まず結論から
- 日本で「吃音のガイドライン」といえば、2021年9月30日に公開された「幼児吃音臨床ガイドライン」第1版を指すことが多く、想定されている読み手は幼児の吃音に接する医師・言語聴覚士・保健師です。
- その中心にあるのは、専門家が足りない現状を前提に「自然治癒をできるだけ生かすために、直接的な治療に入る時機を妥当な範囲で遅らせる」という優先順位の付け方です。
- 推奨には A・B・C1・C2・D の等級が付いていて、たとえば C2 は「十分な科学的根拠がないので、勧められない(有害という証拠もない)」という意味です。
- 海外にもガイドラインがあり、ドイツの17の専門学会がまとめたものは「行うべきでない治療」と「避けるべき手続き」まで書いています。
- 専門家向けの本体とは別に、保護者や園・学校の先生に向けた平易な情報提供書やリーフレット、初診用の問診票が添付資料として公開されています。
ただし、ガイドライン自身が「指標であって全症例を縛るものではない」「書かれているのは確率や平均であって、個別のお子さんの経過を言い当てるものではない」と断っています。ここから先も、そのつもりで読んでいただければと思います。
「吃音のガイドライン」と呼ばれているものは、ひとつではない
同じ言葉で呼ばれていても、中身も対象年齢もかなり違う文書が並んでいます。手元で原典を開けるものを整理すると、次の3つになります。
1つめは、日本の「幼児吃音臨床ガイドライン」第1版です。2021年9月30日に公開されました。目的は「幼児吃音の臨床に関して、わが国における疫学的知見を踏まえ、現在利用可能な人的・施設的資源を用いて最大限の効果を上げるための戦略的臨床指針を示すこと」と書かれています。日本医療研究開発機構(AMED)の補助を受けた研究の成果で、国立障害者リハビリテーションセンターのほか、金沢大学・北里大学・九州大学・国際医療福祉大学・筑波大学・広島大学・福岡教育大学などが参加し、5名の外部専門家による査読と2回のパブリックコメントを経ています。臨床でよく問題になることを「クリニカル・クエスチョン」=現場の問いの形にして並べ、その答えに、根拠の確かさに応じた推奨の等級を付けた構成になっています。
2つめは、ドイツの診療ガイドラインです。17の専門学会が、合意と研究の裏づけをもとに作り、ドイツ医学会連合(AWMF)のサイトで公開しています。作り方も本文に書かれていて、4つの文献データベースを2000年から2016年4月の範囲まで調べ、方法の条件を満たした43本の文献を採用したこと、8人の執筆グループが文案を作り、まず利益相反のある人を除いて投票し、次にその人たちを含めて投票し直す二段階の手続きを踏んだことが記されています。年齢を幼児期に限っていないので、青年・成人の話も含まれます。
3つめは、評価(見立て)のしかたについての国際的な合意文書です。吃音について多く書いてきた12人の臨床家・研究者が、就学前の子ども・学齢期・思春期・成人それぞれの診断評価で普段どんな情報を集めているかを出し合い、共通する6つの領域を取り出しています。背景の情報、ことばや気質の発達(とくに年少の場合)、流暢さと吃音の出方、本人がその出方をどう受け止めているか、周囲がどう反応しているか、そして生活にどんな支障が出ているか、の6つで、年齢と本人・家族の必要に応じて濃淡を付けるとされています。
なお、コクランの系統的レビュー(同じテーマの研究を決まった手順で漏れなく集めて統合したもの)は、ガイドラインそのものではありませんが、ガイドラインが推奨を決めるときに読む材料です。就学前の子どもへの薬を使わない介入については、比較試験4件・2歳から6歳の151人分が統合されています。
臨床家に向けて書かれた文書を、親や本人が読んでいいのか
最初に引っかかるのが、ここだと思います。ガイドラインは、自分が読むことを想定して書かれた文書ではない——その感覚は正しく、そしてそのうえで読んでいる人がいます。
吃音のある会社員の当事者(文献を読んで調べたことをまとめている本人・note)
本来は臨床家向けのもので、一般人の我々が基本的には読むものではないと思います。
しかし、子供が吃音のときにどのように対応すればよいかが分かるので、自信を持って吃音と向き合うことができるようになるのではないかと思っています。
これらの内容は、現場でも知らない方がいらっしゃるという話をために聞くので、我々関係者側が深く理解しておく必要もあるように感じます。
吃音で休職した経験があり、論文や海外の文献を読みながら調べてきたという会社員が、自分でまとめたリンク集の中に、日本のガイドラインを「保護者向け」の棚として置いています。読むものではない、と断ったうえで、読めば分かることがあると書き、さらに「現場でも知らない方がいらっしゃる」と続けているところに、この文書の置かれた位置がそのまま出ています。専門家向けに書かれた指針が、専門家の全員には届いていないかもしれない——それは、ガイドラインの側もはっきり前提にしていることです。
出典: 吃音関係で役立つリンク集(随時更新)(note)(台帳: V0492)
ガイドラインが想定している読み手は、はっきり書かれています。「幼児の吃音に接する機会がある医師(主に小児科医と耳鼻咽喉科医、児童精神科医)と、症状の評価と治療を担当する言語聴覚士、保健センター等で吃音の相談を受ける保健師が主である」。目標として掲げられているのは、日常的に吃音を多く診ているわけではない臨床家でも、できるだけ迷わずに標準的な手順で対応できるようになることです。つまりこれは、専門家の中の「よく知っている人」ではなく「あまり接していない人」に向けて書かれた文書だということになります。
そして、非医療職や保護者が読むためのものは、別に用意されています。研究班は、医療関係者以外の方々や保護者に読んでもらえるよう平易に説明した添付資料を作り、幼児期に治るかどうかにかかわらず、保護者や周囲が吃音への対応を理解して不安やストレスが減ることを期待する、と書いています。本体が読みにくいのは設計の都合であって、閉め出されているわけではない、ということです。
「様子を見ましょう」は、どこから来ている言葉なのか
相談に行った家庭が最初に受け取る言葉は、たいてい「様子を見ましょう」です。その一言だけが残り、理由の説明がないまま帰ることになりやすいことは、ガイドラインを作った側も現状認識として書いています。
年長の娘に吃音がある母(保育士・note)
今回、先生とお話している間、娘の吃音は1度だけしか見られませんでした。初めて会う先生だったので緊張していて、結構見られるのかなと思いましたが、そうではありませんでした。
先生からも、
「今すぐ何か特別な訓練や手立てが必要な状態ではなさそうですね。」
と言っていただきました。
この母親の家では、娘の吃音は3歳ごろに始まりました。保育士として同じような子に会った経験もあり、環境の変化もあったので「様子見で大丈夫かな」と過ごすうちに、吃音は目立たなくなっていったといいます。ところが年長になって3か月ほど経った頃、最初の言葉を繰り返す形で再び現れます。娘自身が「話しにくいときがあるんだよね」と言葉にしたこと、小学校入学が近いことから、言語聴覚士と話す機会を作りました。面談で告げられたのが、この一言です。個別の場面での見立てですが、ここで出てくる判断の枠組みは、ガイドラインが示している考え方と重なっています。
出典: 6歳の娘の吃音。言語聴覚士の先生とのお話。(note)(台帳: V0173)
日本のガイドラインが「戦略的」と名乗るのは、この待機の理由が、子どもの側の事情だけで決まっているわけではないからです。海外では発症後の早期治療が原則とされる一方、日本ではそれを原則にすると治療を受けられない子がほとんどになってしまう、という前提が置かれています。そのうえで優先順位の1番目に挙げられているのが、「自然治癒をできるだけ生かすために、直接的治療介入に入る時機を妥当な範囲で遅らせる」ことです。実際、幼児期の発症率はおよそ8%、自然に治る割合は70〜80%とされています。日本語の総説でも、発症から2〜3年程度までの経過で7割以上が自然に治るとされています。
待つといっても、期限が無いわけではありません。国内の要約では、最初の1年は重症度が見通しと関係しないので待機する(例外の条件はある)、自然に治るまで2〜3年かかることもよくある、と整理され、治療が必要と判断する基準として「重症/悪化/発話が苦しそう/本人が気にしている」といった状態と、「就学の1年程度前になっても軽快傾向がない」ことが挙げられています。日本語の総説も、発話に苦しさや努力、悪化の傾向があるか、就学1年前頃になっても改善の傾向がない場合に言語治療を開始する、としています。
ドイツのガイドラインは、同じことを別の刻み方で書いています。3歳から6歳の子どもは発症から6〜12か月のあいだ経過を見て、その期間を過ぎても続いていれば治療を始める。ただし、持続の危険因子がいくつも重なっている場合、制御を失う感じや力の入り方を伴う症状が長く続いている場合、症状が親や子にとって負担になっていて避ける行動が出ている場合には、直ちに始めるべきだとしています。そして、就学前に治療を終えることを目指すとしたうえで、「完全な回復は保証できない」と明記しています。待つという方針は、放っておくという意味ではなく、区切りと例外がセットで書かれている、ということです。
「行うよう強く勧められる」方法は、家で毎日何をするのか
日本のガイドラインで最も強い等級が付いているのは、リッカム・プログラムという方法です。名前だけが「推奨グレードA」という記号と一緒に流通していますが、実際には家庭で毎日行う取り組みで、担い手は保護者になります。
3歳前に吃音が出た息子の母(仮名。育児メディアの体験記事)
プログラムは言語聴覚士から直接指導を受けている親しか行ってはいけない、寝る前ではなくできるだけ日中に行う、吃音の状態について0〜9段階の記録を付ける、365日続けるというルールがあります。毎朝、幼稚園のしたくを済ませてから、康太との練習を録音して、オンラインファイルで先生に共有しました。私たちの場合は遠方ということもあり、先生がその録音を聞いた上で、月に2回、オンラインミーティングを行い私にフィードバックをくれる形で治療を進めています。
練習自体は子どもの集中力が切れない10〜15分程度。内容も、カードや絵本を親子で読むような感じだったので、本人は楽しみながらやっていました。先生から楽しい教材をいくつも教えてもらい、それを購入して取り組みました。ちゃんとできない日もあるし、親子げんかになる日もありますが(笑)、とにかく毎日続けようと、頑張っています
この家庭では、幼稚園の先生や地域の発育相談に相談しても、具体的な治療の情報はなかなか得られませんでした。息子が「どうして僕はみんなみたいにしゃべれないの?」と言ったことをきっかけに支援先を探し直し、住んでいる地域から遠い相談室の言語聴覚士とオンラインでつながって、家庭での取り組みを始めたといいます。毎朝の録音と月2回の面談という形は、通える範囲に専門家がいない家庭の工夫です。ここに出てくる「0〜9段階の記録」も「毎日続ける」も、研究で説明されているこの方法の中身と一致しています。
出典: 「どうして僕はうまくしゃべれないの?」ある日突然、3才の息子に吃音の症状が…。誰にも相談できずに悩み続けた日々【体験記】(たまひよ)(台帳: V0006)
研究の側からの説明も、だいたい同じです。この方法は保護者が担い手になる行動の学習プログラムで、言語聴覚士が保護者にやり方を教えます。つっかえずに言えたときは褒め、はっきり吃音が出たときは穏やかに伝える。保護者は家庭など普段の環境で毎日取り組み、進み具合を追うために子どもの吃音の重さを尺度で評価する訓練も受けます。ほぼ流暢な状態まで持っていく段階と、それを維持する段階の2つがあり、後半では支援が少しずつ引き上げられていきます。日本のガイドラインの記述も、3週間連続でほぼ流暢な状態を目標とする段階1と、それを維持する段階2の二段構えで、段階1では保護者が週1回臨床家のもとを訪れて実施方法の指導を受け、治療は主に家庭で保護者が行う、となっています。
等級が「A」=行うよう強く勧められる、と付いた理由も書かれています。くじ引きのように群を分けて比べる研究(無作為割付比較試験)で、自然に治るのを待つ群と比べて早く改善することが示され、段階2を終えた例の長期の経過も良好で、開発元以外の施設からも有効性の報告がある、という3点です。子ども・思春期の吃音への介入を集めた系統的レビューでも、就学前の子どもについてこの方法は最高の等級と評価されています。
ただし、同じレビューは注意書きも残しています。研究の偏りの危険度は全体として中等度で、その理由は、割り付けを隠す手続きの報告が足りないこと、参加者に伏せることができないこと、結果の評価が標準化も盲検化もされていないこと、脱落の記述が明確でないこと。そして注目すべき点として、この方法を調べた8件の研究のうち6件が、その方法をもともと開発した著者らによって行われていたと明記しています。さらに、レビューに入った8件はすべてこの方法を介入または比較相手として含んでいました。手厚く調べられている方法である、ということと、他の方法と同じ土俵で比べ尽くされている、ということは別だ、という読み方になります。
A から D までの等級と、「根拠がない」の意味
ガイドラインを開くと、答えの末尾に記号が付いています。ここを取り違えると、書いてある内容と逆の意味で受け取ってしまいます。日本のガイドラインは、次のように定義しています。
- A — 行うよう強く勧められる
- B — 行うよう勧められる(少なくとも1つのレベルIIの結果)
- C1 — 行うことを考慮してもよいが、十分な科学的根拠がない(適応に注意)
- C2 — 十分な科学的根拠がないので、勧められない(有害という証拠もない)
- D — 行わないよう勧められる
根拠の強さのほうにも段階があり、上から、くじ引きで群を分けた研究を集めて統合したもの、その研究1件、群を分けて比べた良い設計の研究、それに準じる研究、比較や相関や症例の記述研究、そして専門家の報告・意見・経験、という順に並んでいます。「C2」は効かないという意味ではなく、判断できるだけの材料がまだ無い、という意味です。「D」だけが、やらないほうがよい、という判定になります。
読み方の注意も本文に書かれています。ガイドラインは指標であって全症例を縛るものではないこと、領域ごとにも個別の事項ごとにも根拠の強さは違うので「その領域の推奨グレードのみに依拠せず、各個別の臨床判断が依拠するエビデンスのレベルと適応範囲に常に注意する必要がある」こと、そして統計についてのこの一文です。「統計的に有意でないことを『差がない』と解釈する間違いが散見されるが、有意差がないという場合は、『同じか違うかわからない(判断できない)』ということであって、『同じである』と決めつけてはならない」。差が出なかった、という報告を「同じだった」と読み替えないこと——これは、研究の紹介を読むとき全般に効く注意です。
もうひとつ、等級が付かない設問もあります。発症率と自然に治る割合を答えた設問には、根拠の段階は示されていますが推奨の等級は「非該当」です。事実を述べているのであって、何かを勧めている箇所ではないからです。
そして、ガイドライン自身が「まだ分かっていない」と書いている場所があります。ドイツのガイドラインは、治療法とその形式の長期的な有効性と効率、治療がうまくいくかどうかや再発を予測する因子、どの方法をどんな人に適用すべきかの決め方、そして患者がある方法を選ぶ理由について、研究が必要だと結んでいます。子ども・思春期のレビューも、学齢期の子どもと思春期の当事者を対象にした無作為割付比較試験は見つからず、この年齢層を厳密に評価できるだけの材料が不足していると述べています。日本のガイドラインが幼児期に限っているのも、この分布と無関係ではありません。
「行わないよう勧められる」と書かれているのは何か
推奨のリストより短いのに、実際の役に立ちやすいのがこちらです。ドイツのガイドラインは、否定側の評価をはっきり書いています。薬による治療は、強い否定的な根拠があるとして「行うべきでない」。リズムに乗せて話すことや呼吸の調整を唯一のあるいは主な治療の柱にすること、催眠、そして分かる形の考え方を持たない吃音療法は、弱い否定的な根拠があるとして「行うべきでない」とされています。呼吸の調整そのものの評価は腹式呼吸の記事で詳しく扱っています。
さらに、避けるべき手続きが6つ挙げられています。日常生活へ持ち出すための手立てを含まないもの、再発への対処を含まないもの、短期的な成功はあるが長期の観察研究がないもの、呼吸の変更や力を抜く方法だけに頼るもの、吃音の原因や再発の責任を本人や家族に負わせるもの、そして治癒を約束し、治療の目標と方法を分かる形で説明しないものです。最後の2つは、専門知識がなくても外から確かめられます。
日本のガイドラインにも、等級Dが付いた設問があります。吃音の原因そのものを取り除く治療が可能かという問いに対する答えは「現在は、不可能である」です。遺伝子を導入する治療は吃音では行われておらず、すでに吃音があってそれに対応する脳の回路ができている状態で遺伝子を入れたときにどの程度治るかは分かっていない、と説明されています。
機器やソフトについても位置づけが書かれています。話す速さの目安を与える装置や、自分の声を遅らせたり音の高さを変えて返す装置・ソフトは、使っている間は吃音をなくすことができるが、日常的な治療の構成要素としては推奨できない。流暢さを改善するソフトは、推奨された吃音の治療の枠の中で、療法士の監督のもとでのみ使うべきだ、とされています。
逆に、研究の数ではなく専門家の合意にもとづいて勧められているものもあります。ドイツのガイドラインは、自助グループへの参加を臨床的な合意にもとづいて推奨すると書いています。効果を測った研究があるという意味ではなく、専門家が集まって「勧める」と決めた、という種類の推奨です。
どこに相談するか——ガイドラインが挙げている窓口
相談先も、ガイドラインの設問のひとつになっています。挙げられているのは、幼児の吃音の治療経験がある言語聴覚士のいる病院やクリニック、自治体の(小児)リハビリテーションセンター、大学教育学部に付属する発達や言語の相談室で、地域の児童発達支援センターには言語聴覚士が在籍する場合が多く相談窓口になっている、とされています。就学後は小学校の通級指導教室(「ことばの教室」)が指導にあたり、就学前の相談を受けている地域もあります。
あわせて、注意も書かれています。「相談対応機関の多くは治療には対応できないことも多いことに留意する必要がある」。相談できる場所と、訓練まで担当できる場所は、必ずしも同じではありません。
背景には人手の問題があります。吃音になる幼児の10分の1だけが医療機関を受診するとしても、全員を診られるだけの人数の吃音の専門家はいない、幼児の吃音についてはすでに医療崩壊状態と言ってもいいくらいだ、という現状認識が公開されています。だからこそ、軽い例はできるだけ吃音の非専門家が担当し、治療ができる専門家へ紹介する基準を示す、という分担が設計されています。一方でガイドライン自身が、専門としていない施設での経過観察は放置も同然になる場合があり、その間に保護者の不安が解消されないまま重症化したり、治療を受けないまま就学することになる可能性も無視できない、と書いています。
次のようなときは、様子を見るだけにせず相談を考えてみてください(目安であって、当てはまらなくても相談して構いません)。発話に苦しさや力の入り方があるとき、悪化しているとき、本人が気にしているとき、そして就学の1年程度前になっても軽くなる様子がないときです。悪化していなくても軽くもならずに続いているなら、数か月に一度でも専門家と一緒に様子を見るのが理想的だとされています。
ガイドラインを読むときに陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 「C1」「C2」を「効かない」と読み替える
C1は「行うことを考慮してもよいが、十分な科学的根拠がない」、C2は「十分な科学的根拠がないので、勧められない(有害という証拠もない)」という定義です。どちらも「効かないことが分かった」ではなく、「判断できるだけの研究がまだ無い」という状態を指します。やらないほうがよい、と判定されているのはDだけです。同じことが「有意差がない」という言い回しにも当てはまります。
落とし穴2 − 幼児向けの推奨を、そのまま学齢期・大人に当てはめる
日本のガイドラインは幼児期を対象にした文書です。学齢期の子どもと思春期の当事者については、くじ引きで群を分けた研究が見つからず、厳密に評価できるだけの材料が不足しているとされています。年齢が変われば、同じ方法でも根拠の厚みが変わります。ドイツのガイドラインのように年齢を限らずに書かれたものもあるので、大人の当事者はそちらを併せて見ることになります。
落とし穴3 − 「ガイドラインに沿っています」という言葉だけで判断する
治癒を約束し、治療の目標と方法を分かる形で説明しないことは、避けるべき手続きとして名指しされています。原因そのものを取り除く治療は現在は不可能とされ、等級Dが付いています。説明を求めたときに、何を目標にどういう手順で進めるのかが返ってこないなら、それ自体が判断の材料になります。並行して、いつどんな場面で出やすいか、どのくらい続いているかを書き留めておくと、相談のときに渡せる材料になります。評価では、発話の様子だけでなく、本人の受け止めや周囲の反応、生活への支障まで含めて見ることが共通の枠組みとして挙げられています。
よくある質問
吃音のガイドラインはどこで読めますか?
日本の「幼児吃音臨床ガイドライン」第1版は、発達性吃音の研究プロジェクトのサイトで、添付資料も含めて公開されています。本体のほかに、非医療職向けの情報提供書4種、リーフレット、初診用の問診票が添付資料として付いています。
保護者や当事者が読んでも大丈夫ですか?
読んで構いませんが、想定されている読み手は幼児の吃音に接する医師・言語聴覚士・保健師です。保護者や園・学校の先生に向けては、平易に説明した添付資料が別に用意されています。まずはそちらから読むほうが、負担は少ないと思います。
「推奨グレードA」はどういう意味ですか?
「行うよう強く勧められる」という意味の等級です。日本のガイドラインでは、幼児期の積極的な介入のうちリッカム・プログラムにこの等級が付いています。子ども・思春期の介入を集めた系統的レビューでも、就学前の子どもについて最高の等級と評価されています。
大人の吃音にもガイドラインはありますか?
日本の「幼児吃音臨床ガイドライン」は幼児期を対象にした文書です。ドイツの診療ガイドラインは年齢を限らずに扱っていて、青年・成人の治療や、学校・職場での配慮についても書かれています。ただし学齢期以降については、くじ引きで群を分けた研究が不足していると報告されています。
ガイドラインが「してはいけない」と書いている治療はありますか?
ドイツのガイドラインは、薬による治療を強い否定的な根拠にもとづいて行うべきでないとし、催眠や、分かる形の考え方を持たない吃音療法も行うべきでないとしています。治癒を約束して目標と方法を説明しないことも、避けるべき手続きに挙げられています。日本のガイドラインは、原因そのものを取り除く治療について「現在は、不可能である」と答えています。
まとめ
- 日本の「幼児吃音臨床ガイドライン」第1版は2021年9月30日公開。想定読者は幼児の吃音に接する医師・言語聴覚士・保健師で、保護者や園・学校の先生向けには平易な添付資料が別にある。
- 待機を勧める中心の理由は、自然に治る割合が高いことと、専門家が足りない現状での優先順位の付け方の両方。治療に入る判断は「重症/悪化/苦しそう/本人が気にしている」と「就学の1年程度前になっても軽快傾向がない」で示されている。
- 推奨の等級はA・B・C1・C2・D。C2は「十分な科学的根拠がないので勧められない(有害という証拠もない)」で、やらないほうがよいという判定はDだけ。
- 幼児期に等級Aが付いているのはリッカム・プログラム。ただしこの方法を調べた8件のうち6件は開発者らによる研究だった、という注意書きも同じ文献にある。
- ドイツの17学会によるガイドラインは「行うべきでない治療」と「避けるべき手続き」を明記していて、治癒を約束し目標と方法を説明しないことはそこに含まれる。
- 相談先は、言語聴覚士のいる病院・クリニック、自治体のリハビリテーションセンター、大学の相談室、児童発達支援センター、就学後はことばの教室。相談できる場所と治療まで担当できる場所は同じとは限らない。