吃音で友達ができない|話しかけられない理由と伝え方・大人の居場所

吃音で友達ができない|話しかけられない理由と伝え方・大人の居場所
目次

新しいクラス、新しい部活、新しい職場。周りは自然に話しかけ合って、いつの間にか輪ができている。自分だけが、最初の一言が出なくて立ち尽くしている。話しかけたい相手はいるのに、名前を呼ぶところで止まってしまう。笑われたあの日から、自分から話すのをやめてしまった——吃音(きつおん)があって「友達ができない」と感じている人は、その理由を自分の性格のせいにしがちです。

この記事は、結論を先に置いたうえで、同じ場所でつまずいた5人の当事者の記録と、それに研究や専門機関の資料が何を言えているのかを一つずつ並べます。拠り所にしたのは、吃音のある子どもと同級生全員を調べた英国の学級研究、日本吃音・流暢性障害学会の解説、日本の吃音のある成人180人に「自分から伝える度合い」を尋ねた筑波大学の研究者らの調査、そして慶應義塾大学病院の医療情報です。いじめそのものへの対処、学校への頼み方、自己紹介という場面は、それぞれ別の記事に譲ります(本文の途中で案内します)。

ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる症状があるときは、言語聴覚士やことばの教室にご相談ください。

まず結論から

  • 「話しかけられない」「輪に入れない」は、性格の問題として起きているのではありません。話す場面での失敗の経験が重なると、話し始める前から不安や恐怖を感じ、次第に会話や人づき合いそのものを避けるようになる——日本吃音・流暢性障害学会は、吃音の経過をそう説明しています。
  • きっかけになりやすいのは、からかいです。学齢期には約半数がいじめやからかいを経験すると報告されています。英国の通常学級で吃音のある子と同級生全員を調べた研究では、吃音のある子は仲間から拒否されやすく、人気のある側に入りにくいという結果でした。研究チームは、友達を作り、保つことの難しさが、吃音のある子の抱える問題の重要な部分だと結論づけています。
  • 「黙ってしまう」ことが、周りには内気に見える。それが仲間関係を難しくしているのではないか——この研究チームは、その見立てから出発しています。ただし調査の結果では、「内気」に挙げられた子の割合に、吃音のある子とない子で統計的な差は出ていません。黙っているのは、話したくないからではありません。
  • 友達に吃音のことを伝えるかどうかは、本人が決めることです。伝えることの影響を調べた研究18件をまとめた報告では、15件で好意的な影響があり、謝らない言い方のほうが好意的に受け止められていました。一方で日本の当事者180人の調査では、伝える度合いは米国の調査より低く、当事者の集まりに参加した経験や、自分を受け入れている度合いと結びついていました。
  • 大人になってから友達を作る場所として、学会が名前を挙げているのは当事者の自助団体です。「吃音があるのは自分だけではない」と知り、共通の体験を語り合うことが活動の中心とされています。

ただし、英国の学級調査は吃音のある子16人という小さな規模で、研究チーム自身が、この人数では教室での立場について確定的な結論は出せないと断っています。伝えることの研究が測ったのも聞き手の印象であって、あなたの教室や職場で何が起きるかを保証するものではありません。この記事は「こうすれば友達ができる」という手順書ではなく、同じ場所に立った人の記録と、研究が言えている範囲の一覧です。

「話しかけられない」——高校3年間、友達がゼロのまま卒業した記録

友達ができない場面は、たいてい静かに始まります。誰かに何かをされたわけではない。ただ、最初の一言が出ない。そのまま、輪ができていくのを見ている。中学までは友達を自然に作れていた人が、高校でそうなった記録があります。

当事者の声(名義「やっち」・29歳・製薬会社の研究員。両親によると3歳のころから吃音/NPO法人日本吃音協会のメディア「HAPPY FOX」への本人寄稿)

高校生になり、私は友達を作ることに失敗してしまいました。中学時代の友達とは進学時に離れ離れになってしまったため、ゼロから友達を作る必要があったのですが、吃音を気にしてしまい、積極的に話しかけることができませんでした。

結局、友達が一人もできないまま高校生活をスタートすることになりました。そして、友達がゼロのまま卒業まで過ごすことになりました。

中学1年生までは話すことが好きな子どもで、吃って笑われることより友達との会話を楽しむほうを優先していた、と本人は書いています。変わったのは中学2、3年のころ。吃音を強く意識するようになり、仲の良い友達以外とのやりとりをだんだんと避けるようになった。そこへ進学で環境が切り替わり、ゼロから作り直す局面が来ます。この人が高校3年間でいちばんつらかったと挙げるのは、2年生の文化祭です。仲の良い友達同士で5人ほどのグループを作って仕事を分けることになり、誰かが誘ってくれるのではないかと期待して黙って見ていたが、誰も声をかけてはくれなかった。準備期間から当日まで、図書室で数学の雑誌を解いて過ごしたといいます。この「避けるようになる」順番を、学会の解説はそのまま書いています。

出典: 学生時代の吃音の経験とNPOにかける思い(HAPPY FOX・日本吃音協会)(台帳: V0116)

日本吃音・流暢性障害学会は、思春期以降の吃音について、吃音によって話す場面での失敗の経験が重なると、話し始める前に不安や恐怖を感じ、次第に会話や社交を避けるようになると説明しています。また、吃音を巧みに隠そうとして言いにくい単語を言い換える工夫をすることもあり、その場合、吃音は目立たなくなる一方で、実際は吃音が出ないかを日々警戒しながら生活することになる、とも書かれています。「積極的に話しかけることができませんでした」という一文は、この「避ける」がいちばん最初に現れる形です。話しかけるという行為は、言う言葉も相手の反応も自分で選べない場面だからです。

当事者の体験を軸に治療を考え直した米国の論文は、聞き手には見えない反応として、特定の音・語・場面を避けることや、どもりそうだと感じた語を別の語に言い換えることを挙げています。そして子どもについては、吃音への否定的な反応が、学校の成績や課外活動だけでなく、人間関係を築く力や自分で決めて動く力の面でも困難につながりうる、と述べています。この人の場合、大学では「友達を作りたい」という一心で友達を作ることに成功しながら、友達と一緒にいるとき常に緊張し、会う約束の時間が近づくとお腹の調子が悪くなり、3年生になるころには自分から進んで孤立することを選んだ、と書いています。友達がいないことと、友達がいても苦しいことは、地続きでした。

からかわれてから、自分から話さなくなった

「友達ができない」の手前には、しばしば「友達がいなくなった」があります。幼稚園ではたくさんの友達と毎日遊んでいた人が、小学校で何を経て話さなくなったのかを、時間の順に書き残した手記です。

当事者の声(横井秀明さん・愛知県。物心ついた頃から吃音/NHK厚生文化事業団「第52回NHK障害福祉賞」最優秀作品として全文が公開されている手記)

その甲斐(かい)あってか、いじめを受けるようなことはありませんでしたが、友達はほとんどいなくなりました。話せばからかわれる、馬鹿にされる。もう話したくないと思うようになりました。学芸会では、セリフのない役を希望するようになっていました。

中学や高校では、ますます孤立するようになりました。

幼稚園のころは「ぼぼぼぼーくね、ああああーのさあ」と吃りながらもたくさんの友達と毎日遊んでいた、と本人は書いています。状況が変わったのは小学校に入ってから。「お前、なんでそんな話し方なんだよ」と言われ、自分でもよく分からないので「うるせーなあ」と返しているうちに、だんだんとからかわれるようになった。高学年では「日本語しゃべれ」「頭おかしいのか」と言われ続け、いじめと呼ばれる状態になりかけたため、当時から170センチ近くあった体格をいかして、何か言われればすぐに拳で応じるようになった——「その甲斐あってか」という書き出しは、そこにつながっています。いじめは受けなかった。代わりに、友達がいなくなった。そして本人は「吃音さえなければ」と毎日思い、いつしか自分の「ことば」を失っていったように思う、と続けています。からかいのあとに何が起きやすいかを、国内の総説は年齢帯ごとに整理しています。

出典: 第52回NHK障害福祉賞 最優秀作品「ことばを取り戻す」(NHK厚生文化事業団)(台帳: V0113)

国内の総説は、学齢期に約半数がいじめやからかいを経験するので対策が重要だとしたうえで、学齢期の後半以降には吃音を隠そうとして多彩な、しばしば適切とは言えない対処のしかたを身につけていくと述べています。「もう話したくない」「セリフのない役を希望する」は、その対処のしかたの一つとして読めます。からかいそのものへの対処と相談先は、吃音症といじめにまとめています。

教室で何が起きているのかを、子どもたち自身の目で測った研究があります。英国の通常学級で、吃音のある小中学生と同級生全員に、好きな子・嫌いな子や、決まった行動に当てはまる子を挙げてもらったものです。結果として、吃音のある子は仲間から拒否される側に分類されやすく、人気のある側に入りにくく、「いじめられている子」にも挙げられやすいという傾向が示されました。割合の数値と図は、上の記事に載せています。ここで引きたいのは、研究チームの読みのほうです。データの分析では、吃音のある子は同級生より協力的だと見られる傾向があり、研究チームはこれを、本人が意図的に取っている方針ではないかと読んでいます。協力することで友達の輪を保てば、守られて安全でいられる。ただしその方針は、前に出るリーダー役をあきらめることでもある、というのです。さらに、吃音のある子は自分の話しにくさだけでなく、それが同級生から否定的な反応を招きうることにも気づいていて、危険を避けて教室の空気に流されがちだと述べ、人とのやりとりの練習を治療に組み込むなら、この「周りに合わせてしまう」傾向にも向き合う必要があると提言しています。

この研究が結論として置いた一文は、そのままこの記事の主題です。研究チームは、友達を作り、保つことの難しさが、吃音のある子が経験する問題の重要な要因だと述べ、子どもはいじめが起きても大人を巻き込みたがらないため、子ども同士で支え合う仕組みが、拒否されたりいじめられたりしている吃音のある子の助けになりうると結んでいます。ただし、観察できた吃音のある子は16人と少なく、教室での立場について確定的な結論は出せない、と研究チーム自身が断っています。

友達がいても、黙ってしまう自分が誤解される

友達がいれば解決、というわけでもありません。話したいことがあるのに声にならない数秒が、相手には別の意味に見えてしまう。中学2年生が、学校代表として弁論大会で読んだ原稿に、その場面が書かれています。

当事者の声(当時中学2年の女子。小平市教育委員会主催の中学校生徒意見発表会で学校代表として発表した原稿/NPO法人全国言友会連絡協議会が主催する「小中高校生の吃音のつどい」のサイトに掲載)

友達からプレゼントを貰った時、「ありがとう!とっても嬉しい。」と、すぐに言いたい喜びの表現が声にならず、黙ってしまいます。私の反応を見た友達が、「ごめん。嬉しくなかった?」と聞き返してきます。そんな時、内心(とても嬉しいのに感謝の気持ちも表現できないなんて……)と、自分に腹が立ちます。もし、吃音の事を知ってくれている友達だったら(今は、声が出ないだけなのかな)と、考えてくれるかもしれません。

プレゼントをもらって、うれしくて、「ありがとう」が出ない。友達の側から見えているのは、黙っている顔だけです。だから「ごめん。嬉しくなかった?」と聞き返す。悪意はどこにもありません。それでも本人は、吃音を知らない相手なら「プレゼントを貰ってお礼も言えないの」と思われる気がして、情けなく申し訳ない気持ちになる、と続けています。同じ原稿には授業中の場面もあります。意見を発表しようとして声が出ず、時間だけが過ぎ、半分ほど話したところで先生に結論をまとめられてしまった。「違います。」という言葉も出てこなかった。この人はその後、担任と顧問の先生に手紙を書いて理解を求め、先生からクラスの皆に伝えてもらって気持ちが楽になった、と書いています。黙ってしまうことが周りにどう見えるか——英国の研究チームが出発点に置いたのは、まさにこの見立てでした。

出典: ともに―吃音と生きる―(体験談)(小中高校生の吃音のつどい)(台帳: V0069)

英国の学級研究は、こういう見立てから始まっています。吃音のある子は、授業や集団の場で声を出して参加することをためらったり、うまく参加できなかったりすることが多い。それが周りから内気で引っ込み思案だと受け取られ、その印象のせいで仲間関係が築きにくくなり、いじめの標的にもなりやすいのではないか、というものです。研究チームは、吃音のある子には「神経質」「内気」といった否定的な決めつけが古くからつきまとってきたことも挙げています。ところが、調査の結果そのものは、「内気」に挙げられた子の割合に吃音のある子とない子で統計的な差を見つけていません。黙っている子は、内気だから黙っているのではない——「ありがとう」が出なかった中学生の原稿は、その中身を内側から書いたものです。

では、友達の側には何ができるのでしょうか。吃音のある若者が接客に挑戦する「注文に時間がかかるカフェ」の公式ページは、当事者の側から周囲へのお願いとして、次の4つを挙げています。遮ったり、憶測して代わりに言ったりせずに、言い終わるまで待つ。緊張して吃っているわけではないので、「リラックスして」「ゆっくり話せばいいよ」とアドバイスしない。真似しない。言葉がうまく出なくても、他の人と同じように接する。上の原稿の「ごめん。嬉しくなかった?」は、このうち「代わりに言う」に近い善意の先回りです。同じページはもう一つ、症状も対処のしかたも人によって大きく違うので、吃音の人はこうすればよいという決まった方法はない、と釘を刺しています。だからカフェでは、その人がどんな対応を求めているかが一目で分かるように、マスクや名札にメッセージを書いているといいます。友達にできるいちばん確かなことは、決まった正解を覚えることではなく、「どうしてほしい?」と本人に聞くことだ、という言い方です。

友達に、吃音のことを伝えるかどうか

ここまでの3人には共通点があります。周りは、この人が何に困っているかを知らなかった、ということです。では、伝えたら何が変わるのか。大人になってから、心を許せる友人に自分から切り出した人の記録があります。

当事者の声(タナカヒロキさん・大阪出身。バンド LEGO BIG MORL のギタリストと作詞を担当し、吃音をテーマにしたメディアを運営/NPO法人日本吃音協会のメディア「HAPPY FOX」への本人寄稿)

当事者の僕でさえ吃音を知らなかったのだからそんなものかとも思う。「実は俺その吃音やねん」そう言っても全員がそんな風には見えないと言う。そりゃそうだ、安心感のある親しい間柄では私の吃音は出にくいからだ。

この人は、就職活動の模擬面接で自分の名字「田中」が言えなかった日から、その正体を知らないまま、誰にも相談できずに過ごしてきたと書いています。長年抱えていた恐怖に「吃音」という名前があると知ったのは、映画のテレビCMがきっかけでした。そのあとで、数人の心を許せる友人に「吃音って知ってる?」と聞いてみた。返ってきたのは「あーなんか吃るやつ?」「その漢字なんて読むん?」「その言葉は知っているけど、よくわかっていない」という答えだったといいます。友人たちが「そんな風には見えない」と言ったのは、知らなかったからではなく、親しい相手の前では症状が出にくいから——本人はそう読んでいます。周りが吃音を理解していれば、吃音が出ても焦らずに最後まで想いを伝えられるのではないか、と本人は続けます。伝えることの効果と限界は、研究の側でも調べられてきました。

出典: LEGO BIG MORLタナカヒロキが語る「なぜ吃音であるのに自分は今こうなっているのか」(HAPPY FOX・日本吃音協会)(台帳: V0251)

自分から「吃音がある」と相手に伝えることを、研究では「自己開示」と呼びます。30年分の研究を集めてまとめた報告では、量的研究18件のうち15件(約83%)で、自己開示は全体として好意的に働いていました。伝え方を比べた研究では、13件中12件(約92%)で、謝るような言い方より謝らない言い方のほうが好意的に受け止められていました。研究チームは、謝らない形で自分から伝えることが、「どもる人はこうだ」という決めつけを向けられるかもしれないという負担(ステレオタイプ脅威)をやわらげると結論づけています。ただし同じ報告は、伝える場面・年齢・吃音の頻度や重さ・相手が吃音のある人と面識があるかどうかによる違いは、そもそも調べた研究が少ないとも書いています。友達どうしの日常は、その「まだ調べられていない場面」に入ります。伝え方を比べた実験を行った研究チームも、伝えることがすべての状況・すべての人に有益とは限らない、と断っています。

日本ではどうか。筑波大学の研究者らは、自分から吃音を伝える度合いを測る尺度の日本語版を作り、自助グループなどを通じて集めた吃音のある成人180人の回答を分析しました。その水準は、同じ尺度を使った米国の調査より低いものでした。伝える度合いが高いことと結びついていたのは、男性であること、自助グループに参加した経験があること、自分の吃音を受け入れている度合いが高いこと、そして吃音への偏見を自分自身に向けてしまう度合い(自己スティグマ)が低いことでした。研究チームは、日本の当事者が伝えにくい傾向には社会文化的な違いが表れているのかもしれない、と述べています。「言わない」は、日本ではむしろ多数側の選択です。伝えるかどうか、誰に、いつ、どう伝えるかは本人が場面ごとに決めることで、「伝えなかったから友達ができない」という話にはなりません。新学期や入社初日のように、まとめて自己紹介を求められる場面での伝え方は、吃音で自己紹介が怖いで扱っています。社会の側が吃音を知らないことで起きる負担は、吃音の認知度にまとめました。

大人になってから、友達を作れる場所はあるのか

学校を出れば、友達を作る「行事」はなくなります。話しかける相手も機会も、自分で探すことになります。学生時代の孤独を大人になっても引きずっている人にとって、いちばん重いのはここです。社会人8年目で、当事者の集まりに初めて行った人の記録です。

当事者の声(名義「しぃちゃん」・社会人8年目。一般雇用で4年働いたのち障害者雇用で働いている/吃音のある若者の自助団体「うぃーすた関西」の公式noteに載ったメンバー紹介の投稿)

うぃーすたに参加したことがない人も、まずは気軽に参加してもらえたら嬉しいです! また私は、吃音当事者のお友達をたくさん作りたいので、例会でお会いできた際は是非お話ししましょう!というかお話しさせてくださいっ!!

団体の魅力を紹介する企画の投稿なので、肯定側に寄った器であることは踏まえて読む必要があります。それでも、書かれている順番には目が止まります。参加を申し込むまで踏み切れなかった理由は「知り合いがいない」だった。いざ参加してみたら、周りのみんなが積極的に話しかけてくれた。当事者どうしなので吃ることを気にせず話せる場所がありがたかった——と本人は書いています。そして同じ投稿の終わり近くで、一般雇用で働いていたときに話すことへの自信を一回完全に失ってしまったこと、吃音に理解のある環境から少しずつ、話すことへの抵抗感をなくして自信を取り戻していけたらと思っていることが書かれています。上の一節の「お話しさせてくださいっ」は、その直後に置かれた言葉です。当事者の集まりで何が得られ、何が得られないかは、専門機関の資料が線を引いています。

出典: 【自信を少しずつ取り戻せる気がする、大切な居場所。】メンバー紹介投稿(うぃーすた関西・note)(台帳: V0247)

日本吃音・流暢性障害学会は、吃音の自助団体について、吃音のある当事者が「吃音があるのは自分だけではない」ということを認識し、共通の体験を語り合い、苦悩を分かち合い、互いに援助し合うことがおおむね活動の中心だと説明しています。1965年に発足した「言友会」が日本で最も歴史が古く、近年では若者を対象とした団体(うぃーすたプロジェクト)や、女性の集いを開催する団体も設立されています。自助団体に参加してほかの吃音のある人と出会うことが、吃音を否定的に捉えることが減るといった心理的な変化のきっかけになることもある、とも書かれています。

吃音ポータルサイトは、この集まりの限界も明記しています。当事者の集まりなので、言語聴覚士のように吃音についての学術的な知識や、専門的な指導や支援が受けられるわけではない。しかし、自分と同じ問題を持つ仲間と出会い、当事者同士でないと感じることのできない連帯感の中で悩みを聞いてもらったり、同じ立場からの具体的な助言をもらったりできることも事実だ、と書いています。日本の当事者180人の調査でも、自助グループに参加した経験は、自分から吃音を伝える度合いと結びついていた要因の一つでした。「友達を作る場所」としてだけでなく、「伝え方を練習する場所」としても働いている、と読める結果です。大学生活での友人関係と窓口の使い方は、大学生の吃音で扱っています。恋愛や結婚については、別の記事で扱います。

子どもに友達がいないと心配な保護者へ——親のせいではありません

学校から帰ってきても友達と遊びに行く様子がない。そう気づいた保護者が最初に向かいやすいのは、「自分の育て方や関わり方のせいではないか」という自責です。日本吃音・流暢性障害学会は、最も問題のある間違った原因論として、親の接し方が悪かった(愛情不足)ことを原因とする説や、親が吃音だと思って対応することが原因だとする説を名指しし、2000年頃以降の双子研究・脳研究・遺伝子研究により、環境的な要因よりも生まれ持った体質的な要因が原因の多くを占めることが分かったと説明しています。友達ができにくいことを、家庭の関わりの結果として読む筋道は、この説明とは食い違います。

周りの子が違いに気づき始める時期も書かれています。おおむね4歳ごろになると周囲の子どもも違いを不思議に思い、「○○ちゃんはなんで、『あああ』ってなるの?」という指摘が始まることがあり、その指摘をきっかけに、話すときに力が入って声が出しにくくなる子どもも出てきます。学齢期は先生の対応や周囲の友達関係に大きく影響され、吃音をからかわれたり、発表や音読で思ったように話せない経験をすることで、吃音を否定的にとらえる認識が起こり、吃音の状態が進むことにつながる場合があるとされています。一方で、周囲の受け入れが良好で、吃音があっても伸び伸びとおしゃべりして生活できている子どももおり、個人差が大きいとも書き添えられています。

家でできることとして学会が挙げているのは、心配そうな表情をせずに、子どもが楽しくおしゃべりを続けられるように話の内容に耳を傾けること、そして親子で吃音について話ができる関係づくりです。昔は「吃音に気がつかせない方がよい」という対応が主流でしたが、今はそのような考え方は否定されています。「どもってもよいから、たくさんおしゃべりしてね」というメッセージを伝えることが勧められています。友達との間で何があったかを、子どもが家で話せるかどうかは、ここにかかっています。英国の研究チームも、からかいやいじめへの対処の助言が、吃音のある子がふだんのやりとりから締め出されるのを避ける助けになりうると述べています。学校側に頼めることの具体は、吃音と学校の配慮にまとめています。

一人で抱えているとき——相談先と、その先に何があるか

「友達ができない」は、それ自体を診てもらう症状ではありません。ただ、その背後にある「話す場面を避ける」が生活を狭め始めているなら、相談できる先があります。日本吃音・流暢性障害学会は、本人が吃音の治療を希望する場合の言語聴覚士による発話訓練、不安が強い場合のカウンセリングや心理療法、そして自助団体を挙げています。言語聴覚士は、ことばや聞こえの障害がある人への指導・支援を行う国家資格の専門職ですが、すべての言語聴覚士が吃音の指導や支援を担当しているわけではありません。希望する場合は、あらかじめ病院に直接問い合わせるか、日本言語聴覚士協会や各都道府県の言語聴覚士会に尋ねることがすすめられています。

相談を急いだほうがよい状態も、資料は書いています。慶應義塾大学病院の医療情報は、思春期以降に加わりやすい変化として、「この言葉は吃音が出そうだ」と予感して話す前から不安になること(予期不安と呼ばれます)、その言葉をとっさに別の言葉に置き換える言い換え、そして人前や電話など話す場面そのものを避ける回避行動を挙げ、こうした症状が強くなってくると、人と接する場面に強い不安が続く状態(社交不安障害)を伴っていると判断される場合があるとしています。病院に来る成人の吃音の半分程度は社交不安障害を伴っているとするデータもある、とも書かれています。国内の総説も、思春期以降は社交不安障害やうつなどの精神科的な問題を併発しやすいと述べています。最初のブロックの人が、大学で友達と会う約束の時間が近づくとお腹の調子が悪くなり、自分から孤立を選んだと書いていたのは、この層の話として読むほうが実態に近くなります。社交不安と回避の全体像は、吃音の二次障害とはにまとめています。

次のような状態が続いているときは、一人で抱え込まないほうが安心です(あくまで目安で、当てはまらなくても相談して構いません)。

  • 話しかけたい相手がいるのに、話す場面そのものを避けることが増え、行きたい場や続けたい活動から離れ始めている
  • 友達と会う予定が近づくと動悸や腹痛が出て、一緒にいること自体がつらい
  • 笑われた・真似されたことを誰にも言えないまま、学校や職場で黙って過ごす日が続いている

この3つは相談を考えるきっかけとして本記事が挙げたもので、特定の資料が「受診の目安」として定めているものではありません。

「友達ができない」で陥りがちな3つの落とし穴

落とし穴1 − 「自分が内気だから」「性格のせい」で片づける

英国の学級研究は、黙ってしまうことが内気と受け取られて仲間関係を難しくしているのではないか、という見立てから出発しましたが、調査の結果では「内気」に挙げられた子の割合に吃音のある子とない子で統計的な差は出ていません。学会も、話す場面での失敗の経験が重なると会話や社交を避けるようになる、という経過として説明しています。黙っているのは性格ではなく、経験の結果です。そして経験の結果なら、周りの反応が変われば動きます。

落とし穴2 − 「伝えれば友達ができる」「伝えなかったから悪い」と考える

自分から伝えることには好意的に働いたという研究が多い一方、日本の当事者180人の調査では伝える度合いはもともと低く、当事者の集まりの経験や自分を受け入れている度合いと結びついていました。実験を行った研究チーム自身が、伝えることはすべての状況・すべての人に有益とは限らないと断っています。伝えるかどうかは本人が場面ごとに決めることで、伝えないという選択も、日本では多数側です。

落とし穴3 − 学校を出たら、もう友達を作る場所はないと思う

学会は当事者の自助団体を、「吃音があるのは自分だけではない」と知って共通の体験を語り合う場として紹介しており、若者向けの団体もあります。専門的な指導は受けられませんが、当事者同士でないと得られない連帯感と具体的な助言があるとされています。どんな場面で話しかけられなかったか、誰に何を伝えられたか、その日の調子はどうだったかを書き留めておくと、自分がどこでつまずいているかが見えるようになり、言語聴覚士や当事者の集まりで話すときの材料になります。日々の様子を「見える化」する手段の一つとしてアプリを使う方法もあります(アプリは記録・継続の支援であり、治療をうたうものではありません)。

よくある質問

吃音があると、友達はできないのですか?

「吃音があれば友達ができない」と示した研究はありません。英国の学級研究では、吃音のある子は仲間から拒否されやすく人気のある側に入りにくい傾向が報告されましたが、吃音のある子16人という小さな調査で、研究チーム自身が確定的な結論は出せないと断っています。学会の解説も、周囲の受け入れが良好で、吃音があっても伸び伸びとおしゃべりして生活できている子どももおり、個人差が大きいと書いています。この記事に登場する5人のうち、高校で友達がゼロだった人も、大人になってから当事者の集まりで友達を作ろうとしている人もいます。

友達に吃音のことを打ち明けたほうがいいですか?

決まった答えはありません。研究18件をまとめた報告では15件で好意的な影響があり、謝らない言い方のほうが好意的に受け止められていました。ただし友達どうしの場面や年齢による違いはまだ研究が少なく、日本の当事者180人の調査では伝える度合いは米国より低いものでした。実験を行った研究チームも、伝えることがすべての状況・すべての人に有益とは限らないとしています。伝えるなら、謝るのではなく事実として置く形が研究上は勧められています。

吃音のある友達が言葉に詰まったとき、先に言ってあげるべきですか、待つべきですか?

当事者団体の公式ページは、遮ったり、憶測して代わりに言ったりせずに、言い終わるまで待つことをお願いしています。緊張して吃っているわけではないので「リラックスして」「ゆっくり話せばいいよ」と助言しないこと、真似しないこと、他の人と同じように接することも挙げられています。ただし同じページは、症状も対処のしかたも人によって大きく違うので決まった方法はない、とも書いています。いちばん確かなのは、本人に「どうしてほしい?」と聞くことです。

子どもに友達がいないようで心配です。育て方が悪かったのでしょうか?

いいえ。日本吃音・流暢性障害学会は、親の接し方(愛情不足)を原因とする説を最も問題のある間違った原因論として名指しし、生まれ持った体質的な要因が原因の多くを占めると説明しています。家でできることとして挙げられているのは、心配そうな表情をせずに話の内容に耳を傾け、親子で吃音について話ができる関係をつくることです。学校側に頼めることは別の記事にまとめています。

大人になってから、友達を作るにはどうすればいいですか?

学会は、当事者の自助団体を「吃音があるのは自分だけではない」と知って共通の体験を語り合う場として紹介しており、日本で最も歴史の古い言友会のほか、若者を対象とした団体や女性の集いを開催する団体もあります。専門的な指導の場ではありませんが、当事者同士でないと得られない連帯感と、同じ立場からの具体的な助言があるとされています。日本の当事者調査では、自助グループの経験がある人ほど自分から伝える度合いが高いという関連も報告されています。

まとめ

  • 「話しかけられない」「輪に入れない」は性格の問題ではなく、話す場面での失敗の経験が重なって会話や社交を避けるようになる経過として説明されている。黙ってしまうことが内気と受け取られるという見立てはあるが、調査では内気の指名に統計的な差は出ていない。
  • きっかけになりやすいのはからかいで、学齢期に約半数が経験する。英国の学級研究は、吃音のある子が友達の輪を保つために協力的にふるまい、前に出る役をあきらめているのではないかと読み、友達を作り保つことの難しさが問題の重要な要因だと結論づけた。ただし16人の小さな調査である。
  • 友達に伝えるかどうかは本人が決める。研究18件中15件で好意的に働き、謝らない言い方のほうが受け止めがよかったが、日本の当事者180人の調査では伝える度合いは米国より低く、当事者の集まりの経験や自己受容と結びついていた。すべての状況・すべての人に有益とは限らない。
  • 友達の側にできるのは、憶測して代わりに言わずに待つ、助言しない、真似しない、同じように接すること。ただし決まった方法はなく、「どうしてほしい?」と本人に聞くのがいちばん確か。
  • 大人になってからの居場所として、学会は当事者の自助団体を挙げている。専門的な指導は受けられないが、当事者同士の連帯感と具体的な助言がある。話す場面の回避が生活を狭めているときは、言語聴覚士や心理の専門家へ。社交不安障害を伴う場合もある。

参考文献

  1. 日本吃音・流暢性障害学会 広報委員会「吃音(きつおん)について」(2023年10月1日)
  2. 森浩一(2020)「吃音(どもり)の評価と対応」日本耳鼻咽喉科学会会報 123(9)(J-STAGE)
  3. 慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト KOMPAS「発話流暢性障害(吃音、クラタリング)」(最終更新 2022年12月1日)
  4. 吃音ポータルサイト(金沢大学 小林宏明)「成人の方:相談や支援」
  5. 注文に時間がかかるカフェ|Slow Order Cafe 公式サイト「ご配慮いただきたいこと」「当事者別の対応方法」
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  8. Coalson, Rodriguez, Albaum, Allen & Byrd (2026) Self-disclosure of stuttering: A systematic review. J Fluency Disord.
  9. Iimura, Takahashi, Aoki, Yoshizawa, Yanai, Miyamoto & Boyle (2026) Relationships between psychosocial aspects of stuttering and self-disclosure of stuttering in a Japanese sample. J Fluency Disord.
  10. Byrd, Croft, Gkalitsiou & Hampton (2017) Clinical utility of self-disclosure for adults who stutter: Apologetic versus informative statements. J Fluency Disord.

当事者の声の出典: V0116(HAPPY FOX・NPO法人日本吃音協会・やっちさんの寄稿)/ V0113(NHK厚生文化事業団「第52回NHK障害福祉賞」最優秀作品・横井秀明さん)/ V0069(小中高校生の吃音のつどい・中学2年生の弁論原稿)/ V0251(HAPPY FOX・タナカヒロキさんの寄稿)/ V0247(うぃーすた関西 公式note・メンバー紹介)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-09-05 公開