アレクサンダーテクニークと吃音|効果の研究・力みは原因か・相談先

目次

「姿勢を整えれば、もっと楽に声が出るのではないか」「首や喉の力みが取れれば、言葉は出るのではないか」——アレクサンダー・テクニークのように、自分の身体の使い方を学ぶレッスンに目が向くとき、そこにあるのはたいてい、この見立てです。整体やマッサージのように受け身で施術を受けるのではなく、自分で気づいて変えていく方法だと説明されることが多いぶん、期待もしやすいのだと思います。

この記事は、その期待を否定するためのものではありません。まず結論を置き、姿勢・呼吸・力みに自分で手を入れようとした4人の当事者の記録と、それに対して研究が何を言えているのかを、一つずつ並べていきます。拠り所にしたのは、ドイツの17の専門学会がまとめた診療ガイドライン、就学前の子どもについて条件を決めて研究を集めまとめて評価したコクランの報告、成人について複数の研究の結果を統合して調べた解析、そしてニューヨーク大学の研究者による論文と、発達性吃音(どもり)の研究プロジェクトの治療解説です。アレクサンダー・テクニークが吃音を変えるかどうかを調べた研究は、この記事の手元の資料には一つもありません。だからこそ「効かない」と言い切る代わりに、レッスン料を払う前に何を確かめればよいかを、順序にして渡します。

ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる症状があるときは、言語聴覚士やことばの教室にご相談ください。

まず結論から

  • 吃音は、話す筋肉の弱さや麻痺で起きる構音障害(発音の障害)とは区別され、出そうとした音そのものは正しく作れているのに流れが途切れる症状だと説明されています。
  • ドイツの17の専門学会がまとめた診療ガイドラインは、呼吸の調整やリズムをつけた発話を「唯一の、あるいは主な柱」にする療法、催眠、そして分かる形の考え方を持たない吃音療法を、行うべきでないとしています。ただし、その判断を支える根拠は強くないとも書かれています。
  • 同じガイドラインは、青年・成人に効果のある治療に共通していた要素の一つとして、呼吸の調整も挙げています。呼吸を練習に含めることと、呼吸だけを柱にすることは、別のことです。
  • 大人の吃音に、薬を使わない介入を比べた試験——参加者をくじ引きのように振り分けて比べる形のもの——9件(276人)の結果を統合した解析では、話のなめらかさ・吃音の体験・生活の質のいずれについても、まとめた差は統計的に意味のあるものになりませんでした。
  • 大人の吃音を治す方法は現時点では無く、身につけた技法は本質的に補うためのもので、良くなった状態を保つには使い続ける必要があるとされています。

ただし、これは「アレクサンダー・テクニークは効かない」という意味ではありません。この手法が吃音に効くかどうかを調べた研究は、この記事が使える資料の中に一つも見当たらず、上のガイドラインもこの手法を名指しで挙げてはいません。ここで言えるのは、効くとも効かないとも言える材料が無い、というところまでです。

「姿勢が悪いから、声が出にくいのでは」

身体の使い方に目が向く入口は、たいてい姿勢です。猫背だから息が浅い、首が固いから喉が締まる——そう考えて、自分で毎朝続けはじめた人がいます。

当事者本人の声(ハンドルネーム「だけ」さん・自分の声の出し方を記録している個人ブログ note の連載第10回)

私は姿勢が悪くて、これも声の出しにくさに繋がっているんですよね

その改善のために、毎朝肩甲骨辺りを中心に、ストレッチをやっています

また、舌がとても固くなってるので、舌トレも毎日やっています

本人は続けて、ストレッチも舌トレも色々やっていること、ストップウォッチを回して種目を30秒ごとに変えながら毎朝合計30分やっていることを書いています。連載を始める少し前から続けているので2〜3か月になる、と本人は書いています。ここに書かれているのは、誰かに施術してもらった記録ではなく、自分の身体に自分で手を入れている記録です。そして冒頭の一行——姿勢の悪さが声の出しにくさにつながっている——は、本人が自分の身体を見て立てた見立てです。この見立てが正しいかどうかを直接調べた研究は、この記事の手元にはありません。ただ、吃音がどういう症状として定義されているかは、はっきり書かれています。

出典: 毎朝の舌トレの効果が、少しずつ出てきたような気がしています(^_^)v[ボイトレで吃音改善を目指す⑩](note)(台帳: V0476)

吃音の中核にある症状——語の一部の繰り返し(連発)・音の引き伸ばし(伸発)・声が出ないまま詰まる状態(難発)——は、話す筋肉の弱さや麻痺で起きる構音障害とは区別され、音がゆがんだり入れ替わったりする発語失行とも、出そうとした音そのものは正しく作れている点で区別される、と総説は述べています。神経科学の総説も、吃音を「話し手は言いたいことを正確に分かっていて、声を出す器官を協調させて動かすこともできるのに、制御が断続的に失われる状態」として定義しています。喉や舌や背中が「動かない」から詰まるのではない、というのが出発点です。

もう一つ、身体の側から吃音を説明しようとした仮説の行方も書いておきます。吃音は、中枢神経系が起こす意図しない筋肉の収縮(ジストニア)の、ことばを作る動きに限った一種ではないか——この仮説は、動きの指令を出す脳の領域(運動野)の興奮性を調べた研究では支持されませんでした。筋肉が勝手に縮んでしまう病気の仲間として吃音を捉える見方は、確かめようとして確かめられなかった見方だ、ということです。

「呼吸を変えれば」——習うほど崩れた人の話

姿勢の次に出てくるのが呼吸です。腹式呼吸、息の吐き方、丹田。身体の使い方を教える場では、ほぼ必ず呼吸が出てきます。合唱で発声を学んだ人が、それを話し言葉に応用しようとしたときのことを、当事者どうしの座談会で語っています。

当事者の声(長尾さん/自助団体の会報に載った4人の座談会の記録。司会は同会の会長)

はじめに声を出すレッスンをやったとき、全然声が出ませんでした。なぜだろうといろいろ考えてみました。普通にしているときは腹式呼吸ができているのに、いざ声を出すときになるとできない。

腹式呼吸と声を出すことが連結していないんです。腹式呼吸はするけれども、歌を歌う段になったら何もしていない(笑)。

高校までは吃音をある程度コントロールしていた記憶があります。それなりに詰まらずにしゃべれていました。ところが、しゃべりに応用したいと思って腹式呼吸を習ったのに、腹式呼吸をやればやるほどコントロールできなくなったんです。

中学で芝居を経験し、高校の合唱部で発声を教わって、それを普段の話し声にも応用できないかと考えた——そこからこの人の話は始まります。合唱部では腹式呼吸をずいぶん指導されたが、原理は教えてもらえなかったとも語られています。同じ座談会で司会役の会長は、吃音矯正では腹式呼吸がとても強調されると述べ、自分も試したが日常的には身につかなかったと続けます。一人の経験であって、呼吸の練習一般の効果を語るものではありません。ただ、「呼吸をどう扱うか」については、診療ガイドラインがはっきりした線を引いています。

出典: いのちが激しく動く〜竹内敏晴さんのレッスンを受けて(日本吃音臨床研究会「スタタリング・ナウ」の再掲)(台帳: V0488)

線は二本あります。一本目は禁止の側です。ガイドラインは、リズムをつけた発話と呼吸の調整を、唯一のあるいは主たる治療の柱にすること、催眠、そして分かる形の考え方を持たない吃音療法について、行うべきでないとしています。ただし、この判断を支える根拠は強いものではない、とも同時に書かれています。さらに、避けるべき進め方として六つが挙げられ、そのうちの一つが「呼吸の変更や弛緩法だけに依拠するもの」です。

二本目は、その裏返しです。同じガイドラインは、条件を決めて研究を集めまとめた報告から取り出した「効果のある治療に共通していた要素」を並べており、青年・成人については、まずゆっくりした発話を集中的に練習する、集団での練習を含む、日常の場面へ持ち出す練習をする、段階を追った自己評価と自己管理を含む、自然に聞こえる発話を目指す、続けるための計画を含む、という要素に加えて、引き伸ばした発話・やわらかい声の出だし・リズムをつけた発話・呼吸の調整・話すことへの態度の変化を練習することを挙げています。呼吸の調整は、ここにも顔を出します。

ドイツの17の専門学会がまとめた診療ガイドラインの中で、「呼吸」が二つのリストの両方に出てくることを示した図。行うべきでないとされた側(弱い否定的な根拠)には、リズムをつけた発話と呼吸の調整を唯一または主たる治療の柱にすること、呼吸の変更や弛緩法だけに依拠した進め方が挙げられている。効果があった治療に共通していた要素の側には、その要素の一つとして呼吸の調整が挙げられており、引き伸ばした発話・やわらかい声の出だし・リズムをつけた発話・話すことへの態度の変化と並べて、練習する内容の一つとされている。いずれも青年・成人についての記述。否定されているのは呼吸そのものではなく、それだけを柱にする組み立て方のほう
図1: 同じガイドラインの中で、「呼吸」は行うべきでない側にも、効果があった治療に共通していた要素の側にも出てくる。出典: Neumann et al. (2017) Dtsch Arztebl Int.

つまり、否定されているのは呼吸そのものではなく、呼吸だけを柱にして、他のものを持たない組み立て方のほうです。同じことは「ゆっくり話す」にも言えます。ゆっくり話すよう言われた人の多くは、語そのものを伸ばすのではなく語と語の間の休止を長くしてしまうため、多くの訓練プログラムでは、休止ではなく音そのものを引き伸ばすやり方を専門家が教える、と報告されています。同じ言葉でも、中身がどう決まっているかで別物になります。標準的な訓練で何をするのかは吃音治療とトレーニングに、話し方の工夫そのものは吃音症の話し方にまとめています。

「身体の緊張が原因ではないか」——手法を学んでいる人の見立て

姿勢と呼吸をたどっていくと、多くの人が同じ考えに行き着きます。身体が固まっているから声が出ないのだ、という考えです。アレクサンダー・テクニークを長く学んでいる当事者が、自分の見立てを自分の言葉で書いています。

当事者本人の声(30代前半・会計税務コンサルタント/自助団体が集めた就労体験記の1本。以下は本人の見解として書かれた部分で、研究の合意ではありません)

バルサルバ効果が吃音の原因だと主張している研究者もいますし、私もその説が正しいのではないかと思っています。(バルサルバ効果とは、息む(息を詰める)動作で呼吸が止まり、筋緊張が起こることで普段より筋力が発揮できる生理的な現象です。重いものを持つときなどに起こる身体の作用です。)

この人は同じ文章の中で、七年ほど前からアレクサンダー・テクニークを習っていること、それを「心身の緊張を意識的に和らげるメソッド」だと説明していること、そして吃音には気持ちの面の緊張もあるが身体(筋肉)の緊張が大きな要因の一つだと考えていることを書いています。ここで見ておきたいのは、手法が効いたかどうかではありません。身体の緊張を要因と見る見立ては、外から売り込まれるだけでなく、当事者自身の内側からも立ち上がるということです。この見立てを正面から検証した研究は、この記事の手元の資料にはありません。手元にあるのは、緊張と吃音の関係が単純ではないことを示す報告のほうです。

出典: 就労体験記 No.1〜20(うぃーすたプロジェクト)(台帳: V0099)

気持ちの高ぶりは、吃音をいつも悪くするわけではありません。総説は、高ぶりがかえって吃音を良くする場合もあると述べ、8歳で吃音が始まったアメリカの俳優ブルース・ウィリスが高校で演劇部に入ったところ、観客の前では吃音が消えたという逸話を紹介しています。逸話であって、克服の方法として一般化できるものではありません。それでも、「緊張=悪化」という一本の線では説明がつかないことは分かります。

症状そのものも揺れます。吃音の重さは同じ人の中でも日・週・月の単位で変動し、良い時期と悪化する時期が数週間から数か月続くこと、見え方や聞こえ方は性格・社会的な場面・伝えたい目的・感情の状態によっても変わることが、総説に整理されています。さらに、条件をひとつ変えるだけで消えることもあります。発話のモデル研究で比較対象になった19歳の男性は、普通の速さでは決まった語の語頭でどもったのに、速さを半分にした条件では一度もどもりませんでした。身体を変えなくても、条件が変われば出方は変わる——これが、レッスンの前後を自分で比べるときに、いちばん邪魔になる性質です。

「自分の発声を、いつも見張っていること」への違和感

身体の使い方を学ぶレッスンは、自分の身体に注意を向け続けることを求めます。それは訓練の場でも同じです。そのこと自体に引っかかりを覚えた、と書いている人がいます。

当事者本人の声(64歳・団体職員/吃音が発達障害に分類されることについて9人が寄せた投稿集の1本。9人とも分類と障害者手帳に否定的な立場で編まれたもので、当事者一般の意見ではありません)

吃音治療の専門家のところに行くと、多くの場合、発声法を指導される。「ゆっくり話せ」とか「話し始めをやさしく」とか言われるし、どもっているときの自分の発声を常にモニターすることを求められる。夜尿症やチックや場面絨黙の子どもが専門家から受けるだろう扱いとは大違いだ。

夜尿症の子どもに「寝ているときに、おしっこが出そうかどうか、しっかり意識しているんだよ」という専門家は、多分いないだろう。チックの子どもに、顔の筋肉がどんな具合か、いつもモニターするよう指導する専門家は、多分いないだろう。

この人が並べているのは、吃音と同じく発達障害者支援法の対象に挙がっている症状です。夜尿症の子に、寝ている間じゅう尿意を意識していなさいと言う専門家はいないだろう。チックの子に、顔の筋肉の具合をいつも見ていなさいと言う専門家もいないだろう。それなのに吃音では、自分の発声を常に見張ることが求められる——他の症状との比較はこの人の見立てですが、「自分の身体を意識し続けること」が本人に何を強いるのかという問いは、身体の使い方を学ぶレッスンにもそのまま向きます。公的な解説も、話す行為そのものに注意が向くことが、なめらかに話せなくなる主な原因だという考え方を示しています。

出典: 私はこう生きる―吃音と発達障害、私の考え(日本吃音臨床研究会「スタタリング・ナウ」の再掲)(台帳: V0166)

認知行動療法を用いた治療では、話す行為に注目することが、なめらかに話せなくなる主な原因だと理解してもらったうえで、どもるかどうかにこだわらず、楽なやりとりを目標にします。そのほうが話す行為自体から注意が外れるので、かえって症状も改善しやすい、と解説は述べています。注意を身体に向け続けるやり方と、注意を身体から外していくやり方は、方向が逆です。

目標の立て方そのものを問い直す論文もあります。吃音の分野では「流暢さ(なめらかに話せること)」が、流暢に聞こえる話し方という意味と、自然に出てくる・力が要らない・自分の話し方を気にせずにいられるという経験の意味との、二つで使われていて、この二つは同じものではありません。流暢さを狙うとされる治療が実際に訓練しているのは、表に出る吃音を減らすことや、方略に頼った話し方であって、流暢さそのものではないとも述べられています。そのうえでこの論文は、もがきを減らす・回避を減らす・自発性を増やす・方略を柔軟に使う・伝わる場に参加する、という直接に狙える過程を目標に据える枠組みを示し、流暢さは治療の副産物として起こりうるものだと位置づけています。

大人の技法については、率直な限界も書かれています。大人の吃音を治す方法は現時点では無く、あらゆる技法は本質的に補うためのもので、良くなった状態を保つには使い続けなければならない。だからどんな治療でも、長期の方針を組み込み、本人が自分自身の指導者になれるように教え、長く続く相談や追跡の機会を用意することが欠かせない、というのが総説の結びです。身につけたものを使い続ける必要があるという点は、レッスンに通うかどうかを考えるときにも、そのまま効いてきます。

何がどこまで確かめられているのか

「効くと確かめられた方法なら、話は別なのでは」と思うかもしれません。そこで、確かめる側がどこまで進んでいるのかを並べておきます。物差しを持たないまま比べると、どの方法も同じように見えてしまうからです。

就学前の子どもについては、条件を決めて研究を集め、まとめて評価したコクランの報告があります。集まったのは、参加者をくじ引きのように振り分けて比べた試験4件で、2歳から6歳までの151人が参加し、いずれもリッカム・プログラム(保護者と子どもが言語聴覚士のもとに通う方法)と、順番待ちの群とを比べたものでした。

大人については、薬を使わない介入を、同じようにくじ引きのように振り分けて比べた試験だけを集めた報告があります。集まったのは9件・276人で、介入は、話し方を組み立て直すもの、それに心理的な介入を足したもの、刺激を用いる手法、不安を標的にしたものの四つに分類されました。統合した結果は、話のなめらかさ・吃音の全体的な体験・生活の質のいずれについても、介入した群と比べた群のあいだで意味のある差になりませんでした研究ごとのばらつきも大きく、この論文は、成人向けの治療も結果の測り方もばらばらだ、と結論づけています。これは「効かないと確かめられた」ではなく、「そろえて比べられるだけの研究がまだ足りない」という向きの結果です

就学前の子どもと成人について、参加者をくじ引きのように振り分けて比べた試験だけを集めた二つの報告を並べた図。就学前(2〜6歳)のコクランの報告では、集まった試験は4件・151人で、比べた相手は順番待ちの群だけ、4件ともリッカム・プログラムを調べたもの。結果は、どもった音節の割合が順番待ちの群より低かったというもので、確実性は「非常に低い」と評価され、4件中3件は偏りの危険が高いと判定されている。青年・成人のメタ分析の報告では、集まった試験は9件・276人で、介入は4つに分類された(話し方の組み立て直し、それに心理的な介入を足したもの、刺激を用いる手法、不安を標的にしたもの)。結果は、話のなめらかさ・吃音の全体的な体験・生活の質のいずれについても、統合した差が統計的に意味のあるものにならなかったというもの。二つの報告は集めた年齢も介入も違うので、件数や人数を互いに比べることはできない
図2: 年齢によって、集まっている試験も、比べた相手も、出ている結果も違う。出典: Sjøstrand et al. (2021) Cochrane Database Syst Rev. / Connery et al. (2020) J Evid Based Med.

診療ガイドラインの整理は、年齢で分かれます。就学前の子どもにはリッカム療法に最も良い根拠があり、周囲の関わり方を通して働きかける方法にも強い根拠があるとされます。一方、6歳から12歳の子どもについては、どの治療にも確かな根拠が無いと明記されています。青年と成人には、話し方を組み立て直す方法に、効果の大きい良好な根拠があるとされています。

並べてみると分かるのは、標準の側でも根拠の厚みは一様ではない、ということです。年齢によっては「確かな根拠が無い」と書かれている。そのうえで、アレクサンダー・テクニークのように身体の使い方を学ぶレッスンについては、この土俵に上がった研究自体が、この記事の手元にはありません。「標準なら効く、民間なら効かない」という単純な対比にはならない——ただし、根拠がどれだけあるかを確かめられるかどうかには、はっきりした差があります。

レッスン料を払う前に確かめること、そして相談先

ここまでを、お金と時間を使う前に確かめる順序に組み直します。順番に意味があります。

  1. 「良くなる」の中身を、自分の言葉で決める。どもる回数を減らしたいのか、楽に話したいのか、避けている場面に出られるようになりたいのか。「流暢さ」という一語は二つの意味で使われていて、それらは同じものではありません。
  2. 診療ガイドラインが「避けるべき」と書いた進め方を、そのまま確認の項目にする。挙げられているのは六つです——日常生活への持ち出しと、いろいろな場面への広げ方の手立てを含まない/ぶり返したときの対処を含まない/短期の成功はあるが長期に観察した研究が無い/呼吸の変更や弛緩法だけに依拠している/吃音の原因やぶり返しの責任を本人や家族に負わせる/治ることを約束し、治療の目標と方法を分かる形で説明しない案内文と体験レッスンの説明を、この六つに当てて読んでみてください。
  3. 標準の治療で何をするのかを、先に知る。発達性吃音の研究プロジェクトの治療解説は、幼児期は意識的に発話を修正できないため、まず周囲の接し方や場面のほうを変えることから始めるとし、周囲の者がゆったりと楽に話し、吃るかどうかではなく内容を聞くように努める、という具体策を挙げています。悪化が見られる、吃音が始まってから1年半〜2年以上経っている、就学の1年前までに治っていない、といった場合が、訓練を検討する材料として挙げられています。診療ガイドラインは、3歳から6歳の子どもは発症から6〜12か月のあいだ経過を見て、その期間を過ぎても続くなら治療を始めるとし、持続の危険因子がいくつもある場合、制御の喪失や努力の増大を伴う長い症状がある場合、症状が本人や親にとって負担になり避ける行動が出ている場合には、直ちに始めるべきだとしています。同じガイドラインは、完全な回復は保証できないとも明記しています。
  4. 制度の入口を知っておく。障害者差別解消法などにより、雇用主は吃音のある人から求められれば合理的配慮をする義務があるとされ、そのためには吃音の診断書が必要とされることが多い、と解説は述べています。訓練によっても家族以外とは音声で意思を伝えられないほど重い場合は、身体障害者手帳の対象になるとも書かれています。

相談先は、言語聴覚士、子どもなら「ことばの教室」、大人なら吃音を扱う医療機関の外来です。受け身で施術を受ける形の方法——整体・マッサージ・歯科矯正——については吃音は整体で変わる?に、歌と音楽の話は吃音と歌にまとめました。

この順序は、この記事が資料をもとに組み立てた提案であって、特定の資料が「確認の手順」として定めているものではありません。また、ここで挙げた診療ガイドラインの記述は、特定の手法を名指しで否定したものではありません。

「身体を整えれば」で陥りがちな3つの落とし穴

落とし穴1 − レッスンの直後に楽になったことを、効いた証拠として読む

吃音の重さは、同じ人の中でも日・週・月の単位で揺れ、良い時期と悪化する時期が数週間から数か月続きます。見え方や聞こえ方も、場面や感情の状態で変わります。しかも、話す速さを半分にするだけでどもらなくなった例が報告されているように、条件を一つ変えるだけで出方は変わります。「受けた直後に楽になった」は、吃音の性質としてそもそも起こりうることなので、それだけでは判断できません。確かめるなら、その日の一回ではなく、期間と場面を決めて記録したものを見比べてください。

落とし穴2 − 「緊張さえ取れれば話せる」と考える

気持ちの高ぶりが吃音をいつも悪くするとは限らず、かえって良くなる場合もあると総説は述べています。筋肉が意図せず縮む病気(ジストニア)の一種ではないかという仮説も、運動野の興奮性を調べた研究では支持されませんでした。緊張をほぐすこと自体は気持ちよく、悪いことではありません。ただ、それを「原因を取り除く作業」と考えると、期待と結果がずれます。

落とし穴3 − 「治る」と書かれた案内を、そのまま受け取る

診療ガイドラインは、避けるべき進め方の一つとして、治ることを約束し、治療の目標と方法を分かる形で説明しないものを挙げています。大人については、治す方法は現時点では無く、技法は補うためのもので使い続ける必要があるとも書かれています。「治る」と書かれていたら、何をどう測って治ったと言っているのかを、先に聞いてみてください。まずは気づいたこと(どんな場面で出やすいか、どのくらい続いているか)を書き留めておき、言語聴覚士やことばの教室に相談できる場合はそちらが確実です。

よくある質問

アレクサンダーテクニークで吃音は治りますか?

この手法が吃音に効くかどうかを調べた研究は、この記事の手元の資料には一つもありません。診療ガイドラインもこの手法を名指しで挙げてはいないので、「否定されている」とも書けません。大人については、治す方法は現時点では無く、身につけた技法は補うためのもので使い続ける必要があるとされています。「効かない」とは言い切れませんが、「効く」と言える研究も見当たらない、というのが現在地です。

姿勢や呼吸を整えることに、意味はないのですか?

そうは書かれていません。診療ガイドラインは、効果のある治療に共通していた要素の一つとして、呼吸の調整を挙げています。否定されているのは、呼吸の調整やリズムをつけた発話を「唯一の、あるいは主な柱」にする組み立て方のほうで、しかもその判断を支える根拠は強くないとも書かれています。呼吸を含むことと、呼吸だけに頼ることは別、という線の引き方です。

レッスンのあと、話しやすくなった気がします。効いているのでは?

吃音の重さは同じ人の中でも日・週・月の単位で変動し、場面や感情の状態によっても見え方が変わるとされています。話す速さを半分にしただけでどもらなかったという報告もあり、条件が変わるだけで出方は変わります。「その場で楽になった」は吃音の性質として起こりうるので、一回の実感だけでは効いたかどうかを判断できません。

力みを抜く練習は、言語聴覚士の訓練にもあるのですか?

あります。大人向けの集中プログラムの中核として、音節を引き伸ばすこと、声の出し始めをやわらかくすること、調音で押しつける力を減らすことの三つが挙げられています。声を出し始めるときに強すぎる力と筋肉のこわばりが入るとどもる瞬間が起きやすくなるため、ゆるやかに声帯を動かし始めるやり方を練習する、という説明です。ただし同じ総説は、これらが治すものではなく補うもので、使い続ける必要があるとも書いています。

結局、どこに相談すればいいですか?

言語聴覚士、子どもなら「ことばの教室」、大人なら吃音を扱う医療機関の外来です。幼児期はまず周囲の接し方や場面のほうを変えることから始め、悪化が見られる、始まってから1年半〜2年以上経っている、就学の1年前までに治っていないといった場合に訓練を検討するとされています。職場での配慮(合理的配慮)を求めるには吃音の診断書が必要とされることが多いとも書かれています。

まとめ

  • 吃音は、話す筋肉の弱さや麻痺で起きる構音障害とは区別され、音そのものは作れているのに流れが途切れる症状。言いたいことは分かっていて器官も動かせるのに、制御が断続的に失われる状態と定義されている。
  • 診療ガイドラインは、呼吸の調整やリズムをつけた発話を唯一・主たる柱にする療法を行うべきでないとする一方、効果のある治療に共通する要素の一つにも呼吸の調整を挙げている。呼吸を含むことと、呼吸だけに頼ることは別。
  • 緊張は吃音をいつも悪くするわけではなく、高ぶりでかえって良くなる例も報告されている。筋肉が意図せず縮む病気の一種だという仮説も支持されなかった。
  • 症状は日・週・月で揺れ、話す速さを変えるだけで出方が変わる。「直後に楽になった」は効いた証拠にならない。
  • 大人の非薬物介入を比べた9件276人の統合では差が出ず、6〜12歳にはどの治療にも確かな根拠が無いとされる。標準の側でも根拠の厚みは一様ではない。
  • 払う前に「良くなる」の中身を決め、ガイドラインが避けるべきとした六つの進め方に当てて案内文を読み、標準の治療で何をするかを先に知る。相談先は言語聴覚士・ことばの教室・吃音を扱う外来。

参考文献

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  10. 発達性吃音(どもり)の研究プロジェクト「治療の解説」(kitsuon-kenkyu.umin.jp)

当事者の声の出典: V0476(note・「だけ」さんの連載「ボイトレで吃音改善を目指す」)/ V0488(日本吃音臨床研究会「スタタリング・ナウ」の座談会の再掲)/ V0099(うぃーすたプロジェクト「就労体験記 No.1〜20」)/ V0166(日本吃音臨床研究会「スタタリング・ナウ」の投稿集)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-09-11 公開