まず結論から
- ドイツの17の専門学会がまとめた診療ガイドラインは、行うべきでない治療を名指ししています。薬による治療は「やらないほうがよい」という向きの強い根拠があるとされ、リズムに合わせて話すことや呼吸の調整を唯一または主たる柱にすること、催眠、そして分かる形の考え方を持たない吃音の療法は、同じ向きの弱い根拠があるとされています。
- 同じガイドラインは、避けるべき手続きを6つ挙げています。その最後の1つが「治ることを約束し、治療の目標と方法を分かる形で説明しない」ことです。
- 心の側への働きかけについて分かっているのは、動くのは「どもる回数」ではなく「不安と回避」のほうだ、ということです。考え方のクセに働きかける心理療法(認知行動療法)を発話の訓練と組み合わせた臨床試験では、どもる頻度そのものには影響がなく、日常の話す場面での不安と避ける行動が減りました。
- 大人の吃音を治す方法は現時点では無く、どの技法も本質的に「補う」ためのもので、良くなった状態を保つには使い続ける必要があるとされています。
- 日本の解説も、吃音に有効性が確立された薬はなく、どの患者にも一様に有効な治療法もないと明記しています。
ただし、これは「NLPは効かない」という意味ではありません。この記事が参照した資料の中に、NLP(神経言語プログラミング)を吃音について調べたものは一つもありませんでした。「効く」と言える材料も、「効かない」と言い切る材料も手元に無い、というのが正確なところです。ここで渡せるのは、効果が確かめられている方法が何を備えているかという対比と、費用を払う前に確かめる順序までです。
「ここに行けば治る」と信じて入った場所で、教わったこと
「治します」と掲げる場所は、いまに始まったものではありません。呼び名や理論は時代ごとに変わりますが、通う人が抱えているものはほとんど変わらない。半世紀以上前に、そういう場所へ夏休みのあいだ入寮した人が、自治体の広報誌でその1か月を振り返っています。
当事者の声(伊藤伸二さん・日本吃音臨床研究会会長/寝屋川市の広報誌のインタビュー記事。地の文は広報誌の編集、かぎ括弧の中が本人の言葉)
つらい学校生活が続きましたが、高校生のときに東京の有名な矯正施設を知りました。「ここに行けば吃音が治り、人生も変わる」。そう信じ、親元を離れて大阪市内の新聞配達店に住み込み、学費を稼いで二浪の末に明治大学へ。夏休みの1か月間、矯正施設の寮に入りました。
小学2年の学芸会で、主役級を期待していた本人に割り当てられたのは村人の役で、せりふは一言だった——そこから強い劣等感を持つようになった、と記事は始まります。入寮してからの日課は、午前が呼吸法や発声の訓練で、掲げられていたのは「ゆっくり歌うように話せばどもらない」。午後は道行く人に「警察署はどこですか」と話しかける実地の練習でした。やがて本人の中に「こんな方法で治るのか」という疑問が生まれます。ここで注目したいのは、疑問が湧いた理由が「効果が出なかったから」ではなく、方法の中身が、目標とどうつながっているのか分からなかったからだという点です。診療ガイドラインは、まさにその一点を手続きの問題として書いています。
出典: 令和5年11月号「正しく理解し心豊かに」吃音と共に生きる 日本吃音臨床研究会会長伊藤伸二さん(広報ねやがわ)(台帳: V0125)
ドイツの17の専門学会が、合意と根拠にもとづいて作った吃音とクラタリング(早口でまとまりにくくなる話し方)の診療ガイドラインがあります。このガイドラインは、推奨する治療を並べるだけでなく、行うべきでない治療を名指しで書いているところに特徴があります。薬による治療は、やらないほうがよいという向きの強い根拠があるとされます。リズムに合わせて話すことや呼吸の調整を、唯一またはいちばんの柱にすること、催眠、そして分かる形の考え方(コンセプト)を持たない吃音の療法は、同じ向きの弱い根拠があるとされ、使うべきでないとされています。催眠療法そのものについては別の記事にまとめます。
さらに、避けるべき手続きが6つ並びます。(a) 練習した場所の外、いろいろな話す場面で使えるようにする手立てを含まないもの。(b) ぶり返したときの対処を含まないもの。(c) 短期の成功はあるが、長い期間の観察研究が無いもの。(d) 呼吸の変更やリラックスの技法だけに頼っているもの。(e) 吃音の原因やぶり返しの責任を、本人や家族に負わせるもの。(f) 治ることを約束し、治療の目標と方法を分かる形で説明しないもの——この6つです。
「ここに行けば吃音が治り、人生も変わる」と信じて入った1か月を、この6つに当ててみると、引っかかる項目がいくつも出てきます。大事なのは、方法の名前を知らなくても当てられるということです。NLPでも、発声法でも、まだ名前のない何かでも、同じ6つで見ることができます。ガイドライン自身、ドイツでは吃音がしばしば根拠の不十分な治療法で扱われており、治療の開始も不必要に遅れていると結論しています。これはドイツの医療事情についての記述で、日本の実態を述べたものではありません。ただ、「根拠が足りない方法が使われ続ける」という形そのものは、国が違っても起こりうるものとして読めます。
「考え方を変えれば話せるようになる」と言われたとき
NLPに限らず、心の側に働きかける方法はたいてい、同じ形の言葉で始まります。どもるのは、どもることを恐れているからだ。だから、恐れのほうを変えよう——。その言葉を初回に告げられて、面食らった人の記録があります。
当事者の声(社会人3年目の転職後に、ことばが出ない型の症状が戻ったと書く女性/個人ブログ note・筆名で発信)
ある吃音カウンセリングの門を叩き体験セッションを受けた際、始めに言われたのはこちら。
『吃音を治そうとしているうちは変わりません。 吃音を恐れてしまう根本的な原因を突き止め、認め、受け入れることで初めて緩和されます。』
…(´;ㅿ;`)ガクガク お金をかけて直そうとここに来たのですが…となりました(笑)
電話の出だしで社名も名前も名乗れない、自己紹介で名前が言えない、沈黙で相手を待たせるのが怖い——転職したばかりで覚えることが山ほどある時期に、その状態になった、と本人は書いています。そうして訪ねた先の初回で、「治そうとしているうちは変わりません」と告げられた。お金を払いに来た側からすると、いきなり前提をひっくり返される言葉です。本人はこのあと1年かけて、吃音そのものへの働きかけより先に、自分の考え方のほうに時間をかけたと続けています。ここでは、その1年の結果は扱いません。本人自身が、全部が改善されたわけではない、と書いているからです。代わりに見ておきたいのは、この「治そうとしない」という言い方が、研究の側とどこまで重なっているのかです。
出典: 【後天性吃音】吃音カウンセリングで考え方が変わった話(note・紗々)(台帳: V0218)
心の側への働きかけとして、いちばん研究が積まれているのは、考え方と行動のクセに働きかける心理療法(認知行動療法)です。吃音のある大人には、話すことに関わる強い不安を抱える人が少なくないと報告されており、この療法の狙いは、人を避ける行動と不安を減らすことだとされています。中核にあるのは、他人から悪く見られるのではないかという思い込みを、検討し直すことです。進め方としては、否定的な考えと感情を個別の相談で捉え直す、不安の扱いをグループで話し合う、打ち明けたりわざとどもってみせたりして恐れに慣れていく、といった方法が挙げられています。「思い込みを扱う」という発想そのものは、医療の側にもある、ということです。
では、それで何が変わるのか。ここがいちばん大事なところです。この療法を発話の組み直しの訓練と組み合わせた臨床試験では、どもる頻度そのものには影響がなく、日常の話す場面での不安と、避ける行動が減りました。3週間の集中プログラムを評価した研究も、同じ向きの結論を2つ出しています。自分で報告する不安が下がっても、どもる頻度が自動的に減るわけではないこと。そして、どもる頻度が減らない場合でも、吃音にまつわる不安や回避のほうは扱えること。「不安が減る」と「どもりが減る」は、別々に起きる出来事です。
日本でも、その前提に立った訓練が試みられています。国立障害者リハビリテーションセンターの言語聴覚士が紹介しているグループ訓練は、①どもることを(ほとんど)忘れて自然に話せる能力があると理解し、それを信じていつも使うようにする、②コミュニケーションの目標を「吃らない」こと以外の肯定的で具体的なものにする、③吃音に注意を取られずに、自分の向けたい方に注意を向けられるようになる、という3つを目標に掲げます。従来と違うのは、症状を減らすための、意図的で自然ではない話し方のコントロールは練習しないという点です。「治そうとしない」という言い方は、この文脈に置くと理解しやすくなります。どもりの回数を目標から外して、別のところに目標を置き直す、ということです。同じ考え方が日本の解説にもあり、どもるかどうかにこだわらず楽なコミュニケーションを目標にしたほうが、発話そのものへの注目が外れるので、かえって症状も改善しやすいとされています。
注意したいのは、ここまでの話に出てきた方法が、どれも何を目標にして、何を練習し、何が変わったら効いたと言えるのかをはっきり書いていることです。目標が「不安と回避」なら、測るのも不安と回避です。目標を言わずに「変わります」とだけ言う説明は、先ほどの6つのうち (f) に当たります。
40年、治そうと奮闘した先にあったもの
方法を一つ試して終わる人は、あまりいません。効かなければ次へ、それも効かなければまた次へ。そうやって過ぎた時間を、40年分まとめて書いた人がいます。自助グループの例会に初めて参加したときの感想として寄せられたものです。
当事者の声(60代女性・20歳で発症/岡山言友会「例会参加者の声」に寄せられた7名の寄稿のうち⑦)
20歳で吃音を発症し、40年以上劣等感や自己嫌悪で、自己否定しつつ生きてきました。その間、様々な発声法や自己啓発セミナー等で自分なりにお金と時間をかけて、治そうと奮闘してきました。
でも、むしろ悪化することもあり、まさか、努力が逆効果になるとは、と絶望的な気持ちにもなりました。
けれど、言友会に参加して、吃音を否定したり治そうとするのではなく、それを受け入れて自分らしく堂々と生きてゆく事を学びました。
この寄稿は、参加した人7名それぞれの声が並ぶページの最後に置かれています。本人は、自分を「先月初めて言友会に参加した新参者」と名乗ったうえで、40年分をこの短さに畳んで書いています。かけたのはお金と時間の両方。方法の名前は「発声法や自己啓発セミナー等」としか書かれておらず、一つひとつが何だったのかは分かりません。分かるのは、その40年のあいだ、誰も「大人の吃音を治す方法は現時点では無い」と本人に伝えなかった、ということのほうです。文末には、若い人には吃音との戦いに明け暮れるより自分の長所や特技を伸ばすことに時間を使ってほしい、と書かれています。その「無い」を、総説は率直に書いています。
出典: 例会参加者の声(岡山言友会)(台帳: V0109)
子どもと大人の行動的な治療をまとめた総説は、締めくくりでこう書いています。大人の吃音を治す方法は現時点では無く、あらゆる技法は本質的に「補う」ためのものだ。補う技法の性質上、良くなった状態を保つには使い続けなければならない。だからどんな治療でも、長期の方針を組み込み、本人が自分自身の指導者になれるように教え、長く続く相談や追跡の機会を用意することが欠かせない、と。「治らない」という一行だけを取り出すと冷たく聞こえますが、この総説が言っているのはその先です。治らないことを前提にしたとき、治療に何が要るのかが決まる、という話をしています。
その「何が要るのか」を、診療ガイドラインは要素の形で並べています。青年と成人について、効果のある治療に共通していた要素として挙げられているのは——まずゆっくりした発話を集中的に練習する、グループでの療法を含む、練習した場所の外の日常の場面へ持ち出す練習をする、段階を追った自己評価と自己管理を含む、自然に聞こえる話し方を目指す、良くなった状態を保つためのプログラムを含む、そして引き伸ばした発話・やわらかい声の出だし・リズムに合わせた発話・呼吸の調整・話すことへの構えの変化を練習する、というものです。
この並びを、先ほどの避けるべき6つと重ねて読むと、両者が裏表であることが見えてきます。「日常への持ち出し」と「保つためのプログラム」が要素に入っているのは、それらを含まないものが避けるべき手続きに挙がっているからです。呼吸の調整やリズムに合わせた発話も、要素の一つとしては入っています。避けるべきとされているのは、それらを唯一またはいちばんの柱にすることのほうです。技法そのものの善悪ではなく、組み立て方の問題として書かれている、ということです。技法どうしの比較や年齢による違いは吃音治療とトレーニングの記事に、年齢ごとの対応の整理は吃音症の治し方にまとめています。
NLPを吃音で調べた研究は手元にない——心の側の方法は、どう測られるのか
ここまで一度もNLPの研究を引いていないのは、意図的なものではありません。この記事が参照できる資料の中に、NLP(神経言語プログラミング)を吃音について調べたものが無いからです。原典を全文にわたって探しても、その名前は出てきませんでした。だからこの記事は「効きません」と書けません。書けるのは、心の側に働きかける方法が研究の物差しに乗せられるとき、何がどう測られるのか——その一例までです。
ちょうど手元に、心身に働きかけるプログラムを吃音のある大人で試した試験があります。参加者をくじ引きのように2つの群に分け、片方だけがプログラムを受ける形で比べたものです。使われたのは、ストレスを生む考えを紙に書き出し、それを一つずつ4つの問い——それは本当か/それが本当だと絶対に言い切れるか/その考えを信じているとき自分はどう反応するか/その考えが無ければ自分はどうなるか——で調べ、最後に考えをひっくり返して反対の証拠を探す、という方法でした。週1回のグループの集まりを12週続け、自宅での自習も課されています。「思い込みを扱う」という点では、心の側の方法として似た形をしています。
結果はこうでした。プログラムを受けた群では、吃音が生活にどれだけ影響しているかを本人に尋ねる質問紙の総得点が、受ける前から直後にかけて有意に下がり、1か月後も前より低いままでした。この改善は、認識・吃音への反応・日常のコミュニケーション・生活の質という4つの領域すべてで見られています。受けなかった群では、3つの時点のどこにも差がありませんでした。もともとの不安の強さも下がり、人生への満足度も上がっています。
ここからが本題です。この試験は、吃音そのものが減ったかどうかを測っていません。著者自身が限界として挙げています。評価がすべて本人の自己申告で、回答の偏りの影響を受けうること。今後は話し方のなめらかさや、どもりが起きる時点と頻度といった、外から測れる指標も調べるべきであること。比べた相手が何も受けない群なので、注目されることやグループで支え合うことの効果を取り除けていないこと。追跡が1か月しかないこと。参加者の8割が男性だったこと——この5つです。
つまり、心の側の方法をきちんと調べると、「何が変わって、何は変わったと言えないか」が、これだけ細かく書かれるということです。効果を語る説明を読むとき、この形になっているかどうかが一つの目安になります。誰と比べたのか。何を測ったのか。測っていないものは何か。いつまで追ったのか。NLPについて、この形の資料をこの記事は持っていません。持っていないことを、効果の否定として読まないでください。同時に、「手元に無い」を「あるはずだ」に置き換えないことも、同じくらい大事です。
払う前に確かめる6つ、そして相談先
ここまでを、費用がかかる場面で使える形に組み直します。診療ガイドラインが挙げた「避けるべき手続き」の6つを、そのまま質問に変えたものです。方法の名前は問いません。
- 練習した場所の外で使えるようにする手立てはありますか。教室やセッションの中でうまく話せることと、職場や電話でそうなることは別です。日常のいろいろな場面へ持ち出す練習を含まないものは、避けるべき手続きの1つめに挙がっています。
- ぶり返したときは、どうするのですか。ぶり返しへの対処を含まないことも、避けるべき手続きの1つです。良くなった状態を保つためのプログラムは、効果のある治療に共通する要素のほうにも入っています。
- 長い期間、追いかけた記録はありますか。短期の成功はあるが長い期間の観察研究が無いもの、も避けるべき手続きです。「終わった直後」の感想ではなく、半年後・1年後がどうだったかを聞いてください。
- 呼吸やリラックスの技法だけに頼っていませんか。呼吸の調整やリラックスの技法「だけ」に依拠することは、避けるべき手続きに挙がっています。呼吸の調整そのものは、効果のある治療の要素の一つとしても挙げられています。問題は、それが唯一の柱になっているかどうかです。
- うまくいかなかったとき、誰の責任になりますか。吃音の原因やぶり返しの責任を本人や家族に負わせることは、避けるべき手続きです。「本気で信じていないから変わらない」という説明が出てきたら、この項目に当たります。
- 治ることを約束していませんか。目標と方法を、分かる言葉で説明できますか。治癒を約束し、治療の目標と方法を分かる形で説明しないことが、6つめです。前の節で見たとおり、きちんとした方法は「何を目標にして、何を測るか」を先に言います。
すでに通い始めている場合の目安もあります。同じガイドラインは、週に1回以上の頻度で3か月続けたあとには、治療の目標のどれかで明らかな改善が見えるはずで、見えなければ治療の方針を見直すべきだとしています。「もう少し続ければ」の連鎖から抜けるための、はっきりした区切りです。機器やソフトについても位置づけが書かれていて、話す速さの目安を与えたり自分の声を遅らせて返したりする装置は、使っている間は吃音をなくすことができるものの、日常的な治療の柱としては推奨できないとされています。話し方のなめらかさを改善するソフトは、推奨された療法の枠内で、療法士の監督のもとでのみ使うべきだ、とも。
相談先は、言語聴覚士(ことばと聞こえの専門職)、子どもなら地域の「ことばの教室」、大人なら吃音を扱う医療機関の外来です。日本の解説は、治療の中心を、周りの人の対応を変えること(環境調整と呼ばれます)・言語訓練・カウンセリング・心理療法や行動療法だとし、どの患者にも一様に有効な治療法はないので患者に応じて組み合わせる、と説明しています。青年期・成人については、言語訓練だけで改善する例は少なく、過半数で心理面の評価と対応も必要になる、とも書かれています。職場では、求めれば受けられる配慮(合理的配慮)を雇用主が行う義務があるとされ、そのためには吃音の診断書が必要とされることが多い、とも。
もう一つ、お金のかからない選択肢が、ガイドラインに1行だけ書かれています。自助グループへの参加は、臨床家の合意にもとづいて推奨されています。これは効果を測った研究にもとづく推奨ではなく、専門家の合意にもとづくものですが、この記事に登場した3人のうち2人が、たどり着いた先としてそこを挙げています。手技や体への施術については整体を扱った記事、霊的な意味づけについてはスピリチュアルを扱った記事に分けました。
上の6つは、診療ガイドラインが挙げた「避けるべき手続き」を、読者が使える質問の形に言い換えたものです。特定の資料が「確認の手順」として定めているものではありません。
「考え方を変えれば」で陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 「脳」「神経」という言葉を、研究の言葉と取り違える
方法の説明に「脳」や「神経」という語が出てくることと、その方法が吃音を変えると確かめられていることは、別のことです。診療ガイドラインが「使うべきでない」とした中には、分かる形の考え方を持たない吃音の療法が含まれています。理論の名前が科学的に聞こえるかどうかではなく、目標と方法が分かる言葉で説明されているか、そして日常への持ち出しとぶり返しへの備えがあるかで見てください。
落とし穴2 − 「不安が減る」を「どもりが減る」と読む
考え方に働きかける療法を発話の訓練と組み合わせた試験では、どもる頻度そのものは変わらず、不安と避ける行動が減りました。3週間の集中プログラムでも、自分で報告する不安が下がってもどもる頻度が自動的に減るわけではない、と結論されています。不安が軽くなること自体には大きな価値があります。ただ、それを「どもりが減る証拠」として売られたときに、期待と結果がずれます。何を目標にした方法なのかを、先に確かめてください。
落とし穴3 − 効いているかどうかを確かめないまま続ける
週1回以上を3か月続けたあとに、治療の目標のどれかで明らかな改善が見えないなら、方針を見直すべきだとされています。この判断には、通う前と通ったあとを見比べられる材料が要ります。どんな場面でどう出たか、どのくらい続いたかを日付とセットで書き留めておくと、専門職に相談するときにも、続けるかどうかを決めるときにも使えます。
まずは気づいたことを書き留めておくことから小さく始め、言語聴覚士やことばの教室に相談できる場合はそちらが確実です。
よくある質問
NLPで吃音は治りますか?
NLP(神経言語プログラミング)を吃音について調べた研究は、この記事の手元の資料にはありません。「効かない」と言い切る材料も、「効く」と言える材料も無い、というのが正確なところです。一方で、大人の吃音を治す方法は現時点では無く、どの技法も本質的に「補う」ためのもので、良くなった状態を保つには使い続ける必要があるとされています。日本の解説も、どの患者にも一様に有効な治療法はないと明記しています。
「思い込みを書き換えれば話せるようになる」という説明は、正しいのですか?
思い込みを扱うという発想自体は、医療の側にもあります。考え方と行動のクセに働きかける心理療法の中核は、他人から悪く見られるのではないかという思い込みを検討し直すことだとされています。ただし、それを発話の訓練と組み合わせた臨床試験の結果は、どもる頻度そのものには影響がなく、日常の話す場面での不安と避ける行動が減った、というものでした。「話せるようになる」と「不安が減る」は別の出来事として報告されています。
「治ります」と言われました。申し込んでいいですか?
診療ガイドラインは、治ることを約束し、治療の目標と方法を分かる形で説明しないことを、避けるべき手続きの一つに挙げています。ほかに、日常の場面へ持ち出す手立てが無い、ぶり返しへの対処が無い、長い期間の観察研究が無い、呼吸やリラックスの技法だけに頼っている、原因やぶり返しの責任を本人や家族に負わせる、という5つも挙がっています。申し込む前に、この6つをそのまま質問にして聞いてみてください。
通い始めましたが、効いているのか分かりません。いつまで続ければいいですか?
同じガイドラインは、週に1回以上の頻度で3か月続けたあとには治療の目標のどれかで明らかな改善が見えるはずで、見えなければ治療の方針を見直すべきだ、としています。あわせて、効果のある治療に共通する要素として、段階を追った自己評価と自己管理、良くなった状態を保つためのプログラムが挙げられています。通う前と後を見比べられる記録を自分でも持っておくと、判断しやすくなります。
では、どこに相談すればいいですか?
言語聴覚士、子どもなら地域の「ことばの教室」、大人なら吃音を扱う医療機関の外来です。日本の解説は、治療の中心を周りの対応を変えること・言語訓練・カウンセリング・心理療法や行動療法だとし、青年期・成人では言語訓練だけで改善する例は少なく、過半数で心理面の対応も必要になるとしています。自助グループへの参加も、臨床家の合意にもとづく推奨としてガイドラインに書かれています。
まとめ
- NLP(神経言語プログラミング)を吃音について調べた資料は、この記事の手元にはない。「効く」とも「効かない」とも書けないので、代わりに判断の物差しを置いた。
- ドイツの17の専門学会がまとめた診療ガイドラインは、行うべきでない治療(薬・リズムや呼吸だけを柱にすること・催眠・分かる形の考え方を持たない療法)と、避けるべき6つの手続きを名指しで書いている。方法の名前を知らなくても当てられる。
- 心の側への働きかけで動くのは、どもる頻度ではなく不安と回避のほうだと報告されている。「不安が減る」を「どもりが減る」と読み替えない。
- 心の側の方法をきちんと調べた試験は、何を測って何を測っていないかまで書く。効果を語る説明が、この形になっているかを見る。
- 大人の吃音を治す方法は現時点では無く、技法は補うもので使い続ける必要がある。週1回以上を3か月で目標のどれかに改善が見えなければ方針を見直す。相談先は言語聴覚士・ことばの教室・吃音を扱う外来。