まず結論から
- 就学前の吃音でいちばん研究の裏づけが厚いのは、保護者が言語聴覚士に教わって家庭で毎日続ける方法(リッカム法)です。
- ただしその裏づけは、まだ治療を受けずに順番を待っているグループとの、短い期間の比較です。結果の確からしさは「非常に低い」と評価されています。
- 吃音の治療を提供するのにふさわしいのは言語聴覚士だとされています。担い手は特定の診療科ではなく職種で決まります。相談先として挙げられているのは、小児を扱う言語聴覚士と、ことばの教室の教員です。
- 吃音の評価で見るのは、どもりの回数だけではありません。専門家の合意では6つの領域が挙げられています。
- 吃音に効くと有効性が確立された薬はなく、吃音を対象として保険が使える薬もありません。
ただし、ここに挙げたのは「今の時点でどこまで確かめられているか」であって、お子さん一人ひとりの経過を言い当てるものではありません。効果が示された方法でも確からしさには幅があり、逆に裏づけが薄い方法が「効かないと分かっている」わけでもありません。
相談の席で見られているのは、どもりの回数だけではない
吃音のことで相談に行くのだから、話し方を見てもらうのだろう——多くの保護者はそう思って予約を取ります。ところが実際の面談では、話が思っていた方向に行かないことがあります。
当事者の子の母(39歳・転勤先の発達支援センターで言語聴覚士と面談/個人ブログ)
私が日常の様子をこだわりなども含めて先生にお話をしたんですが、「それより、日常の情緒面の方が心配です。」と言われました。
それがまさに私が困っている事だったので納得。
転勤で移り住んだ先の発達支援センターで、母親は言語聴覚士との面談の席についた。息子の吃音を相談に来たはずが、日々の様子をこだわりの強さまで含めて話していくと、専門家が心配だと言ったのは吃音のほうではなかった。息子は、場面や気持ちの切り替えが苦手で、幼稚園では吃音もトラブルもほとんど無いと先生に言われ、帰宅するとぐずる。相談の席で見えているものと、家で起きていることは、そのままでは重ならない。だからこそ評価の指針は、話し方のほかに、本人の受け止めや周りの人の反応、生活への支障までを含めるように求めている。
出典: 親愛なる我が息子について②続・吃音について(しまうま/アメブロ)(台帳: V0174)
吃音の評価で何を見るのかについては、吃音について多くの論文を書いてきた12人の臨床家・研究者が、自分たちが普段どんな情報を集めているかを持ち寄ってまとめた、合意の指針があります。そこでは、年齢や家族の状況に応じて濃淡はつけながらも、次の6つの領域を含めるべきだとされています——①吃音についての生育・家族の情報 ②ことばと話し方、そして気質の育ち(とくに年齢の低い子で重視) ③話しことばのなめらかさと、どもり方の様子 ④本人が吃音をどう受け止めているか ⑤周りの人がどう反応しているか ⑥吃音が生活にどれだけ支障を及ぼしているか。話し方は6つのうちの1つで、残りの5つは「本人と周りに何が起きているか」を見るための項目です。
そしてもう一つ、相談の場そのものに起きやすいことがあります。国が運営する発達障害情報のポータルの解説は、相談に来た子と実際に話してみても、思ったほど吃音の症状が出ないことが多いと述べています。そこで「気にならないですね」「軽い吃音ですね」と声をかけられても、保護者にとってプラスに働くことは少ない、とも書かれています。伴奏に合わせて歌うときや、二人で同じ言葉を言うときには吃音が消えるため、吃音は発話のタイミングの問題だと言われます。気をつけて話す場面ではあまり出ず、家で思い浮かんだままに話すときに現れやすい——同じ解説はそう説明しています。だから、面談で出なかったことは「軽い」ことの証明にはなりません。家での様子を伝える側の情報が、そのぶん重くなります。
相談先にたどり着いた日から、家庭が始めること
相談先が決まると、その日のうちに家庭側の作業が始まります。最初に渡されるのは、多くの場合、訓練メニューではなく「日々の見方」です。
当事者の子の母(横田百合香・栃木県宇都宮市/日本吃音臨床研究会の会報に載った手記)
ストレスや疲れを取り除くこと。しつけは大切ですが、本当に必要なときのみ、最低限を心がけること。甘やかすのとも、意味は違います。どもっていても、意識せずに聞くこと。などの、具体的なアドバイスを受けました。また、その日から、吃音の症状について日記をつけることになりました。
日記をつけることで、吃音には波があり、娘の吃音の特徴などを理解することができました。
幼稚園に入って間もない日、娘は帽子をかぶりリュックを背負ったまま自宅に駆け込み、自分の名前の一文字目を何度も重ねてから本題に入った。話し方がいつもと違う——母親は、その日に胸に残ったつかえを今でもはっきり覚えていると書いている。相談機関として幼児ことばの教室があることを調べてきたのは夫だった。教室のドアを開けると、笑顔の先生が出迎え、遊びとことばのやりとりが試された。持ち帰ったのは、家での過ごし方についての助言と、症状の日記だった。日記は、娘の吃音に波があることを母親に教えることになる。幼児期の吃音が出たり消えたりを繰り返すのはめずらしくないと総説も述べており、最初に渡されたのは、その波の中で判断するための道具だったことになる。
出典: レジリエンスを育てる〜親の体験・親の気持ち〜(日本吃音臨床研究会)(台帳: V0159)
記録から始まるのには理由があります。幼児期の吃音は出たり消えたりを繰り返すことがめずらしくない、と子どもの吃音の治療をまとめた総説は述べています。1日や1週間の印象だけでは、良くなっているのか波の底なのかが分かりません。しかも記録は、あとから振り返るための資料であるだけでなく、治療そのものの部品でもあります。リッカム法では、保護者がその日の吃音の重さを1から10の目盛りでつけ、週1回の通院にその表を持参します。この毎日の点数は治療に欠かせない要素とされ、次に何をするかの判断がここから決まります。
日本の研究プロジェクトによる解説では、就学前にまず行うのは、周りの大人の接し方や場面のほうを整えることだとされています。こうした関わりは環境調整と呼ばれます。具体的には、周りの人がゆったりと楽に話し、どもるかどうかではなく話の中身を聞くように努める。真似をしたり笑ったりする子がいる場合は、保育園・幼稚園の先生にも協力を求め、「わざとそうしているのではない」と説明してもらう。そうして本人の話す意欲を下げないように支えながら経過を見る、という順序です。訓練へ切り替える目安として同じ資料が挙げているのは、悪化が見られる場合、吃音が始まってから1年半から2年以上たっても続く場合、就学の1年前までに治らない場合、家族に吃音のある人がいるなどの要因がある場合です。学年で区切った目安の読み方は3歳の吃音はいつまで様子見?で詳しく扱っています。
毎日やる、という設計——リッカム法で家庭がすること
就学前の吃音に対して名前が挙がることの多いリッカム法は、通院そのものよりも、家庭での毎日のほうが本体です。そして「よくなってきた」と感じたときに、いちばん手を抜きたくなる設計でもあります。
小児の言語聴覚士(クリニック外来に十数年勤務/個人ブログの実践記)
「吃音も減ってきたし、家で毎日やるのは大変だから、少し減らしてもいいかな?」となってしまうことがあります。
お気持ちは、とてもよくわかります。
毎日取り組むというのは、親御さんにとっても負担があります。
書いているのは、クリニックの外来に十数年勤める小児の言語聴覚士である。担当した幼児のリッカム法について、毎年1回ひらかれる講習会で教わった手順どおりに家庭で取り組んでもらうと、条件の合う子では吃音が減ってくる——その臨床での実感を記したうえで、この人が注意を促すのはその先だ。減ってきたところで家庭の取り組みを自己判断で減らすと、吃音がまた増えてしまうことがある。減らすなら「そろそろ減らしてもいいですか」と担当者に相談し、状態を見ながら少しずつ調整していく。そういう順序になっているのだと書いている。減った状態が戻ってしまうのを防ぐ段階が別に置かれているのは、この方法の設計そのものだ。
出典: 吃音が減ってきた!……そこでやめないでください。リッカムプログラム(言語聴覚士(ST)のつぶやき)(台帳: V0072)
この「減ってからも続く」という形は、方法の設計そのものです。リッカム法は2つの段階に分かれていて、第1段階が毎日の記録と保護者による声かけ、第2段階は長めの追いかけで、いったん減った状態が戻ってしまうのを防ぐために置かれています。段階が進むと通院の間隔が空き、そのぶん保護者が自分で気づく力に頼る割合が増えます。保護者が家庭で行う声かけの中身も具体的で、つかえずに言えたときに「上手に言えたね」とほめる、「今のはなめらかだったね」と落ち着いた調子で確かめる、「今のはつるっと言えた?」と本人に振り返ってもらう、といったものです。声かけの大部分は、つかえずに言えたほうに向けられます。
期間についても、はじめに知っておいたほうが楽です。リッカム法は完了までに1〜2年ほどかかる設計とされています。数回で終わるものではありません。さらに、日本で行う場合には別の事情もあります。国のポータルの解説は、この方法が幼児吃音臨床ガイドライン第1版(2021)で最も強く勧められる位置づけにあることを紹介したうえで、英語圏以外でのリッカム法には3倍の時間がかかることが示されているとして、保護者の心情に配慮した対応が大切だと述べています。長くかかることを前提に、家族が続けられる形に落としていく——それが現実的な入り方です。
「大学生になると、ほぼ出なくなった」——見通しをどう読むか
治療を続けるかどうかを考えるとき、多くの保護者が探すのは、同じ道を通った先の話です。ただ、経過の話は読み方を間違えやすいところでもあります。
読者投稿として新聞が紹介した母の経過(愛知県一宮市・47歳/中日新聞の子育て相談)
愛知県一宮市の女性(47)は、長男が保育園に通っていた時、話し始めに同じ音を重ねるようになり、その後、話し始めの言葉に詰まる症状も出た。言葉がなかなか出てこないと長男が焦ったため、「ゆっくり落ち着いてね」と声掛けして待った。大学生になると吃音はほぼ出なくなったといい、女性は「無理に治そうとせず、見守ることで本人も安心するはず」と話す。
小学4年の孫の話し方が連休明けから詰まるようになった、という祖母の相談に、経験のある家族から声が寄せられた紙面である。一宮市の母親の投稿はそのうちの1本にすぎない。同じ紙面には、3歳で症状が出た長男が治まり就職の面接もこなしたという母の投稿が並び、その一方で、78歳の今も家でくつろいでいると症状が出ることもあると語る当事者の話も載っている。ひとつの紙面のなかに、治まった経過と、生涯続いている経過が同時に置かれている。この母親が使った「ゆっくり落ち着いてね」という声かけは、吃音ポータルサイトが極力控えるようにと挙げているものと重なる。それでも経過はこうなった、という記録として読むのが正確です。
出典: 「吃音が心配な小4の孫、どうすれば…」の悩み(東京すくすく/中日新聞)(台帳: V0161)
数字のほうを見ると、幼児期に始まった吃音の多くはゆるやかに軽くなっていきます。吃音ポータルサイトは、幼児期に吃音のある子どもの少なくとも半数は、これといった指導や支援を受けないまま、小学校に入学するころまでに吃音が見られなくなるとしています。国のポータルの解説はもう少し細かく、吃音が始まってから3年で、男の子はおよそ6割、女の子はおよそ8割が自然に回復するとしています。そのうえで、相談の場で「将来なおりますか」と尋ねられても「男児で家族歴がある場合は、なおりづらい」としか返答できない状況だと書いています。個々の子がどちらに進むかは、いまのところ言い当てられません。
大切なのは、一つの家庭の経過から関わり方の良し悪しを読み取らないことです。育て方のまずさが吃音の原因ではない、と吃音ポータルサイトは保護者に向けてはっきり述べています。そして、就学後も吃音が続く子について、ことばの教室、あるいは言語聴覚士による指導や支援を受けるなかで、からだの力みを伴う重い症状が目立たなくなる、からだに入る力を自分で加減しながら話すやり方を覚える、といった変化が起き、日々の暮らしで大きく困らずに過ごせるようになることが多いとされています。就学までに消えなかったからといって、そこで終わりではありません。
家庭での関わりを変える方法は、どこまで確かめられているか
就学前の吃音への関わりは、大きく2つに分けて語られてきました。子どもの話し方そのものに働きかける直接的な方法と、周りの大人の関わりのほうを変える間接的な方法(間接法)です。前者の代表がリッカム法で、後者の代表が、子どもにかかる言葉の求めが本人の力を上回ったときに吃音が起きる、という考え方にもとづく方法です。どちらも保護者への指導を伴う点は共通しています。
この2つを比べた報告があります。決めた条件で研究を集めて、まとめて評価した報告は、系統的レビューと呼ばれます。子どもと思春期の吃音への関わりを調べた系統的レビューは、就学前の子どもについてはどちらの方法も吃音を減らすのに有効で、なかでもリッカム法がいちばん高い水準の根拠を持つと報告しました。ただし、そこに含まれた8件の研究はいずれも、研究のやり方に中程度の偏りの心配があると評価されています。
根拠の中身を近くで見ると、幅の広さが分かります。就学前の子どもへの、薬を使わない関わりを集めた系統的レビュー(医療の効果検証で知られる国際的な組織コクランによるもの)に入ったのは、くじ引きのように分けて比べる研究(無作為化比較試験)が4件、2歳から6歳の子ども151人でした。4件はすべてリッカム法と「まだ治療を受けずに順番を待っているグループ」との比較で、オーストラリアが2件、ニュージーランドとドイツが各1件。観察された期間は12週間・16週間・9か月(2件)です。リッカム法を受けた側は、待っているグループよりも吃音の頻度が下がりました。ただしこの結果の確からしさは「非常に低い」と評価され、慎重に解釈すべきだとされています。しかも、この方法は完了までに1〜2年かかる設計なので、どの時点でも参加した子は誰一人として全過程を終えていません。
間接的な方法のほうは、根拠の性質がさらに違います。子どもの吃音の治療をまとめた総説は、うまく言えたときに保護者が声をかけて返すやり方には子どもについて最も確かな裏づけがある一方で、子どもにかかる求めを減らす考え方にもとづく方法は広く行われているものの、その裏づけは強いとは言えず、認知行動療法など別の分野の知見から推し量られている面があると述べています。
2025年には、その一部を直接調べた研究が出ました。くじ引きで分けずに、すでにある記録を見比べた研究(観察研究)です。吃音のある子の保護者によく伝えられる助言のうち、「大人がゆっくり話す」「返事までの間を長くとる(子どもが話し終えてから一呼吸置く)」の2つについて、助言を受ける前に録音された親子の会話をさかのぼって分析しました。対象は、のちに吃音が続いた子13人、回復した子28人、吃音のない子21人。結果は、話す速さも返事までの間も、グループのあいだに差は見られず、その場の子どもの吃音の多さとも関係していませんでした。むしろ助言前の時点で最もゆっくり話していたのは、のちに吃音が続いた子の親でした。
この研究の書き手は、結論の書き方に念を入れています。これは過去にさかのぼって行った観察研究で、強い結論を出せるものではない。人数が足りずに差を見つけられなかった可能性も否定できない。そして、間接的な方法が効かないという結論を支持するものではなく、効くという裏づけを与えなかっただけだ、とはっきり書いています。同じ論文は、それでも保護者の関わりが大事でなくなるわけではないとも述べています。喘息や糖尿病のように、症状を消し去ることをゴールにできない子どもの状態では、専門家の指導のもとでの保護者の関わりが結果を左右することが多くの分野で示されているからです。家庭での具体的な接し方は子どもの吃音への対応にまとめています。
年齢が上がると、根拠の量そのものが変わります。同じ系統的レビューは、学齢期の子どもと思春期については、高い水準の根拠が見当たらないと報告しています。これは「効かない」という意味ではなく、まだ調べられていないという意味です。一方で、届け方については明るい報告もあります。遠隔(オンライン)での実施や、集団での実施は、対面での個別の実施に劣らなかったと報告されています。コクランのレビューに入った4件のうち1件も、通院を電話で行っていました。通いにくい地域や、仕事の都合で毎週の通院が難しい家庭にとっては、相談する価値のある選択肢です。
受診は何科?相談先はどこ?——そして「薬で治す」方法はないこと
「吃音は何科ですか」という問いには、少しずれた答えを返すことになります。吃音の治療を行う適任者は、診療科ではなく職種で決まるからです。子どもの吃音の治療をまとめた総説は、吃音の治療を提供するのにふさわしいのは言語聴覚士だとしています。言語聴覚士は、吃音を含むコミュニケーションの障害を見つけ、対応するための訓練を受けた専門職で、多くの国で国家資格や認定が求められます。ですから探すのは「何科か」ではなく「言語聴覚士がいるかどうか」です。
日本での入り口は、大きく2つあります。学会の資料の保護者向けの節が相談先として挙げているのは、小児を扱う言語聴覚士と、ことばの教室の教員です。前者を探す場所が、言語聴覚士のいる医療機関になります。どちらに行けばいいか分からないときは、かかりつけの小児科や地域の保健センターに相談して紹介してもらう、というつなぎ方が現実的です。就学前であれば、幼稚園・保育園の先生も地域の相談先を知っている場合があります。実際、前の節で引いた母親も、幼児ことばの教室という相談先の存在を家族が調べて初めて知りました。就学前の環境調整には、保育園・幼稚園の先生に協力を求め、真似をしたり笑ったりする子に「わざとそうしているのではない」と説明してもらうことも含まれます。園と話しておくこと自体が、支援の一部になります。
費用・保険の適用・通院の頻度は、選ぶ方法と、医療機関か公的な教室かによって大きく変わります。ここは一般論として一つの金額を示せるところではないので、予約の電話の段階で確認してしまうのが確実です。目安として押さえておきたいのは、リッカム法であれば通院は週1回、記録は毎日、完了までの設計は1〜2年ということです。
最後に、薬について。日本の研究プロジェクトによる解説は、吃音に有効性が確立された薬物はないと明記しています。3分の1程度の症例に有効だと報告されているものはあるものの、吃音を対象として保険が使える薬はありません。薬物療法が行われるのは、吃音が原因となって二次的に起きた気分の落ち込みや、人前で話す場面などに強い不安が続く状態(社交不安障害)に対してです。同じ解説は、治療の中心は環境調整・言語訓練・カウンセリング・心理療法や行動療法であり、どの患者にも一様に有効な方法はないので、患者に応じて(しばしば組み合わせて)選ぶことになる、としています。「これを飲めば/これをすれば治る」という形の答えは、いまのところ存在しません。
小児の吃音治療で陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 「治療すれば完治する」という前提で始めてしまう
就学前で最も高い水準の根拠を持つ方法でも、確かめられているのは「順番待ちのグループより吃音の頻度が下がった」ところまでで、結果の確からしさは非常に低いと評価されています。一方で、特段の指導や支援がなくても少なくとも半数は、就学のころまでに症状が見られなくなるともされています。完治を目標に据えると、この2つの事実のどちらに転んでも消耗します。目標は「経過を見ながら、続けられる形で続けること」に置くほうが現実に近くなります。
落とし穴2 − 減ってきたところで、家庭の取り組みを自己判断で減らす
リッカム法には、いったん減った状態が戻ってしまうのを防ぐための第2段階が置かれていて、通院の間隔はそこから空いていきます。「よくなったからもういい」で第1段階を切り上げると、この設計のうち後半だけが抜け落ちます。減らすタイミングは担当の言語聴覚士と決める、という一点だけ覚えておけば十分です。
落とし穴3 − 「効く方法」を探し続けて、時間とお金を使ってしまう
吃音に有効性が確立された薬はなく、保険の使える薬もありません。就学前で根拠がそろっているのは、言語聴覚士の指導のもとで行う関わりです。学齢期以降について高い水準の根拠が見当たらないのは事実ですが、それは「別の何かが効く」ことの根拠にはなりません。判断に迷う方法に出会ったら、まず担当の言語聴覚士に「これはどうですか」と聞いてみるのがいちばん早い確認になります。
そして、どの方法を選ぶにしても土台になるのは日々の記録です。リッカム法では毎日の点数そのものが治療の部品ですし、そうでなくても、波のある経過を専門家に伝えるには手元の記録が要ります。アプリ「toVoice」は、こうした毎日の発話の記録と経過の「見える化」を支える道具で、治療そのものに代わるものではありません。言語聴覚士など専門機関に相談できる場合は、そちらが確実です。
よくある質問
小児の吃音は、何科を受診すればいいですか?
診療科で決まるというより、言語聴覚士がいるかどうかで決まります。吃音の治療を提供するのにふさわしいのは言語聴覚士だとされているためです。相談先として挙げられているのは、小児を扱う言語聴覚士と、ことばの教室の教員です。前者を探す場所が、言語聴覚士のいる医療機関になります。分からないときは、かかりつけの小児科や地域の保健センターに相談して紹介してもらう入り方が現実的です。
子どもの吃音の治療では、実際に何をしますか?
就学前で最も高い水準の根拠を持つのはリッカム法です。保護者と子どもが言語聴覚士のいる場所に通い、保護者はそこで家庭での進め方を教わります。家庭では、その日の吃音の重さを1から10の目盛りでつけ、つかえずに言えたときにほめたり確かめたりする声かけを行い、記録を週1回の通院に持参します。周りの大人の接し方や場面のほうを整える環境調整も、就学前ではまず行われます。
治療にはどのくらいの期間と頻度で通いますか?
リッカム法は完了までに1〜2年ほどかかる設計とされ、通院は週1回、記録は毎日が基本です。さらに、英語圏以外ではこの方法に3倍の時間がかかることが示されているという報告も紹介されています。費用や保険の適用は方法・医療機関・自治体によって異なるため、予約の段階で確認するのが確実です。
子どもの吃音に効く薬はありますか?
吃音に有効性が確立された薬物はなく、吃音を対象として保険が使える薬もないとされています。3分の1程度の症例に有効だと報告されているものはありますが、薬物療法が行われるのは主に、吃音が原因となって二次的に起きた気分の落ち込みや、人前で話す場面などに強い不安が続く状態に対してです。
小学生になってからでは、治療は手遅れですか?
手遅れという意味ではありません。学齢期や思春期については、就学前ほど高い水準の根拠がそろっていないと報告されていますが、これは効果がないことを示すものではなく、まだ調べられていないという意味です。小学校に上がったあとも吃音が残る場合、言語聴覚士やことばの教室から指導や支援を受けることで、日常生活で大きく困らずに過ごせるようになることが多いとされています。
まとめ
- 吃音の評価で見るのは、どもりの回数だけではない。専門家の合意では、生育・家族の情報、ことばと気質の育ち、どもり方、本人の受け止め、周りの反応、生活への支障の6領域が挙げられている。面談で症状が出ないことは多く、それは「軽い」ことの証明にはならない。
- 治療を担うのは診療科ではなく職種。適任は言語聴覚士で、相談先として挙げられているのは小児を扱う言語聴覚士とことばの教室の教員。就学前はまず環境調整から入り、悪化・発吃から1年半〜2年・就学1年前・家族歴などが訓練へ切り替える目安とされる。
- リッカム法は、家庭で毎日の記録と声かけ、週1回の通院、完了までの設計は1〜2年。減ってきたところで自己判断で減らさず、担当者と決める。英語圏以外では3倍の時間がかかるという報告も紹介されている。
- 「エビデンスがある」の中身は、就学前の4件・151人・順番待ちとの比較で、確からしさは非常に低いと評価されている。家庭での関わりを変える方法は、その一部を調べた2025年の観察研究で裏づけが強まらなかったが、「効かない」と示されたわけではない。
- 吃音に有効性が確立された薬はなく、保険の使える薬もない。特別な指導をしなくても少なくとも半数は就学のころまでに症状が見られなくなり、続く場合も、言語聴覚士やことばの教室の支援で日常生活を送りやすくなることが多い。
