まず結論から
- 「吃音改善研究所」と名のつく機関の案内ページには、初めての人はまず体験セッションを受け、そのあと通常セッションが始まること、受講は月に1〜2回のペースであることが書かれています。
- 医療機関の場合は書きぶりが変わります。大学病院の吃音外来では、医師が吃音症の診断を行い、言語聴覚士が発声・発音の練習を中心とした言語訓練を行うと案内されています。
- 青年期以降の人には、話し方を組み立て直していく方法などに、効果の大きい良好な根拠があるとされています。一方で6〜12歳の子どもには、どの治療にも確かな根拠がないとされています。
- ドイツの診療ガイドラインは、治ることを約束し、治療の目標とやり方を分かる形で説明しない進め方を、行うべきでないものとして挙げています。
- 週に1回以上を3か月続けたら、治療の目標のどれかで目立った改善が見えるはずで、見えなければやり方を見直すべきだとされています。
ただし、この記事は特定の機関を勧めるものでも、勧めないものでもありません。ある機関が自分のページに掲げている数字や説明は、その機関自身が書いたものであって、第三者が確かめた成績ではありません。ここで並べるのは、外から確かめられることと、研究が今のところ言えていることだけです。
「研究所」「センター」と名のつく所では、実際に何をするのか
名前は業態を教えてくれません。「研究所」も「センター」も「教室」も、誰でも名乗れる言葉です。だから最初にすることは、その機関が自分のページで「何を、どのくらいの頻度で、誰が」と書いているかを読むことになります。まず、実際に通った人の記録から入ります。
当事者の声(峰平佳直さん・大阪の会社員47歳/自助団体の会報に載った、ことば文学賞の受賞作)
自由に使えるお金ができ、どもりを治そうと決意して、大阪の民間吃音矯正所に通い続けた。そこは、「堂々と、ゆっくり話す習慣が身に付けば、どもりは治りますよ」と教えていた。
3年間、本の朗読、外に出て道を聞きながら歩く実地訓練、人前でスピーチをする。私はがんばった。私は矯正所の中では堂々と話す事が出来た。
18歳で就職し、会社の電話が恐怖だったと書く人が、自由に使えるお金ができた時点で選んだのが、この通い先でした。教わった内容は「堂々と、ゆっくり話す」。訓練の中身は朗読と実地訓練とスピーチで、3年続きます。本人は「矯正所の中では堂々と話す事が出来た」と書き、その後22歳で会社に4か月の休職願いを出して別の機関に入り、そこで「どもりが治らない事を、ここで初めて知った」と続けています。これは一人の経験であって、今ある機関の成績を語るものではありません。ただ、中で話せることと、外で話せることは別に確かめる必要がある——診療ガイドラインが治療に求めている条件も、まさにそこを見ています。
出典: 第7回ことば文学賞 受賞作品「三つ子の魂、百までも」(日本吃音臨床研究会)(台帳: V0233)
では、今の機関はどう書いているでしょうか。「吃音改善研究所」を名乗る機関の「料金と内容」のページには、初めての人はまず体験セッションを受けること、そこで吃音の検査を行って今の状態を聞き取り、その人に合わせた改善方法の提案を行うことが書かれています。体験セッションのあとに通常セッションが始まり、受講の頻度は月に1〜2回のペースだとされます。基本はスタジオでの対面ですが、スカイプやLINEのビデオ通話でも受けられ、受講している間は日頃の疑問や相談をメールと電話で受け付けるとも案内されています。ページの末尾には代表者の肩書きが載り、公認心理師であること、国際流暢性学会・日本吃音流暢性障害学会・日本コミュニケーション障害学会の会員であることが本人の署名つきで記されています。ここまではすべて、その機関が自分で書いた説明です。第三者が検証した記録ではない、という区別だけは外さないでください。
同じことを医療機関の側で見ると、書き方がはっきり変わります。北里大学病院の吃音外来は中学生以上が対象で、医師による吃音症の診断と、言語聴覚士による発声・発音練習を中心とした言語訓練を行うと案内しています。1回の受診は医師の診察と言語訓練を含めておよそ1時間30分、通院はおおむね1か月に1回程度で、個人差はあるものの5〜7回程度で終了となるとしています。幼児や小学生以下の子どもの評価・指導は同じ病院の耳鼻咽喉科・頭頸部外科外来が対応し、吃音による障害者手帳の交付に関わる診断書は取り扱っていないとも明記されています。誰が診断し、誰が訓練し、何回くらいで終わるのか——確かめたいのはこの3つです。
「改善」という言葉と、研究が測っているものは同じか
機関の案内には「良くなる」「改善」という言葉が並びます。一方、研究の側にも「効果があった」という報告があります。この二つは同じ意味ではありません。まず、「いつか必ず治る」という思いを支えに通った人の記録を置きます。
当事者の声(伊藤伸二さん・日本吃音臨床研究会代表/同会サイト「臨床の広場」の「私の経験」より)
私は小学2年生の秋から吃音に悩み、辛い学童期・思春期を生きた。その時、私を支えていたのは「いつか必ず治る」という思いだった。吃っている限り私の明るい未来はない。吃音が治ることだけを夢見た。吃っている間は「仮の人生」で吃音が治ってから私の人生が始まると思っていた。
21歳の夏休み、東京正生学院という吃音矯正所で、1か月は寮で生活し、一日中訓練に明け暮れた。
1965年に21歳だった人が、1か月の寮生活と3か月の通院という形で「治す努力」に時間を注いだ記録です。注目したいのは、同じ書き手がのちに、当時の矯正所を全否定してはいない点です。「必ず治る」と宣伝しすぎたことと呼吸練習を重んじたことは問題だとしたうえで、実際に教えていた話し方のやり方自体は、いま海外の大学で行われている方法と大きくは違わない、と書いています。問題は手法そのものより、約束の仕方だったという見立てです。研究の側も、この「約束」と「測られたこと」の距離を問題にしてきました。
出典: 吃音治療・吃音コントロールの難しさ(日本吃音臨床研究会「臨床の広場」)(台帳: V0293)
では研究は何を測ってきたのか。ドイツの17学会がまとめた診療ガイドラインは、年齢層ごとにエビデンス(研究で確かめられた裏づけ)の強さを整理しています。就学前の子どもについては、親が担い手になるリッカム法という方法にもっとも良い裏づけがあり、大人が直接は話し方に働きかけない進め方にも強い裏づけがあるとされます。ところが6〜12歳の子どもについては、どの治療についても確かな裏づけがないと書かれています。青年と成人については、話し方を組み立て直していく方法などに、効果の大きい良好な裏づけがあるとされます。
同じ結論は、別のまとめ方でも出ています。あらかじめ条件を決めて研究を集め、まとめて評価するやり方があり、子どもと思春期の当事者を対象にした介入をこの方法で拾い直した報告は、就学前の子どもについてリッカム法を最高の等級と評価しました。一方で、より年長の学齢期の子どもと思春期の当事者を対象にした無作為化比較試験(くじ引きで治療する群としない群に分けて比べる、もっとも厳しい調べ方)は一件も見つからず、この年齢層の裏づけの水準は「乏しい」と評価されています。同じ就学前の介入を同じやり方で集めたコクランのまとめでも、条件に合った研究は4件、参加した2〜6歳の子どもは合計151人でした。「効果がある」と言えるだけの研究が積み上がっているのは、いまのところ限られた年齢と限られた方法だけだということです。
さらに、吃音の分野で根拠にもとづく実践がこの20年でどこまで進んだかを点検した論考は、進んだ点を挙げたうえで、早い時期の吃音への治療が、自然に収まっていく経過よりはっきり優れていると言えるかどうかを見きわめるのが難しいことを、残された課題として挙げています。同じ論考は、裏づけの弱い介入や助言が、就学前を過ぎても吃音が続く子どもに及ぼしうる悪い影響についても論じています。ここまでが、「良くなる」という言葉と研究の距離です。
「治したい」という気持ちのほうは、どう置けばいいのか
ここまで読んで、「では治したいと思うこと自体が間違いなのか」と受け取った方がいるかもしれません。そうではありません。面接を控えた中学3年生へ宛てて書かれた手紙に、この気持ちの置き場所についての一節があります。
当事者の声(公立と私立を併願した当時を回想する成人の経験者/面接を控えた中学3年生へ宛てた経験者4名の手紙・全国言友会連絡協議会 主催「小中高校生の吃音のつどい」)
ではどうすればいいのか?治したいと言う気持ちが有るのはそれはそれで仕方が無い、それでいい。自分の正直な気持ちなのだから。ただ、自分の生活の中で、どもりだからと言って、話す場から逃げるような事は絶対しないよう、頑張ってみてください。絶対というのはいきなりむずかしいのなら、出来る限りとなるのかもしれませんが。
宛先は、これから高校入試の面接を受ける中学3年生です。書き手は「治したい」という気持ちを否定せず、そのうえで頼んでいるのは一つだけ——話す場から逃げないこと。しかも「絶対」が難しければ「出来る限り」でいい、と言い直しています。手紙はこのあと、注文したり友達と話したりする具体的な場面を挙げて続きます。ここで名指しされているのは、話し方そのものではなく、避ける・逃げるという行動のほうです。当事者にとっての「良くなった」が何を指すのかを調べた研究も、ほぼ同じ場所を指しています。
出典: 面接を控えた中3へ、経験者4名の手紙(小中高校生の吃音のつどい)(台帳: V0073)
吃音のある成人228人に、「回復」と「再発」が自分にとって何を意味するのかを尋ねた研究があります。そこで語られた回復は、詰まりの回数が減ることだけではありませんでした。吃音に対する感情面・行動面・考え方の反応のうち、前向きなものが増え、同時に否定的なものが減っていくこと——それが当事者の言う回復だった、と報告されています。しかもこの定義は、自分が回復したと考えている人でも、再発を経験したと考えている人でも変わりませんでした。
この研究がもう一つ示しているのは、話し方の上での回復・再発と、生活の中での負担の上での回復・再発は、別々に起こりうるということです。詰まりは減っていないのに生活は楽になっている人もいれば、逆の人もいる。だから研究者も臨床家も、回復と再発を「見える行動が減ったか増えたか」だけで扱うべきではない、と結論づけています。通う先を選ぶときも、「何がどうなったら良くなったと言えるのか」を先に決めておくと、あとで自分で確かめられます。
通ってみて、変わらなかった人はどこへ行くのか
もう一つ、案内ページには書かれないことがあります。通ってみて思うような変化が無かったとき、その先に何があるのか、ということです。大学を中退したあと数年を「治す」ことに使った人の手記に、その先が書かれています。
当事者の声(堤野瑛一さん・24歳。高2で吃音を自覚し、ピアノで合格した芸術大学を中退/自助団体の会報に載った手記)
「あそこには吃音を受け入れて生きていこうとする仲間がたくさんいる」と、大阪吃音教室の事が頭をよぎり、大阪吃音教室に通う事を決心しました。 毎週欠かさず通っています。吃音は治るに越した事はありませんが、今は、吃音を治そうとは思いません。どうあがいたって治らない事を知っていますし、絶対に治らないものを治そうと努力すれば、決して幸せにはなれない事を、よく知っているからです。大阪吃音教室のみんなと、どもりながらでも上手に生き、吃音とうまくつき合えるようになればな、と思っています。
この手記は2002年の発表を書き起こしたもので、書き手は当時24歳です。在学中に一度だけ同じ場に足を運び、そのときは通わなかったと書いています。数年を経て戻ってきたときの言い方が「治すため」ではなく「どもりながらでも上手に生き」に変わっているところが、この記録の要点です。これは一人の結論であって、誰にとっても治らないという意味ではありません。ただ、治療の場ではない集まりに何ができて何ができないのかは、公的な資料が整理しています。
出典: 何とか治したいと思い続けた日々(日本吃音臨床研究会)(台帳: V0090)
吃音ポータルサイトは、言友会や日本吃音臨床研究会のようなセルフヘルプ(自助)グループについて、こう線を引いています。当事者の集まりなので、言語聴覚士のように吃音についての学術的な知識や、吃音を改善するための専門的な指導・支援が受けられるわけではない。しかし、同じ問題を持つ仲間と出会い、当事者同士でないと感じられない連帯感の中で悩みを聞いてもらったり、同じ立場から具体的な助言をもらえたりする——そこにしか無いものがあることも事実だ、としています。専門的な指導の代わりにはならないが、別の役割がある、という整理です。
診療ガイドラインの側も、自助グループへの参加を推奨しています。ただしその推奨の根拠は、効果を測った研究ではなく、臨床家の合意(臨床的コンセンサス)だと明記されています。効果が証明されているから勧める、という書き方ではないことは押さえておいてください。なお、これはドイツの自助連盟を例に書かれた記述です。
良くなったあと、また戻ることはあるのか
「通ってよくなっても、やめたら戻るのでは」という不安は、実際に研究の主題になっています。治療を終えた成人を、追加の訓練をせずに毎月の経過確認だけで追いかけた研究があります。構造化された治療を終えた成人40人が経過観察に入り、そのうち19人が24か月の毎月の確認を完了しました。話しやすさへの満足度を5段階で毎月自己評価してもらい、治療直後より下がった状態が続いた場合を「再発」とあらかじめ決めておく、という設計です。
24か月の間に、あらかじめ決めた「続く再発」の基準に当てはまったのは1人(5.3%)でした。満足度が一時的に2段階下がった時点があった人は6人(32%)いましたが、1人を除いて24か月までに戻っていました。満足度は治療前より治療後に有意に上がり、24か月の時点でも治療前より有意に高いままでした。12か月の時点でわずかな下がりはあったものの、治療直後と24か月後の間に有意な差はありませんでした。
ただし、この研究には限界がはっきり書かれています。比べる対照群を置かない単一群の設計で、指標も自己申告の1種類だけなので、経過確認そのものが再発を防いだと因果として読むことはできない、と原典自身が断っています。読み取れるのは「治療後に定期的な確認を続けた人たちで、自己評価の満足度が2年間おおむね保たれていた」という記述までです。
年齢によって話が変わることも押さえておきます。学齢期の子どもについては、介入が扱いにくくなり、再発も起こりやすいとされています。そのため学齢期を通じて、使われる介入の重心は「吃音をなくすこと」から「吃音を最小にして制御すること」へ移っていく、とも書かれています。
通う前と、通い始めてから確かめる3点
ここまでの材料から、自分で確かめられることを3つに絞ります。いずれも効果を判定するものではなく、説明の仕方と進め方を見るための物差しです。
1. 目標とやり方が、分かる形で説明されるか。診療ガイドラインは、行うべきでない進め方として6つを挙げています。日常生活へ持ち出すための手立てを含まないもの、再発への対処を含まないもの、短期の成功はあるが長期に追いかけた研究が無いもの、呼吸の変更や弛緩法だけに頼るもの、吃音の原因や再発の責任を本人や家族に負わせるもの、そして治ることを約束し、治療の目標とやり方を分かる形で説明しないものです。同じガイドラインは、薬による治療は行うべきでないとし、リズムに乗せて話す練習や呼吸の調整を唯一・主要な柱にすること、催眠、そして見てとれる考え方の枠組みを持たない吃音療法も行うべきでないとしています。
2. 3か月たって、目標のどれかが動いているか。週に1回以上の頻度で3か月続けたら、治療の目標のどれかで目立った改善が見えるはずだ、というのがガイドラインの目安です。見えなければ、やり方そのものを見直すべきだとされます。結果は追跡の診察で確認すべきだとも書かれています。通い先を変える/続けるの判断を、気分ではなく期間で切れるようにしておくということです。
3. 誰が担当するのか、その肩書きは何を保証するのか。言語聴覚士は国家資格で、養成課程に吃音が含まれており、吃音のある人の指導・支援の中核を担う存在として期待されています。ただし業務が多岐にわたるため、すべての言語聴覚士が吃音の指導や支援を行えるわけではありません。だから病院や協会・都道府県の士会に事前に問い合わせる手順が案内されています。民間の機関の場合、ページに載っている肩書きや所属学会、実績の件数は、本人が自分で書いた申告です。学会の会員であることは、その学会が効果を保証したという意味ではありません。
広告表示そのものにもルールがあります。消費者庁は、景品表示法が商品やサービスの品質・内容・価格などを偽って表示することを厳しく規制する法律であり、消費者がより良い商品やサービスを自主的かつ合理的に選べる環境を守るものだと説明しています。また、一般の人が事業者の表示だと見分けることが難しい表示(いわゆるステルスマーケティング)は、2023年10月1日から景品表示法違反になっています。感想や体験の形をしたものを読むときは、それが誰の立場で書かれたものかを先に確かめてください。
この3点は、機関の良し悪しを判定する基準ではありません。説明を受ける側が同じ物差しで比べられるようにするための確認事項です。
公的な相談先と、いつ動くかの目安
民間の機関を検討する場合も、しない場合も、公的な入口は別に用意されています。大人の場合、まず名前が挙がるのは言語聴覚士です。多くは病院のリハビリテーション科や耳鼻咽喉科などに勤めていますが、吃音を扱えるかどうかは事前の問い合わせで確かめる必要があります。子どもの場合は、ことばの教室や、幼児・小学生を受け付けている診療科が入口になります。北里大学病院のように、中学生以上は吃音外来、小学生以下は耳鼻咽喉科・頭頸部外科外来と、年齢で窓口を分けている医療機関もあります。
受け付けの状況は変わります。同じ病院の吃音外来は、問い合わせが集中したため新規の予約受付を停止しており、再開は2027年2月上旬頃を予定していると案内されています。案内は必ず、行こうと思った時点で開き直してください。
いつ動くかについては、診療ガイドラインに目安があります。3〜6歳の子どもは、吃音が始まってから6〜12か月の間、経過を見るとされます。その期間を過ぎても続いていれば治療を始める、という組み立てです。ただし、吃音が続きやすい要因がいくつも重なっている場合、中核の症状に制御を失う感じや力の入り方の強まりを伴う長い症状が含まれる場合、症状が親や子にとって負担で避ける行動を生んでいる場合には、ただちに始めるべきだとしています。あわせて、完全な回復を保証することはできないとも明記されています。
大人が受ける訓練の中身についても、前提を知っておくと選びやすくなります。国立障害者リハビリテーションセンターの資料は、青年期以降の訓練法を、話し方に直接働きかける直接法と、そうしない間接法に大きく分けています。直接法には、吃音が出にくいようコントロールした話し方を身につける方法(流暢性形成法)や、楽に吃ることを目標とする方法(吃音緩和法)があります。同じ資料は限界にも触れており、直接法ではその人本来の話し方とは違うコントロールされた不自然な話し方になるため違和感を持つ人もいること、効果を保つのが難しいという意見があることを挙げています。間接法は効果の維持は比較的良いものの、治療そのものに長い期間がかかるとされます。
機関を探すときに陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 機関が掲げる数字を、研究の結果と同じものとして読む
機関のページに載る数字は、その機関が自分で集計し自分で書いたものです。研究の結果は、誰を集め、何と比べ、何を測ったかが手続きとして書かれ、他の人が検証できる形で公開されます。たとえば就学前の子どもへの介入をくじ引きで比べた研究は、条件に合ったものが4件、参加した子どもは合計151人でした。数字の大小ではなく、その数字がどこで作られたかを見てください。第三者が確かめていない数字は、参考にはなっても比較の基準にはなりません。
落とし穴2 − 名前から、公的な機関だと受け取ってしまう
「研究所」「センター」「教室」という言葉は、それ自体が資格や認可を表すものではありません。判断できるのは書かれている中身のほうです。医療機関であれば、医師が診断し言語聴覚士が訓練を担当すると書かれ、対象年齢や通院の回数の目安も示されます。民間のサービスであれば、体験セッションから通常セッションへ進む流れや受講の頻度、予約の方法が書かれます。どちらが良いという話ではなく、性格が違うということです。同じ物差しで比べようとすると読み違えます。
落とし穴3 − 変化が見えないまま、期間を決めずに続けてしまう
始める前に「何がどうなったら良くなったと言えるか」を決めておくと、あとで自分で確かめられます。診療ガイドラインの目安では、週1回以上を3か月続けて目標のどれかに目立った改善が見えなければ、やり方を見直すべきだとされています。そして当事者にとっての回復は、詰まりの回数だけでなく、吃音に対する感情・行動・考え方の反応のほうにも現れると報告されています。どんな場面で話せたか、何を避けずに済んだかを書き留めておくと、判断の材料になります。
記録は紙のノートでも構いません。相談に行くときにも、そのまま持っていけます。
よくある質問
「吃音改善研究所」は病院ですか?
名前だけでは分かりません。その機関のページを開いて、誰が何をするかを確かめてください。ある機関の案内では、初めての人は体験セッションを受け、そのあと通常セッションへ進み、頻度は月1〜2回、完全予約制だと書かれています。一方、医療機関の吃音外来では、医師が吃音症の診断を行い、言語聴覚士が発声・発音練習を中心とした言語訓練を行うと案内されています。
大人の吃音は、訓練で良くなりますか?
青年と成人については、話し方を組み立て直していく方法などに、効果の大きい良好な裏づけがあるとされています。ただし、こうした直接法では本来の話し方とは違うコントロールされた不自然な話し方になるため違和感を持つ人もいること、効果を保つのが難しいという意見があることも指摘されています。
子どもの場合はどうですか?
就学前の子どもについては、親が担い手になるリッカム法がもっとも良い等級と評価されています。条件に合う研究は4件・2〜6歳の子ども151人で、裏づけの確からしさは低いものから中程度と注記されています。一方、6〜12歳の子どもについては、どの治療にも確かな裏づけがないとされています。
良くなっても、また戻ってしまいますか?
治療を終えた成人を追加の訓練なしで追いかけた研究では、24か月のうちにあらかじめ決めた「続く再発」の基準に当てはまったのは19人中1人(5.3%)で、一時的に満足度が下がった人が6人(32%)いました。ただし対照群を置かない単一群の設計で、指標も自己申告の1種類だけだと原典自身が断っています。学齢期の子どもについては、再発が起こりやすいとされています。
通い始める前に、何を確かめればいいですか?
治療の目標とやり方が分かる形で説明されるか(治ることを約束して説明しない進め方は、行うべきでないものとして挙げられています)、週1回以上を3か月続けて目標のどれかが動いているか、そして誰が担当するのかの3点です。言語聴覚士は国家資格ですが、全員が吃音の指導・支援を行えるわけではないため、事前の問い合わせが案内されています。広告表示については、消費者庁が景品表示法の考え方を示しています。
まとめ
- 「吃音改善研究所」と名のつく機関の案内には、体験セッションから通常セッションへ進む流れと、月1〜2回という頻度、対面とオンラインの形式が書かれている。肩書きや実績は本人の申告として読む。
- 医療機関の吃音外来では、医師の診断と言語聴覚士の言語訓練という担当の分かれ方、対象年齢、通院回数の目安が示される。受付状況は変わるので行く前に開き直す。
- 裏づけが積み上がっているのは年齢と方法が限られている。就学前は良い評価、6〜12歳は確かな裏づけなし、青年・成人は効果の大きい良好な裏づけがあるとされる。
- 確かめるのは3点——目標とやり方が分かる形で説明されるか、3か月で目標のどれかが動いているか、誰が担当するのか。治ることを約束して説明しない進め方は、行うべきでないものとして挙げられている。
- 当事者にとっての「良くなった」は、詰まりの回数だけでなく感情・行動・考え方の反応にも現れる。通う先を選ぶ前に、自分にとっての目標を言葉にしておく。