まず結論から
- いじめやからかいは、吃音を発症させた原因ではありません。学会は「親の接し方が悪かった(愛情不足)」といった説を誤った原因論として名指しし、2000年頃以降の双子研究・脳研究・遺伝子研究によって、環境よりも生まれ持った体質的な要因が原因の多くを占めることが分かったと述べています。
- 向きはむしろ逆です。吃音のある子は学校で話し方を真似されたり笑われたりしやすく、学齢期に約半数がいじめやからかいを経験すると報告されています。
- いじめの対象に挙げられるかどうかは、症状の重さでは決まっていませんでした。英国の学級調査では、いじめられている子として挙げられた中にも、仲間から拒否されていた中にも、症状の重い子と軽い子の両方が含まれていました。
- からかわれるなどのいやな経験が重なると、人前で話す場面などに強い不安が出る状態(社交不安症)やうつといった心理的な問題が生じることがあります。
- 対応の中心は、本人に上手な話し方を求めることではありません。本人の意向を聞きながら、クラスや学校の側を調整することが勧められています。
ただし、ここで挙げた英国の学級調査は吃音のある子16人という小さな規模で、著者自身も、この人数では教室での立場について確定的な結論は出せないと断っています。数字は「そういう傾向が報告されている」という目安として読んでください。
「いじめが原因」ではないのに、無関係でもない理由
吃音の原因をめぐっては、長いあいだ環境のせいにする説が語られてきました。日本吃音・流暢性障害学会は、最も問題のある間違った原因論として、親の接し方が悪かった(愛情不足)ことを原因とするものや、親が吃音だと思って対応することが原因だとするものを挙げ、そのために母親が周囲から非難されたという体験談を聞く、と書いています。そのうえで、2000年頃以降の双子研究・脳研究・遺伝子研究により、環境的要因よりも生まれ持った体質的な要因が吃音の原因の多くを占めることが分かった、と説明しています。国のポータルサイトも、利き手の矯正・下の子が生まれた愛情不足・習い事のストレスといった説が歴史的に語られてきたと整理したうえで、双子研究では吃音の原因の約8割がその子の生まれ持った体質であることが示されている、と書いています。
時期のことも押さえておくと分かりやすくなります。吃音は2歳から4歳の間に、人口の約8〜11%に発症すると報告されています。学校でのいじめやからかいは、その後に起きることです。つまり、いじめやつらい経験が吃音を「発症させた」のではありません。ここは、当事者にも家族にも最初に手渡されるべき事実です。
もう一つ、いじめの土台そのものになってきた誤解があります。学会は俗説として、吃音のある人の話し方を真似すると吃音になる(伝染する)というものがあり、吃音のある子とは遊んではいけないという差別があった(今もあるかもしれない)と書いています。
では、いじめと吃音はまったく無関係かというと、そうではありません。向きが逆なのです。学会は、学齢期は先生の対応や周囲の友達関係に大きく影響されるとしたうえで、吃音をからかわれたり、発表や音読で思ったように滑らかに話せない経験をすることで、吃音を否定的にとらえ自分自身もマイナスに捉えるような認識が起こってくると、なかなか最初の音が出にくくなる症状(難発)が強まったり、言い換えの工夫をしたりするなど、吃音の状態が進むことにつながる場合があると説明しています。ただし、周囲の受け入れが良好で、吃音があっても伸び伸びとおしゃべりして生活できている子どももおり、個人差が大きいとも書き添えられています。
教室で何が起きているのか — 真似・笑い・「なんでそんな話し方なの?」
吃音をめぐるいじめは、殴る蹴るの形をとるとは限りません。多くは、話し方そのものをなぞる形で起こります。そしてそれは、いちばん頑張った日に起こることがあります。
吃音当事者・名義「よっし~」さん(高校で後期の学級長に指名された当時の回想/NPO法人日本吃音協会が運営する体験談メディアへの寄稿)
このままいけると思ったその時、突然「す」の音が出てこなくなりました。
息だけがスーッと漏れてしまったのです。
「しまった。」そう思いましたが、ここまで読んだから、読み切ってしまおうと気を取り直しました。
その時、誰かが吃った私の真似をしました。
それに連鎖するように、何十人の人々が真似をしてきたのです。
担任に呼び出されたのは、高校に入って半年が過ぎたころでした。理由は「真面目でちゃんとやれそうだから」。拒否権はなく引き受けた後期の学級長の仕事として、1泊研修で学年全員の前に立つことになります。原稿が渡されたのは本番の3日前。普通の速度で読んでも持ち時間いっぱいという分量で、時間内に収めるには一度もつっかえてはいけない——自宅で、どの文字でつまずきそうか、どこはスピードを上げるかまで作戦を立てて練習し、その夜、高校に上がって初めて泣いたといいます。吃音のことは、誰にも相談していませんでした。真似が広がったのは、その練習の先で起きたことです。学校で真似されたり笑われたり、「なんでそんな話し方なの?」と質問されることが多い、というのは国のポータルサイトも挙げている型です。
出典: 600人の前で吃音が出て笑われた。その時、友達がかけてくれた一言に救われた。(HAPPY FOX・日本吃音協会)(台帳: V0117)
現れ方は、公的資料が具体的に挙げています。他の子どもから話し方を真似される、どもったときに笑われる、「なんでそんな話し方なの?」と質問される——この3つです。日直の号令、音読、発表、かけ算の九九、学習発表会、卒業式など、みんなの前で決まった言葉を言う場面で困りやすいことも知られています。しかも吃音は話す場面でしか症状が出ないため、悩みが過小評価されやすいという特徴があります。
どれくらいの子が経験しているのでしょうか。国内の総説は、学齢期に約半数がいじめやからかいを経験するので対策が重要だと述べています。研究班の解説はさらに広く、吃音児の過半数が笑われたりからかわれたりしていると書いています。英国で16の学級(吃音のある子16人と同級生387人・計403人)を調べた研究では、クラスの子どもたちから「いじめられている子」に挙げられた割合は、吃音のある子で37.5%、吃音のない子で10.6%でした。同じ調査で、みんなの回答から「拒否」に分類された割合は43.75%と18.86%、「人気」に分類された割合は6.25%と25.84%です。人気・拒否といった立場の差も、「いじめられている子」への指名の差も、統計的に確かめられています。一方で、8つの行動のカテゴリーのうち差がはっきり確かめられたのは「いじめられている子」への指名だけで、「リーダー」に挙げられた割合(6.5%と12.92%)の差はそこまで言えないと書かれています。
「もっと上手に話せば」で解決する話ではない
吃音といじめの話になると、必ず「話し方を直せばいじめられなくなるのでは」という考えが出てきます。しかし研究が示しているのは、そう単純ではないということです。
吃音当事者・小溝幸音さん(19歳・大学2年生。小学校教員を目指して在学中/神戸新聞のインタビュー)
重荷に感じ始めたのは中高生時代。最初は自己紹介の作文で吃音のことも発表しましたが、周囲に口調をまねされる経験などが重なって、だんだんと『嫌だな』と思うように。
吃音を意識したのは小学校のころだといいます。授業の本読みで人前に立つと「あ、あ、あ」と詰まり、言葉が出にくくなる。ただ、当時はそれほど気にしていませんでした。重荷に変わったのは中学・高校です。注目したいのは、この人が黙っていたわけではないことです。最初は自己紹介の作文で、吃音のことを自分から発表しています。それでも周囲に口調を真似される経験が重なり、「嫌だな」と思うようになった——そう振り返っています。教室での立ち位置がどう決まっていくのかについては、研究チームも見立てを述べています。
出典: 若者の吃音について小溝幸音さんに聞きました(神戸新聞NEXT「生きるのヘタ会?」)(台帳: V0097)
まず、いじめの対象に挙げられるかどうかは、症状の重さと結びついていませんでした。この研究で「いじめられている子」に挙げられた中には、1分あたりの吃音の出た語数が16語の子も3語の子もいて、「拒否」に分類された中にも14.5語の子と2.5語の子がいました。
では何が効いているのか。この研究が出発点に置いていたのは、吃音のある子は学校の活動で話すことに参加しづらく、そのために内気だと見られ、それが仲間関係の難しさやいじめの標的につながるのではないか、という見立てでした。ただし調査そのものは、「内気」に挙げられた子の割合に、吃音のある子とない子の差を見つけていません。内気・自己主張が強い・協力的・授業を乱す・いじめる側の5つは、どちらでも同じくらいの割合で挙げられていたと書かれています。
この調査が見つけたのは、別の動きでした。吃音のある子16人のうち13人が、その学級で割合の大きい立場のグループに入っていました。目立たずにからかいを避けるために、教室の主流の空気に自分を合わせているのではないか、と著者らは読んでいます。
もう一つ、この研究には気になる結果があります。吃音のない子では「好かれている子」への指名が「リーダー」「協力的」といった評価と結びついていたのに、吃音のある子ではその結びつきが成り立ちませんでした。受け入れられている場合でも、リーダーや自己主張のできる子とは見られていない、ということです。いずれも、「本人が上手に話せるようになれば片づく」という筋道ではありません。
学校そのものから足が遠のくとき
真似や笑いが続くと、教室にいること自体がつらくなります。そして、いじめが直接の引き金でなくても、話す場面への恐怖だけで学校から足が遠のくことがあります。
吃音当事者・田中保彦さん(発表時50歳・病院長/日本吃音臨床研究会のワークショップでの本人の発表記録)
それでも学校に行かず、1学期の大部分を不登校で過ごしました。幸運もあって、あるいは先生方の配慮もあって、2学期、3学期とどうにか学校に行くようになりました。3学期には同級生たちが私のがんばりを認めてくれて学級委員に選んでくれたりしましたが、自分の中では何も変わっていないという気持ちが強く、全然自信にはなりませんでした。
ことばが出ないことを恐怖として意識したのは、中学2年の国語の朗読でした。最初の一語目から出ない。それまでもどもってはいたけれど、恐怖に感じたのは初めてだった、と本人は語っています。中学3年の1学期には自己紹介がありました。自分の名前だけはごまかせません。始まった途中で手を挙げてトイレへ行き、順番が過ぎるのを待つあいだに同級生たちが探しに来て、個室のドアの上からのぞいた一人に見つけられました。体の具合が悪いと言いわけをして、担任に付き添われて保健室へ。そこから、学校へ行くふりをして近所の物置のような所に隠れる日々が始まります。50歳のこの発表の時点でも、強い予期不安——また詰まるかもしれないという先回りの不安——は続いていると本人が述べています。そのうえで、それでもなんとかやるという気持ちに今ではなっている、とも語っています。この年代に何が起きやすいのかは、国内の総説が年齢帯ごとに整理しています。
出典: 2003年 第9回吃音ショートコース【発表の広場】2「吃音と私」(日本吃音臨床研究会)(台帳: V0095)
この語りは、いじめそのものよりも「話す場面の怖さ」から学校が遠のいた例です。ただ、その手前で起きていることは重なります。研究班の解説は、吃音児の過半数が笑われたりからかわれたりしており、これによって自尊感情の低下や不登校といった、あとから重なってくる困りごとが生じやすくなると書いています。だからこそ、本人の意向を聞き取りながらクラスや学校の環境を調整することが勧められています。
年齢が上がるとどうなるのでしょうか。国内の総説は、8歳ごろ以降は自然に治ることが少なくなる一方、独り言ではほとんどどもらなくなり、状況によって出方が変わる度合いが強くなること、学齢期の後半以降は吃音を隠そうとして多彩な、しばしば適切とは言えない対処のしかたを身につけること、思春期以降は人前で話す場面などに強い不安が出る状態(社交不安症)やうつなどの精神科的な問題も併発しやすいことを、順に挙げています。
周りに伝えると、何が変わるのか
ここまでは、起きてしまうことの話でした。では、周りに伝えるという方法はどうなのでしょうか。新聞の子育て相談欄に、当事者と家族の声が載っています。
吃音のある大学生本人と、その父(中日新聞の子育て相談欄。引用は取材した記者による紹介文)
当事者の長男も取材に応じてくれた。中学校で吃音の話し方をまねされ、からかわれて悩んだという。対策のため、自己紹介のたびに、吃音とは何かや、自身の話し方をまねしてほしくないと伝えるようにすると、からかわれなくなった。
この記事は、小学4年の孫の吃音を心配する72歳の祖母の相談に、読者が答える形で組まれています。答えたのは4人の保護者と、当事者2人。そのうちの一人、岐阜県下呂市の男性(51)は、言語聴覚士のいる医院に相談してみてはと勧めました。長男は言語聴覚士から、話し方の訓練だけでなく、吃音とどう向き合うかという精神面のケアも受けたといいます。その長男について、取材した記者が書いたのが上の一節です。同じ記事には、大学生になって吃音がほぼ出なくなった子の話も、78歳の今も出ると語る当事者の話も並んでいます。結末は一つではありません。自分から吃音を伝えるという「自己開示」は、臨床の研究でも方略として扱われてきたものです。
出典: 「吃音が心配な小4の孫、どうすれば…」の悩み 当事者と親、専門家のアドバイスを紹介します(東京すくすく・中日新聞)(台帳: V0161)
とはいえ、伝えれば必ず止まるわけではありません。前の節で紹介した大学生は、自己紹介の作文で吃音のことを自ら発表したうえで、それでも口調を真似される経験を重ねています。ここは、当事者一人ひとりで結果が違うところです。
臨床の研究は、この「伝える」を方法として扱っています。米国の研究者らは、いじめや仲間からの否定的な反応に直面している学齢期の子どもに臨床家が使える方略として、いじめへの対応を身につける問題解決の活動と、クラスメイトに吃音を説明する教室での発表を挙げています。報告されているのは9歳の男の子1人の経過で、取り組みのあとに本人がいじめへ建設的に対応する力が高まったこと、教室での説明のあとに仲間からの否定的な発言が減ったことが書かれています。ただしこれは1人の事例報告であって、誰にでも同じことが起きると示した研究ではありません。この論文はもう一つ、「いじめ」と「からかい」を区別してとらえることの大切さも挙げています。
学校の側にできることも、はっきり書かれています。研究班の解説は、幼児期については、どもると笑ったり真似をする子がいる場合は保育園・幼稚園の先生にも協力を求め、「わざとそうしているのではない」という説明をしてもらうとしています。学齢期については、本人の意向を聞き取りながらクラスや学校の環境を調整するとしています。国のポータルサイトは、担任・養育者・支援者が本人に「真似されていない?」「笑われていない?」「話し方を質問されていない?」とオープンに聞くことが、吃音の話をオープンにするきっかけになると勧めています。学校では毎年クラス替えがあり、真似・笑い・質問を受けるリスクがあるため、早期発見とその対応法をオープンに話すことが予防につながる、とも書かれています。
大人になってから — 職場での心ない扱い
いじめは子どもだけの問題ではありません。吃音といじめを扱う記事の多くは学校の話で終わりますが、話し方をめぐる心ない扱いは、働き始めてからも起こります。
吃音当事者・ゆゆぱんちさん(24歳・イラストレーター/派遣社員のDTPデザイナー。ペンネームでの取材/宗教専門紙『文化時報』のインタビュー)
大人になっても、周囲にできるだけ吃音がばれないように生きてきました。周りからは『いつか治る』と言われ続けてきましたが、今でも完璧には治りません。今、小さいお子さんで吃音を持つ子がいたとしても、安易に治るという期待をかけないでほしい。たとえ治らなくても話を聞いてくれるんだ、と思えれば、安心して過ごせるのですから
小学生のころの国語の音読では、自分の番が回ってくる恐怖が今でも忘れられないといいます。読んだ後には同級生から話し方をまねされ、からかわれました。美術専門学校では、プレゼンのある授業だと聞けば学校を休み、出席しないと決めていました。講師にわざわざ吃音症だと伝えたくなかったからです。卒業後に入った地元の病院では、初めての社会人生活と環境の変化で症状が目立つようになりました。職員が集まる朝礼で、院長から「障害者を雇っていると思われるから、ちゃんと話して」と言われ、ショックを受けたのはそのころです。就職から2か月で退職し、自宅で3か月療養しました。その後の派遣の面接では自分の症状を素直に伝え、受け入れてもらえました。今は、会社にかかってくる電話は別の社員が対応するなどして協力を得ています。電話が苦手な人に向けては、公共インフラとして整備された仕組みも用意されています。
出典: 吃音症でも好きな仕事に就く ゆゆぱんちさん(福祉仏教 for believe・文化時報社)(台帳: V0110)
この人がしたことは、思いつきの工夫ではありません。面接で自分から症状を伝えたのは、配慮を求める申し出にあたります。そして電話を別の社員が代わるのは、制度が例として挙げている配慮そのものです。本人の求めに応じて、負担が重すぎない範囲で学校や職場が行う調整は「合理的配慮」と呼ばれます。研究班の解説は、障害者差別解消法などにより雇用主は吃音のある人から求められれば配慮をする義務があるとし、その例として面接時間を長くすること、電話業務を免除することを挙げています。ただし、そのためには吃音の診断書が必要とされることが多い、とも書かれています。
国のポータルサイトは、2024年に施行された改正障害者差別解消法により、国公立の学校だけでなく私立の学校にも配慮の提供が義務化されたこと、入試の面接試験で事前に吃音があることを伝えておけば、過重な負担となる範囲を除いて、寛容な聞き手の姿勢や時間的な余裕の確保といった配慮を受けられることを説明しています。電話が苦手な人については、2021年から総務省が主体となって公共インフラの一つとなった「電話リレーサービス」を吃音のある人も使えると書かれています。また吃音症は精神障害者保健福祉手帳または身体障害者手帳の対象となるため、就職面接で障害者枠という選択肢も増えている、とされています。国内の総説も、発達性吃音であれば発達障害者支援法にもとづき精神障害者保健福祉手帳の取得が可能だと述べています。
どこに相談する? — 子どもの場合・大人の場合
「様子を見る」だけで抱え込まず、早めに相談できる先を知っておくと安心です。
- 言語聴覚士のいる医療機関:吃音そのものの評価や、話し方・場面の困りごとの相談ができます。就学・就労で配慮を求めるときに使う診断書も、医療機関で相談する事柄です。
- ことばの教室(通級指導教室):学齢期の子どもが、学校生活の困りごとを含めて相談できる場です。
- 担任・スクールカウンセラー:真似・笑い・質問を受けていないかを本人にオープンに聞くところから始められます。改正障害者差別解消法のもと、私立を含めて配慮の提供が義務化されています。
- 心のケアの窓口(スクールカウンセラー・心療内科など):落ち込みや不登校など、心の負担が大きいときの相談先です。吃音がもとになって生じた抑うつや、人前で話す場面などに強い不安が出る状態(社交不安症)には、薬物療法が行われることもあります。このうち社交不安症のほうには、考え方や行動のくせに働きかける認知行動療法が効くとされています。
- 自助グループ・当事者の集まり:同じ経験をした人と話せる場です。
相談のときは、いつ・どんな場面で・どんなことがあったかをメモしておくと、状況が伝わりやすくなります。学校では毎年クラス替えがあり、そのたびに真似・笑い・質問を受けるリスクがあります。クラス替えの時期に本人に確かめる機会を作っておくと、変化に早く気づけます。
いじめ対応で陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 「話し方を直せばいじめは終わる」と考える
いじめの対象に挙げられるかどうかは、症状の重さと結びついていませんでした。本人に矯正を迫るより、周囲への説明と、本人の意向を聞きながらクラスや学校の側を調整するほうが現実的です。
落とし穴2 − 「気にしすぎ」と受け止める
吃音は話す場面でしか症状が出ないため、悩みが過小評価されやすいという特徴があります。本人が「真似された」「笑われた」と言っているなら、まずその話をそのまま受けとめることが出発点です。
落とし穴3 − 一人で抱え込む
ネットの断片的な情報だけで判断せず、ことばの教室や言語聴覚士など専門の窓口にあたるのが近道です。いつ・どんな場面で何があったか、日々の様子を記録しておくと、相談のときに役立ちます。発話の記録や経過を「見える化」して続ける手段として、記録アプリを補助的に使う方法もあります(治療を目的とするものではありません)。
よくある質問
いじめは吃音の原因になりますか?
いいえ。吃音の発症は2歳から4歳の間に集中しており、学校でのいじめやからかいはその後に起きることです。学会は「親の接し方が悪かった(愛情不足)」といった環境のせいにする説を誤った原因論として名指しし、2000年頃以降の研究から、環境よりも生まれ持った体質的な要因が原因の多くを占めることが分かったと述べています。ただし、からかわれるなどのいやな経験が重なると、吃音を否定的にとらえる認識が起こって症状が進むことにつながる場合がある、とも説明されています。
吃音のある子はいじめられやすいのですか?
国内の総説では、学齢期に約半数がいじめやからかいを経験すると報告されています。英国の学級調査でも、クラスの子どもたちから「いじめられている子」に挙げられた割合は吃音のある子で37.5%、吃音のない子で10.6%でした。ただし吃音のある子16人という小さな調査で、著者自身が確定的な結論は出せないと断っています。個人差も大きく、必ずいじめられるわけではありません。
話し方(吃音)を直せばいじめはなくなりますか?
いじめの対象に挙げられるかどうかは症状の重さと結びついていなかったと報告されており、本人に話し方の矯正だけを求めるのは的を外れやすいと考えられます。研究班の解説は、本人の意向を聞き取りながらクラスや学校の環境を調整することを勧めています。
学校にはどう伝えればいいですか?
担任・養育者・支援者が本人に「真似されていない?」「笑われていない?」「話し方を質問されていない?」とオープンに聞くことが、吃音の話をオープンにするきっかけになるとされています。2024年施行の改正障害者差別解消法により私立を含めて配慮の提供が義務化されており、建設的な対話のうえで配慮を受けられます。クラスメイトに吃音を説明する教室での発表という方略も、臨床の症例報告で紹介されています。
大人になってからの職場での扱いには、どう対処できますか?
研究班の解説は、障害者差別解消法などにより雇用主は吃音のある人から求められれば配慮をする義務があるとし、面接時間を長くする、電話業務を免除するといった例を挙げています。そのためには診断書が必要とされることが多いとも書かれています。電話が苦手な場合は「電話リレーサービス」を使うこともでき、精神障害者保健福祉手帳や身体障害者手帳の対象にもなります。
まとめ
- いじめは吃音を発症させた原因ではありません。学会は環境のせいにする説を誤った原因論として挙げ、体質的な要因が原因の多くを占めると述べています。
- 向きは逆で、吃音のある子は真似・笑い・質問を受けやすく、学齢期に約半数がいじめやからかいを経験すると報告されています。
- いじめの対象に挙げられるかどうかは、症状の重さと結びついていませんでした。「もっと上手に話せば」で片づく話ではありません。
- 対処の中心は本人の矯正ではなく、周囲への説明・本人の意向を聞いた環境の調整・自己開示です。
- 大人にも、面接時間を長くする・電話業務を免除するといった配慮の枠組みと、電話リレーサービスや手帳という選択肢があります。子どもも大人も、一人で抱え込まず、ことばの教室・言語聴覚士・スクールカウンセラーなどの相談先へ。
