まず結論から
- 吃音とADHDが重なることは、まれではありません。米国で3〜17歳の約12万人を調べた調査では、吃音のある子の26.56%にADHD/ADDがあり、吃音のない子の8.43%とおよそ3倍の開きがありました。
- 大人を直接調べた国内の報告もあります。成人の吃音の専門外来を初めて受診した195人のうち52.3%(102人)に精神疾患の併存があり、いちばん多かった自閉スペクトラム症は26.4%(52人)でした。
- その52人のうち、受診の前に自閉スペクトラム症と診断がついていたのは2人だけでした。併存は「無い」のではなく「気づかれていない」ことがある、という数字です。
- ただし研究どうしで結論は揃いません。約280万人分の電子カルテを調べた研究では、ADHDは統計の基準に届きませんでした。著者ら自身が、これは「関連がない」ではなく「この方法では判定できない」という所見だと書いています。
- 相談先は、吃音とADHDで分けて考えると整理しやすくなります。吃音を扱う言語聴覚士は病院のリハビリテーション科や耳鼻咽喉科などにいますが、全員が吃音を担当しているわけではないので、事前の問い合わせが要ります。
ただし、ここに並ぶ数字の大半は子どもや、専門外来を訪れた人を調べたものです。街を歩いている大人全体の併存率を測ったデータは、この記事で扱う資料の範囲にはありません。あなたに当てはまるかどうかは、割合ではなく、いま実際に何に困っているかで決まります。
「両方あるのは自分だけ?」——重なりはまれではない
まず、二つを分けておきます。吃音(きつおん、どもり)は話し言葉がなめらかに出てこない状態で、特徴的な症状は3つあります。音を繰り返す「連発」(か、か、からす)、音を引き伸ばす「伸発」(かーーらす)、そして言葉が出ずに間があいてしまう「難発(ブロック)」(・・・・からす)です。思春期以降は、このうち難発が中心になっていきます。
いっぽうADHD(注意欠如多動症)は、「複数の状況下における著しい不注意、多動衝動性で、能力の発揮や発達の妨げになっている状態」と定義され、症状は12歳以下から現れているとされます。二つは別々の状態です。ただ、同じ人に両方あることは珍しくありません。
当事者本人(33歳・男性/ADHD・うつ病・吃音があると本人が書いている。障害者雇用で7年働いたのち、一般雇用のタクシー運転手に転職して4か月・個人ブログ note)
・一度トラブルが起こると、その他のトラブルも連続する
・営業所で周りが楽しそうに話していると急激に不安になる
・接客中や上司との会話の際に「吃音」が時々発動する。特に「ありがとうございました」がうまく言えない
・運転中よりも、営業所に帰った時の処理が苦手(清掃やメーターの入庫処理、納金作業などやることが増える)
これは、この書き手が新しい仕事を4か月続けたところで「ADHD うつ 吃音が発症することはあるか」という見出しのもとに書き並べた項目です。並びを見ると、話しにくさだけが独立しているのではないことが分かります。乗務そのものより、営業所に戻ってからの清掃・入庫処理・納金と、やることが増える場面のほうが苦手だと本人は書いている。困りごとは「吃音の欄」と「ADHDの欄」に分かれてはおらず、同じ一日のなかで混ざっている。研究の側も、この二つを別々の話として扱ってはいません。
出典: ADHD✖️うつ病✖️吃音持ちの私がタクシードライバーになる。障害者雇用から一般雇用の世界へ(note・マキシムトマト)(台帳: V0104)
数字で見ると、重なりの多さははっきりしています。米国の全国健康聞き取り調査から3〜17歳の子ども約12万人(吃音のある子 2,258人、ない子 117,725人)を分析した研究では、吃音のある子どもの60.32%が、吃音のほかに1つ以上の併存する状態を持っていました。吃音のない子どもでは26.44%と、3分の1に届きません。逆から見ると、何らかの併存する状態がある子どもでは吃音の割合が4.19%、併存する状態のない子どもでは1.02%、全体では1.88%でした。
そのなかでADHDはどのくらいを占めるのでしょうか。この研究では、吃音のある子・ない子のどちらでも、ADHD/ADD・喘息・自閉スペクトラム症が最も多い併存する状態でした。ADHD/ADDに絞ると、吃音のある子で26.56%、吃音のない子で8.43%です。この%は、米国全体を代表するように重みづけをした推定値で、実際に数えられた人数は655人と10,623人でした。どちらの群でも、割合は女の子より男の子のほうが高くなっていました。
ただし、この2枚の図はどちらも3〜17歳が対象で、大人を直接調べたものではありません。しかも、この領域は研究によって結果が食い違います。その読み方は、この記事の「研究どうしが食い違っている」の節で扱います。
なぜ重なりやすいのか——同時にいくつも気を配る場面で
重なりの背景として研究で名前が挙がるのは、頭のなかの司令塔のような働きです。注意を向け続ける、作業に必要なことを短いあいだ覚えておく、余計な反応を抑える——こうした働きをまとめて「実行機能」と呼びます。話すという行為は、この司令塔をかなり使います。
当事者本人(三児の母/自分のことを「大人の発達障害ADHD(不注意型)グレーゾーン」と書いている。短大卒業後にデザイン職として6年勤務・個人ブログ note)
それに加えて苦手だったのが、メモを取ること。
先述のWAIS-Ⅳの検査で、「ワーキングメモリ」の点数が最も低かった私。(平均値100のところ、私はなんと76・・・)
一時記憶力が乏しく、すぐ頭から消えてしまうので、メモを取るだけでも頭がいっぱいになる。
さらに相手と会話をしながらなんて、マルチタスクを苦手とする私には至難の業だ。
この書き手が振り返っているのは、デザイン職として勤めた6年間の電話応対です。周りが騒がしいと自分でも何を言っているか分からなくなり、静かなオフィスでは自分の声だけが響くのが怖かった、とも書いている。そのうえで最後に挙げているのが、メモです。聞いた内容を短いあいだ頭に留めておく力——本人が受けた検査でいう「ワーキングメモリ」——が弱いと、書き取るだけで手いっぱいになる。そこへ会話が重なる。研究が「実行機能」と呼んでいるのは、まさにこの、注意を向けたまま短いあいだ覚えておき、必要に応じて切り替える力のことです。
出典: 電話恐怖症→吃音症になった話|ADHDグレーゾーン(note・柚木みいろ)(台帳: V0165)
吃音のある子どもは、この実行機能が弱い傾向にあることが報告されています。具体的には、保護者の評価で、全体を見渡す力・短いあいだ覚えておく力・注意・抑える力を必要とする行動の点数が低くなっていました。いっぽうADHDでも、その基本的な成り立ちとして実行機能の問題が想定されており、これまでの経過や先のことを考えて行動できない、気分や覚醒のレベルを整える力が下がる、といった形で現れるとされています。
脳の側にも接点があります。実行機能は、おでこの奥にある前頭前野を中心とする広い回路が担い、その働きは大脳基底核の活動によって調整されるとされています。これは、この研究が自分で測ったことではなく、過去のレビューを引いて紹介している説明です。そして吃音についても、話すための運動を組み立てる前頭葉の領域と、大脳基底核・視床・小脳といった脳の深いところの構造の違いが報告されています。ただし、こうした違いは画像を1枚見て分かるようなものではなく、集団どうしを統計で比べてはじめて見えてくる細かい差だと、総説は断っています。
では、なぜ重なるのか。前出の約12万人の研究は、答えを1つに絞らず3つの説明を並べています。
- 吃音とほかの発達の状態が、共通の中核的な弱さや似たリスク要因を分け合っている
- 吃音は、重なり合う原因の連続体の上に現れる1つの形で、併存のある子はその重い側にいる
- 吃音は別個の状態で、発達に悪影響を与えることでほかの状態へのかかりやすさを高めている
どれか一つに決まっているわけではありません。大切なのは、「ADHDだから吃音になる」「吃音だからADHDになる」といった一方向の因果として理解しないことです。
大人の数字——併存は「吃音の影」に隠れやすい
ここまでの数字は子どもが対象でした。では大人はどうなのか。国内には、成人の吃音の専門外来を訪れた人を調べた報告があります。そしてそこで見えてくるのは、併存率そのものより、併存に気づかれていない人がどれだけいるかでした。
当事者本人(20代後半・男性/東北の役所の事務職・勤務3〜5年目。もともとADHDとASDの症状があると本人が書いている・自助団体の就労体験記 No.26)
吃音になった後は、電話対応と窓口対応で苦労することが多いです。すごくどもって汗をびっしょりかきながらやっていた時期はありますが、それに関するストレスなどから鬱になり、人事部局に相談し、電話取りと窓口対応が少ない部門に異動させていただきました。
この書き手は、自助団体が集めた就労体験記に、決まった項目に沿って答える形で書いています。就職活動の時期には症状が無かったこと、その後の転職活動では筆記試験でトップクラスの成績を取りながら面接で最下位になったこと、そして就職後3年目に吃音が出たこと。窓口と電話に追い詰められた末に相談した先は、人事部局でした。部署を移ることでいまは働けている。ただし、本人が最初に書いている自分の状態は「ADHDとASDの症状」であって、吃音はそのあとに並んでいます。そして吃音の専門外来を訪れた大人を調べた調査では、その裏側にある状態のほうに名前がついていないことが多い、という結果が出ています。
出典: 就労体験記 No.21〜27(うぃーすたプロジェクト)(台帳: V0098)
国立障害者リハビリテーションセンターの児童精神科外来は、同じ施設の成人吃音外来から紹介を受けて、発達障害を含む精神障害の併存が疑われる人を診てきました。そこで行われた5年間・初診患者195人の調査では、3分の1に精神科の通院歴があり、それを含めて52.3%(102人)に精神疾患の併存がありました。最も多かった診断は自閉スペクトラム症で、26.4%(52人)です。
注目したいのはその次です。自閉スペクトラム症が併存していた52人のうち、精神科の通院歴があったのは40.3%(21人)で、実際に自閉スペクトラム症と診断されていたのは2人だけでした。通院していても、併存のほうには名前がついていなかったということになります。
なぜ隠れるのか。この資料は、先に分かっている状態の影に別の状態が隠れてしまう現象があると説明しています。吃音はその起点になりやすい、というのが要点です。そこで挙げられているのは自閉スペクトラム症のある人の場合で、自分の様子を見て取る力の弱さやこだわりといった特性から困りごとの原因を吃音に絞り込みやすく、周りから見ても「質問と返答がずれる」「表情が硬い、視線が合わない」といった様子が吃音で説明できてしまうためだ、と書かれています。
隠れやすいのは発達の特性だけではありません。吃音のある成人200人と、年齢や男女比をそろえた吃音のない成人200人を比べた研究では、吃音のある人のほうが不安の高さが目立ち、調査時点で少なくとも40%に社交不安症があったと推定されています。社交不安症とは、人前で話す場面や見られる場面に強い不安が出る状態のことです。学会の解説も、自助団体に参加したり治療を求めたりする吃音のある成人の約20%から半数近くに社交不安症の合併が報告されているとしています。「話しにくさ」の下に、別の困りごとが重なっていることがある、ということです。
統計のうえでも、大人の吃音は見えにくくなります。電子カルテを調べた研究では、大人になってから始まった流暢性の障害のために作られた分類コードが、経験のある言語聴覚士によれば子どものころからの吃音が大人まで続いている人にもよく使われていると指摘されています。記録のうえで、子どもからの連続と大人からの発症が混ざりやすいということです。
「吃音は発達障害」という分類を、当事者はどう受け止めたか
ここまで「併存」「発達障害」といった言葉を使ってきましたが、当事者がその分類を歓迎しているとは限りません。制度の説明だけを読むと見落とされる部分なので、当事者の言葉をそのまま置きます。
当事者本人(34歳・会社員/吃音が発達障害に分類されることについて当事者9名が寄せた投稿集の1本。この投稿集は9名とも分類と障害者手帳に否定的な立場で編まれたもので、当事者一般の意見ではない・自助団体の会報の再掲)
「吃音は人生を破壊するとても重大な障害だ。だから障害者認定するべきだ」と、求めすぎる気持ちが起こるのは仕方がないが、障害者と認められ保護される立場になったとしてそこからの人生はどうなるのだろう。「吃音があると就職に不利になる。面接で失敗する。りっぱな障害ではないか」と、誰かが言う。言語障害というのはなんとなくわかる。しかし発達障害に含まれるというのはピンとこない。
この書き手が投稿の冒頭に置いているのは、中学生のころの記憶です。吃音の苦労を先生や友達に話しても、返ってくる言葉はいつも「気にしすぎ」だった。外から見て分かる障害ならどれだけ楽だろうと考えていた——そう書いたうえで、いざ分類が変わったときの受け止めが、この一節になります。「言語障害」は腑に落ちるが「発達障害」は腑に落ちない。制度の側の分類と、本人が自分をどう理解しているかは、必ずしも一致しません。制度上の位置づけそのものは、次に見るとおりです。
出典: 私はこう生きる―吃音と発達障害、私の考え(日本吃音臨床研究会「スタタリング・ナウ」の再掲)(台帳: V0166)
日本の制度では、低年齢から始まる発達性吃音は2005年に施行された発達障害者支援法の対象に含まれています。ADHDも同じ法律が定める発達障害の一つで、日本ではこの法律の定義が使われる一方、専門的にはアメリカ精神医学会の診断分類による「神経発達症」とほぼ同じものとして扱われます。同じ資料は、それぞれの区分を線で分けてはいるものの線の辺縁はぼやけているとも述べています。
実際の集団で数えると、こうなります。スペインの地域で6歳児289人を直接評価した調査では、21.5%が何らかの神経発達症を持っていました。内訳はADHDが14%、自閉スペクトラム症が2.4%、吃音を含むコミュニケーション症が9.54%で、そのうち吃音は0.34%です。吃音は「発達障害」という大きな枠の中に置かれてはいるものの、その枠の中でも小さな一角にあたります。
学会の解説が挙げる吃音の併存症も、この枠と重なります。比較的多いものとして、限局性学習症(学習障害)、ADHD、自閉スペクトラム症、知的発達症、てんかん、構音障害が並べられています。分類に納得できるかどうかとは別に、こうした重なりが実際にあることは押さえておく価値があります。
研究どうしが食い違っている——2本の大規模研究の読み方
ここは、ほかの解説記事があまり書かない部分です。「ADHDと吃音は併発しやすい」という説明は広く流通していますが、大規模な研究を2本並べると、結論が揃いません。
もう1本の研究を紹介します。米国の大学医療センターが持つ約280万人分の電子カルテを、キーワード検索・文章の自動解析・人手による確認の3段階でふるいにかけ、1,143例の発達性吃音を特定した研究です。この研究で吃音の症例に強く多かったのは、発達の遅れ・障害と言語の障害、次いで広汎性発達障害と「チックおよび吃音」の分類コードでした。
ところがADHDは、統計の基準に届きませんでした。不安も同様です。前の章で見た約12万人の調査では最多の併存の一つだったのに、です。この研究はたくさんの項目を一度に比べているため、まぐれ当たりを避ける厳しめの計算を使っており、そのぶん取りこぼしが出ることを著者ら自身が認めています。
そして著者らは読み方を明示しています。この2つは吃音の併存として先行研究で証拠のある状態であり、基準に届かなかったとはいえ、比較用に作った対照群の分布のなかでは不安が上位1%、ADHDが上位10%にあたる位置にありました。そのうえで、この場合の「有意な所見が出なかったこと」は否定的な所見ではなく、判定できないという所見として読むべきだと書いています。
理由は材料の性質にあります。電子カルテという材料は、吃音そのものと同じように医療記録に記載されにくい状態を検出する力が弱くなりうると著者らは述べています。実際この研究では、自閉症に特有の分類コードも、はっきり多いとは言えませんでした。「カルテに書かれていない」と「存在しない」は違う、ということです。
読者にとっての実用的な結論はこうです。「ADHDがあるから吃音になる」と言える段階ではないが、「関係がない」と切り捨てられる段階でもない。両方に心当たりがあるなら、どちらか一方に決めつけず、両方を相談の俎上に載せておくのが妥当です。
大人になってからの相談先——どこに、どの順で
「どこに相談すればいいのか」は、大人になってから悩む人がとくに多いところです。吃音とADHDは別々の状態なので、窓口も分けて考えると整理しやすくなります。
吃音についての中心になるのは言語聴覚士です。言語障害や聴覚障害のある人の指導・支援を行う国家資格で、養成課程には吃音が含まれています。ただし業務の範囲が広いため、すべての言語聴覚士が吃音の指導や支援を行えるわけではありません。多くは病院のリハビリテーション科や耳鼻咽喉科などに勤めているので、希望する場合はあらかじめ病院に直接問い合わせるか、日本言語聴覚士協会や都道府県の言語聴覚士会に尋ねる、という手順が案内されています。
大人だけを対象にした専門外来もあります。国立障害者リハビリテーションセンター病院の成人吃音相談外来は18歳以上が対象(高校生は小児吃音外来)で、初診日に問診票の記入・診察・吃音の検査を行い、その結果を見ながら言語訓練の方針を立てる流れです。完全予約制の初診専用外来で、予約が取りにくい状況だと明記されています。
同じ資料に、吃音の相談から併存の評価につながる道筋も書かれています。この施設では成人吃音外来から児童精神科外来へ60名以上が紹介され、発達障害を含む精神障害の併存が疑われる人の診療が行われてきました。自閉スペクトラム症かどうかは、育ってきた経過や生活歴、学校・職場での情報、本人との面談、心理・言語の検査などを総合して判断されます。ADHDについても、複数の状況で症状があるかどうかが診断の要点とされています。1回の面接で決まるものではない、と考えておくと気が楽です。
専門家以外の場も、役割が違うだけで意味があります。言友会などの自助グループは、学術的な知識や専門的な指導を受けられる場ではないと資料自身が断ったうえで、同じ問題を持つ仲間と出会い、当事者同士でないと感じられない連帯感のなかで具体的な助言をもらえる場だと説明しています。吃音のある人と出会うことが心理的な変化のきっかけになる場合がある、とも書かれています。不安が強いときには、カウンセリングや心理療法が役立つこともあります。
働き方と支援制度——「配慮」は何をどこまで指すのか
大人のADHD・吃音でいちばん切実なのは「働くこと」かもしれません。本人の困りごとに合わせて、職場のやり方や役割のほうを変えてもらうことを「合理的配慮」と呼びます。2016年に施行された障害者差別解消法により、学校や職場での吃音に対する差別的な扱いは禁止され、発表や電話応対の免除、試験などでの面接時間の延長といった配慮を求めることができます。その際、医師の診断書や言語聴覚士の報告書の提出を求められる場合があります。
「配慮」は気持ちの問題ではなく、実際に人やお金が動くことだと資料は説明しています。電話が難しければ誰かに取ってもらう人員配置が要りますし、口頭で伝えるのが難しければメールでの報告・連絡・相談を認めてもらうことが配慮にあたります。「合理的」とは、雇用主に過大な負担を生じさせない範囲で、という意味です。そのため職種によって範囲は変わり、たとえば車内アナウンスを全くしない車掌は、もう1人乗せる必要が出るため範囲を超えると考えられる、という例が挙げられています。
ここは客観的な基準がなく、会社や上司の裁量の幅が大きいのが実情だとも書かれています。だからこそ、吃音があることを開示したうえで、どういう配慮を希望するのかを具体的に示して相談する必要がある、というのが資料の結論です。手帳については、吃音による困難を説明した医師の診断書または意見書によって精神障害者保健福祉手帳が交付され、音声言語だけでは家族以外との意思伝達が著しく困難と認定される場合には身体障害者手帳4級が交付されることもあります。ただし、吃音のある成人の多くは手帳が無いまま一般就労しており、吃音があれば一律に申請が必要ということはありません。
ADHDなど発達障害の側からの就労支援も、別立てで用意されています。ハローワークには精神・発達障害者雇用サポーターが配置され、障害特性を踏まえた就職支援や職場定着支援が行われています。ほかに、障害者トライアル雇用、地域障害者職業センターによる支援、職場になじめるように人の手できめ細かく支える人(ジョブコーチ)を職場に派遣する支援などが段階別に並べられています。吃音の相談先とは別の窓口なので、両方あるなら両方をたどることになります。
大人のADHD×吃音で陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − どちらか一方だけで説明しようとする
「全部ADHDのせい」「全部吃音のせい」と一方に寄せると、実態から遠ざかります。二つは重なりやすい別々の状態で、共通の背景を持ちつつも、それぞれに合った対応が必要です。とくに、困りごとの原因を吃音だけに絞り込んでしまうと、併存が見えなくなる向きに働きます。前出の約12万人の研究も、吃音があること・併存する状態があることのどちらも実行機能の低さと結びついていたと報告しており、その大きさを比べると併存があることのほうが影響が大きい可能性があると述べています(ただし群と群の差そのものは小さかったと明記されています)。
落とし穴2 − 一つの研究結果を決定版として受け取る
この領域は研究によって結果が食い違います。約12万人の調査ではADHDが最多の併存の一つでしたが、280万件のカルテ研究では統計の基準に届きませんでした。後者の著者らは、それを「関連がない」ではなく「判定できない」と読むべきだと書いています。同じ研究は、吃音のある子には実行機能と併存の有無によるタイプ分けがあるのではないかとも論じていますが、これは仮説として提示されたもので、確定した知見ではありません。ネットで見た一つの数字を自分の答えにしないほうが安全です。
落とし穴3 − 併存を疑うのに、材料が「記憶」しかない
併存の評価は、育ってきた経過や生活歴、職場での情報、面談と検査を総合して判断されます。ADHDも、複数の状況で症状があるかどうかが要点です。つまり「いつ・どんな場面で・何に困ったか」の具体例が、診察の材料そのものになります。吃音には調子の良い状態と悪い状態が数週間から数か月続く「波」があるので、感覚だけで思い出そうとすると、直近の印象に引っ張られます。
まずは日々の発話や困った場面を書き留めることから小さく始めるのが現実的です。記録はあくまで経過を「見える化」して相談に役立てるための手段で、治療の代わりになるものではありません。専門機関の窓口は、この記事の「大人になってからの相談先」の節にまとめています。相談できる場合は、まずそちらを頼ってください。
よくある質問
大人でADHDと吃音が併存することはありますか?
はい、珍しくありません。3〜17歳の子ども約12万人の調査では、吃音のある子どものADHD/ADDの割合は26.56%で、吃音のない子どもの8.43%より高くなっていました。専門学会の解説でも、吃音の併存症としてADHDが挙げられています。大人については、成人の吃音外来を初めて受診した195人の52.3%に精神疾患の併存があったと報告されています。
研究によって「ADHDと吃音は関係する」「しない」と結果が違うのはなぜですか?
調べ方が違うためです。全国調査では最多の併存の一つでしたが、電子カルテを使った研究では統計の基準に届きませんでした。後者の著者らは、カルテという材料は記録されにくい状態を検出しにくいため、これは「関連がない」ではなく「判定できない」という所見だと述べています。
ADHDがあると吃音は治りにくいのですか?
確定した知見はありません。前出の研究は、実行機能が比較的強く併存のない子と、実行機能が弱く併存のある子というタイプ分けがありうると論じ、後者は発達上の弱さが大きい集団かもしれないと述べていますが、これは仮説として提示されたものです。心配なときは、吃音を扱っている言語聴覚士に相談するのが近道です。
大人のADHDと吃音は、どこに相談すればいいですか?
吃音は、吃音を扱っている言語聴覚士のいる病院のリハビリテーション科や耳鼻咽喉科が中心です。全員が吃音を担当しているわけではないので、事前に問い合わせてください。18歳以上を対象にした成人吃音相談外来もあります。併存が疑われる場合は、その外来から同じ病院の児童精神科外来へ紹介される道筋が報告されています。
ADHDの薬で吃音は良くなったり悪くなったりしますか?
一般に、薬剤の副作用で吃音が出ることがあることは知られています。電子カルテの研究でも、発達性吃音を数える際に薬の副作用による吃音は別のものとして除外されています。ただし、特定のADHD治療薬が吃音を良くする・悪くすると言い切れる根拠は、ここで扱う資料の範囲では確認できません。服薬の不安は自己判断で変えず、処方した主治医に相談してください。
まとめ
- 約12万人の調査では、吃音のある子の60.32%が1つ以上の併存する状態を持ち、ADHD/ADDは26.56%(吃音のない子は8.43%)だった。
- 大人では、成人の吃音外来を初めて受診した195人の52.3%に精神疾患の併存があり、最多の自閉スペクトラム症26.4%のうち受診前に診断がついていたのは2人だけだった。併存は気づかれていないことがある。
- 一方、280万件のカルテ研究ではADHDは統計の基準に届かず、著者らはそれを「関連がない」ではなく「判定できない」と読むべきだとしている。研究どうしで結論は揃っていない。
- 重なりやすい背景として実行機能があり、これを担うのは前頭前野を中心とする回路だと紹介されている。吃音でも、話す運動にかかわる前頭葉の領域や大脳基底核などに違いが報告されている。ただし一方向の因果ではない。
- 相談先は分けて考える。吃音は吃音を扱う言語聴覚士や成人専門の外来へ。働くことについては合理的配慮と、発達障害向けの就労支援の窓口がある。
