「あのね、あのね」は吃音?|見分けの線・回数より力み・相談の目安

「あのね、あのね」は吃音?|見分けの線・回数より力み・相談の目安
目次

「あのね、あのね、あのね」「えっと、えっと」——お子さんの口から同じことばが何度も並ぶのを聞いて、これは吃音(きつおん、どもり)なのか、それとも小さい子にはよくあることなのか、確かめたくなった保護者の方へ。症状の名前を知らないまま、耳にした音だけを手がかりに調べ始めた方が多いはずです。

この記事では、その「聞いた音」をそのまま出発点にして、語をまるごと繰り返すことと、「あ、あ、あのね」のように音を繰り返すことのあいだに、資料と研究がどこに線を引いているかを整理します。よりどころにするのは、国立障害者リハビリテーションセンター研究所の解説、幼児吃音臨床ガイドライン(2021)、日本吃音・流暢性障害学会の解説と、査読を受けた研究論文です。あわせて、4人の保護者が最初に耳にした音をどう書き留めたかを並べます。「だから吃音ではない」「だから吃音だ」と決めるための記事ではなく、何を聞き分け、いつ誰に相談するかを決めるための記事です。

ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる症状があるときは、言語聴覚士やことばの教室にご相談ください。

まず結論から

  • 吃音に特徴的な話し方は、音のくりかえし(連発)・引き伸ばし(伸発)・ことばを出せずに間があく(難発)の3つです。公的研究機関の解説が発達性吃音の始まりの例として挙げているのは「あ、あ、あのね」——語の頭の音が重なる形です。
  • 「あのね、あのね」のように単語全体を繰り返すことは、幼児吃音臨床ガイドラインの定義では吃音の中核症状に含めません研究の分類でも、複数の音節からなる語や句の繰り返しは、言い直し・「えーと」・間と同じ「誰にでもある言いよどみ」の側に置かれています。
  • ただし線は1本ではありません。「目」「木」のように1音で1単語の語の繰り返しは中核症状に含めるとされ、語をまるごと繰り返すことをどう扱うかには研究者のあいだで議論があります。
  • 見分けで重みをもつのは、回数よりも力みとリズムの乱れです。回数の目安はありますが、目安を上回っても力みもリズムの乱れもない子どもたちがいたことから、タイミングと力みのほうが見分ける力を持つかもしれないとされています。
  • 幼児は吃音でなくても正常範囲の言いよどみがあるので注意が必要で、変動が大きくごく短期間で消えることもあるため、半年程度以上続いていることを診断の条件にすることがある、とガイドラインは書いています。

ただし、この記事は「あなたのお子さんは吃音ではない」とも「吃音だ」とも決めるものではありません。ガイドライン自身が、1回の外来の所見だけで吃音の有無を診断することには慎重を要し、日常生活での発話の情報が必要だと書いています。判断は、小児を扱う言語聴覚士やことばの教室の教員に委ねてください。

「気のせい?」——最初に耳にした話し方を、そのまま書き留める

「あのね、あのね」なのか、「あ、あ、あのね」なのか。同じ子の同じ一言でも、聞こえた音をそのまま口にできる保護者ほど、判定の線に近づけます。幼稚園に入って間もない娘の話し方の変化を、母親が一息の中の動きまで書き分けた手記があります。

当事者の母の声(娘は幼稚園入園間もなく話し方が変わった/日本吃音臨床研究会の会報に掲載された手記)

「先生、さようなら」

かわいらしい大きな声で、幼稚園の先生にあいさつするや否や、かけ足で、自宅にかけこみました。帽子をかぶったまま、園のリュックを背負ったまま、息せき切って、話し始めました。自分の名前の一文字目の音を重ねながら、フルネームで何回も繰り返し発してから、本題に入りました。入園して間もなくの出来事でした。

話し方がいつもとちがう、気のせいかしらと思いつつも、胸に何か大きなつかえが残ったことを、今でもはっきり覚えています。次の日は、文の初めがスムーズに話せなくなっていました。どもっていると、感じました。

帰宅するなり走り込んできた娘が、自分の名前の一文字目の音を重ね、フルネームを何回も言ってから用件に入った——母親はその日を「気のせいかしら」と思いながら胸につかえが残った日として書き、翌日「文の初めがスムーズに話せなく」なった様子を見て、どもっていると感じたと続けています。注目したいのは、母親が一息のなかの2つの動きを書き分けていることです。「一文字目の音を重ねる」のは語の頭の音の繰り返し、「フルネームで何回も繰り返す」のは名前ひとまとまりの繰り返し。同じ一息に、2種類が同居しています。公的研究機関が吃音の中核症状として挙げているのは、このうち前者の型です。

出典: レジリエンスを育てる~親の体験・親の気持ち~(吃音と上手につきあうための吃音相談室・日本吃音臨床研究会)(台帳: V0159)

国立障害者リハビリテーションセンター研究所の解説は、吃音に特徴的な話し方を3つ挙げています。音のくりかえし(連発。例「か、か、からす」)、引き伸ばし(伸発。例「かーーらす」)、ことばを出せずに間があく(難発、ブロック。例「・・・・からす」)で、このどれか1つ以上が見られる話し方を吃音と定義しています。同じ解説が、発達性吃音の多くは軽い繰り返しから始まるとして挙げている例が「あ、あ、あのね」——語の頭の音「あ」が重なる形です。

つまり「あのね」という同じ語でも、資料が吃音の型として書いているのは「あ、あ、あのね」であって、「あのね、あのね」ではありません。この2つをはっきり分けているのが、幼児吃音臨床ガイドラインの定義です。繰り返し(連発)は音あるいは音節あるいは語の一部を繰り返すことで、単語全体を繰り返すことは吃音の中核症状に含めない、と明記されています。例外は「目」「木」のように1音で1単語になる語で、これは中核症状に含めます。

幼児吃音臨床ガイドライン2021が定義する繰り返しの線引き。中核症状に含めるのは、音(音韻)の繰り返し、音節(シラブル)の繰り返し、語の一部の繰り返し、1音で1単語の語(「目」「木」等)の繰り返し。含めないのは単語全体の繰り返し。繰り返し部分が2回以上あるのが吃音らしい繰り返しで、1回のみの場合は一般には中核症状とは呼ばないが、軽快途上等では吃音の症状と見なして臨床対応を続けることがある。繰り返し部分のリズムはほぼ一定のことが多く、速度は続く単語の構音速度以上のことが多い。
図1: 「あのね、あのね」と「あ、あ、あのね」を分けている線。出典: 「発達性吃音の最新治療法の開発と実践に基づいたガイドライン作成」研究班「幼児吃音臨床ガイドライン(第1版)2021」I-1 吃音の定義(1)繰り返し。

研究の側の分け方も同じ向きです。就学前の子どもは、ことばを身につける過程でごく自然に「誰にでもある言いよどみ」を出します。言い直し、複数の音節からなる語や句の繰り返し、ためらいや間、「えーと」のような挿入がそれで、その頻度では吃音のある子とない子を区別できないことが確かめられています。これに対して吃音特有の言いよどみは、音の引き伸ばし、ブロック、音や音節の繰り返し、そして1音節の語まるごとの繰り返しを指し、吃音のある子とない子を区別します。米国の専門職団体の解説も、単語をまるごと繰り返すこと("Cookies cookies and milk.")を、多くの人に起こり吃音とは見なされないものとして挙げています。

始まったばかりの子どもの発話を実際に数えた研究も、この線を支えています。親が何をもって吃音の始まりと判断したかを整理した疫学レビューでは、最初のサインとして最も多く挙げられたのは音節や単語(特に短い語)の繰り返しで、1回の症状で3〜5回繰り返すという報告が多かったとされています。発症から半年以内の子どもの発話を録音した研究では、語の一部の繰り返しが最も多く(100音節あたり平均5.29回)、次いで1音節語の繰り返し(同3.34回)でした。そして、ふつう吃音とは見なされない複数音節の語の繰り返しは、始まったばかりの子どもの発話にはほとんど出なかった、と書かれています。

発症から6か月以内の2歳から5歳の90人と、吃音のない対照54人の会話を録音して数えた、100音節あたりの平均回数。語の一部の繰り返しは吃音のある子5.29回・ない子0.56回、1音節語の繰り返しは3.34回・0.59回、リズムの乱れた発声は1.75回・0.09回。ふつう吃音とは見なされない複数音節の語の繰り返しは、始まったばかりの子どもの発話にはほとんど出なかったと同じ総説が記している。
図2: 始まったばかりの子の発話で多かったのは、語をまるごとではなく「語の一部」の繰り返し。出典: Yairi & Ambrose (2013) Epidemiology of stuttering: 21st century advances. J Fluency Disord. が引く Ambrose & Yairi (1999) の値(この総説が自分で測った値ではありません)。

「ふざけている?」——わざとではない、が最初の手がかり

「わざとやっているのでは」「ふざけているのでは」——語の繰り返しでも音の繰り返しでも、保護者が最初に抱きやすい疑いです。そう思って笑い、注意し、翌日に気づいた母親の記録があります。

当事者の母の声(息子は2歳3か月・保育園入園から1か月/個人ブログ note)

「ママママママ、ママ、おおおおおお、お茶、ちょうだい」

最初は、ふざけているのかと思った。

「何その喋り方?マが多過ぎるよ」なんて言って笑って返していた。それが吃音であると認識したのは、次の日になってからだった。

「マ、ママママママ、ママ、こ、ここここれ」「そろそろやめなさいそれ。変なクセつくよ」

注意する私に、息子は「?」を顔に浮かべていた。その時ようやく気付いたのだ。「あ、これはわざとじゃないんだ」と。

保育園に入って1か月、2歳3か月になった息子のことばが、園の友達に刺激されてぐんと伸びていた矢先の出来事です。「ママ」の「マ」が重なり、「お茶」の「お」が6つ続く。母親はふざけていると思って笑って返し、翌日には「変なクセつくよ」と注意しました。息子が「?」という顔をしたとき、初めて「わざとじゃない」と気づいたと書いています。ここに出ているのは「マ」「お」「こ」という語の頭の音の繰り返しで、公的研究機関が中核症状として挙げる型にあたります。そして「わざとではない」という母親の気づきは、研究が吃音特有の言いよどみと誰にでもある言いよどみを分けるときの、いちばん深い線と重なっています。

出典: 息子と吃音(note)(台帳: V0005)

吃音の仕組みを説明した理論論文は、この2つの違いを次のように言い切っています。誰にでもある言いよどみは、話し手が発話の制御を保つために、おおむね先回りして戦略的に作り出されるもの。これに対して吃音特有の言いよどみは反応的で戦略的ではなく、しかも「どもりたくない」と最も強く思っているときにこそ起きます。同じ論文は、音・音節や語の繰り返しが幼い子どもに最も多い型になるのは、ことばの組み立てのつまずきを自分で直そうとする自然な反応だからだと説明し、急ブレーキをかける脳の回路が学齢期まで成熟しない可能性があるため、その回路が育つにつれてブロックや引き伸ばしが主な型になっていく、と述べています。

一方、「あのね、あのね」のような誰にでもある言いよどみは、ことばが急に伸びる時期に現れることが知られていて、幼い子どものことばの成長と結びついていることが、一つの言語で育つ子どもで長く研究されてきました。「発話の流れをさえぎるが、その発話に新しい内容を足さない現象」というのが、研究で使われている定義です。2歳3か月でことばが急に伸びていた、という母親の観察は、この時期の特徴とも重なります。もっとも、この家庭で出ていたのは音の繰り返しのほうでした。

「何回まで普通?」——回数より、力みとリズム

「何回繰り返したら吃音なのか」。数える保護者は多いはずです。回数の目安はたしかにあるのですが、専門家が回数よりも重く見ているものがあります。2歳半の息子の話し方を、回数とは別の言葉で書き留めた母親の手記を先に読んでください。

当事者の母の声(息子は2歳半で話し方が変わった/日本吃音臨床研究会の会報に掲載された手記)

息子の話し方が気になりだしたのは、2歳半の頃でした。発することばの第一音を長く伸ばすようになりました。例えば、「あーーお(青)」「さーーわこちゃん(佐和子ちゃん)」というふうに。また、伸ばしているときは、力んでいるようでした。ただいつもこういう話し方になるのではなく、自然に消失したように感じられる時期もありました。

ちょうど、3歳の誕生日が3歳児検診の日でした。検診後、Aの話し方について相談したことを覚えています。その頃は、「おおおおおかあさん」というふうに第一音を何回も繰り返す状況でした。保健士さんからは、特にアドバイスはなく、「様子をみましょう」ということでした。

2歳半で息子のことばの第一音が伸び始め、「あーーお」「さーーわこちゃん」と伸ばすときは力んで見えた。それが自然に消えたように感じる時期もあり、3歳の誕生日に重なった3歳児検診のころには「おおおおおかあさん」と第一音を何回も繰り返していた——保健師から返ってきたのは「様子をみましょう」だけでした。同じ手記の少し先で母親は、当時は気にはなったが深い悩みではなく、「ましてや吃音とは思っていませんでした」と書いています。ここで母親が残した観察は3つ——引き伸ばし、繰り返しの回数、そして「力んでいるよう」という様子です。専門家が回数よりも重く見ているのは、この3つ目です。

出典: 息子Aの吃音を受け入れて(吃音と上手につきあうための吃音相談室・日本吃音臨床研究会)(台帳: V0050)

回数の目安は、たしかにあります。英語を話す一つの言語で育つ子どもでは、繰り返しの回数が平均3回以上だと吃音の指標とされてきました。親が最初のサインとして挙げる繰り返しも、1回の症状で3〜5回という報告が多く、発症直後の子どもの録音では、1音節語の繰り返しの間隔が吃音のない子どもより3倍速い(繰り返した語のあいだの間が短い)という違いもありました。幼児吃音臨床ガイドラインも、繰り返し部分が2回以上あるのが吃音らしい繰り返しで、1回だけなら吃音のない子どもにも見られる正常範囲の言いよどみとみなす、としています。ただし1回の繰り返しでも頻度が高い場合や、軽くなっていく途中の症状の場合は注意深く見守る必要がある、とも添えられています。繰り返し部分のリズムはほぼ一定で、速さは続く単語を言う速さ以上のことが多い、というのがガイドラインの書く「吃音らしい繰り返し」の姿です。

ただし、回数は万能ではありません。スペイン語と英語の2つの言語で育つ、吃音のない子どもたちを調べた研究では、繰り返しの回数が平均4〜6回と目安を上回っていたのに、リズムにも力みにも非典型なところは一つもありませんでした。研究者は、回数を数えるときは慎重であるべきで、むしろ繰り返しのタイミングと力み(緊張)のほうが見分ける力を持つかもしれない、と述べています。さらに踏み込んで、1音節語の繰り返しは非典型なタイミングと力みを伴って出たのでなければ、吃音の頻度の計算に入れるべきではない、とも提言しています。力みやリズムの乱れを伴う話し方のほうが、頻度の高さより保護者を心配させるのかもしれない、という見通しも同じ論文にあります。

スペイン語と英語で育つ、吃音でない5歳6か月から6歳7か月の18人で数えた繰り返しの回数。音の繰り返しは平均5回で範囲は4から8、音節の繰り返しは平均5回で範囲は3から9、1音節語の繰り返しは平均6回で範囲は4から10。単一言語の英語話者では平均3回以上が吃音の指標とされてきたが、この18人ではリズムにも力みにも非典型なところはなかった。
図3: 目安を上回っても、リズムにも力みにも非典型なところはなかった。出典: Byrd, Bedore & Ramos (2015) The disfluent speech of bilingual Spanish-English children. Lang Speech Hear Serv Sch. 46, 30–43.(結果の節・繰り返しの回数。点線の「3回」は原典が Pellowski & Conture 2002 から引く目安)

日本語には日本語の事情もあります。日本の3歳児を対象にした調査では、吃音かどうかを「吃音特有の型か」「1回の言いよどみの中で繰り返しが複数回起きているか」の2つで判定し、音の繰り返しか語の繰り返しかがあいまいなときは研究者が実演して、語まるごとの繰り返しのような正常な型か、吃音特有の型かを確かめました。そして、英語では吃音とされる1音節語の繰り返しも、日本語では「き」「て」のような1モーラ(かな1文字ぶんの長さ)の語の繰り返しが吃音のない子どもにも見られるため、正常な言いよどみの一つとして扱っています。海外の目安をそのまま当てはめられない理由が、ここにあります。

「成長の段階でよくあること?」——相談の目安を、数字と期間で

「これは成長の一段階なのか、それとも相談すべきものなのか」。3歳児健診を前に、その問いをそのまま書き残した母親がいます。

当事者の母の声(30代・息子は3歳児健診を控えた時期/個人ブログ アメブロ)

近々、3歳児健診があります。

そこでぜひ聞いてみたいと思っているのは…

• 成長の段階でよくあることなのか

• 医療機関や専門の相談が必要かどうか( 目安や頻度)

• 家庭での声かけや対応で気をつけるポイント

息子のことばがつっかえるようになって半年。最初は「どうしたんだろう」と不安でいっぱいで、最初の文字を強く繰り返す時期も、引き伸ばす時期も、まったく出ない時期もあり、また戻ってくる——波のように変わる様子に心を揺さぶられてきた、と同じ記事の前半にあります。健診で聞きたいこととして並べた3つは、成長の段階でよくあることなのか、専門の相談が必要かどうかの目安や頻度、そして家庭での声かけ。あちこちで調べ、ことばの教室にも少し相談したうえで、それでも「本格的に専門の方に相談する目安はどれくらいなんだろう」と書いています。この問いには、日本のガイドラインが目安を数字と期間で答えています。

出典: 息子の吃音との向き合い方|3歳児検診で聞きたいこと(アメブロ)(台帳: V0281)

幼児吃音臨床ガイドラインは、幼児の吃音は中核症状が100文節(文を短く区切った単位)あたり3以上見られることで診断されるとし、そのうえで、幼児期は吃音でなくても正常範囲の言いよどみが見られるので注意が必要だと書いています。さらに、幼児の吃音は変動が大きく、ごく短期間で消える場合もあるため、相談時の年齢や症状を確かめながら、半年程度以上にわたって症状が見られていることを条件にすることがある、としています。「半年前から」というこの母親の記録は、ちょうどその期間にかかっています。

一回の様子で決めないことも、ガイドラインが強調している点です。幼児期の吃音は時間による変動が大きく、場面によって頻度が大きく違うため、1回の外来の検査所見だけで吃音の有無(特に「吃音がない」とすること)や程度を診断することには慎重を要し、日常生活での発話の様子についての情報が必要だとされています。研究の側でも、吃音のない3〜5歳の子どもはときどき正常の範囲でどもる、ふつうの話し手だと書かれています。ドイツの診療ガイドラインは、話した音節の3%以上がどもられていることを診断の目安としつつ、頻度にかかわらず、1回の症状が長い、情動的な負担がある、話すことを避ける、力みや体の動きを伴うといった様子があれば吃音を疑って評価すべきだとしています。

そして、保護者の観察そのものに重みがあります。就学前の吃音のふるい分けを扱ったレビューは、保護者の報告は一般に精度が高いと述べ、予測する力が高いとされた要因の中で最も多くの研究が挙げていたのは「吃音の訴えがあること」そのものだった、と報告しています。気になって観察している、という事実は、それ自体が意味のある手がかりです。相談先は、小児を扱う言語聴覚士と、ことばの教室の教員です。年齢ごとの相談の目安は、2歳3歳セルフチェックと受診先の記事に整理しています。

「えっと」「あのー」——つなぎのことばは、吃音の側にも出る

子どもの「あのね」と並んで、大人の「えっと」「あのー」が多いことを気にしている方もいるでしょう。研究の分類では、「えーと」のような音や語を足すこと(挿入)は、多くの人に起こり吃音とは見なされない言いよどみです。言い直し、「えーと」で埋めた間、沈黙の間、句の繰り返し、複数音節の語の繰り返しが、報告されることの多い「誰にでもある言いよどみ」として並んでいます。

ただし、つなぎのことばは吃音のある人の側にも出ます。国立障害者リハビリテーションセンター研究所の解説は、身体を動かして勢いをつける、ことばの最初に「あのー」をつけるといった工夫でたまたまことばが出た経験をすると、出にくいときは常にその方法を使うようになることがあると書き、これを二次的行動(繰り返しやことばが出ないという症状以外に身についていく特徴)の一つとして説明しています。つまり大人の「あのー」が多いとき、それは準備不足や話し方の癖ではなく、出にくいことばの手前で助走をつける工夫であることがあります。

語の繰り返しについても、似た指摘があります。詰まりの出る位置を調べた研究は、語の繰り返し——特に「が」「を」にあたる短い語の繰り返し——は、この先に来る音の繰り返しや引き伸ばしの手前で時間をかせぐ試みかもしれない、と限界の一つとして書いています。同じ論文は、語をまるごと繰り返すことを吃音の一次症状に含めるべきでないとする立場があることにも触れています。「あのね、あのね」だけを見て決められない理由が、ここにもあります。言い換えや隠す工夫については吃音の種類の記事で、音の繰り返しそのものは連発の記事で、定義は吃音の定義と分類の記事で扱っています。

2つの言語で育つ子・多動のある子では、目安をそのまま当てはめない

家庭で2つの言語を使っている子どもでは、目安をそのまま当てはめられません。ことばの面から吃音を整理したレビューは、一つの言語で育つ子ども向けの目安(誰にでもある言いよどみが2〜3%)を2つの言語で育つ子どもに使うと誤診につながりやすいと複数の著者が注意していることを紹介し、代わりに力み・リズムの乱れ・音の引き伸ばしといった、吃音に伴う他の様子を観察するほうが適切だとしています。スペイン語と英語で育つ子どもの研究も、一つの言語向けの頻度の目安は低すぎると考えられ、1音節語の繰り返しだけで頻度が今の基準の5倍近くまで膨らみうると報告しています。2つの言語で育つ子どもの保護者は、子どもの言いよどみを聞き慣れているため、心配になるまでの頻度がずっと高いかもしれない、とも述べられています。

注意や多動の特性がある子どもでも、見分けは難しくなります。ADHDの症状がある子どもには、吃音らしい言いよどみ(引き伸ばし・繰り返し・ブロック)も、そうでない言いよどみ(挿入、複数音節の語や句の繰り返し、言い直し)ももともと多いため、吃音の診断が難しくなりうると指摘されています。多動と吃音の重なりは発達障害との関係の記事に、知能との関係は吃音と知能の記事に、それぞれ整理しています。

「あのね、あのね」で陥りがちな3つの落とし穴

落とし穴1 −「繰り返しているから吃音」と決める

「あのね、あのね」のように単語全体を繰り返すことは、ガイドラインの定義では中核症状に含まれません。誰にでもある言いよどみの頻度では、吃音のある子とない子は区別できないとされています。何を繰り返しているか——語の頭の音か、語まるごとか——を聞き分けることが先です。

落とし穴2 −「語ごとだから吃音ではない」と安心しきる

1音で1単語の語の繰り返しは中核症状に含めるとされ、英語の分類では1音節の語まるごとの繰り返しは吃音特有の側に置かれています。語の繰り返しが、この先の詰まりの手前で時間をかせぐ試みである可能性も指摘されています。力みやリズムの乱れがあれば、語ごとの繰り返しでも見てもらう理由になります。

落とし穴3 − 一度の様子で決める

症状には数週間から数か月にわたる波があり、ガイドラインも1回の外来の所見だけで診断することに慎重を求めています。半年程度以上続いているかが条件になることもあるので、いつ・どんな場面で・何をどう繰り返したか(「あ、あ、あのね」なのか「あのね、あのね」なのか)を短く書き留めておくと、相談のときにそのまま材料になります。

まずは記録から小さく始めるのが現実的です。小児を扱う言語聴覚士やことばの教室の教員に相談できる場合は、そちらが確実です。

よくある質問

「あのね、あのね」と語をまるごと繰り返すのは吃音ですか?

幼児吃音臨床ガイドラインは、繰り返し(連発)を音・音節・語の一部を繰り返すことと定義し、単語全体を繰り返すことは中核症状に含めないとしています。研究でも、複数音節の語や句の繰り返しは誰にでもある言いよどみに分類されます。ただし力みやリズムの乱れを伴う場合や、音の繰り返しが混ざる場合は別なので、気になるときは相談してください。

「あ、あ、あのね」との違いは何ですか?

「あ、あ、あのね」は語の頭の音を繰り返す形で、公的研究機関の解説が発達性吃音の始まりの例として挙げているものです。「あのね、あのね」は語をまるごと繰り返す形で、ガイドラインの定義では中核症状に含まれません。同じ「あのね」でも、繰り返されている単位が違います。

何回繰り返したら吃音ですか?

ガイドラインは、繰り返し部分が2回以上あるのが吃音らしい繰り返しで、1回だけなら正常範囲とみなすとし、診断は中核症状が100文節あたり3以上見られることを基準にしています。ただし2つの言語で育つ吃音のない子どもは平均4〜6回繰り返しても力みやリズムの乱れがなく、回数よりタイミングと力みのほうが見分ける力を持つかもしれないとされています。回数だけで決めないでください。

大人の「えっと」「あのー」が多いのは吃音ですか?

「えーと」のような挿入は、それだけなら多くの人に起こり吃音とは見なされない言いよどみです。一方で、ことばの最初に「あのー」をつけてたまたま言えた経験から、出にくいときに常にその方法を使うようになる二次的行動も知られています。多いこと自体より、言いにくいことばの手前で出ているかどうかが手がかりになります。

いつ、どこに相談すればいいですか?

ガイドラインは、半年程度以上にわたって症状が見られていることを条件にすることがあるとし、1回の様子だけで「吃音がない」と決めることにも慎重を求めています。保護者の報告は一般に精度が高いとされているので、気になった時点で、小児を扱う言語聴覚士やことばの教室の教員に相談して構いません。

まとめ

  • 吃音に特徴的な話し方は連発・伸発・難発の3つ。公的研究機関が始まりの例として挙げるのは「あ、あ、あのね」——語の頭の音の繰り返し。
  • 「あのね、あのね」のように単語全体を繰り返すことは、幼児吃音臨床ガイドラインの定義では中核症状に含めない。研究の分類でも複数音節の語や句の繰り返しは誰にでもある言いよどみの側。始まったばかりの子どもの発話にはほとんど出なかった。
  • ただし1音で1単語の語の繰り返しは中核症状に含め、語の繰り返しが詰まりの手前の時間かせぎである可能性も指摘されている。線は1本ではない。
  • 回数の目安(2回以上・平均3回以上)はあるが、目安を上回っても力みもリズムの乱れもない子どもたちがいた。見るべきはタイミングと力み。日本語では1モーラ語の繰り返しは正常とされる。
  • 幼児は吃音でなくても正常範囲の言いよどみがあり、半年程度以上続いていることが条件になることもある。1回の様子で決めず、保護者の観察を材料に、小児を扱う言語聴覚士やことばの教室へ。

参考文献

  1. 国立障害者リハビリテーションセンター研究所 感覚機能系障害研究部「吃音について」
  2. 「発達性吃音の最新治療法の開発と実践に基づいたガイドライン作成」研究班「幼児吃音臨床ガイドライン(第1版)2021」(plaza.umin.ac.jp/kitsuon-kenkyu)II-1 定義・Q2
  3. 日本吃音・流暢性障害学会 広報委員会「吃音(きつおん)について」(2023)
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  16. Walsh, Tichenor & Gerwin (2025) The Significance of a Higher Prevalence of ADHD and ADHD Symptoms in Children Who Stutter.

保護者の声の出典: V0159(日本吃音臨床研究会「吃音と上手につきあうための吃音相談室」・幼稚園入園間もない娘の母の手記)/ V0005(note・2歳3か月の息子の母の記録)/ V0050(日本吃音臨床研究会「吃音と上手につきあうための吃音相談室」・2歳半で話し方が変わった息子の母の手記)/ V0281(アメブロ・3歳児健診を控えた息子の母の記録)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-09-05 公開