まず結論から
- 吃音が適応として保険収載されている薬はありません。米国でも、吃音の治療薬として承認された薬はまだ1つもありません。
- それでも「効いた報告が無い」わけではありません。有効性が確立された薬物はないものの、3分の1程度の症例に有効だと報告されているものはある、というのが国内の資料の書き方です。
- 効果が報告されてきた薬には、重い副作用のために長く飲み続けられないという壁があります。世界の研究を集め直した2025年のレビューも、方法上の限界のために確定的な治療の推奨はできないと結論しました。
- 心療内科・精神科で薬が出るとき、それは吃音そのものではなく、吃音が原因となった二次的な抑うつや社交不安障害に向けられることがあるとされています。
- 不安をやわらげる系統の薬は、短期的に不安は下げたものの、なめらかさの改善は示しませんでした。
ただし、これは「薬に意味がない」という意味でも、「いま出ている薬が間違っている」という意味でもありません。何のために出ている薬なのかは、処方した医師にしか分かりません。気になることがあれば、自己判断で中止したり量を変えたりせず、処方元に確かめてください。
「吃音に効く薬がある」という話に行き当たったとき
薬にたどり着く入口は、たいてい診察室ではありません。話す場面が続いて行き詰まり、夜になって調べ始めた先で、誰かの書いた一行に出会う。そこから病院までは、思ったより短い距離です。
当事者本人(名義「わをん」さん・大学の研究室に所属していた当時の投薬を回想/note)
どうしたもんかとインターネットを徘徊していたところ、抗鬱薬や抗不安薬が吃音に効くと書かれたnoteを発見しました(今はないかも)。調べてみると、どうやら吃音に対する投薬治療は割と行われているようで、効果があったりなかったりするらしいです。
知るや否やすぐに近くの精神科に行き、吃りながら事情を説明して薬を処方していただきました。
研究室に所属し始め、発表の機会と学会が続くようになった時期のことです。本人はそれを「かなりキツかった」と書いています。手がかりになったのは、抗うつ薬や抗不安薬が吃音に効くと書かれた、別の人の投稿でした。ただ、この人はそこで止まらず、投薬治療が「効果があったりなかったりするらしい」というところまで確かめています。そのうえで、近くの精神科を訪ね、吃りながら事情を説明して処方を受けた——薬を探す人が実際にたどる道が、ここに一本そのまま残っています。では、その「効果があったりなかったり」を、資料の側はどう書いているのでしょうか。
出典: 吃音改善のためにSSRIと抗不安薬を飲んだ話(note)(台帳: V0297)
国内で吃音の治療を解説している資料は、この問いに一文で答えています。吃音に有効性が確立された薬物はない。ただし、3分の1程度の症例に有効だと報告されているものはある。そして、吃音が適応として保険収載されている薬はない——この3つが同じ段落に並んでいます。「効く薬は無い」とも「効く薬がある」とも言っていないところが大事です。
海外も同じ書き方です。米国の大学の研究者らがまとめた薬理学の総説は、冒頭で吃音の治療薬として承認された薬はまだ1つも無いと明言したうえで、脳の中で信号を伝える物質の一つ(ドーパミン)の働きを抑える薬が症状の重さを下げるという証拠は積み上がってきている、と続けます。
では、その研究はどれくらいの量と質で揃っているのか。決めた手順で世界中の研究を集め、質を評価しなおして束ねた報告が2025年に出て、それを数えています。集まったのは39の研究で、17の薬のグループと4つの食事療法が調べられていました。研究の87%は、青年期以降も続いている吃音を対象にしたものです。そして、くじ引きのようにして参加者を振り分けた試験(無作為化比較試験)19本のうち、偏りのリスクが低いか許容範囲と評価されたのは7本だけでした。このレビューの結論は、有望に見える所見はあるものの、方法上の限界のために確定的な治療の推奨はできないというものです。手元にある材料は、そういう状態にあります。
心療内科の扉を開いたとき、出てくるのは何の薬か
この語を調べている人の多くは、すでに行き先を決めています。「どこにかかればいいか」ではなく、「心療内科に行けば出してもらえるはずの薬」を探している。だとすると、大事なのは扉の向こうで何が起きるかです。
当事者本人(名義「Shu」さん・小学1年で発症、就職活動を機に受診/note)
初めての面接は今でも覚えています。汗をかき、自分の名前を言うのに10秒かかり、まともに受け答えもできない自分。大学生にとって就活は一大イベント。人生の終わりと思いました。
そこで私は心療内科の扉を開きました。そこで処方されたのはデパスという精神安定剤。
小学1年生の発表で言葉が飛び、笑われたことから吃音が始まったと書く人の記録です。音読で詰まる、自己紹介が地獄になる、レストランで注文ができない、美容室に電話ができない。行きたい美容院を予約するために別の美容院に電話をかけて練習し、アルバイト先の店では言えない音を時間外に練習し、呼吸法や発音法の情報商材まで買った。いずれも効果は無かった、と本人は書いています。大学では話さなくていい授業を選んで逃げ、逃げられなくなったのが就職活動でした。心療内科の扉が開くのは、その次の行です。そして出てきたのは、精神安定剤でした。この「何に対する薬なのか」という線引きを、国内の資料は正面から書いています。
出典: 吃音を治す薬物治療(note)(台帳: V0447)
同じ資料の同じ段落に、続けてこう書かれています。吃音が原因となった二次性の抑うつや社交不安障害に対しては、薬物療法が行われることもある。つまり、心療内科や精神科で薬が出るとき、その薬が向かっている先は、どもりそのものではなく、どもることをめぐって積み重なった落ち込みや、人前で話す場面への強い不安のほうであることがある、ということです。「心療内科に行けば吃音の薬が出る」と「心療内科では不安や落ち込みに向けた薬が出ることがある」——この半歩のずれが、薬をめぐる話をいちばん分かりにくくしています。
この半歩は、診断の側でも意識されてきました。米国の精神医学の診断基準は2013年の改訂で吃音の扱いを改め、診断名を変えたうえで、話す場面についての回避と不安を診断の基準に新たに加えています。同じ総説は、多くの人にとって回避と社交不安こそが最も生活を妨げる特徴だと明記しています。話しにくさそのものより、話す場面を避けるようになることのほうが生活を狭くする、という見方です。
数のうえでも、不安の併存はよく知られています。この総説が引くオーストラリアの研究では、吃音のある大人が何らかの不安症を持つ確率は6〜7倍高く、とくに人前で否定的に評価されることへの強い恐怖が続く状態(社交恐怖・社交不安障害)の基準を満たす確率は16〜34倍高かったと報告されています。不安の高さは、標準的な言語のプログラムの成果を悪くすることが多いとも書かれています。不安に手当てをする理由は、ここにあります。落ち込みや不安のほうが前面に出ているときの見分け方と相談先は、吃音の二次障害を扱った記事にまとめました。社交不安との合併そのものについては、社交不安を扱った記事で別に扱います。
不安がやわらぐことと、どもりが減ることは、同じではない
ここで多くの人がつまずきます。「不安が減れば、どもりも減るはずだ」——もっともらしく聞こえますし、実際にそう期待して薬を探す人が少なくありません。次の記録は、不安の側に薬が出た人のものです。
当事者本人(名義「のっとびりーず」さん・看護師、病棟から施設へ転職。転職後に出た吃音のような症状の記録/note)
そもそも心療内科に行くきっかけになったのは、始めからADHDの診断がしたいとか、発達障害系の薬がもらいたいからとかいった事ではない。転職後に鬼こわ御局き詰められ続けて突然職場で吃音のような症状が出てきて、声が出し辛くなった。これは仕事をする上で何か手を打たないといけないかもしれないというメンタル不調がきっかけ。
病棟の看護師から施設の看護師に移った人の記録です。転職後の職場で、ミスを逐一指摘され、常に視線で追われるという状態が続き、そのなかで吃音のような症状が出て、声が出しにくくなった。本人はそれを「仕事をする上で何か手を打たないといけないかもしれない」と受け止めて、心療内科を訪ねています。注意して読みたいのは、処方の宛先です。受診の結果、不注意の傾向が強いと伝えられ、そこから自己肯定感が下がったことに伴う二次障害的なイライラや不安症状に対して、ロラゼパムが処方されたと本人は書いています。吃音に向けて出された薬ではありません。では、不安の側がやわらぐと、どもりのほうはどうなるのでしょうか。
出典: 今週ストラテラもらうぞ!〜服薬前の困難感記録として〜(note)(台帳: V0449)
この記録は、子どものころに始まる発達性吃音ではなく、転職後のストレスのなかで出た「吃音のような症状」についてのものです。本人の経験であって、薬の効き目を示すものではありません。
薬の側の研究は、この問いにはっきり答えています。不安をやわらげる働きで知られる系統の薬(ベンゾジアゼピンなどの抗不安薬)は、短期的に不安を下げることは示されたものの、吃音のなめらかさの改善は示さず、有効成分の入っていない偽の薬と比べた利点も示されませんでした。同じ総説は、セロトニンという物質の取り込みを抑える系統の抗うつ薬についても、吃音には臨床的な反応が見られなかったと整理しています。抗うつ薬まわりの詳しい経緯は、パキシル(パロキセチン)を扱った記事にまとめました。
薬以外の方法でも、同じ向きの結果が出ています。大人向けの3週間の集中プログラムを評価した研究は、二つの結論を出しました。ひとつは、自分で報告する不安が下がっても、吃音の頻度が自動的に減るわけではないこと。もうひとつは、吃音の頻度が減らない場合でも、吃音にまつわる不安や回避のほうは扱えることです。考え方と行動のくせに働きかける心理療法(認知行動療法)を、話し方を組み立て直す訓練と組み合わせた試験でも、この心理療法は吃音の頻度そのものには影響しなかった一方で、日常の話す場面での不安と回避を減らしました。
つまり、不安とどもりは同じつまみで動く二つではありません。不安には不安として手当てをする値打ちがあり、それは「どもりを減らす手段」としてではない——いまの研究から言えるのは、そこまでです。
のみ続けること、減らすこと
薬を探している段階では、あまり考えない話があります。のみ始めたあと、それをどれくらい続けることになるのか。そして、やめたくなったときに何が起きるのか。
当事者本人(名義「紙飛行機」さん・43歳。職場で吃音を指摘されたことをきっかけに20年以上通院/note)
ストーカー被害や離婚、新生活のストレス……。
予期せぬ困難が重なり、減らすどころか薬の量はどんどん増えていきました。
現在、僕は43歳。
ようやく、本当の意味で薬を減らす方向へと進み始めています。
心療内科に通い始めたきっかけは、職場で吃音を上司に注意され、生きづらさを感じたことだったと書いています。「少しでもどもりを減らせないか」という思いで相談に行き、最初は緊張を和らげる頓服として薬が出された。それがいつから毎日になったのかは、はっきりした記憶がない——21歳の頃には、外泊先で「明日の分の薬がないから帰らなきゃ」と考えていた、と続きます。薬をやめさせてくれることで知られるクリニックに通って減薬に取り組んだこともありますが、引用にあるとおり、生活のほうが先に動きました。長く飲んでいた薬が製造中止になったときには、代わりがなかなか見つからず、吐き気やめまいに3か月以上苦しんだとも書いています。飲み続けることも、減らすことも、どちらも簡単ではない。研究の側が副作用について書いていることも、ちょうどこの幅に重なります。
出典: 心療内科との20年。薬と向き合い、見えてきた「希望」の話(note)(台帳: V0448)
2025年のレビューは、報告された副作用についてごく軽いものから、服用の中止に至るほど重いものまで幅が大きく、とくに従来型の抗精神病薬で顕著だったとまとめています。
その「中止に至るほど」の中身は、薬理学の総説が具体的に書いています。1980年の研究で流暢さの改善が示された第一世代の薬(ハロペリドール)は、不快感・性機能の障害・体の動きに関わる副作用などのために、長く飲み続けることが難しいと整理されています。第二世代のリスペリドンは吃音の重さを有意に下げた一方で、プロラクチンというホルモンの血中濃度を上げ、性機能の障害・乳汁の分泌・月経の停止を招きうるとされます。オランザピンは体の動きに関わる副作用は少ないものの、体重増加が大きいと書かれています。
ここに挙げた薬の名前は、研究で報告があった薬として出しています。読者が選べる選択肢として並べたものではありません。いずれも吃音を適応として承認・保険収載された薬ではなく、用量や飲み方についてはこの記事では扱いません。
つまり、この分野で繰り返されてきたのは「効かない」ではなく、「効いたという報告はあるが、続けられない」という形です。薬を検討するとき、効き目の話だけを聞いて決められないのは、このためです。
なぜ、承認された薬が1つも無いのか
ここまでを読むと、素朴な疑問が残ります。効いたという報告がこれだけあるのに、どうして承認された薬が1つも無いのか。薬理学の総説は、その理由を科学ではなく制度と経済の話として書いています。
薬物療法の有益性を示す研究は数多くあるのに承認された薬が無いことについて、著者らは、数億ドル規模の承認手続きに投資しようという企業が現れないからではないかと述べています。効果が示されてきた抗精神病薬はすでにすべて後発医薬品(ジェネリック)になっていて、特許の延長も無いため、その薬を吃音の治療薬として申請する経済的な動機が存在しない、という説明です。いま承認を目指して試験が進んでいるのは、特許のある2剤だけだとされています。
その2剤のうちの一つが、これまでの薬とは違う受け皿(D1受容体)に働くエコピパムです。大人を対象にした、参加者にも評価者にも何を飲んでいるか伏せていない研究で吃音の症状が改善し、体の動きに関わる副作用の報告は無く、体重も増えずむしろ減ったと報告されています。ただし、これは試験の段階の薬です。原典自身が、盲検化されていない小規模な研究だと断っています。いま処方してもらえる薬の話ではありません。
もう一つ、意外に思われるかもしれない現状があります。言語訓練と薬物療法を直接比べた試験は、まだ一つもありません。評価する人も対象になった人も違うため、既存の研究どうしを並べて比べることもできない、と書かれています。今後は同じ集団の中で、言語訓練だけ・薬だけ・両方の併用の3つを比べるべきだ、というのがこの総説の提案です。「薬と訓練、どちらがいいのか」という問いに、いまの研究はまだ答えを持っていません。
「いま飲んでいる薬のせいでは」と思ったとき
薬と吃音には、逆向きの関係もあります。薬を使ったことがきっかけで吃音が始まることがあり、研究では薬剤性吃音と呼ばれています。
2025年に、米国ヴァンダービルト大学メディカルセンターの電子カルテ(診療の記録を電子化したもの)から疑い例を洗い出した研究が出ました。疑われた40件を独立に検討しなおしたところ、22件(55%)が薬剤性吃音の可能性ありと判定され、18種類の薬が関わっていました。多かった分類は抗てんかん薬・中枢神経刺激薬・抗うつ薬です。大人の吃音は男性に多いのに、この研究の薬剤性吃音では女性のほうが多く、男性1に対して女性2.14の比でした。
この件数を「薬で吃音になる確率」と読まないでください。原典自身が、症例の拾い出しに使った仕組みが発達性吃音向けに作られたものであることや、読めない記録があることから、件数を過小に数えている可能性を述べています。この研究が示したのは「どれくらい起きるか」ではなく「どんな薬で報告されているか」です。
この研究には、受診する側にとって大事な指摘が二つあります。ひとつは、カルテの中に、新しく始まった吃音を薬の副作用によるものと書くことにためらいを見せている記録があったこと。もうひとつは、どの症例でも言語聴覚士への相談や紹介が行われていなかったことです。医療者は薬による影響の可能性を知り、いつ始まり、どう変わり、いつ消えたのかを丁寧に記録すべきで、医師と言語聴覚士の連携が要る、というのがこの研究の提言です。
心当たりがあるときに書けることは、ここまでです。自己判断で中止したり量を減らしたりせず、いつから何を飲み、話し方がどう変わったかを日付とともに書き出して、処方元の医師に伝えてください。この研究で取られていた対応も、医療者の判断による中止や減量でした。薬剤性吃音の詳しい内訳は、薬で出る吃音を扱った記事で図とともに整理しています。
薬のほかに何があるのか、どこに相談するか
「薬が主役ではない」と分かったとき、次に知りたいのは代わりに何があるかです。国内の資料は、治療の中心を周りの人の接し方や場面のほうを変えること・言語訓練・カウンセリング・心理療法や行動療法としています。そのうえで、どの人にも一様に有効な方法は無いので、その人に応じて(しばしば組み合わせて)選ぶことで、ある程度の有効率が得られることが多いとしています。
青年期以降の訓練には、大きく二つの流れがあります。一つは話し方に直接働きかける方法で、吃音が出にくいコントロールされた話し方を身につけるもの(流暢性形成法)と、楽にどもることを目標とするもの(吃音緩和法)があります。もう一つは話し方には直接触れない方法で、日常では話すことへの意識を向けず工夫や回避をしないようにしながら、寝る前に頭の中のイメージで話す練習をするもの(メンタルリハーサル法)です。どちらにも成果は上がっている一方で、前者は本来の話し方と違う不自然さへの違和感や効果の維持の難しさ、後者は平均2〜3年という時間が要ることが課題として挙げられています。日本医療研究開発機構(AMED)の研究事業から生まれた新しいグループ訓練は、そこから発想を変えて、意図的な発話のコントロールは練習せず、自然に楽に話せている力のほうを伸ばすという形を取っています。訓練の中身そのものは、訓練の技法を比べた記事にまとめました。
見通しについては、行動療法の総説が率直に書いています。大人の吃音を治す方法は現時点では無く、あらゆる技法は本質的に補うためのもので、良くなった状態を保つには使い続ける必要がある。だからこそ、どんな治療でも長期の方針を組み込み、本人が自分自身の指導者になれるように教え、長く続く相談の機会を用意することが欠かせない、という書き方です。同じ総説は、行動療法以外の選択肢として薬・自分の声を少し遅らせて聞かせる機器・鍼に触れ、鍼の効果も検討されたが結果は否定的だったとしています。
そのうえで、窓口を整理しておきます。
- 話し方そのものは、言語聴覚士のいる医療機関へ。子どもであれば地域の「ことばの教室」も相談先になります。何科にかかるかで迷っているときは、何科に行けばいいかを扱った記事を先に読んでください。
- いま飲んでいる薬のこと(飲み始めてから話しにくくなった、量を変えたい、やめたい)は、その薬を出した医師と薬剤師へ。自己判断で中止したり量を変えたりしないでください。
- 落ち込みや強い不安が前面に出ているときは、精神科・心療内科もあわせて検討します。吃音が原因となった二次的な抑うつや社交不安障害に対して、薬による治療が行われることもあるとされています。
- 職場や学校での困りごとには、薬以外の道もあります。国内の資料は、随意吃などで自分がどもることを周囲に伝えると心理的な負担が減り、楽にやりとりできるようになるとしたうえで、雇用主には吃音のある人から求められれば合理的配慮をする義務がある(面接時間を長くする、電話業務を免除するなど)ことにも触れています。ただしそのためには吃音の診断書が必要とされることが多い、とも書かれています。
薬を調べるときに陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 「不安に効く薬なら、どもりにも効く」と考える
不安をやわらげる系統の薬は、短期的に不安は下げたものの、なめらかさの改善は示しませんでした。自分で報告する不安が下がっても、吃音の頻度が自動的に減るわけではない、という結論も出ています。とはいえ、不安への手当てに意味が無いという話ではありません。吃音の頻度が減らない場合でも、吃音にまつわる不安や回避のほうは扱えるとされています。二つを分けて考えるほうが、期待も落胆も小さくて済みます。
落とし穴2 − 「効いた報告がある」を「選べる薬がある」と読む
効果が報告されてきた薬には、長く飲み続けられないという壁がついて回ります。2025年のレビューも、確定的な治療の推奨は出せないと結論しました。吃音を適応として承認・保険収載された薬は無く、承認薬が出ない理由は科学ではなく制度と経済の側にあると説明されています。報告があることと、いま選べることは、別の話です。
落とし穴3 − 市販薬・漢方・サプリを、処方薬と同じ棚に置く
薬局で買えるものも、漢方も、栄養のサプリメントも、「飲めば良くなるかもしれないもの」として同じ棚に置かれがちです。しかし、吃音を適応として保険収載された薬は無いとされており、承認された治療薬も無いという前提は、どの棚でも変わりません。2025年のレビューが食事療法として調べた4つ(銅・チアミン・緑茶・アーユルヴェーダのサプリメント)は、いずれも根拠が不十分と判定されました——効かないと証明されたのではなく、判断できるだけの証拠が無い、という意味です。漢方については柴胡桂枝湯を扱った記事、栄養のサプリメントについてはチアミン(ビタミンB1)の記事とホスファチジルセリンの記事、そしてサプリメント全体を扱った記事で、それぞれ何が言えて何が言えないかを分けて書いています。
どこに相談するにしても、手ぶらで行くより、いつから何を飲み、どの場面で話しにくさがどう変わったか(変わらなかったか)を日付とともに残しておくほうが、同じ事実をそのまま渡せます。記録を小さく続けることから始めるのが現実的です。発話や気分の記録を「見える化」できるアプリ(toVoice)はその手助けになりますが、記録と経過の把握を支えるものであって、治療を行うものではありません。
よくある質問
吃音症を治す薬はありますか?
吃音に有効性が確立された薬物はない、というのが国内の資料の書き方です。3分の1程度の症例に有効だと報告されているものはあるものの、吃音が適応として保険収載されている薬はありません。米国でも、吃音の治療薬として承認された薬はまだ1つもありません。2025年のレビューも、方法上の限界のために確定的な治療の推奨はできないと結論しています。
市販薬やドラッグストアで買える薬で、吃音に効くものはありますか?
手元の資料で確かめられるのは、吃音が適応として保険収載されている薬は無く、承認された治療薬も無いというところまでです。処方される薬にも吃音という効能は付いていない、という前提は市販の薬でも変わりません。個別の製品について「効く」と述べた資料は手元にないため、この記事では特定の商品をすすめることも否定することもしません。気になる製品があるときは、薬剤師に成分と効能効果を確かめてください。
心療内科や精神科に行けば、吃音の薬を出してもらえますか?
吃音そのものに向けた薬が出るとは限りません。国内の資料は、吃音が原因となった二次性の抑うつや社交不安障害に対して薬物療法が行われることもある、と書いています。米国の診断基準では、話す場面についての回避と不安が2013年の改訂で診断の基準に加えられており、多くの人にとって回避と社交不安こそが最も生活を妨げる特徴だとされています。何のために出ている薬なのかは、処方した医師に確かめてください。
漢方薬はどうですか?
漢方薬そのものを吃音について調べた資料は、この記事の手元にはありません。近いところでは、2025年のレビューが食事療法として調べた銅・チアミン・緑茶・アーユルヴェーダのサプリメントが、いずれも根拠不十分と判定されています。また、行動療法の総説は鍼の効果も検討されたが結果は否定的だったとしています。処方された漢方薬について確かめたいことは、柴胡桂枝湯を扱った記事に整理しました。
いま飲んでいる薬の副作用で、吃音が出ることはありますか?
報告はあります。米国の大学病院の電子カルテを調べた2025年の研究では、疑い例40件のうち22件(55%)が薬剤性吃音の可能性ありと判定され、18種類の薬が関わっていました。多かった分類は抗てんかん薬・中枢神経刺激薬・抗うつ薬です。ただし、この件数は発生率ではありません。心当たりがあるときは自己判断で中止せず、飲み始めた時期と話し方の変化を書き出して、処方元の医師に相談してください。
まとめ
- 吃音に有効性が確立された薬物はなく、吃音が適応として保険収載されている薬もない。米国でも承認された治療薬は1つもない。
- 「効いた報告」は存在するが、重い副作用のために長く飲み続けられないという壁がある。2025年のレビューも確定的な治療の推奨はできないと結論した。
- 心療内科・精神科で薬が出るとき、その薬は吃音そのものではなく、二次的な抑うつや社交不安障害に向けられることがある。不安をやわらげる薬は、なめらかさの改善は示さなかった。
- 承認薬が無い理由は科学ではなく制度と経済の側にある。効果が示されてきた薬はすでに後発医薬品で、承認申請をする動機が無いと説明されている。言語訓練と薬を直接比べた試験も、まだ1つも無い。
- 逆に、薬がきっかけで吃音が始まる報告もある。話し方そのものは言語聴覚士へ、薬のことは処方元へ。治療の中心は、周りの人の接し方や場面を変えること・言語訓練・カウンセリング・心理療法や行動療法で、組み合わせて選ぶとされている。