二歳児の吃音は様子見でいい?|相談の目安・受診先・家庭での接し方

二歳児の吃音は様子見でいい?|相談の目安・受診先・家庭での接し方
目次

「二歳児の吃音は、多くが自然に軽くなります」——調べるとどこにもそう書いてあって、それで「しばらく様子を見よう」と決めた。けれど、決めたあとの毎日をどう過ごせばいいのかは、あまり書かれていません。今日は少なかった、今週はまた増えた、保育園には言うべきなのか、祖父母に何と説明するのか——待つと決めた日から、迷いはむしろ増えたりしますよね。

この記事は、その「待つ」と決めたあとの日々のための記事です。「大人がゆっくり話す」という定番の助言がどこまで確かめられているのか、保育園やきょうだい・親族に何をいつ伝えるか、良くなったり戻ったりする「波」をどう読むか、そして待つのをやめて相談する目安までを、研究論文と公的資料の出典つきで整理します。専門用語はそのつどかみくだいて説明します。

ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる症状があるときは、ことばの専門職である言語聴覚士のいる相談先や、地域のことばの教室にご相談ください。

まず結論から

  • 待っているあいだの過ごし方は、治るかどうかと切り離して意味があります。日本の手引き(幼児吃音臨床ガイドライン)は、待つあいだのアドバイスとして「楽しくお喋りできるように環境を整える」ことを挙げ、そこに「治癒しない結果になっても有用」とわざわざ添えています。
  • 「大人がゆっくり話す」「返事までの間をとる」は、それでなめらかに話せるようになるという裏づけが確かめられているわけではありません。親の話す速さや間と、子どもの話し方のなめらかさとの関係は検出されなかったと報告されています。それでも「最後まで聞く・大人の側から話題を変えない・子どもに『ゆっくり』と言わない」という接し方そのものは、公的資料で勧められています。
  • 「吃音に気づかせない方がよい」——この昔の対応は、いまは否定されています。反対に、親子で吃音について話せる関係をつくること、園やきょうだい・親族に「病気ではない」「本人がわざとやっているのではない」と伝えることが勧められています。
  • 「良くなった」「また戻った」は、行き来するのが普通です。調子の良い状態・悪い状態が数週間から数か月にわたって続くことも多く、この変動は(調子の)「波」と呼ばれています。幼児期には、中にはまったく症状の出ない時期があるかもしれない、と書かれています。

ただし、待つことは「何もしないで放っておく」ことではありません。重い/増えている/本人が気にしている/話すのが苦しそう、といった様子は、手引きが治療の必要性を判断する基準として挙げているものです。当てはまるときは、待たずに相談してかまいません。この記事の目安は、相談してよいかどうかを考えるための材料であって、診断ではありません。

ことばが一気に増えた時期に、入れ替わるように始まった

二歳児の吃音に気づいた保護者の記録を読んでいくと、同じ書き方に何度も出会います。「ちょうど、ことばが急に増えた頃だった」。話せる語がふくらみ、二語文・三語文になり、伝えたいことが口から溢れ出す——その時期に、入れ替わるように詰まりが現れる、という書かれ方です。

当事者の子の母(ワーママ・下の子は2歳9か月/個人ブログの月ごとの成長記録)

この期間、ある時急に吃音が出てきました。

もともと、言いたい言葉を思い出せなくて、文頭でどもることはあったのですが、それがひどくなり、文頭の言葉が長く伸びてしまったり、伸びすぎて結局言いたいことを見失ってしまったり、ということが頻繁に出てきました。

保育園の夏休みで、登園も帰宅も普段どおりではなかった時期の記録です。もともと文頭で詰まることはあった、と母親は書いています。それが強くなり、最初のことばが長く伸び、伸びすぎて何を言おうとしていたのか本人が見失ってしまう——そういう場面が頻繁に出てきた、と続きます。同じ段落の終わりで母親は、すごく心配したこと、それでも2日ほどで出なくなったこと、いまもたまに出ることを、順に書き留めています。二歳児のことばは、この時期に一気にふくらみます。ことばの育ちと吃音の始まりの関係は、母親たちの実感にとどまらず、研究の側でも調べられてきました。

出典: バブちゃん2歳9ヶ月に!ことば面での一時的な心配(アメブロ・yuatのワーママブログ)(台帳: V0056)

オランダで行われた大規模な追跡調査は、9歳の時点で吃音の経験がある子ども123人(うち22人はその後も続いた子、101人は回復した子)と、経験のない子ども2,819人について、生後18か月から48か月までの5回分のことばの評価をさかのぼって比べています。ことばの評価は、5回とも保護者が記入した質問紙によるものです。関連が見つかったのは、5回のうち生後24か月=ちょうど2歳の時点だけでした。話す力・聞いて理解する力が高いほど、吃音が始まるリスクは低い、という向きの関連です。18か月・30か月・36か月・48か月の評価では、関連を示す証拠は得られませんでした。ただし、その関連の大きさは控えめです。報告されている値はオッズ比0.78(関連の強さを表す指標で、1に近いほど関連が小さいことを意味します。95%信頼区間=推定のぶれ幅は0.65〜0.93)で、2歳のことばの力から吃音が始まるかどうかを言い当てられる、という大きさではありません。

ここからが大事なところです。著者らは「この関連は因果を意味しない、関連を示しているだけだ」と論文の中に明記しています「ことばがゆっくりだったから吃音になった」と読める結果ではない、という断りです。さらに、幼児期のことばの力の低さは吃音が始まるリスクとは結びついたものの、続くかどうかとは結びつかなかったと報告されています。ことばの発達がゆっくりだったお子さんの保護者にとって、この後半は覚えておく価値のある一行です。

なぜこの時期なのか、という問いには、脳の発達の側からの説明もあります。吃音の始まりと経過を説明する理論は、話す運動・ことば・気持ちという複数の要素が絡み合って働くことを中心に据え、就学前という、これらの仕組みが急速に変化していく最中に吃音が現れて経過をたどるという文脈をとくに重視しています。二歳児の身の内では、いくつもの仕組みが同時に工事中だ、というイメージが近いかもしれません。

生後18か月から48か月までの5時点のことばの評価のうち、2歳(24か月)の評価だけが吃音の始まりやすさと関連し、18・30・36・48か月では関連が見られなかったこと、この関連は因果を意味しないと著者が明記していること、そして吃音が続くかどうかとは関連しなかったことを示す図
図1: 関連が見つかったのは「2歳の時点」だけ。しかも「始まりやすさ」であって「続きやすさ」ではない。出典: Koenraads et al. (2025) J Fluency Disord.

家でできること — 「ゆっくり話して」はどこまで確かめられているか

待つあいだ、家庭でできることとして必ず挙がるのが「大人がゆっくり話す」「子どもが話し終えるのを待つ」です。多くの保護者がこれを実行し、うまくできない日には自分を責めます。この助言がどこから来て、どこまで確かめられているのかを、いちど開いてみます。まずは、ことばの専門職である言語聴覚士(げんごちょうかくし)に会えた日の記録から。

当事者の子の母(富山市・息子は3歳2か月/個人ブログ。市のことばの教室で言語聴覚士に相談した日の記録)

言語聴覚士さんに言われた「どもり」への対処法は、

子供がどもっても、

・どもったことを指摘しない

・言い直させない

・言い終わるまでゆっくり聞いて待ってあげる

これだけなんだそう。

つまり、子供のどもりに対して「何もしない」ことが正解なんだそうです。

子供がどもった時に言い直させた場合と、ただ静かに聞いて待った場合、

将来どもりが治る確率は変わらないんだそうです。

1歳半の健診で言えた単語が3つ、2歳の時点で20語、二語文はまだ——そこから予約待ちを重ねて、ようやく相談にたどり着いた日の記録です。その日、息子さんは10問ほどの質問に詰まらずに答えたと書かれています。母親が相談したのは、落ち着いているときではなく、切羽詰まったときや一生懸命に言いたいことがあるときに詰まる、という家での様子でした。返ってきた助言が、この三つだったと記録されています。母親はそれを「何もしない」ことが正解だと受け止め、そのまま書き留めました。この「何もしない」に近い助言は、公的な資料が保護者向けに整理している内容ともおおむね重なります。

出典: 息子3歳のどもり(吃音)(アメブロ・息子を連れてハワイに行くぞー)(台帳: V0058)

吃音ポータルサイトは、家庭で整える「特別な環境」として、次のようなことを挙げています。

  • 大人の側が「ゆっくり」「ゆったり」した話し方で話しかける
  • 子どもが話し終えたら、一呼吸おいてから話しかける(話と話のあいだに十分な間をとる)
  • 相づちやうなずきをしながら、できるだけ最後まで聞く。大人の側から別の話題を出さない
  • きょうだいが先を争って話しかけてくる状況があるなら、話す順番を決めるルールをつくる
  • 短い時間でよいので、毎日、子どもと一対一でじっくりかかわる時間をつくる
  • 子どもの側に「ゆっくり」「落ち着いて」と声をかけるのは、できるだけ控える

最後の1行に驚く方が多いところです。大人はゆっくり話す。けれど、子どもに「ゆっくり話して」と言うのは控える——向きが逆なので、混ざりやすいのです。

そのうえで、正直に書いておきたいことがあります。このうち「大人がゆっくり話す」「返事までの間をとる」という部分については、そうすれば子どもがなめらかに話せるようになる、という裏づけが確かめられているわけではありません。米国の研究チームは、吃音のある子ども(その後も吃音が続いた子13人・回復した子28人)と吃音のない子ども21人について、助言を受ける前の時点で研究プロジェクトが収録した、母親と子どもの遊び場面の録音をさかのぼって調べました。親の話す速さと、子どもが話し終えてから親が話し始めるまでの間について、3つのグループのあいだに差は見られませんでした。そして、話す速さや間と、子どもの話し方のなめらかさとの関係も検出されませんでした。研究チームは、これはすでにある記録をあとから見直した研究であること、その録音は初めての場所で初めての相手がいる中で取られたもので、その家庭の普段のやりとりを代表しているとは限らないことを、自ら限界として挙げています。そのうえで、今回の結果は、この定番の助言に新しい裏づけを足すものではないと書いています。

この論点は、専門家のあいだでも議論の最中です。親の話す速さと会話の交代のしかたを調整するやり方が「新しい方法」として提案されたのに対し、反対の立場から答えた文章は、まず「そのやり方は新しくない」と反論していますそのうえで、規模も期間もずっと大きい研究が、話す速さ・会話の交代と吃音からの回復のあいだに関係がないことを示している、と指摘しています。さらにこの文章は、この種のやり方が「回復を決めるのは親だ」という考えを強めてしまうこと、その考えには十分な根拠がなく、害をもたらしうることを、反対の理由のひとつとして挙げています。

つまり、家庭での接し方は「そうすれば治るから」ではなく、「その子がいま話しやすいから」という理由で勧められていると読むのが正確です。日本の手引きも、待つあいだの過ごし方として「楽しくお喋りできるように環境を整える」ことを挙げ、そこに(治癒しない結果になっても有用)という一言を添えています。そして、うまくできない日があったことを結果と結びつけて自分を責める根拠は、いまのところありません。「回復を決めるのは親だ」という考えには十分な根拠がない、というのが先に見た指摘でした。

園・ママ友・親族 — 周りに何を、いつ伝えるか

家の中では、家族はいつのまにか慣れます。詰まっても待つのが当たり前になり、そういう話し方だと思って聞くようになる。それはとても良いことですが、同時に、家の外から見た姿とのずれが静かに広がります。そのずれは、たいてい不意打ちで見えます。

当事者の子の母(アラフォーのワーママ・娘は3歳前後で発症、記事の時点で4歳10か月/個人ブログ)

その時の娘、結構吃音症状が出ていました。

(ひどい時とそうでない時の波がある)

それを聞いた、そのママさん、

びっくりして私に、(悪気は全くなく)

「あれ?〇〇(娘)ちゃん、どもってない?!

どーしたの??」

と。

そのビックリした感じに、

私が軽く衝撃を受けてしまって…

始まってからもうすぐ2年、という時期の記録です。朝、保育園の支度をしている横で、0歳のころから顔を合わせているお母さんに娘さんが話しかけた——長く話すのは久しぶりだったのだろう、と母親は振り返ります。返ってきたのは、悪気のない驚きでした。この出来事のあと母親は、同じ記事の中に、自分たち家族には普通になってしまったけれど、周りから見たら心配される様子なのか、と気づいたことを書いています。そろそろ何かしなくては、と思ったのはこの朝だった、と続きます。周りに伝えるという作業は、こんなふうに先に相手から尋ねられる形で始まることもあります。学会が勧めているのは、こちらから先に伝えておくことです。

出典: 1y8m&4y10m 4歳娘の吃音について①(アメブロ・かぞくじかん。)(台帳: V0060)

学会の解説には、周囲への働きかけについての項目があります。きょうだいや親戚に加えて、子どもが所属する集団の場でも、次の3つを伝えることが勧められています。

  • 吃音は病気ではないこと
  • 緊張やストレス、家庭環境だけから生じるものではないということ
  • 本人がわざとやっているのではないこと

そのうえで、クラスや学童保育、習い事などの場で、吃音について啓発と理解の機会をつくってもらえるよう働きかけること、リーフレットなどを使うことも有効だとされています。ねらいは、からかいや指摘を減らすことで、吃音を出したまま話し続けてよいのだと本人が安心して実感できるようにすることです。「伝える」のは、周りに気を遣ってもらうためというより、子どもが話し続けられる場所を確保するための作業だ、ということになります。

祖父母についても、具体的な指摘があります。専門医は、祖父母から母親の育児態度が責められていることもあるため、祖父母も交えた情報共有が必要だと書いています。伝える相手は園だけではない、ということです。とくに、身内の言葉は年単位で残ります。

時期の目安もあります。4歳(早いお子さんは2、3歳でも)になると、子ども自身が「言いにくい」「他の子の話し方と違う」ことに気づき始めるとされています。周りの子も、話し方の違いを不思議に思い始める時期にさしかかり、おおむね4歳ごろになると「○○ちゃんはなんで、『あああ』ってなるの?」——そんな指摘が出てくることがある、とも書かれています。こうした指摘がきっかけで、話すときに力が入り、声が出にくくなったり、体を動かしながら話そうとしたりする子も出てくるとされます。2歳のうちに園に伝えておくのは早すぎるのではなく、指摘が始まる前に間に合わせている、という順序です。

周りに伝える3点を示す図。吃音は病気ではないこと、緊張やストレスや家庭環境のみから生じるものではないこと、本人がわざとやっているわけではないことを、きょうだい・親族・保育園や習い事の場に伝える。子ども自身が違いに気づくのは4歳ごろ(早い子は2、3歳)、周りの子からの指摘が始まるのもおおむね4歳ごろ
図2: 周りに伝える3点と、指摘が始まる時期の目安(おおむね4歳)。出典: 日本吃音・流暢性障害学会「吃音(きつおん)について」

長引いたとき — 「気づかないフリ」はもう勧められていない

待つ時間が年単位になると、別の種類の疲れが出てきます。何度相談しても同じ言葉が返ってくる。身内からは原因を指摘される。そして、自分が受け取った助言が正しかったのかどうかも、確かめようがない。数年ぶんをまとめて振り返った手記を1本読んでみます。

当事者の子の母(広島県広島市・7歳男児をふくむ3児の母/自助団体の相談室に寄せられた手記)

7歳の息子がどもり始めたのは、3歳前でした。

すぐに保健師さんに相談しましたが、「自然に治るので、言い直したりせず、気づかないフリをするように」と、アドバイスを受け、そのように過ごしました。

幼稚園に入園しましたが、どもりが目立つときとそうでないときと波がありました。園の先生には、子育て相談などで、気になる都度、相談しましたが、皆一様で、「成長と共に治る」「気づかれないように過ごして」とのことで、気になりながら何もできないまま、月日が流れました。

3歳前にどもり始めた息子さんが7歳になるまでの数年を、母親が振り返った手記です。最初に受け取った助言は、言い直させず、気づかないフリをするように、というものでした。幼稚園でも、気になるたびに相談したものの、返ってくる言葉はどこも同じだったと書かれています。同じ手記には、この数年のあいだ、自分の両親からも夫の両親からも育て方を理由に挙げられ続けたこと、どもるのを耳にするたびに責められているように感じたことが記されています。転機は小学校の担任との出会いでした。吃音について学ぶ機会があったというその担任から、同じ条件でも吃音が出る子と出ない子がいる、親のせいだと思わないで、と言われて、初めて少し救われた——そう書かれています。現在はことばの教室に通っている、と手記は続きます。この手記が最初に受け取った助言のうち、「気づかないフリ」の部分は、いまは勧められていません

出典: 《特集:親の体験・親の気持ち》レジリエンスを育てる(吃音と上手につきあうための吃音相談室)(台帳: V0048)

学会の解説は、この点をはっきり書いています。昔は「吃音に気がつかせない方がよい」が主流の対応だったが、今はその考え方が否定されている、と。いま勧められているのは反対の方向で、親子で吃音の話ができる関係をつくることと、「どもってもよいから、たくさんおしゃべりしてね」というメッセージを伝えることです。子どもが「しゃべりにくい」と言ったり、「どうして、ぼくは『あああ』ってなるの?」と口にしたりすることがあったら、そこは吃音について話すチャンスで、気持ちに寄り添って、話してくれて嬉しい、と伝えましょう、とも書かれています。

そのための準備として、吃音のある話し方は「くせ」に近いもので、いけないことでも悪いことでもないと伝えること、背の高い子も低い子もいるのと同じで話し方にもいろいろあると話すことが挙げられています。ふだんから吃音以外の悩みにもよく応じておき、吃音で困ったときにためらわず相談してもらえる関係をつくっておく、という準備の仕方も示されています。

そして、育て方についてです。公的な資料は、親の関わり方のまずさから子どもに吃音が起こることは決してないと、はっきり否定しています。学会も、親の接し方が悪かったことを原因とする説や、親が吃音だとみなして接することを原因とする説(吃音診断起因説)を、間違った原因論のうち最も問題があるものとして名指しで挙げ、その結果、母親が周囲から責められたという体験談が聞かれる、と書いています。2000年ごろ以降の双子研究・脳研究・遺伝子研究によって、環境の側の要因よりも、生まれつきの体質による要因のほうが吃音の原因として大きな割合を占めると分かってきた、というのが現在の整理です。上の手記で身内から向けられた言葉は、研究が到達した結論ではありません。

先の見通しについても、ひとこと。小学校に入っても吃音が続いている子どもについて、同じ資料はこう書いています。言語聴覚士やことばの教室で適切な指導と支援が得られれば、多くの場合、体のこわばりを伴う重い吃音は目立たなくなり、あるいはそのこわばりを自分で加減しながら話すやり方が身について、日々の暮らしで大きく困ることなくやっていけるようになる、と。「治る」か「治らない」かの二択で先を見なくてよい、というのがこの記述の意味です。

「増えた」「減った」をどう読むか — 波と、時間の見通し

待つと決めた家庭がいちばん揺さぶられるのは、日々の増減です。今週はほとんど出ていない、と安心した翌週に、また最初の音が続く。その繰り返しのなかで、保護者は自分の接し方や、その週にあった出来事を何度も点検することになります。

この行き来には名前が付いています。日本吃音・流暢性障害学会の解説は、調子の良い状態や悪い状態が数週間から数か月続く人も多いとしたうえで、こうした症状の変動は(調子の)「波」と呼ばれる、と説明しています。幼児期については、ことばの発達も話す運動も未熟で、疲れや環境の変化に敏感な子もいるため、わずかなことに影響されて症状が良くなることも悪くなることもあり、中には、まったく症状の出ない時期があるかもしれないことが書かれています。学齢期になると、多い時期・少ない時期の波はあっても、幼児期のようにまったく出ない時期は、あまり経験しなくなるとされています。幼児期に「まったく出ない時期」があること自体が、想定の範囲内として書かれている——ここは覚えておく価値があります。

言葉の使い方についての提案もあります。専門医は、保護者に対して「吃音が悪化する」「吃音がひどくなる」ではなく、「吃音が増える」という中立的な言い方をすすめています。同じように「改善する」ではなく「減った」という言い方を、この専門医自身は使っていると書いています。日々の記録をつけるときの言葉としても、この差はそのまま効いてきます。「悪化」と書けばその週の出来事の中から原因探しが始まりますが、「増えた」と書けば、それは記録の一行のままでいられます。

そして、時間の見通しです。日本の手引き(幼児吃音臨床ガイドライン)は、7割以上ある自然に治る力をできるだけ生かす方針を掲げ、その理由として最初の1年の重さは、この先どうなるかの見通し(予後)と関連しないので待機することを挙げています(例外条件あり)。あわせて、自然に治るまで2〜3年かかることもよくあるとも書かれています。2歳で始まったなら、その時計は2歳から動き出します。いま目立っていることは、この先ずっと目立ち続けるという予告ではありません。

幼児期の吃音の波を示す図。調子の良い状態と悪い状態が数週間から数か月にわたって続く人も多く、まったく症状が出なくなる時期もあるかもしれないこと、疲労や環境の変化の影響を受けやすいこと、学齢期になると全く出ない時期は少なくなることを示す。縦の目盛はなく、ブロックの大きさや並び順は症状の量や順番を表さない
図3: 調子の良い時期・悪い時期が数週間〜数か月続く人も多く、幼児期にはまったく出ない時期もあるかもしれない。出典: 日本吃音・流暢性障害学会「吃音(きつおん)について」

どこに相談する? — 二歳児の家庭がすでに接している窓口から

「待つ」と決めていても、相談先を1つ確保しておくことと待つことは両立します。というより、日本の手引きが想定しているのは「見てもらいながら待つ」形です。相談が寄せられる先として挙がっているのは、保健センターや小児科、耳鼻咽喉科、保育園・幼稚園・認定こども園、ことばの教室など幅広い窓口です。二歳児の家庭がすでに接している窓口ばかりです。

ここで、知っておくと落胆せずに済むことがあります。2000年前後を境に世界で研究が大きく進み、有効率が高い治療法がいくつも報告されて、先進国では幼児の吃音は早期治療が標準とされるようになった、と手引きの解説は書いています。それでも日本で「できるだけ自然に治るのを待つ」方針が採られているのは、数少ない専門家の力を最大限に活かすためです。同じ解説は、吃音になる幼児のうち10分の1しか医療機関にかからないとしても、その全員を診るには吃音の専門家の数が足りない、と率直に書いています。そのうえで現状の対応として、吃音を専門としない相談・診療の窓口が詳しい説明を引き受け、できれば経過観察も担い、治療が必要かどうかを見極めて治療施設へつなぐ、という連携を提案しています。最初の窓口で専門的な訓練が始まらなくても、それは順序どおりだということです。学会の解説も、年齢や状態に応じた指導を受けるために、ことばの教室の教員や、小児を扱う言語聴覚士に相談するよう案内しています。

相談の場で起きやすいことも、先に知っておいてください。相談に来たお子さんは、その場では思ったほど症状が出ないことが多いのです。そしてなめらかに話す様子を見て、相談を受けた人がつい「気にならないですね」「軽い吃音ですね」と言うことがある——これは養育者にとってプラスに働くことは少ない、と指摘されています。家庭で見た様子を、いつ・どんな場面で・どんな出方だったかまで持っていくことが、この行き違いを減らします。

では、「待つ」から「相談する」に切り替える目安はどこにあるのでしょうか。手引きは、治療の必要性を判断する基準として、重症/本人が気にしている/発話が苦しそう/悪化している、そして就学の1年程度前になっても軽くなる傾向がない、を挙げています。声を出そうとして顔や体に力が入ってしまう動きは「随伴症状(ずいはんしょうじょう)」と呼ばれますが、こうした様子が出てきたときも、「発話が苦しそう」に当たる様子として相談を考える材料になります。

続きやすさの手がかりについても、研究から報告があります。就学前の子ども52人(研究の対象は3〜5歳)を、回復か持続かまで追いかけた研究では、次の4つが吃音の持続と関連していたとされています。

  • 家族に吃音のある人がいる(家族歴がある)
  • 音の作り方を調べる検査の成績が低め
  • ふだんの会話で、なめらかに出ない話し方が多く出る
  • 意味のない音のならびを復唱する課題の成績が低め

これらは「あればかならず続く」というものではなく、重なるほど予測が当たりやすくなる、という性質のものです。しかも研究の対象は3〜5歳で、2歳ではまだ検査そのものが難しい年齢です。あくまで「気にかけておく目安」として使ってください。手引きも、自然に治らない子を早い時期に見分けられる確実な指標はないと書いています。

「待つ」あいだにやりがちな3つの落とし穴

落とし穴1 − 週ごとの増減を、この先の見通しとして読む

今週は減った、来週はまた増えた——その行き来自体が幼児期の吃音の特徴で、調子の良い状態・悪い状態が数週間から数か月続くこともあります。まったく出ない時期があっても、それがそのまま終わりを意味するとは限りません。手引きも、最初の1年の重さはこの先の見通しと関連しないとしています。言葉のうえでも、「悪化した」ではなく「増えた」と書くことがすすめられています。

落とし穴2 − 家族だけで抱えて、周りに伝えないまま時間が過ぎる

家族が慣れるのは自然なことですが、園やきょうだい・親族に伝わっていないと、子ども自身が違いに気づき始める時期に、周りの反応だけが先に届いてしまいます。子ども自身が「他の子の話し方と違う」ことに気づき始めるのは4歳ごろ(早い子は2、3歳でも)、周りの子からの指摘が始まるのもおおむね4歳ごろとされています。伝える内容は、病気ではない/緊張やストレス、家庭環境だけから生じるものではない/本人がわざとやっているのではない、の3点です。

落とし穴3 − 記録せず、記憶だけで判断する

波があるぶん、「先週より増えた気がする」という記憶だけでは、増えているのかどうかの判断が難しくなります。しかも、相談の場ではお子さんに症状が出ないことが多いのです。いつ・どんな場面で・どんな出方だったかを短くメモしておくと、経過の変化に気づきやすく、相談のときに家庭での様子を伝える助けになります。2歳11か月に最初の繰り返しが出てから、繰り返しと引き伸ばしの入れ替わりや、目立つ時期と目立たない時期を月齢ごとに書き分けて、3歳半健診の相談まで続けた保護者の記録もあります(台帳: V0052)。

手書きのメモでも、発話を記録して続けやすくするアプリでもかまいません。記録はあくまで経過を見える化し、相談を助けるためのもので、それ自体が治療ではありません。気になる状態が続くときは、専門機関への相談を優先してください。それでも記録は、待つ期間を「ただ待つ」時間にしないための、小さな一歩になります。

よくある質問

二歳児の吃音、様子を見ているあいだは何をすればいいですか?

日本の手引き(幼児吃音臨床ガイドライン)は、待つあいだのアドバイスとして「楽しくお喋りできるように環境を整える」ことを挙げ、そこに「治癒しない結果になっても有用」と添えています。具体的には、大人の側がゆっくり話す、話し終わってから一呼吸置く、最後まで聞く、毎日少しでも一対一の時間をつくる、といったことが提案されています。あわせて、経過を見てもらえる相談先を確保しておくことがすすめられています。

「ゆっくり話してね」と子どもに声をかけるのはいけないことですか?

公的な資料は、子どもの側に「ゆっくり」「落ち着いて」と声をかけるのはできるだけ控えるように、としています。ゆっくり話すのは大人の側で、子どもに求めるのではない、という向きです。なお、その大人側の話す速さや間についても、それで子どもがなめらかに話せるようになるという関係は検出されなかったと報告されています。「回復を決めるのは親だ」という考えには十分な根拠がなく、害をもたらしうるとも指摘されています。

保育園や祖父母には、いつ・どう伝えればいいですか?

学会の解説は、きょうだいや親戚に加えて、子どもが所属する集団の場でも、次の3点を伝えるよう勧めています。吃音は病気ではないということ。本人がわざとやっているのではないということ。緊張やストレス、家庭環境だけから生じるものではないということ、の3つです。周りの子どもからの指摘が始まるのはおおむね4歳ごろとされているので、2歳の時点で伝えておくのは早すぎることにはなりません。リーフレットなどを使うことも有効だとされています。

良くなったと思ったら、また戻りました。悪化しているのでしょうか?

調子の良い状態・悪い状態が数週間から数か月にわたって続くことは多く、この変動は「波」と呼ばれています。幼児期には、中にはまったく症状の出ない時期があるかもしれない、と書かれています。手引きも、最初の1年の重さはこの先の見通しと関連しないとしています。ただし、増えている・話すのが苦しそう・本人が気にしている、といった様子があるときは相談の目安に挙げられているので、そのときは待たずに相談してください。

二歳児の吃音は、どこに相談すればいいですか?

幼児の吃音の相談は、保健センターや小児科、耳鼻咽喉科、保育園・幼稚園・認定こども園、ことばの教室など幅広い窓口に寄せられているとされています。ただし、そうした施設の多くには言語聴覚士がいないため、吃音を専門としない相談・診療の窓口が説明と経過観察を担い、治療が必要かどうかを見極めて治療施設へつなぐ連携が提案されています。年齢や状態に応じた指導については、ことばの教室の教員や、小児を扱う言語聴覚士への相談が案内されています。

まとめ

  • 待つあいだの過ごし方は、治るかどうかと切り離して意味があります手引きは「楽しくお喋りできるように環境を整える」ことに「治癒しない結果になっても有用」と添えています。
  • 「大人がゆっくり話す」「間をとる」は、それでなめらかに話せるようになるという裏づけが確かめられているわけではありません「回復を決めるのは親だ」という考えには十分な根拠がなく、害をもたらしうるとも指摘されています。うまくできない日を責めなくて大丈夫です。
  • 「気づかないフリ」はもう勧められていません。園やきょうだい・親族に、病気ではない/緊張やストレス、家庭環境だけから生じるものではない/わざとではないの3点を伝えておきましょう。周りの子からの指摘はおおむね4歳ごろに始まります。
  • 二歳児の吃音は行き来します調子の良い状態・悪い状態が数週間〜数か月続くことも多く、中にはまったく出ない時期もあるかもしれない、と書かれています。週ごとの行き来は幼児期の特徴であり、最初の1年の重さはこの先の見通しと関連しないとされています。日々の増減を、この先の予告として読まないでください。
  • 相談先は保健センター・園・小児科・耳鼻咽喉科・ことばの教室など、すでに接している窓口から。重い/増えている/本人が気にしている/苦しそう、のいずれかがあれば待たずに。育て方が原因ではないことは、公的資料が明言しています。

参考文献

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  4. Bernstein Ratner (2026) Not So Simple, and Not So Fast: The Limits of Speech Rate and Turn-Taking Modifications for Treatment of Early Stuttering. A Response to Onslow et al. (2026). Am J Speech Lang Pathol.
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  8. 発達障害ナビポータル「小児期発症流暢症(吃音)」(2025・菊池良和)
  9. 国立障害者リハビリテーションセンター リハニュース No.370 特集「幼児吃音臨床ガイドライン」の作成と公開(森浩一)
  10. 吃音ポータルサイト「お子さんとの接し方の提案」(金沢大学・小林宏明 監修)
  11. 日本医事新報社 note出張版『保護者からの質問に自信を持って答える!吃音Q&A』連載第2回「利き手矯正と吃音の波」(菊池良和)

当事者の声の出典: V0056(アメブロ・yuatのワーママブログ)/ V0058(アメブロ・息子を連れてハワイに行くぞー)/ V0060(アメブロ・かぞくじかん。)/ V0048(日本吃音臨床研究会「吃音相談室」に寄せられた親の手記)。本文中で言及のみ: V0052(アメブロ・さちの育児記録/月齢ごとの経過記録)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-07-22 公開/2026-08-27 骨格v2へ全面リライト(声の入れ替え・出典の追加と訂正・専門語の平易化・図スロットの設置)