが語り合うなかで、体から余計な力が抜けていったと感じるところまで続きます。手記の後半には、朝の健康観察の「はい、元気です」が言いにくいと子どもが話していること、それでも朝は元気に「行ってきます」と言って出かけていくことが、並べて記されています。治るか治らないかという長い見通しと、毎朝くり返される一場面。8歳前後の家庭では、この二つが同時に進んでいきます。そして見通しのほうは、日本の資料もはっきり言葉にしています。
出典: 第16回吃音親子サマーキャンプ〜作文と感想〜(日本吃音臨床研究会)(台帳: V0197)
日本耳鼻咽喉科学会の学会誌に載った総説は、8歳頃以降は自然に治ることが少なくなると書いています。日本吃音・流暢性障害学会の解説も、吃音が出はじめてから4年以上たつ(あるいは8歳以上になる)と、自然に治る確率は減少するとしています。つまり「8歳」は、治療方針が切り替わる法律上の線でも、脳の何かが切り替わる年齢でもなく、自然におさまりやすい時期をひと通り通り過ぎたあたりを指す、経過の目印です。
数字で見ると、こうなります。吃音は2〜4歳の間に人口のおよそ8〜11%に始まり、発症の4割はある日急に始まります。そこから男の子は3年で約6割、女の子は3年で約8割が自然に回復するとされ、学会誌の総説も、出はじめてから2〜3年程度までの経過で7割以上が自然に治るとしています。発症が2〜4歳、回復の山がそこから2〜3年——足していくと、ちょうど8歳あたりで山を越えることになります。
ここで一つ、押さえておきたいことがあります。「この子は続きそうか」を予測する研究は数多くありますが、ここに挙げた2件は、いずれも3〜5歳の就学前の子どもを対象に組み立てられています。家族に吃音のある人がいることや、音を正しく出す力の成績が持続と関連するとした研究も、対象は3〜5歳の就学前の子ども52人でした。発症からの経過期間などを数え上げて予測する方法を検討した研究も、同じく3〜5歳の子どものデータを集めたものです。8歳の子に当てはめて「もう決まった」と読むために作られた物差しではありません。
「もう治った」と本人が言うとき、変わっているのは出方かもしれない
8歳前後になると、本人が自分の吃音について発言するようになります。そのとき「もう治った」と言われて、ほっとしていいのか迷う保護者は少なくありません。
保護者の声(小学3年生・9歳の息子をもつ母親。ことばの教室に通室3年目、父の転勤で転校したばかり/個人ブログ)
だけど息子は、『もう吃音治ったから言わなくていいよ。言葉の教室にも行かない。』って言うんです。
吃音はバリバリ連発出てるのに、話しにくくないから、大丈夫!って言う。
だから、転校して1か月くらいそっと見守ってみました。
転校の前、この母親は新しい学校でも吃音のことを説明し、担任に手紙を読んでもらうつもりでいました。ところが息子は「もう治った」と言い、ことばの教室にも行かないと言います。1か月ほど様子を見たあと、担任に電話で学校での様子を聞きました。返ってきたのは「言葉が詰まることはあっても、あああああって連発したりは無い」という報告です。母親はそこで、連発が減ったのではなく、言葉が出ずに間があく話し方に変わってきているのだと気づきます。本人の「治った」と、周りの「出ていない」が重なったとき、実際には話し方が別の形に移っていることがある——学齢期のこの移り変わりは、学会の解説にも書かれています。
出典: 2020年の締めくくりに(ゆうだのblog〜息子の吃音と向き合うママの日記〜)(台帳: V0068)
吃音の中心にある症状は3つです。音をくり返す連発(「ぼぼぼぼくは」)、音を引き伸ばす伸発(「ぼーーーーくは」)、そして言葉がなかなか出ない難発(「・・・・ぼくは」)です。日本吃音・流暢性障害学会の解説は、学齢期に吃音をからかわれたり、発表や音読で思うように話せない経験を重ねたりして、吃音を否定的にとらえるようになると、難発が強くなったり、言いやすい言葉に言い換える工夫が増えたりすることがあると述べています。言い換えが増えると、周りからは吃音が減ったように見えます。けれど同じ解説は、それが吃音の状態が悪化していく方向につながる場合がある、としています。
もう一つ、この時期に起こる変化があります。学会誌の総説は、8歳頃以降はひとりごとではほとんど吃らなくなり、どの場面で話すかによって出方の差が大きくなると書いています。実際、伴奏に合わせて歌うときや、二人で同じ言葉を同時に言うときには吃音が消えることが知られており、このことから吃音は「発話のタイミング障害」と言われます。だからこそ、気をつけて話しているときには吃音があまり出ず、相談の場ではたまたま症状が出ないということが起こります。
「最近は出ていないみたいです」という担任の報告は、ありがたい知らせですが、それだけで判断材料にはなりません。どの場面で・どのくらい出ているのかを、家庭の側でも見ておく必要があります。
教室で何が起きているか——真似・笑い・登校しぶり
8歳=小学2〜3年生にとって、学校は生活の大部分を占める場所です。そして、まわりの子どもが話し方の違いに気づき、口に出すようになるのも、ちょうどこの時期です。
保護者の声(2歳で吃音が始まった8歳の長男をもつ母親。元保育士/個人ブログ)
1年生の時は吃音についてお友だちに言われたことはなかったようですが、2年生の終わりごろにお友だちから真似されたり、指摘されることが何回かあり朝学校へ行きたくないということがありました。
行きたくない理由を私たち親に話すのは恥ずしい、心配かけたくないという気持ちがあったようでずっと我慢していたみたいです。
私は気づいてあげられず、学校へ無理に行かせようとしていたことを謝りました。
パパも吃音が小さい頃からあるので体験談を話したんですが、自分だけじゃないということが分かったのと、気持ちを吐き出し、共感とどんな姿でも長男の味方だからねと話したことですっきりしたようで
次の日は自分で登校できて、しかも走って行く姿が見られて涙が出ました。
2歳で「ぼ、ぼ、ぼくね…」と同じ音をくり返しはじめた長男は、8歳になった今も吃音がなくなったわけではありません。母親は元保育士で、小学校の入学時には個人面談で担任に詳しく話し、連携を取ってきました。1年生のあいだは、吃音のことで特に困ることはなかったと書いています。それが2年生の終わりごろに変わりました。朝、学校へ行きたくないと言う。理由を親に言えないまま我慢していた期間があった。ここで動いたのは、話し方ではありません。動いたのは、まわりの反応と、それを受け取る本人の側でした。学齢期にこうした経験をする子どもがどのくらいいるのかは、日本の学会誌にも数字が出ています。
出典: 【体験談】2歳から始まった吃音…8歳の今どうなった?親の本音と経過(KABろぐ)(台帳: V0063)
学会誌の総説は、学齢期に約半数がいじめやからかいを経験するため対策が重要だ、と明記しています。発達障害ナビポータルも、他の子どもから話し方を真似されたり、笑われたり、「なんでそんな話し方なの?」と質問されたりすることが多い、と書いています。吃音は話す場面でしか症状が出ないので、周囲から悩みが過小評価されやすいことも同時に指摘されています。
教室の中での立ち位置そのものを、子どもたち自身の指名で測った調査もあります。イギリスの16のクラス(吃音のある子16人と同級生387人、合計403人)で、クラス全員に「好きな子」「嫌いな子」などを挙げてもらい、その指名から一人ひとりを教室での立ち位置に振り分けたところ、吃音のある子は同級生より、「嫌い」の指名が多く「好き」の指名が少ない側=「拒否」に分類された割合が、偶然では説明しにくいほど高く(統計的に有意。43.75% 対 18.86%)、逆に「人気」に分類された割合は、同じように偶然では説明しにくいほど低いという結果でした(6.25% 対 25.84%)。リーダーに挙げられる割合も低く(6.5% 対 12.92%)、「いじめられている子」「助けを求める子」に挙げられやすいという結果も出ています。ただし、行動についての8つの分類のうち、偶然では説明しにくいほどの差が確かめられたのは「いじめられている子」だけでした。
この調査で見ておきたいのは、2つあります。1つは、対象になった子どもの平均年齢が11歳9か月で、8歳よりも年上の学年が中心だということ。8歳の教室をそのまま写したものではありません。もう1つは、社会的な立ち位置や「いじめられている」という指名が、吃音の重さと結びついていなかったことです。「いじめられている子」に挙げられた中には、症状の重い子も軽い子も含まれていました。症状が軽いから大丈夫、とは言えないということです。
発達障害ナビポータルは、学校での支援を「毎年のリスクマネジメントの積み重ね」と表現しています。毎年クラス替えがあり、そのたびに真似・笑い・質問を受ける可能性がある。だから担任・保護者・支援者の側から本人に「真似されていない?」「笑われていない?」「話し方を質問されていない?」とオープンにたずねることが、早期発見と予防につながるとされています。
子どもたちは何と言っているか——「知らせる」という一手
ここまでは保護者の言葉でした。では、8〜9歳の本人たちは、教室で何が起きたと話しているのでしょうか。
当事者の声(小学3年生の男子。吃音のある子どもと家族が集まるキャンプで開かれた、3・4年生だけの話し合いの記録。編集をせずに全文が公開されており、子どもは記号で表記され、進行役の大人3人が同席している)
B :僕、1年のとき、明日朝会で先生が呼んだら前に来て下さいねと言われて、前に行ったら、先生が「B君はどもる子やからみんな、話をしているときに長くなっても、何も言わずに聞いて下さいね」と言ってくれた。1年までは一人に真似されてたけど、それからみんなは分かってくれるようになった。廊下で話をするときもみんなずっと待ってくれた。先生も分かってくれたから、あいさつのときもみんな真似しなくなった。僕は先生が言ってくれてよかったなと思って、それでそれから友だちといっぱい話すようになった。
話しているのは、小学3年生の男の子です。2003年の夏、吃音のある子どもとその家族が集まるキャンプで開かれた、3・4年生だけの話し合いの記録に残っています。1時間のやりとりが編集されずにそのまま公開されていて、言い直しも、話の割り込みも、笑い声もそのまま残っています。この子が挙げているのは、1年生のときに担任が朝会でクラス全員に伝えてくれた場面です。真似がなくなったこと、廊下でも待ってもらえるようになったこと、そして自分から友だちと話す量が増えたことを、順に並べていきます。教室に知らせる、という一手。これを臨床の場で試して、経過を記録した報告があります。
出典: 吃音親子サマーキャンプの子どもたち(日本吃音臨床研究会)(台帳: V0196)
アメリカの研究チームが2007年に発表した論文は、吃音のある学齢児がいじめや否定的な反応にあったときに使える方法として、本人が対応を考える練習と、クラスメイトに吃音を説明する取り組みの2つを挙げています。そのうえで、9歳の男の子1人の経過を追った報告(症例報告)を載せています。取り組みのあと、この子はいじめられる場面に建設的に対応できるようになり、クラスでの説明のあとには、同級生からの否定的な発言が減ったと記録されています。
ただしこれは1人の子どもの経過を追った報告で、多くの子どもで確かめられた結果ではありません。同じ論文は、これらを臨床の場で使える方法として示したうえで、使い方が伝わるように1人の症例の中に置いて説明する、という形をとっています。
クラスに伝えることは、日本の学会も勧めています。日本吃音・流暢性障害学会の解説は、所属している集団の場で「吃音は病気ではないこと」「緊張やストレスや家庭環境のみから生じるものではないこと」「本人がわざとやっているわけではないこと」を伝え、クラス内や学童保育、習い事などで理解と啓発の機会を設けてもらうよう働きかけましょう、と書いています。吃音の指摘やからかいが減ることで、本人が「吃音を出しながら話し続けてよい」と実感できるようになる、というのがその理由です。リーフレットを使うのも有効だとしています。
学校でできる3つの配慮と、担任との連携
ここまでを、担任と話すときに持っていける形にまとめます。3つあります。
1つめは、場面を挙げて本人に聞くこと。「学校どう?」では出てきません。日直の号令、音読、発表、かけ算の九九、学習発表会、卒業式——こうした具体的な場面を挙げて質問するほうが、困り感を見つけやすいとされています。あわせて「真似されていない?」「笑われていない?」「話し方を質問されていない?」と、大人の側から先に口に出しておくことが、吃音の話をオープンにするきっかけになります。
2つめは、合理的配慮を求めること。2024年に施行された改正障害者差別解消法によって、国公立だけでなく私立の学校も、その人の困りごとに合わせて対応を変えること(合理的配慮)の提供が義務づけられました。この資料が配慮の中身として挙げているのは、高校入試や大学入試の面接試験で、寛容な聞き手の姿勢や時間的な余裕を確保してもらう、という例です。あわせて、入学後に学校生活で困ることに対しても、双方の建設的な対話のうえで配慮が受けられるようになっています。学会誌の総説は、こうした配慮を求めるときに診断書が使えると書いています。
3つめは、クラスに知らせること。前の節で見たとおり、担任からクラスへ説明してもらうという方法が、日本の学会の解説にも、海外の症例報告にも出てきます。ただし、いつ・どう伝えるかは本人の気持ちと切り離せません。金沢大学の研究室が運営する吃音ポータルサイトは、子どもが吃音のことを打ち明けてきたときにタブーにせず、ふだんから相談をためらわない関係を作っておくことを勧めています。
なお、幼児期の支援には段階の目安があります。日本の幼児吃音臨床ガイドラインでは、年少組までは経過を見ることを基本とし、年中組で積極的な働きかけの開始を検討し、年長組では開始を推奨する、という段階が示されています。8歳はこの段階表の外側です。だからこそ、教室のほうを整える手が中心になります。
8歳からの相談先——医療・学校・親の会
「様子を見る」だけで迷い続けるより、専門家に一度整理してもらうほうが安心です。日本吃音・流暢性障害学会の解説は、相談先として小児を扱う言語聴覚士とことばの教室の教員を挙げています。楽に話しやすくなるように周りの環境を整える方法、話し方に直接働きかける方法、吃音そのものを理解する方法などを、年齢や状態に合わせて指導してもらえるとしています。
働きかけの中身については、正直なところをそのまま書いておきます。8つの比較試験を集めて評価した報告によれば、就学前の子どもについては効果が確かめられた方法があり、なかでも養育者が家庭で毎日、子どもの話し方に決まった声かけを返していく方法(リッカム・プログラムと呼ばれます)に、いちばん高い水準の裏づけがありました。その中身は、養育者が毎日決まった時間を子どもと設け、吃音の出た発話と出ていない発話への返し方を専門家と検討しながら進めるものです。ところが同じ報告は、学齢期の子どもや思春期を対象にした、水準の高い研究は見つからなかったとしています。なお、ここで集められた8件は、いずれも研究の作り方に中程度の偏りの危険があると評価されています。
これは「働きかけに意味がない」という意味ではありません。研究の蓄積が少ない、ということです。同じ報告は、オンラインでの支援や集団での支援が、対面の個別支援に劣らなかったことも示しており、通いにくい場合の選択肢として知っておくと役に立ちます。また学会誌の総説は、話し方の訓練だけでは長期的にうまくいく割合が低く、心理面・社会面の支えも必要だと述べています。8歳からの相談は、「訓練を受けるかどうか」の一択ではないということです。
もう一つ、選択肢に入れておきたいのが吃音の自助団体です。この記事で引用した2つの声も、そうした団体が開くキャンプと、その会報から出てきたものでした。日本吃音・流暢性障害学会の解説は、自助団体の活動の中心を「吃音があるのは自分だけではない」と認識し、共通の体験を語り合い、互いに援助し合うことだと説明しています。1965年に発足した言友会をはじめ、若い世代を対象にした団体などもあり、SNSや動画配信での発信も行われています。
次のようなときは、様子を見るだけで抱え込まず、相談を考えてみてください(当てはまらなくても相談して構いません)。
- 話し方を真似された、笑われた、「なんでそんな話し方なの?」と聞かれた——そんな出来事が学校であった
- 音読や発表のある日に、行きたがらない・体調の不調を訴えるようになった
- 言いたい言葉を避けて言い換えることが増え、話す量そのものが減ってきた
- クラス替えや転校など、聞き手がまるごと入れ替わる時期が近い
この4つは、この記事が挙げた資料の記述から相談のきっかけとして並べたもので、特定の資料が「受診の目安」として定めているものではありません。学齢期にいじめやからかいを経験する子どもが約半数にのぼることから、この時期は対策そのものが重要だ、というのが学会誌の総説の立場です。
そして、8歳で吃音が続いている場合の見通しについて。吃音ポータルサイトは、就学後も吃音が残る子どもでも、言語聴覚士やことばの教室で適した指導・支援を受ければ、多くの場合は、吃音が出にくくなるよう体の力みを自分で加減して話すやり方が身についたり、体に力の入る重い吃音が目立たなくなったりして、ふだんの生活で大きく困らずにやっていけるようになる、と述べています。
8歳の吃音で陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 「もう手遅れ」と支援をあきらめる
学齢児向けの水準の高い研究が少ないのは事実ですが、それは「働きかけに意味がない」という意味ではありません。就学後も吃音が続く子について、言語聴覚士やことばの教室が適した支援にあたれば、暮らしのうえでの支障は多くの場合小さくなる、と吃音ポータルサイトは書いています。教室のほうを整えてできることは、8歳からでもたくさんあります。
落とし穴2 − 話し方だけを直そうとする
「ゆっくり」「言い直して」と流暢さだけを求めると、かえって本人を追い込むことがあります。吃音ポータルサイトは、子どもに対して「ゆっくり」「落ち着いて」などの声かけは極力控えるように、とはっきり書いています。日本吃音・流暢性障害学会の解説も、吃音を恥ずかしいと思って出さないように力を入れてもがくと吃音は悪化するので、この悪化を防ぐことが大切だとしています。学会誌の総説が、話し方の訓練だけでは長期的にうまくいく割合が低いとしていることも、同じ方向を指しています。
落とし穴3 − 出方の変わる症状を、記録せずに判断する
8歳前後は、どの場面で話すかによって出方の差が大きくなる時期です。気をつけて話すときは出にくく、相談の場ではたまたま症状が出ないことも多くあります。調子の良い時期と悪い時期が数週間から数か月にわたって続く「波」もあります。1回の面談や1本の電話で「出ていないみたい」と判断してしまうと、この波を見落とします。
毎日の話し方は、その場では流れて消えてしまいます。まずは「どの場面で・どのくらい」出たかを軽く記録することから始めると、経過が見えやすくなります。記録はあくまで経過を把握し、専門家への相談を助けるためのもので、それ自体が治療ではありません。専門機関に相談できる場合は、そちらが確実です。
よくある質問
8歳の吃音は、もう自然には治らないのですか?
「治らない」と決まるわけではありませんが、確率は下がるとされています。吃音が出はじめてから2〜3年程度までの経過で7割以上が自然に治り、8歳頃以降は自然に治ることが少なくなる、と学会誌の総説は書いています。日本吃音・流暢性障害学会の解説も、出はじめてから4年以上たつ(あるいは8歳以上になる)と自然に治る確率は減少するとしています。見通しは一人ひとり違うので、気になるときは相談してください。
8歳から言語訓練を始めても意味はありますか?
8つの比較試験を集めて評価した報告では、就学前の子どもについては効果が確かめられた方法がある一方、学齢期の子どもや思春期を対象にした水準の高い研究は見つかりませんでした。これは研究の蓄積が少ないということで、働きかけに意味がないという意味ではありません。ただし学会誌の総説は、話し方の訓練だけでは長期的にうまくいく割合が低く、心理面・社会面の支えも必要だとしています。相談先で、訓練以外の選択肢も含めて相談するのがよいでしょう。
学校にはどんな配慮をお願いできますか?
2024年に施行された改正障害者差別解消法により、私立を含む学校でも、その人の困りごとに合わせて対応を変えること(合理的配慮)の提供が義務化されています。入学後に修学上の困難があるときも、双方の建設的な対話のうえで配慮が受けられます。学会誌の総説は、こうした配慮を求めるときに診断書が使えるとしています。あわせて、クラスに吃音を伝える取り組みも学会の解説が勧めています。
担任に「学校では吃音が出ていない」と言われました。安心してよいですか?
それだけでは判断できません。吃音は話す場面でしか症状が出ないため、悩みが過小評価されやすいとされています。また8歳頃以降は、どの場面で話すかによって出方の差が大きくなるとされています。学齢期には、言いやすい言葉に言い換える工夫が増えて周りからは減ったように見えることもあります。場面を挙げて本人に具体的にたずねてみてください。
何科・どこに相談すればよいですか?
日本吃音・流暢性障害学会の解説は、小児を扱う言語聴覚士と、ことばの教室の教員を相談先として挙げています。年齢や状態に合わせて、周りの環境を整える方法、話し方に直接働きかける方法、吃音そのものを理解する方法などを指導してもらえるとしています。吃音のある人が集まる自助団体も選択肢に入ります。通いにくい場合は、オンラインや集団での支援が対面の個別支援に劣らなかったという報告もあります。
まとめ
- 「8歳」は治療方針が切り替わる線ではなく、自然におさまりやすい時期をひと通り通り過ぎたあたりを指す目印です。出はじめから2〜3年で7割以上が自然に治り、4年以上たつ(あるいは8歳以上になる)と確率は下がるとされています。
- この時期は、ひとりごとではほとんど出なくなり、どの場面で話すかによって出方の差が大きくなります。周りから減ったように見えても、言い換えが増えているだけのこともあります。
- 学齢期には約半数がいじめやからかいを経験するとされ、教室での立ち位置は吃音の重さと結びついていませんでした。症状が軽いから大丈夫、とは言えません。
- 大人の側から動かせる手は3つ。場面を挙げて本人に聞く、合理的配慮を求める(2024年から私立の学校も義務です)、クラスに知らせる。
- 学齢期を対象にした水準の高い研究は見つかっていませんが、就学後も吃音が残る子どもについては、言語聴覚士やことばの教室の支援で暮らしの困りごとを減らせる場合が多いとされています。
