吃音で仕事をクビになる?|退職を迫られた記録・配慮の境目

目次

電話に出られない。朝礼で言葉が出ない。上司の顔つきが変わっていく——「このままだと、いつか辞めさせられるのではないか」。その不安は、まだ何も起きていない段階から心の奥に居座り、仕事中ずっと消えてくれません。

この記事は、実際に「クビにできないか」と告げられた人の記録から始めて、電話を外してもらうことと仕事から外されることの境目、職場で打ち明けるかどうかの判断までを順にたどります。数字は厚生労働省の資料と、筑波大学の研究チームによる日本の当事者180人の調査、アイオワ大学などの大規模な追跡調査から引き、どこまで言えてどこから言えないのかを、原典の但し書きごと載せます。

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吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療、法律上の判断に代わるものではありません。解雇や退職をめぐる具体的な相談は、お住まいの地域の労働局・労働基準監督署などの公的な窓口へ、体調や話しにくさの相談は言語聴覚士や医療機関へお願いします。

まず結論から

  • 吃音のある人が働くうえで不利を受けていることは、米国で1万3千人余りを14年間追いかけた調査で数字として確かめられています。出身校や併存する特性などを差し引いたあとでも、年収の差は男性で約7,600ドル、女性で約7,200ドル残りました。
  • ただしその論文自身が、この結果を「吃音のせいで収入が下がる」という因果として読まないよう、はっきり歯止めを置いています。
  • 模擬の面接映像を使った実験では、面接の冒頭で「自分には吃音がある」と先に伝えた条件のとき、吃音のある候補者の評価は吃音のない候補者と変わりませんでした。伝えなかった条件では、はっきり低く評価されました。
  • 一方で日本の当事者180人の調査では、打ち明ける度合いは米国の調査より低いという結果が出ています。
  • 職場に調整を求めても診断書だけでは通らない場合があり、手帳があれば障害者雇用促進法によって雇う側に配慮の義務が生じる、と説明されています。

ただし、ここに挙げた研究はそれぞれ別々の国の、別々の集団を測ったもので、あなたの職場でこれから何が起きるかを言い当てるものではありません。そして「その解雇は認められるのか」という法律上の判断は、この記事が扱える範囲の外にあります——労働法そのものの資料を持たないためで、判断が要るときは必ず公的な窓口で確かめてください。

「クビにできないか、本社と相談する」と言われた人がいる

吃音と仕事の話は、たいてい「工夫」や「向いている職種」から始まります。けれど、いま不安を抱えている人がいちばん知りたいのは、もっと手前のことです。実際に、どもることを理由に辞めさせられた人はいるのか。いるとしたら、どんな言葉で、どんな順番でそこに追い込まれるのか。

新卒で入った会社で電話番を任され、社名が名乗れなかった人が、そのときに言われた言葉を書き残しています。

当事者本人(note・名義「K・A」。新卒で入った会社で電話番を担当)

すると担当営業マンから

「電話の対応が悪いから、○社がうちと取引を止めると言っている。俺は君より取引先○社のほうが大事だから」

「労働基準監督署の手前、クビにはできないけど、君、この仕事向いてると思ってる?」

「面接で吃りのことを言わなかったから『面接で虚偽を言った』という理由でクビにできないか、本社と相談する」

など、遠回しに『辞めてほしい』とパワハラをたくさん言われました。

この人は、電話で会社名が出てこず、相手に「電波の調子がおかしいのかな?」と切られてしまうことが何度かあったと書いています。取引先から苦情が上司に入り、やがて営業担当との面談になりました。注目したいのは、言葉の並び順です。最初に来たのは取引先の重さで、次が「向いていると思ってるのか」という問いかけ、最後が解雇の可否の検討でした。結局この人は会社を辞めています。研究の側にも、職場の理解の乏しさや同僚の無自覚な偏見が、本人の中の思い込みを強めていくという整理があります。

出典: 【就職して吃音で困ったこと】(note)(台帳: V0200)

この記録を読むと、言われた言葉が本人の中に残り続けることが分かります。そこで起きていることを、研究は「内面化されたスティグマ」と呼んでいます。世の中の否定的な見方や決めつけを、本人が自分のものとして取り込んでしまう過程のことです。それは職場では、話す役割やまとめ役を避ける、会議で発言したがらない、低く評価されるのが怖くて昇進を断る、といった形で現れることがあると説明されています。そして周りの吃音への理解が乏しいこと、話しやすい環境への配慮が無いこと、同僚の気づかない偏見が、その思い込みをさらに強めうるとされています。

では、制度の側には何があるのでしょうか。吃音の研究プロジェクトの解説は、働くことが難しい、職場が調整に応じてくれないといった状況で、診断書だけでは——つまり障害者差別解消法の枠だけでは——問題が解消できないときに、手帳が役に立つ場合があるとしています。そして手帳があると、障害者雇用促進法によって障害者枠での就職ができるようになり、雇う側には働きやすくするための調整(合理的配慮)をする義務が生じる、と書かれています。

ここで扱えるのはここまでです。その解雇が認められるのかどうか、どう争うのかについては、手元に労働法そのものの資料がないため書けません。またこの解説は2017年時点の記載で、制度はその後も変わっています。実際に判断が要る場面では、労働局・労働基準監督署や自治体の窓口など、公的な情報で確かめてください。

家では話せるのに、仕事のときだけ言葉が出ない

「自分は仕事のときだけひどくなる。だから根性が足りないのではないか」——そう考えてしまう人は少なくありません。けれど、場面によって出方が変わることは、吃音のある人の記録の中に繰り返し出てきます。

高校を卒業して住み込みのコック見習いから働き始め、いまは福祉の仕事を20年ほど続けている人が、環境が変わったときのことをこう書いています。

当事者本人(吃音歴40年超・福祉の事業所責任者。NPO法人日本吃音協会のメディアに寄せた手記)

2年続けましたが、毎日「お先に休憩入ります」の一言が出ないのです。 毎回吃り、アルバイトの学生に笑われました。しかし、その時は毎日必死でした。

私だけだと思いますが、吃音は 新しい環境に適用するまで悪化 するように感じます。

現在は福祉業界で仕事しています。 20年ほどになりますが、初めのころは朝礼と電話対応が嫌で嫌で、吃ってしまうのかビクビクしていました。そんな時は不思議と吃ってしまうものです。

住み込みの職場で毎日言わなければならなかったのは、「お先に休憩入ります」という短い一言でした。言う相手も、言うタイミングも決まっている。逃げ場のない一文が、2年のあいだ毎日やってきます。福祉の職場に移ったあとも、最初は朝礼と電話が不安だったと書かれています。同じ人の中で、場面によって出方が動いている——この観察は、吃音を話し方の技術の問題として見るかぎり説明がつきません。

出典: 私の吃音との向かい方(HAPPY FOX・NPO法人日本吃音協会)(台帳: V0067)

吃音のある大人と、そうでない大人を比べた研究は、吃音のある人が会話がうまくいかないことを恐れて、人と関わる場面や仕事の場面を避けやすいと述べています。そして避けることが日々の役割を続けにくくし、意味のある活動から遠ざける方向に働くとしています。仕事は、避けにくい場面が毎日決まった時刻にやってくる場所です。だから「仕事のときだけ」という体感が生まれます。

もうひとつ、この論文が自分の道具について書いている但し書きが役に立ちます。吃音の重さを測る検査は、外から見えるどもりを測るものとしては信頼できるけれど、話す場面を避ける・別の言葉に言い換える・吃音を隠すといった、外からは見えない部分は捉えられない、と書かれています。そのうえで論文は、吃音の重さがそのまま心理的・社会的な負担の大きさを予測するわけではない、とまとめています。「軽いと言われているのに、こんなに苦しいのはおかしい」と感じている人にとって、これは自分を責めなくてよい理由になります。

誰の前で出やすいか・出にくいかという話は、吃音が特定の人の前だけ出るのはなぜでくわしく扱っています。

電話を外してもらうことと、仕事から外されること

「電話に出なくていい」と言われたとき、ほっとする気持ちと、これでいいのかという気持ちが同時に来ることがあります。この二つは矛盾しているようでいて、同じ一つのことの裏表です。

自動車部品の設計に携わり、勤続6〜9年目という人が、その両方をそのまま書き残しています。

CADオペレーターの男性(30代前半・中部地方。自助団体が集めた就労体験記のアンケート回答)

電話業務のある職場で、電話を任せて貰えない時期があった。 今も電話業務のない職場で働いており、配慮されている。 それが嬉しいことでもあり、悲しいことでもある。 ずっとこの環境は続かないので、将来が不安。

工夫していること : 早く話そうとすると自分の場合は吃音症状が出やすいので、話す速度は抑えて話している。 吃音のない皆でも嫌がる朝礼当番を毎日担当し、少しでも改善させようとする前向きな姿勢を見せる。 電話業務がないので、昼飯のお弁当の注文の電話を買って出て弁当当番を担当している。

この人は新入社員研修の希望欄に「吃音」と書き、電話業務の少ない職場に配属されました。配慮は確かに受け取っている。それでも「ずっとこの環境は続かない」という一行が続きます。そして本人が選んだのは、朝礼当番を毎日引き受けること、弁当の注文の電話を買って出ることでした。外されたぶんを、自分で選んだ場面で埋め直している。この記録が示しているのは、配慮が足りているかどうかという問いだけでは足りない、ということです。

出典: 吃音がある人の就活就労体験記(うぃーすたプロジェクト)(台帳: V0455)

米国の労働市場を調べた研究は、この境目にはっきり触れています。吃音のある人の一部が、話すことの少ない仕事や社会的な立場の低い仕事をあえて選ぶという証拠がある一方で、雇う側が採用や昇進の場面で職業上の機会を狭めているという証拠もある、と整理しています。同じ配置換えが、本人の選択にも、閉じ込めにも見えるということです。だから、いま自分がどちらの側にいるのかは、外から一目では判定できません。

公的な資料の側は、事業主に望まれることとして、採用試験での試験時間の延長や休憩を入れること、障害の特性を踏まえた相談・指導として作業工程の見直しや勤務時間・休憩の調整を行うことを挙げています。つまり「業務を丸ごと外す」以外の形が、制度の側にも書かれています。また、障害のある従業員を5人以上雇う事業所では、職業生活の相談・指導を担当する障害者職業生活相談員を選ばなければならないとされています。社内に相談の担当者がいるかどうかは、確かめてみる価値があります。

調整の頼み方と、2024年の法改正については吃音と合理的配慮にまとめました。電話そのものへの向き合い方は電話だけどもるのはなぜかで、外回りの仕事は吃音と営業の仕事で扱う予定です。

職場で打ち明けるか、迷ったとき

打ち明ければ楽になるとも、打ち明けたら不利になるとも言われます。どちらも実際に起きていることなので、どちらか一方だけを信じても判断の助けになりません。ここでは、言ってよかったと振り返っている人の話と、実験で分かっていることを並べます。

50社以上受けて一次面接を通ったのは片手で数えるほど、という就職活動を経て、いまは製造業の会社で経理として10年以上働いている人がいます。言語聴覚士の聞き手に、こう答えています。

当事者の男性(札幌在住・製造業の経理職。自助団体の役員経験あり。聞き手は言語聴覚士のインタビュー記事)

三谷: あと、面接の際に、吃音のことを伝えるかどうかで悩む方も多いですよね。

石黒: そうですね。吃音のことをカミングアウトするかどうかは、きっと吃音のある人の永遠のテーマだと思います。考え方は人それぞれですし、症状にもよるかなと思いますが。吃音のことを隠して就職しましたっていう人もたくさんいますが、周囲はその人の吃音に気づいていることだってありますし。カミングアウトしたけど、普通に接してくれる人もいるし。その人が置かれた環境に左右されてしまうとは思いますが、会社に入って吃音に配慮してほしいと考えるんだったら、面接のときに吃音のことを話した方が良いんじゃないかと思います。

この人は最後に、面接で吃音のことを話して感触の良かった会社に決めたと語っています。入社直後は「対外折衝が少ない」という理由で経理課に配属され、銀行への電話も代わってくれと言われたことがあった。それが10年のあいだに、自分でかけるようになった。答えの中で「会社に入って配慮してほしいと考えるんだったら」と条件が付いているところが重要です——伝えるかどうかは善悪ではなく、入ったあとに何を頼みたいかから逆算する問題として語られています。

出典: 「吃音と就職活動」吃音当事者へインタビューしてみました#2(北海道吃音・失語症ネットワーク note)(台帳: V0003)

先に伝えることの効果は、模擬の就職面接を使って調べられています。俳優が同じ台本で三通りの面接を演じ、吃音なし・吃音があるが触れない・吃音があって冒頭で触れる、の三つの映像を作りました。冒頭のひと言は謝らない言い方で、「Just to let you know I have a stutter(念のためお伝えすると、私には吃音があります)」というものでした。結果は、吃音のある候補者は全体としては低く評価されたものの、先に伝えたかどうかで様子が変わりました。伝えなかった条件では、吃音のある候補者ははっきり低く評価され、伝えた条件では吃音のあるなしで評価に差がありませんでした。なぜ効くのかについて論文は、障害や制約を率直に認める人はよく適応していると見られるという説と、相手が「何と言えばいいのか」と迷い続ける状態から解放する(場をほぐす)という説の二つを挙げています。

ただし、この実験の参加者は大学生だけで一般の人たちを代表しておらず、面接を演じたのも実際には吃音のない俳優だった、と論文自身が断っています。職場で長く一緒に働く相手と、初対面の面接官とでは事情も違います。

日本の事情も見ておきます。筑波大学の研究チームが自助グループなどを通じて集めた成人180人の調査では、吃音を打ち明ける度合いは米国の調査より低いという結果でした。そして、自助グループに参加した経験があること、自分を受け入れられていること、自分に対する否定的な決めつけが少ないことが、より高く打ち明ける傾向と結びついていました。論文は、日本の当事者が打ち明ける度合いが低い傾向は社会文化的な違いを反映しているのかもしれない、と述べています。なお、この調査は自助グループなどを通じて集めた人たちが対象なので、日本の吃音のある大人全体を代表しているわけではありません。

面接の場面にしぼった判断材料は吃音面接のカミングアウトに、アルバイトの場合は吃音のバイト選びにまとめています。

もう続けられない、と思ったとき

辞めるか、続けるか。その二つしか見えなくなることがあります。実際には、その間に「部署を変える」「相談の窓口を通す」という段がいくつか挟まっています。

東北地方の市役所などで事務の仕事をしている人が、体調を崩したあとの動きをこう書いています。

公務員・事務職の男性(20代後半・東北地方。自助団体が集めた就労体験記のアンケート回答)

元々、ADHDとASDの症状があり、ストレスから就職後3年目に吃音になりました。 吃音になった後は、電話対応と窓口対応で苦労することが多いです。すごくどもって汗をびっしょりかきながらやっていた時期はありますが、それに関するストレスなどから鬱になり、人事部局に相談し、電話取りと窓口対応が少ない部門に異動させていただきました。

この人は、筆記試験ではトップクラスの成績だったのに面接では会話が成立しなかった、という転職活動の経験も書き残しています。ここで動いたのは、上司との個別のやりとりではなく人事部局でした。窓口を一段上げたことで、部門の異動という形が出てきています。なお「ストレスから吃音になった」というのは本人の受け止めで、原因を確かめたものではありません。この記事が引いている研究も、仕事が吃音を作るかどうかを測ってはいません。

出典: 吃音がある人の就活就労体験記(うぃーすたプロジェクト)(台帳: V0456)

吃音のある大人の生活を調べた研究は、取り組みの向きについて踏み込んだことを書いています。流暢に話せるようにすることだけを狙う訓練では足りないかもしれず、日々の活動の釣り合い——仕事、人づきあい、休息、余暇といった役割の配分のことです——を保つ力を育てる方向にも向けるべきだ、というのがこの論文の結論です。「話せるようになってから考える」ではなく、「いまの暮らしの配分を先に立て直す」という順序もある、ということになります。

社外の窓口もあります。厚生労働省の資料には、ハローワークに精神・発達障害者雇用サポーターが配置され、障害の特性を踏まえた就職支援や職場定着支援を行っていることが書かれています。また、原則3か月ほど試しに働いてみる障害者トライアル雇用という仕組みも紹介されています。ただし、この資料には吃音に限定した記述はないので、自分の場合に使えるかどうかは窓口で確かめる必要があります。

休職できる期間や傷病手当金の金額といった、数字を伴う制度の話は、この記事では扱いません(手元に一次資料がないためです)。必要なときは、勤め先の就業規則と、公的な機関の情報で確かめてください。仕事から離れた時期の過ごし方については吃音と引きこもりも参考になります。

数字で見ると、何がどれだけ違うのか

ここまでは個人の記録でした。集団として見たときに何が起きているのかを、いちばん規模の大きい調査で確かめておきます。米国の全国調査で、14年にわたる4回の調査すべてに答えた13,564人のうち、261人が吃音があると答えました。この261人は、2回の調査でどちらも「吃音がある」と答えた人に絞り込まれています。

調整をかける前の平均年収は、吃音のない男性が約42,100ドル、吃音のある男性が33,600ドル。女性では、吃音のない人が約29,300ドル、吃音のある人が19,100ドルでした。ただしこの時点では、吃音のある人のほうがADHDや学習障害を持つ割合が高く、家庭の収入が低く、学歴も低い傾向があったため、この差がそのまま吃音の影響とは言えません。

人口統計や併存する特性を差し引いたあとでも、年収の差は残りました。男性で7,627ドル、女性で7,154ドルです。条件の近い人どうしを組にして比べるもう一つの方法でも差は消えず、むしろ推定される差は大きくなりました——男性で10,766ドル、女性で18,712ドルです。

米国の全国縦断調査で、吃音のある人とない人の年収の差を2つの推定方法で並べた図。単位は年間の米ドルで、いずれも吃音のある人のほうが少ない額。人口統計と併存する状態を考慮したうえでの推定。回帰分析では男性7,627ドル(推定に入った吃音のある人は71人)、女性7,154ドル(同30人)。条件の近い人どうしを組にする傾向スコアマッチングでは男性10,766ドル(同67人)、女性18,712ドル(同27人)。推定の方法を変えても差は消えず、マッチングのほうが大きい値になった。方法ごとに対象になった人数が違う
図1: 年収の差は、推定の方法を変えても残った。出典: Gerlach, Totty, Subramanian & Zebrowski (2018) Stuttering and Labor Market Outcomes in the United States. J Speech Lang Hear Res.

男女で出方が違う点も報告されています。吃音のある男性は、働いているか職を探しているかという意味での労働力への参加が8.1%低いという結果でした。これは失業率では見えない不利で、職探し自体をやめてしまう人が多いことをうかがわせます。吃音のある女性では、その職業でふつうとされる学歴より本人の学歴が高い状態——学歴に見合わない仕事に就いている状態のことです——になっている割合が23.2%高いという結果でした。さらに収入差を「観察できる特性の違いで説明がつく分」と「つかない分」に割ったところ、男性では89%が説明がついたのに対し、女性では逆に64%が説明のつかない側に残りました。

これらの数字を読むときに、いちばん大事なのは論文自身が置いた但し書きです。この研究は吃音があるかどうかを本人の申告で決めており、回答者の約84%が自分の吃音を「軽度」と表現していたため、結果は軽い話しにくさの場合をよく表している可能性が高いとされています。そして著者は、観察していない要因の影響はどんな相関研究にもつきまとう脅威だとしたうえで、これらの結果をもとに吃音と労働市場の結果を因果として解釈する前には慎重であるべきだ、と明記しています。不利が「ある」ことと、吃音が「その原因だ」と言えることは別です。

この調査で「吃音がある」と答えた261人が、自分の吃音の重さをどう表現したかの内訳。追加の質問への回答で、およその割合。「軽度」と答えた人が約84%、「中等度」と答えた人が15%、「重度」と答えた人は1%未満。検査ではなく本人の申告による分類のため、この調査の結果は軽い話しにくさの場合をよく表している可能性が高い、と論文自身が述べている
図2: 対象者の8割超が、自分の吃音を「軽度」と答えていた。出典: Gerlach, Totty, Subramanian & Zebrowski (2018) Stuttering and Labor Market Outcomes in the United States. J Speech Lang Hear Res.

もう一つ、吃音のある大人と、そうでない大人を比べた研究があります。吃音が重い人ほど日々の役割の釣り合いも生活全体の満足度も低く、釣り合いが取れている人ほど満足度が高いという関係が見られました。ただしこれは一時点で測った関係なので、どちらが原因かは言えないと論文自身が断っています。

相談できる先と、手帳という選択肢

話しにくさそのものの相談先は、言語聴覚士のいる医療機関や、吃音を扱っている耳鼻咽喉科・リハビリテーション科です。手帳の申請にあたっても、発達性吃音の場合は通常は耳鼻咽喉科で診断するが、言語聴覚士がいて吃音の検査をしている病院でないと診断できないことがある、と説明されています。まず「吃音の検査ができるか」を電話や問い合わせフォームで確かめてから受診すると、二度手間になりません。

働くことについての相談先は、厚生労働省の資料に並んでいます。ハローワークでは専門の職員・相談員が障害のある求職者にきめ細かな職業相談を行い、就職後の職場定着指導もしているとされています。事業主の側は、地域障害者職業センターから雇用管理についての専門的な助言・援助を無料で受けられ、職場にジョブコーチの派遣を受けて業務の進め方や伝え方の支援を受けることもできるとされています。同僚を対象にした講座もあり、精神障害・発達障害について正しい理解を促し、職場での応援者を育てる講座が全国で開かれています。

制度の枠そのものも確かめておきます。民間企業の法定雇用率——従業員に占める障害のある人の割合として満たすことが求められる数字のことです——は2.7%で、従業員を37.5人以上雇用している事業主は障害のある人を1人以上雇用しなければならないとされています。この枠の対象になるのは手帳を持っている人です。ただし、助成金や公的な支援では手帳が無くても対象になる場合があるとも書かれています。

手帳そのものについては、吃音で申請できるのは身体障害者手帳と精神障害者保健福祉手帳の2種類とされています。身体障害者手帳は、話す症状が非常に重く、治療をしても改善が期待できないと判断される場合のみ交付されるため、吃音で該当する人はごく少数だと説明されています。小児期からの吃音は発達性吃音という診断になり、発達障害者支援法によって精神障害者保健福祉手帳の交付対象になるとされています。申請には医師の意見書が要り、意見書では吃音の検査結果と、吃音のためにできないことがあって他人の助けが必要であることを説明する必要があるとされています。精神障害者保健福祉手帳の場合、初診日から半年以上たたないと意見書を書いてもらえないとも書かれています。

この解説は2017年時点の記載です。制度の運用は自治体によって違い、その後の改正もあります。実際に申請するときは、市区町村の福祉の窓口で最新の取り扱いを確かめてください。手帳の等級や取ったあとのことは吃音で障害者手帳は取れる?でくわしく扱っています。

「クビが不安」なときに陥りやすい3つの落とし穴

落とし穴1 − 言われた言葉を、そのまま自分の能力の評価として受け取る

「この仕事向いてると思ってる?」のような言葉は、能力の評定のような顔をして届きます。けれど研究が描いているのは、周りの理解の乏しさ・話しやすい環境が用意されていないこと・同僚の気づかない偏見が、本人の中の否定的な決めつけを強めていくという流れです。そして評価する側にも偏りがあります——模擬面接の実験では、同じ台本でも吃音のある候補者は全体として低く評価されました。言われた言葉は、その場の条件の産物でもあります。

落とし穴2 − 「配慮を頼めば解決する」か「頼んだら外される」の、どちらかに決めてしまう

電話を外してもらったことを、嬉しいとも悲しいとも書いた記録がありました。米国の研究も、話すことの少ない仕事を本人があえて選ぶという証拠と、雇う側が採用や昇進で機会を狭めているという証拠の両方があると整理しています。同じ配置換えが両方に見えるのですから、「頼む/頼まない」ではなく「何をどう頼むか」を具体的に決めるほうが実りがあります。公的な資料も、業務を丸ごと外す以外の形——作業工程の見直しや勤務時間・休憩の調整——を挙げています。

落とし穴3 − 記録を残さないまま、一人で抱えて辞めてしまう

どの場面で・どんな言葉で困ったのかを書き留めておくと、相談するときに話が早くなります。手帳の意見書でも、吃音の検査結果に加えて「吃音のためにできないことがあって、他人の助けが必要であること」の説明が求められるとされています。困りごとは、思い出して話そうとすると必ず薄くなります。日々の様子——どんな場面で出やすいか、どのくらい続いたか——を短くでも記録しておくと、人事や相談窓口、医療機関のいずれに行くときにも材料になります。

まずは書き留めることから小さく始めて、社内なら人事部門や障害者職業生活相談員、社外ならハローワークや地域障害者職業センターに相談できる場合はそちらが確実です。

よくある質問

吃音を理由に、会社をクビにされることはありますか?

解雇が認められるかどうかという法律上の判断は、この記事では扱えません(労働法そのものの資料を手元に持たないためです)。ただし、遠回しに退職を促されたり、面接で言わなかったことを理由に解雇を検討すると告げられたりした記録は、この記事で引いた当事者の手記に実際に残っています。判断が要るときは、労働局・労働基準監督署などの公的な窓口にご相談ください。制度の側では、手帳があれば障害者雇用促進法によって雇う側に働きやすくするための調整の義務が生じる、と説明されています。

仕事のときだけどもるのは、気の持ちようでしょうか?

そうとは言えません。吃音のある大人を調べた研究は、会話がうまくいかないことへの恐れから人と関わる場面や仕事の場面を避けやすくなり、それが日々の役割を続けにくくすると述べています。また、吃音の重さを測る検査は言い換えや回避、隠すといった外から見えない部分を捉えられず、重さがそのまま心理的・社会的な負担を予測するわけでもないとされています。

職場で吃音を打ち明けたほうがいいですか?

一律の答えはありません。模擬面接を使った実験では、冒頭で謝らない言い方で先に伝えた条件のとき、吃音のある候補者の評価は吃音のない候補者と変わらなくなりました。ただし参加者は大学生だけで、面接を演じたのも吃音のない俳優だったと論文自身が断っています。日本の成人180人の調査では打ち明ける度合いは米国より低く、自助グループの経験がある人ほど高い傾向がありました。

電話を外してもらうのは、将来に不利になりませんか?

そう感じる人は実際にいます。電話業務のない職場で働いていることを「嬉しいことでもあり、悲しいことでもある」と書いた記録を、この記事でも引いています。米国の研究は、話すことの少ない仕事を本人があえて選ぶという証拠と、雇う側が採用や昇進の場面で機会を狭めているという証拠の両方があると整理しています。業務を丸ごと外す以外にも、作業工程の見直しや勤務時間・休憩の調整といった形が公的な資料には挙げられています。

もう限界だと感じたら、どこに相談すればいいですか?

社内では、上司との個別のやりとりだけでなく人事部門という窓口があります。障害のある従業員を5人以上雇う事業所には、職業生活の相談・指導を担当する障害者職業生活相談員が置かれるとされています。社外では、ハローワークに精神・発達障害者雇用サポーターが配置され、就職支援や職場定着支援を行っているとされています。話しにくさそのものは、言語聴覚士のいる医療機関へご相談ください。

まとめ

  • 「クビにできないか本社と相談する」と告げられた記録は実在する。ただし解雇が認められるかどうかの判断はこの記事の範囲外で、公的な窓口で確かめる必要がある。
  • 米国の大規模な追跡調査は、出身校や併存する特性を差し引いたあとも年収の差が残ることを示した(男性7,627ドル・女性7,154ドル)。一方で著者自身が、因果として読まないよう歯止めを置いている。
  • 「仕事のときだけ」という体感には裏づけがある。研究は、会話の失敗への恐れによる回避が日々の役割を続けにくくすると述べ、重さの検査では回避や言い換えを捉えられないとしている。
  • 配慮と業務外しは同じ形をとることがある。本人があえて選ぶ証拠と、雇う側が機会を狭める証拠の両方があると整理されている。業務を丸ごと外す以外の調整も公的資料に挙げられている。
  • 面接の冒頭で先に伝えた条件では評価の差が消えたが、参加者は大学生のみという限界がある。日本の当事者180人の調査では、打ち明ける度合いは米国より低かった。

参考文献

  1. Gerlach, Totty, Subramanian & Zebrowski (2018) Stuttering and Labor Market Outcomes in the United States. J Speech Lang Hear Res.
  2. Mutlu & Cemali (2025) Assessment of occupational balance and life satisfaction in adults who stutter. BMC Psychol.
  3. Perez, Newman & Walmer (2025) Acknowledging a Stutter Affects the Impression One Makes in a Job Interview. Int J Lang Commun Disord.
  4. Iimura, Takahashi, Aoki, Yoshizawa, Yanai, Miyamoto & Boyle (2026) Relationships between psychosocial aspects of stuttering and self-disclosure of stuttering in a Japanese sample. J Fluency Disord.
  5. 発達性吃音(どもり)の研究プロジェクト「A05-5 大人の障害の申請について」(2017年時点の記載)
  6. 厚生労働省「発達障害者の就労支援」
  7. 厚生労働省「事業主の方へ」(障害者雇用のルールと利用できる支援策)

当事者の声の出典: V0200(note・K・Aさんの投稿「【就職して吃音で困ったこと】」)/ V0067(NPO法人日本吃音協会 HAPPY FOX・吃音歴40年超の当事者の手記)/ V0455・V0456(うぃーすたプロジェクト「吃音がある人の就活就労体験記」のアンケート回答)/ V0003(北海道吃音・失語症ネットワーク note・石黒航生さんへのインタビュー)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-09-12 公開