吃音で筆談を使うとき|場面・頼み方・合理的配慮になるか

吃音で筆談を使うとき|場面・頼み方・合理的配慮になるか
目次

役所の窓口で自分の名前が出ない。電話の第一声が出ない。会議で一言が出ない。——紙に書いて見せれば、スマホの画面を出せば、チャットで送れば済むはずなのに、「それをやったら、もっと話さなくなるのでは」「相手はどう思うだろう」「配慮として頼んでいいものなのか」と手が止まる。吃音のある人にとって、筆談は便利な道具であると同時に、使うたびに小さな迷いがついてくる手段です。

この記事は、その「書いて伝える手段」に絞って書きます。当事者5人が、どの場面で紙・メモ・チャット・ショートメールを使い、どの場面では使えず、どう頼み、相手はどう受け取ったのか。そして筆談やメールが合理的配慮(困りごとが減るように、進め方や環境を調整してもらうこと)の例として実際に挙げられていること、電話には公共のサービスがあること、頼むときの言い方を研究がどう比べてきたかを、厚生労働省の事業主向け資料、国立障害者リハビリテーションセンターが関わる発達障害ナビポータル、日本吃音・流暢性障害学会の解説、国の研究班の報告と研究論文の出典つきで並べます。制度の全体は合理的配慮の記事に、試験の配慮は英検の配慮の記事に譲り、ここでは「書いて伝えること」だけを追います。

ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断、および個別の法的助言に代わるものではありません。合理的配慮の運用は職場や年次によって変わります。実際の手続きは、職場の相談窓口や市区町村の窓口、ハローワークなどでご確認ください。気になる症状があるときは、言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室にご相談ください。

まず結論から

  • 筆談は、公的な性格の解説が合理的配慮の例として名指ししている手段です。国内の研究プロジェクトの解説は、面接試験等で口頭で答える必要がある場合の配慮として「試験時間を延長する・筆談で答える」を挙げ、職場では、上司に口頭で話すのが難しい場合に業務手順を変更してメールで報告・連絡・相談することを了承してもらえるなら配慮されたことになる、と書いています。
  • 電話には、筆談の代わりになる公共のサービスがあります。2021年から総務省が主体となり公共インフラの一つとなった「電話リレーサービス」を吃音のある人が使うことができ、困り感の軽減につながっているとされています。
  • 書いて伝えるのが楽なのは、気のせいではありません。吃音は、話し手が言いたいことを正確に分かっていて、発声器官を協調させて動かすこともできるのに、制御が断続的に失われる状態だと、脳研究の総説(多くの研究をまとめて見渡した論文)は定義しています。言葉は最初からあり、止まるのは声だけです。
  • 頼むときは、謝らずに事実として。自分から吃音があると伝えること(自己開示)を扱った18件の研究をまとめた系統的レビュー(条件を決めて研究を集め、まとめて評価する方法)では、謝らない形の伝え方のほうが、謝る形や伝えない場合より好意的に受け止められた研究が13件中12件でした。
  • ただし合理的配慮の「合理的」とは、雇用主に過大な負担を生じさせない範囲という意味で、配慮を受けるには吃音を開示したうえで、どういう配慮を希望するのかを具体的に示して相談する必要があるとされています。

ただし、「筆談に頼ると話さなくなるのでは」「筆談は逃げではないか」という問いに、この記事は答えを出しません。当事者の記録には、文字なら詰まらない楽さと、声を避けるうちに世界が狭くなっていく感覚の両方が、同じ人の中に書かれています。どちらを重く見るかは本人が決めることで、ここでは資料と記録を並べるところまでにします。

「文字なら、詰まらない」——書いて伝えるのが楽なのはなぜか

筆談やチャットに救われた経験を、吃音のある人の多くが持っています。ただ、その楽さを口にするとき、当事者はたいてい同じ息で「でも」と続けます。葬儀社で式のナレーションを担当している当事者が、高校生のころからの経過を書いています。

当事者本人の声(葬儀社で式のナレーションを担当する当事者、名義「言葉の待合室」/個人ブログ note のエッセイ)

高校生になる頃には、僕は、言いやすい人生を作るのが上手くなっていました。

自己紹介を短くする。注文しやすい店を選ぶ。電話を避ける。

でも、それって、少しずつ世界を狭くしていくんです。本当は行きたい店がある。でも、名前が言いづらいから行かない。電話したい人がいる。でも、最初の一言が怖くてかけられない。そうやって、少しずつ、人との距離ができていく。

だから僕は、スマホが好きでした。文字なら、詰まらないから。LINEでは、普通の人になれました。既読をつけるタイミングとか。返事の速度とか。スタンプだけの会話とか。そういう、声を使わない関係が楽だった。

でも、急な部署異動で、葬儀社に入ってから、僕は逆の世界へ行くことになります。そこは、声の仕事でした。

子どものころから緊張すると喉が固くなり、「あ」が出ない日は朝から世界が狭い、と本人は書いています。高校生のころには「言いやすい人生」を作るのが上手くなっていた。自己紹介を短くし、注文しやすい店を選び、電話を避ける。その裏で、行きたい店に行かず、電話したい人にかけられない。だから、文字なら詰まらないスマホが好きだった——LINEでは「普通の人」になれた。ところが急な部署異動で葬儀社に入り、電話・打ち合わせ・案内・司会という「声の仕事」に移ることになります。同じエッセイの後半には、初めての司会で最初の言葉が出なかった日のこと、それでも今もマイクを持っていることが書かれています。文字で楽になる感覚と、声の場面が消えない現実が、一人の中に同居しています。書けば伝わるのに、声だけが止まる——この非対称は、研究の側が吃音を定義するときの言い方そのものです。

出典: 吃音の「まもなく開式でございます」(note・言葉の待合室)(台帳: V0242)

脳の研究を見渡した総説は、吃音を、話し手が言いたいことを正確に分かっていて、発声器官を協調させて動かすこともできるのに、制御が断続的に失われ、構音の動きが凍りつく状態と定義しています。言葉が頭に無いのではなく、声にする最後の段で止まる。文字にすればその段を通らずに済むので、「文字なら詰まらない」という実感は、この定義とそのまま重なります。

ただし、楽さの裏で本人が「世界が狭くなる」と書いていた部分にも、研究は触れています。吃音のある大人500人以上に「話すときの目標は何か」を尋ねた調査を紹介した総説によれば、回答は2つに分かれました。「より流暢に話す/どもらない」ことを目標にする人と、「どもるかどうかにかかわらず、言いたいことを言う」ことを目標にする人です。前者の傾向が強い人ほど、場面・音・語を避け、力んでもがき、恥や罪悪感や恐れを経験しやすく、後者の傾向が強い人はその逆の型を示した、と報告されています。この調査は筆談を調べたものではありません。それでも、筆談やチャットを「どもらずに済む手段」として使うのか、「言いたいことを届ける手段」として使うのかで、同じ道具の意味が変わりうることを、この結果は示しています。

職場では紙とショートメール——筆談が届く場面と、届かない場面

職場で筆談は、実際にはどう使われているのでしょうか。電気工事の会社に8年在籍したのち、いまは包装機械メーカーで働く当事者が、現場での使い方を具体的に書いています。

包装機械メーカーで働く20代男性の当事者(前職は電気工事の会社に8年在籍。愛媛言友会「吃音当事者からのメッセージ」への寄稿)

就職してからも吃音の症状は変わらず、悪化する日も増えました。職場や現場での挨拶、業務上の電話、作業時の意思疎通が非常に困難でした。調子が悪いときは紙に書いて相手に伝えたり、電話の代わりにショートメールを使うこともありました。当時、困ったのが合図や掛け声でした。入線作業ではケーブルを押す方と引っ張る方に分かれ、ケーブルを通し終わったにも関わらず『いいよーおわったーよー』と合図の声が出ず、ずっと先輩にケーブルを押させて怒られたこと。また、挨拶で声が出ず『挨拶ぐらいしろや』とよく怒られました。

高校で資格の取得に力を入れ、新築の木造住宅やマンションの電気工事に就いた人です。就職後も症状は変わらず、悪化する日が増えたと書いています。挨拶・電話・作業中の意思疎通が難しく、調子が悪いときは紙に書いて渡し、電話の代わりにショートメールを使った。ただ、紙もメールも届かない場面が現場にはありました。ケーブルを通す作業で「いいよー、おわったーよー」の合図が出ず、先輩にケーブルを押させ続けて怒られる。挨拶で声が出ず「挨拶ぐらいしろや」と言われる。筆談が使えるのは、相手が手を止めて読める場面に限られる、ということです。同じ寄稿の続きで、この人は前の会社に8年在籍したのち派遣を経て、いまの会社では吃音を伝えたうえで電話対応を免除してもらっていることを書いています(その部分は面接のカミングアウトの記事で引きました)。紙とメールを職場に認めてもらうことは、資料の上では配慮の一つに数えられています。

出典: 吃音当事者からのメッセージ(愛媛言友会)(台帳: V0223)

国内の研究プロジェクトの解説は、職場の合理的配慮を具体例で説明しています。吃音で電話が困難な場合は、他の人に電話を取ってもらう必要があり、人員配置についての配慮が必要になる。上司に口頭で話すのが難しい場合は、業務手順を変更して、メールで報告・連絡・相談(報連相)することを了承してもらえるなら、配慮されたことになるつまり「紙に書く」「メールで送る」は、本人の工夫であると同時に、職場が業務手順として認めれば配慮の中身になります。

ただし範囲があります。「合理的」とは雇用主に過大な負担を生じさせない範囲で、という意味で、業種や会社によって配慮の範囲が狭いことがあるとされています。同じ解説は、電車の車掌がアナウンスをしないでいいようにという要望は、車掌をもう1人余分に乗せなければならなくなるので合理的ではないと判断されるだろうこと、病院勤務の医師が院内PHSを全く使わないことも合理的配慮の範囲を超えるだろうことを、例として挙げています。上の当事者が書いた「合図の声」も同じで、声そのものが安全や段取りに直結する場面では、書く手段は代わりになりません。筆談やメールが配慮として通るかどうかは、その業務の中で声を何に使っているかで決まります。

法律の側の根拠も一行で押さえておきます。日本吃音・流暢性障害学会の解説は、2016年に施行された障害者差別解消法により学校や職場での吃音に対する差別的言動や差別的扱いは禁止されているとしたうえで、発表や電話応対の免除、試験等での面接時間の延長などの合理的配慮を求めることができる、その際に医師の診断書や言語聴覚士の報告書の提出などが求められる場合がある、と書いています。誰に・どう申し出るか、手帳は要るのかといった制度の中身は、合理的配慮の記事にまとめています。

「文章なら早いです」——頼み方は、次の手段まで一緒に置く

筆談もチャットも、相手に頼んで初めて成立します。つまり「書いて伝えたい」と言うことは、吃音があると伝えること(自己開示)と切り離せません。初対面の自己紹介を「準備がいる場面」と呼ぶフリーランスのエンジニアが、その頼み方を書いています。

当事者本人の声(フリーランスのソフトウェアエンジニア、名義「おおとろ」/個人ブログ note の週初エッセイ)

ただ、大事にしているのは言い訳にしないことだけです。

「だから仕方ないですよね」で会話を終わらせるのではなく、「声より時間がかかることがあります。文章なら早いです」みたいに、次の連絡手段まで一緒に置く。

相手の配慮をお願いするのは悪いことじゃない。そのお願いのあとに、仕事の責任や意思が続いているかどうか。そこがすれ違うと、自己紹介はただの免罪符になってしまう気がするのです。

「頭の中の文章はできあがっているのに、唇のほうが間に合わない」と書くこの人にとって、初対面は怖いというより「準備がいる」場面です。かつては自己紹介を勝負どころだと思っていた——うまく言えたら合格、つまずいたら不合格。いまは、自己紹介を「このあとどんな風に一緒に話すかの下書き」と捉え直しています。だから吃音を初日に言うかどうかより、言い訳にしないことを大事にする。「仕方ないですよね」で終えず、「文章なら早いです」と次の手段を置く。フリーランスになってからは、チャットで先に短く経歴を送り、打ち合わせの前に文章で論点を共有する。電話が苦手なら、別の導線を最初から用意する。「文章ならここまで言える」という事実を、関係の最初にそっと横に置く——本人はそう書いています。この「言い方」の違いを、自己開示の研究はずっと比べてきました。

出典: 【週初エッセイ】新しい人間関係で最初に伝えたい僕のこと — 吃音という自己紹介のかたち(note・おおとろ)(台帳: V0424)

自分から吃音があると伝えることについては、18件の量的研究を系統的レビューで整理した報告があります。全体として好意的な影響が示されたのは18件中15件(83.3%)、伝え方を条件として比べた13件のうち12件(92.3%)では、謝る形や伝えない場合より、謝らない形の伝え方のほうが好意的に受け止められていました原典は、否定的な思い込みを向けられるかもしれないという負担(ステレオタイプ脅威)をやわらげるために、謝らない形の自己開示を使うことをこの結果が支持するとしています。ただし同じ報告は、伝える場面・年齢・吃音の頻度や重さ・聞き手が吃音のある人と知り合いかどうかは、そもそも調べた研究が少ないと断っています。

「謝らない形」の実物も、研究の中にあります。模擬面接の冒頭で話し手が言う一文として使われたのは、「始める前にお伝えしておきます。私には吃音があります。音や語句を繰り返すことがありますが、分かりにくいところがあれば遠慮なく聞き返してください」にあたる英文でした。事実(吃音がある)、何が起きるか(音や語句を繰り返す)、相手にしてほしいこと(聞き返してほしい)の3つが、謝罪の言葉なしで並んでいます。上の当事者の「声より時間がかかることがあります。文章なら早いです」も、同じ3つの並びで、3つ目が「筆談・チャット」になった形です。

頼むことそのものを、研究の側は自己権利擁護(セルフ・アドボカシー)——自分のために声を上げ、自分に必要なことを相手に知らせること——と呼び、その形は人によって大きく違うとしています。話している間は待ってほしいと頼む人、話す時間を多めにもらう人、話すことの負担を減らすために環境の調整を頼む人がいて、その例として、発表の順番を最初にしてもらうことや、電話ではなくビデオ会議で話すことを頼むことが挙げられています。「電話ではなく文章で」は、この並びに自然に加わります。面接という場面で伝えるかどうかの判断材料は、面接のカミングアウトの記事にまとめています。

治療の考え方をまとめた総説が挙げる、話すことの負担を減らすために周囲へ頼む形を3つ並べた概念図。数値はありません。1 待ってほしいと頼む——話している間は辛抱して聞いてほしい、と聞き手に頼む。2 話す時間を多めにもらう——自分にかかる圧力を減らすために、話す時間を増やしてもらうよう頼む。3 環境の調整を頼む——話すことの負担を減らすための調整で、例として発表や話の順番を最初にしてもらう、電話ではなくビデオ会議で話す。原典は自己権利擁護を「自分のために声を上げ、自分に必要なことを相手に知らせること」と定義し、どの形を選ぶかは人によって大きく違うと書いている
図1: 頼み方には、いくつもの形がある。出典: Tichenor, Herring & Yaruss (2022) Top Lang Disord.

紙に書いて説明したら、相手はどうしたか——受け取る側の反応

頼んだ相手がどう受け取るかは、頼む側には決められません。それでも、書いて伝えた場面の相手の反応が、そのまま記録に残っているものがあります。法人向けの飛び込み営業をしていた当事者の、ある訪問先での出来事です。

当事者本人の声(元法人営業で現在は介護職、名義「かごさん」/個人ブログ note。訪問先の部長とのやり取りを本人が振り返って書いたもので、引用は部長の言葉の途中から)

伝え方はたくさんある。自分のやり方でいいんだよ! 君のやり方で説明してごらん」

こう言ってもらえたのです。

営業の大先輩からの言葉に思わず驚きました。

気持ちも楽になってパンフレットを見せながら紙に書きながら説明すると効果もご理解いただいてなんと受注いただけたのです!

商店街やオフィス街を軒並み飛び込む営業で、会社名と自分の名前が言えず「ちゃんと言えるようになってから来てください」と追い返される。入口の受付電話では用件が言えずに切られる——そんな日が続いていた、と本人は書いています。その日、部長に「新人か?緊張してるのか?」と聞かれ、緊張ではないので正直に「子供の頃から吃音症で吃ってしまいます。ご迷惑をお掛けして、申し訳ございません」と伝えた。返ってきたのは「そんなことは気にする必要はない」「今こうやって話せたじゃないか」、そして「ペラペラ話すことが良いことではない、ちゃんと伝わっているかが大事なんだ」に続く上の言葉でした。パンフレットを見せ、紙に書きながら説明した。帰り道で泣いた、と本人は書いています。伝え方は本人が謝る形でしたが、相手の側から「伝え方はたくさんある」と返ってきた——研究が平均として報告している「好意的な受け止め」の、一つの実物です。

出典: 【吃音】営業していて辛い。凹んでいた僕が"人の優しさ"に泣いた日!(note・かごさん)(台帳: V0485)

一人の記録は一人の記録です。同じ本人が、その前には何度も追い返されているのですから、「伝えれば受け止めてもらえる」とは読めません。研究の側も、自己開示の研究18件のうち好意的な影響が示されたのは15件で、全部ではないこと、営業のような場面を調べた研究はそもそも少ないことを書いています。ここで言えるのは、受け取る側が「伝え方はたくさんある」と考えることは、珍しい善意ではなく、制度の側が事業主に求めている考え方でもある、というところまでです。

厚生労働省の事業主向けの資料は、障害者のための職場づくりについて望まれることとして、採用試験を行う場合には応募者の希望を踏まえた点字や拡大文字の活用、手話通訳者等の派遣、試験時間の延長や休憩の付与等、応募者の能力を適切に評価できるような配慮を挙げています。伝える手段を本人の希望に合わせて、能力そのものを評価する——筆談やメールも、この考え方の延長にあります。国内の研究プロジェクトの解説も、就職してからも職場の上司に事情を話すだけで適切に配慮される場合も多いようだ、と書いています。ただし同じ解説は、「合理的」とされる客観的な基準は無く、現実には会社や上司の裁量の幅がかなり大きいとも書いています。上の営業の記録は、その裁量が良いほうに働いた例として読むのが正確です。

窓口と電話——「筆談賜ります」は吃音にも

職場の外にも、声が要る場面はあります。役所や病院や銀行の窓口、そして電話。吃音のある娘の母が、娘の学齢期の経過を書いた文章の最後で、社会への望みを2つ挙げています。

吃音のある16歳の娘の母(名義「蝶になりたい」/NPO法人日本吃音協会のメディア HAPPY FOX に掲載された体験談)

吃音は見えない障害です。想像もできない苦労があるでしょう。それゆえに誤解が付きまとうのだと思います。娘のようにギリギリで生きる吃音者がいることを知って欲しいと思います。吃音者が恐怖と戦う日常を理解して欲しいのです。

行政機関などの窓口に「筆談賜ります」という案内を目にすることがあります。これは吃音者にも対応していいのではないかと大きな声で言いたいです。総務省の電話リレーサービスについても吃音者も必要としてます。

娘は幼稚園の年少からことばの教室に通い、いじめを受けて不登校を経験し、いまは通信制高校に在籍して大学進学を目指している——母はその経過を書いたうえで、吃音は多種多様で感じ方も千差万別だが、共通して社会に望むことは理解と改善ではないか、と続けています。そして最後に挙げた2つが、窓口の「筆談賜ります」と、総務省の電話リレーサービスでした。どちらも、もともとは聴覚に障害のある人に向けて用意されている手段です。それが吃音の人には「向けられていない」ように見える——その隙間を、母は名指ししています。電話リレーサービスのほうは、公的な解説がすでに、吃音のある人が使える公共のサービスとして挙げています。

出典: 吃音のある娘の母の体験談(HAPPY FOX・NPO法人日本吃音協会)(台帳: V0081)

発達障害ナビポータルの解説は、吃音のある人は電話が苦手だとしたうえで、2021年から総務省が主体となり公共インフラの一つとなった「電話リレーサービス」を吃音のある人が使うことができ、困り感の軽減につながっていると書いています。筆談は対面でしか使えませんが、電話については、制度として用意された代わりの手段がある、ということです。仕組みの詳細や申し込み方は、この記事の資料には含まれていません。総務省の案内で確かめてください。

「特定の場面で困る」ことは、国の研究班の調査でも確かめられています。厚生労働科学研究の研究班は吃音のある人180名分のデータを収集し、解析の結果、吃音者は特定の場面で困り感が増加することが分かったとして、困難度を検出する問診票を幼児・学童期・青年期以降のライフステージごとに作り、信頼性と妥当性を検証しています。この研究班は目的の一つに、簡便なスクリーニングツールの作成とあわせて音声不要のコミュニケーション・ツール(タブレット型)の開発を掲げていました。「声を使わずに伝える道具」は、当事者の工夫であるだけでなく、国の研究班が開発の対象に置いたものでもあります。同じ報告は、こうした症状が顕在化しにくい状態は重症度や困難感が過小評価されやすい傾向にあった、とも述べています。窓口で紙を出すことが「大げさ」に見えるとしたら、その見え方のほうが、過小評価の一部かもしれません。お店のレジや注文の場面については、別の記事で扱う予定です。

「頼るほど、話さなくなるのでは」という不安に、研究は何を言えるか

筆談を使う人の多くが抱える不安は、道具そのものより「これに頼ると、話す機会を自分で減らしていくのでは」というものです。最初の当事者が「世界が狭くなる」と書いていたのも、そこでした。研究がこの不安に直接答えたものは手元にありませんが、周辺のことは分かっています。

まず、声を避ける工夫は、筆談を使わなくても起きています。話し手の側から吃音を捉え直した総説は、聞き手から見えにくい「隠れた」反応——特定の音・語・場面を避ける、どもりそうだと思ったときに語を言い換える——を挙げ、吃音のある大人500人以上への調査で約半数が少なくともときどきこうした隠れた行動をとっており、10〜20%は「よく/いつも」とっていると紹介しています。国内の解説も、言いにくいことばを別のことばに置き換えて話す、言いにくいことばがある時は話さないようにする、といった当事者の実感を、発話場面の回避として並べています。脳研究の総説は、音や語を避ける・言い換える・つなぎ語を入れるといった隠す方略は人と場面で異なり、症状の見え方も性格・社会的文脈・伝えたい目的・感情状態で変わると述べています。つまり「話さなくなる」は筆談が生むものではなく、筆談の有無にかかわらず、吃音のある人の約半数がすでに使っている型の一つです。

次に、書く手段は医学の側が「不利益を補う手立て」として挙げているものです。ドイツの吃音の診療ガイドライン(医師や専門職が診療の拠り所にする指針)は、学校や職場でのストレスは不利益が補われるようにすることでも防げるとして、その例に口頭試験で追加の時間を認めたり、コンピュータの使用を認めたりして機会の平等を確保することを挙げています。ドイツの制度を前提にした記述なので、日本の運用をここから導くことはできません。それでも、「書いて答える」が治療の指針の中に、逃げではなく機会の平等の手立てとして書かれていることは、押さえておいてよい事実です。

声を使わない手立てが2つの資料に書かれている例を並べた概念図。数値はありません。1 ドイツ語圏の吃音の診療ガイドライン(2017年)は、学校や職場でのストレスは不利益が補われるようにすることでも防げるとして、その例に「口頭試験で追加の時間を認める」「コンピュータの使用を認める」を挙げ、機会の平等を確保することだとしている。2 国内の公的な解説(2025年)は、吃音のある人は電話が苦手だが、2021年から総務省が主体となり公共インフラの一つとなった「電話リレーサービス」を吃音のある人が使うことができ、困り感の軽減につながっているとしている。1はドイツの制度を前提にした記述で、日本の運用をここから導くことはできない。電話リレーサービスの仕組みや申し込み方はどちらの資料にも書かれていない
図2: 声を使わない手立ては、指針と制度の側にも書かれている。出典: Neumann et al. (2017) Dtsch Arztebl Int./ 発達障害ナビポータル「小児期発症流暢症(吃音)」

そして、臨床の側も、流暢に話すことだけを扱っているわけではありません。同じ総説は、治療が焦点を当てるべきものとして、話しているときに固まる・コントロールを失う感覚に本人がどう反応するか、周囲の環境、生活上の制約を挙げ、周囲からの反応に対処する手立ての例として、周囲に吃音について知ってもらうこと、自己権利擁護、自分から吃音を伝えることを並べています。先に見た「話すときの目標」の調査で、「言いたいことを言う」側の人のほうが回避も恥も少なかったことを思い出すと、問いの立て方が変わります。筆談を使うか使わないかより、その筆談で何を届けようとしているか——研究が分けているのは、そこです。

相談先——上司や同僚・言語聴覚士・自助団体

職場で筆談やメールを認めてもらいたいときの最初の相談先は、上司や同僚です。日本吃音・流暢性障害学会の解説は、社会人の場合、就労環境はさまざまだが、吃音について上司や同僚に相談することによって、職場の配置や電話業務などで配慮を得られることがあると書いています。大学生は発表などで配慮を求めたり、負担が大きい場合には学生相談室でカウンセラーに相談したりすることが有効だとされています。国内の研究プロジェクトの解説によれば、合理的配慮に会社の負担が必要になる場合には医師の診断書を求められることがある一方、吃音がある成人の多くは手帳がなくても一般就労しており、吃音があると一律に手帳の申請をする必要はありません。

症状そのものの相談先は、言語聴覚士(ことばの専門職)のいる医療機関です。本人が治療を希望する場合は言語聴覚士による発話訓練という選択肢があり、発話訓練だけで症状が改善しない場合や吃音への不安が強い場合は、カウンセリングや心理療法が役立つこともあるとされています。吃音の自助団体に参加してほかの吃音のある人と出会うことが、吃音を否定的に捉えることが減るといった心理的な変化のきっかけになることもあります。この記事で引いた愛媛言友会の寄稿も、そうした自助団体の一つの記録です。仕事そのものの選び方は吃音と仕事の記事に、声が出ない瞬間に体で何が起きているかは声が出ない瞬間の記事にまとめています。

筆談を使うときに陥りやすい3つの落とし穴

落とし穴1 − 「筆談でお願いします」だけを頼む

配慮を受けるには、吃音を開示したうえで、どういう配慮を希望するのかを具体的に示して相談・交渉する必要があるとされています。「筆談で」だけでは、相手はどの場面で・何を・どう変えればいいのか分かりません。事実(吃音がある)、何が起きるか(電話の第一声が出ない・会議で一言が出ない)、代わりの手段(チャットで先に送る・メールで報告する・紙に書いて渡す)の3つを、当事者の「声より時間がかかることがあります。文章なら早いです」のように並べます。研究の側も、自分に必要なことを相手に知らせる自己権利擁護の形は人によって違い、電話ではなくビデオ会議で話すことを頼む例まで含めています。

落とし穴2 − 「すみません」から入る

謝る形の伝え方より、謝らない形のほうが好意的に受け止められた研究が13件中12件でした。営業の記録のように謝る形でも受け止めてもらえた例はありますが、それは相手の裁量が良いほうに働いた例です。「ご迷惑をおかけしますが」から始めなくてよく、事実として置くほうが、研究上は受け取られやすい言い方です。

落とし穴3 − 筆談が使える場面と使えない場面を分けずに、声の場面を全部避ける

現場の合図や掛け声のように、声そのものが段取りや安全に直結する場面では、紙もメールも代わりになりません。合理的配慮も、雇用主に過大な負担を生じさせない範囲とされています。一方で、話す目標を「どもらない」に置く傾向が強い人ほど、場面・音・語を避け、恥や恐れを経験しやすいという報告があります。書く手段を「どもらないための手段」にしてしまうと、避ける場面が増えていく方向に働きかねません。どの場面は書いて済み、どの場面は声が要るのか——自分の一日を場面ごとに書き出しておくと、頼むときの材料にも、言語聴覚士や自助団体に相談するときの手がかりにもなります。

まずは、どの場面で・どのくらい声が止まり・何なら代わりになるかを書き留めておくと、上司や相談先にそのまま渡せます。言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室に相談できる場合は、そちらが確実です。

よくある質問

吃音で筆談を使うのは「逃げ」や「甘え」ですか?

研究がそう決めたものはありません。吃音は、話し手が言いたいことを正確に分かっていて発声器官も動かせるのに、制御が断続的に失われる状態と定義されており、書く手段はその止まる段を通らずに済ませる手段です。ドイツの診療ガイドラインは、口頭試験でコンピュータの使用を認めることを機会の平等を確保する手立てとして挙げています。一方で、話す目標を「どもらない」に置く傾向が強い人ほど回避や恥を経験しやすいという報告もあり、筆談を何のために使うかは本人が決めることです。

職場で筆談やチャットを合理的配慮として頼めますか?

国内の研究プロジェクトの解説は、上司に口頭で話すのが難しい場合に業務手順を変更してメールで報告・連絡・相談することを了承してもらえるなら配慮されたことになる、と書いています。学会の解説も、障害者差別解消法により発表や電話応対の免除などの合理的配慮を求めることができるとしています。ただし「合理的」とは雇用主に過大な負担を生じさせない範囲で、業種や会社によって範囲が狭いことがあり、配慮を受けるには吃音を開示したうえで希望を具体的に示して相談する必要があります。

電話は筆談で代えられません。どうすればいいですか?

発達障害ナビポータルの解説は、2021年から総務省が主体となり公共インフラの一つとなった「電話リレーサービス」を吃音のある人が使うことができ、困り感の軽減につながっているとしています。職場では、電話業務の免除が合理的配慮の例として挙げられており、電話の代わりにショートメールやメールを使っている当事者の記録もあります。仕組みや申し込み方は総務省の案内で確かめてください。

筆談やチャットを頼むとき、どう言えばいいですか?

研究上は、謝るのではなく事実として伝える言い方のほうが好意的に受け止められています。実験で使われたのは「始める前にお伝えしておきます。私には吃音があります。音や語句を繰り返すことがありますが、分かりにくいところがあれば遠慮なく聞き返してください」にあたる一文でした。事実・何が起きるか・してほしいことの3つを並べ、3つ目を「文章なら早いです」「チャットで先に送ります」にすると、そのまま筆談の頼み方になります。

試験や面接で筆談は使えますか?

国内の研究プロジェクトの解説は、吃音がある学生への配慮の例として、面接試験等で口頭で答える必要がある場合に試験時間を延長する・筆談で答えることを挙げています。学会の解説も、試験等での面接時間の延長を合理的配慮の例に挙げ、医師の診断書や言語聴覚士の報告書が求められる場合があるとしています。実際にどの配慮が用意されているかは主催団体が定めるので、英検の場合は英検の配慮の記事を、面接での伝え方は面接のカミングアウトの記事を参考にしてください。

まとめ

  • 筆談・メールは、公的な性格の解説が合理的配慮の例として名指ししている手段。面接試験等での「筆談で答える」、職場での「メールで報連相」が挙げられている。法的な根拠は障害者差別解消法で、診断書や報告書が求められる場合がある。
  • ただし「合理的」は雇用主に過大な負担を生じさせない範囲。合図や掛け声のように声そのものが段取りに直結する場面では、書く手段は代わりにならない。
  • 電話には「電話リレーサービス」がある。2021年から総務省が主体となった公共インフラで、吃音のある人が使える。国の研究班も、特定の場面で困り感が増すことを確かめ、音声不要のコミュニケーション・ツールの開発を目的に置いていた。
  • 頼むときは謝らずに、事実・何が起きるか・代わりの手段の3つを並べる。「声より時間がかかることがあります。文章なら早いです」は、その形の実物。頼むこと自体は自己権利擁護として研究の側も挙げている。
  • 「頼るほど話さなくなるのでは」という不安に、研究は答えを出していない。分かっているのは、避ける工夫は筆談の有無にかかわらず約半数が使っていること、そして「どもらない」より「言いたいことを言う」を目標にする人のほうが回避も恥も少なかったこと。筆談で何を届けるかは、本人が決めることとして残る。

参考文献

  1. 発達性吃音(どもり)の研究プロジェクト「A04・A05-4 職場での合理的配慮について」(2020年)
  2. 日本吃音・流暢性障害学会 広報委員会「吃音(きつおん)について」(2023年10月1日)
  3. 発達障害ナビポータル(国立障害者リハビリテーションセンター・国立特別支援教育総合研究所)「小児期発症流暢症(吃音)」(2025年2月20日・執筆 菊池良和)
  4. 厚生労働省「事業主の方へ 〜従業員を雇う場合のルールと支援策〜」(障害者雇用対策基本方針・障害者のための職場づくりについて望まれること)
  5. 厚生労働科学研究成果データベース「吃音、トゥレット、場面緘黙の実態把握と支援のための調査研究」(研究代表者 中村和彦・弘前大学大学院医学研究科。吃音の分担研究は九州大学病院・北里大学。令和2年度報告書、2021年公開)
  6. 吃音ポータルサイト「吃音の問題あれこれ」(大人の吃音)
  7. Coalson, Rodriguez, Albaum, Allen & Byrd (2026) Self-disclosure of stuttering: A systematic review. J Fluency Disord.
  8. Byrd, Croft, Gkalitsiou & Hampton (2017) Clinical utility of self-disclosure for adults who stutter: Apologetic versus informative statements. J Fluency Disord.
  9. Tichenor, Herring & Yaruss (2022) Understanding the Speaker's Experience of Stuttering Can Improve Stuttering Therapy. Top Lang Disord.
  10. Neef & Chang (2024) Knowns and unknowns about the neurobiology of stuttering. PLoS Biol.
  11. Neumann et al. (2017) The Pathogenesis, Assessment and Treatment of Speech Fluency Disorders. Dtsch Arztebl Int.(ドイツ語圏の診療ガイドライン)

当事者の声の出典: V0242(note・葬儀社でナレーションを担当する当事者「言葉の待合室」のエッセイ)/ V0223(愛媛言友会「吃音当事者からのメッセージ」・Oさんの寄稿)/ V0424(note・フリーランスエンジニア「おおとろ」の週初エッセイ)/ V0485(note・元法人営業「かごさん」のブログ)/ V0081(NPO法人日本吃音協会のメディア HAPPY FOX・吃音のある娘の母の体験談)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-09-05 公開