吃音のアイドル|本人の言葉・MCで言える名前・打ち明けの効果

吃音のアイドル|本人の言葉・MCで言える名前・打ち明けの効果
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「吃音(きつおん)があっても、アイドルになれるの?」「歌って踊る仕事なのに、話すときはどうしているの?」「推しの話し方が少し気になる。もしかして——」。自分にも吃音があって、アイドルや配信、声の仕事に憧れている方。応援している人の話し方が気になったファンの方。子どもが「アイドルになりたい」と言い出した保護者の方。入口はそれぞれでも、知りたいのは名前の一覧ではなく、「実際にどうしているのか」のほうではないでしょうか。

この記事は、名前を並べません(一覧の読み方は吃音の有名人の記事にあります)。アイドルとして活動しながら吃音を打ち明けた本人の言葉、吃音のある若者を接客の場に立たせたカフェの発起人の言葉、テレビに映る大人を見て考えた子どもたちの記録——この3つを、日本吃音・流暢性障害学会の解説、自分から吃音を明かすことを調べた系統的レビュー(条件を決めて研究を集め、まとめて評価した報告)、筑波大学の研究者らによる日本の当事者調査、国立障害者リハビリテーションセンター病院と日本言語聴覚士協会の相談先の案内と並べます。

ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる症状があるときは、言語聴覚士やことばの教室にご相談ください。

まず結論から

  • 吃音には、状況によって症状が出やすかったり出にくくなったりする特徴があり、歌を歌うとき・2人で声を合わせるとき・独り言を言うときなどに、一時的ですがなめらかに話せる(流暢になる)人が多い、と学会の解説は書いています。役を演じることも、一時的に流暢になる条件として総説に並んでいます。
  • 一方、MC・物販・自己紹介はその並びにありません。子どもの頃から始まるタイプの吃音(発達性吃音)は語や句の始めで目立ち、前と同じ音節で起こりやすい、と総説は述べています。グループ名や自分の名前は、名乗るたびにその「始め」に当たります。
  • アイドルとして活動しながら吃音を打ち明けた本人は、言いにくい言葉を言い換えて暮らし、名義も「どんなMCの時でもちゃんと言える名前」を優先して決めた、と書いています。言い換えで吃音は目立たなくなりますが、出ないかを日々警戒しながら生活するためストレスや悩みを抱え込みやすくなる、と学会の解説は書いています。
  • 自分から「吃音がある」と伝えること(研究の言葉では自己開示)については、18件の研究をまとめた系統的レビューがあり、18件のうち15件で全体として好意的な影響が示されました。謝るような言い方をしない伝え方のほうが、謝る言い方や伝えない場合より好意的に受け取られていました。ただし日本の当事者の調査では、伝える度合いは米国の調査より低いと報告されています。
  • 見られる仕事をしていても、相談してよい相手がいます。日本言語聴覚士協会は、スムースに話をすることが難しい吃音もことばの障害に含まれると明記しています。学校や職場では、発表や電話応対の免除、試験等での面接時間の延長といった配慮——法律の言葉では合理的配慮——を求めることができます。

ただし、この記事は実在の方の吃音の程度や現在の状態を判定するものではなく、本人が公表した範囲だけを扱います。また、自分から明かすことの研究は、ファンとの場面を調べたものではありません。伝える場面・年齢による違いは、そもそも調べた研究が少ないとレビュー自身が書いています。

「どんなMCの時でもちゃんと言える名前」——歌う時間より、話す時間のほうが長い

アイドルの仕事は、歌って踊る時間だけでできてはいません。曲の合間のMC、ライブ後の物販や特典会、配信、自己紹介。2023年3月末で卒業が決まっていたアイドルグループのメンバーが、2022年6月、自分の note で吃音を打ち明けました。理由として本人が挙げているのは、オーディションからちょうど1年がたったことと、近い将来、演技や配信の機会ができたことです。ダンスや歌がメインのライブや写真がメインのSNSとは違い、自分の言葉や声が商品や作品になる前に言わないと、もう打ち明けるタイミングはないと感じた、と書いています。

アイドルとして活動するRIN(リン)さん本人の声(個人ブログ note・2022年6月の投稿。幼い頃に吃音の診断を受けたと本人が書いている)

治したい、どうにかしたいといつも思っていても今現在、残念ながらわたしは治っていません。

なので実際にわたし自身はかなり言えない言葉が多く、上記の回避の中で特に言い換えはよく使います。わたしは母音の「i」や「a」が言いずらいので「アリス」というべきところを「不思議の国のアリス」と言ったり、「いぬ」が言えなくて「わんこ」と言い換えたりして暮らしています。

アイドルとしての名義を考えた時も優先事項はどんなMCの時でもちゃんと言える名前にしようと考えて、リンになりました。

ただ言い換えが役に立たない場面にも生きていると遭遇してしまいます。例えば接客業に挑戦した時はすごく苦労しました。「いらっしゃいませ」や「ありがとうございます」の言葉は替えがきかなくて、最初はなかなか言えませんでした。

幼い頃に診断を受けて以来、家族にも友人にもメンバーにも運営にもファンにも、打ち明けることはできなかった、と本人は書いています。グループ名の紹介で音を繰り返してしまい、「ごめんなさい、嚙んじゃいました」とごまかしたこと。高校生くらいから、喉が詰まって最初の音が出ない難発が増え、ライブ後の物販で「物販始めます」の最初の音がどれだけ息を吸っても言えず、泣きかけたこと。本人が挙げている場面はどれも、言葉の「始め」で起きています。母音の「i」と「a」が言いにくいから、名義は「リン」。言い換えのきかない「いらっしゃいませ」は、小さく発声してしのぐ。言葉のどこで吃音が目立つかは、研究の側でも整理されています。

出典: 好きとアイドルとわたしと吃音のおはなし(note)(台帳: V0393)

2004年に出た、吃音の原因を扱った総説は、発達性吃音の出方として、語や句の始め、長い語や意味の重い語、組み立ての複雑な文で目立つと述べています。同じ文章を繰り返し読むと頻度は下がっていき(適応)、しかも前と同じ音節で起こりやすい(一貫性)ことも書かれています。グループ名や自分の名前は、名乗るたびに「始め」に置かれ、しかも言い換えがききません。本人が「リン」という名義を「どんなMCの時でもちゃんと言える名前」として選んだことは、この性質に対する実際的な対処だったと読めます。

日本吃音・流暢性障害学会の解説は、吃音の特徴として、状況によって症状が出やすかったり出にくくなったりすることがあるとし、歌を歌うとき、2人で声を合わせるとき、独り言を言うときなどに一時的ですが流暢になる人が多いと書いています。脳の回路を扱った総説も、一時的に流暢になる条件として、誰かと声をそろえて話す・読むこと、メトロノームに合わせること、外国語のアクセントや役を演じることのような身についていない話し方、ホワイトノイズ、歌を並べています。ライブで歌う時間と、演技の時間は、この並びの中にあります。MC・物販・自己紹介は、ありません。なぜ歌うと出にくいのかはスキャットマンと吃音吃音と歌の記事が扱っているので、ここでは触れるにとどめます。

もう一つ、本人が書いていることがあります。自分で編集しているTikTokの動画では、吃音が出ていたところをすべてカットして繋げている。「編集は応急処置みたいなものです」と本人は書いています。学会の解説は、吃音を巧みに隠そうとして言いにくい単語を言い換えるなどの工夫をする場合、吃音は目立たなくなるが、実際は吃音が出ないかを日々警戒しながら生活しているため、ストレスや悩みを抱え込みやすくなると書いています。画面の中でなめらかに話す姿の裏で、言い換えと編集という二重の警戒が続いていた——本人の文章からは、そう読めます。動画で発信することそのものは、吃音と動画の記事で扱います。

「なぜあえて接客を?」——見られる場に、自分から立つ

アイドルの仕事に含まれる「人前に立って、見られながら話す」ことを、あえて選んだ人たちがいます。スタッフ全員が吃音のある人で営業するカフェ、「注文に時間がかかるカフェ」です。発起人は、幼い頃からカフェで働くことが夢だったと語る当事者です。始める前に相談した人たちからは「話すのが苦手な吃音者が、なぜあえて接客をやろうとするの?」「食券制にしたら?」と言われることも多かった、と記事は伝えています。

奥村安莉沙さん・「注文に時間がかかるカフェ」発起人(LIFULL STORIES のインタビュー記事。引用は本人の発言部分)

吃音がバレないように過ごすほうが、ある意味平穏なのかもしれません。ただ、そういう意見があるからといって『吃音があっても接客したい』『自信を持てるようになりたい』という吃音者の夢を『諦めなさい』と切り捨てていいわけじゃない。今、見えない存在とされている吃音者の認知を広めること、活躍する吃音者が増えることで、『バレないように過ごしたい』と考えている吃音者にとっても生きやすい社会が実現できるはず。時間はかかるかもしれませんが、『注カフェ』は続けていくべき活動だと思っています。ありがたいことに、今では批判のDMもほとんどなくなりました

小学3年生の授業参観で教科書を音読したあと、親友から「しゃべり方がうつるかもしれないから」もう遊べないと言われた——本人が自分の吃音に気づいたのはその日だった、と記事は伝えています。中学の自己紹介では名前を言おうとして喉が詰まり、先生の顔がこわばったのがショックだった。高校で出会った小説の一節から「吃音者になりきる」と決め、周りに「私、吃音なんです」と言えるようになる。オーストラリアのカフェで「こういう接客もありなんだ」と知る。帰国後に始めたカフェがテレビで取り上げられると、同じ吃音のある人たちから「吃音がバレてしまうじゃないですか!」というダイレクトメッセージが届きました。引用は、その声に本人が答えた部分です。「バレる」と「知ってもらう」のあいだの線は、研究の側では自己開示という言葉で扱われてきました。

出典: 吃音だと接客業はできない、なんてない。(LIFULL STORIES)(台帳: V0317)

自分から「吃音がある」と相手に伝えることを調べた研究を、2026年に出た系統的レビューがまとめています。レビューは自己開示を、吃音のある人が自分に吃音があることを自分から相手に伝えることと定義しています。条件を満たした量的研究は18件で、全体として好意的な影響が示されたのは18件のうち15件でした。このカフェの客は、注文に時間がかかることを先に知ったうえで席に着きます。「先に知られている場」に自分から立つというこのカフェの形は、自己開示と同じ向きを持っています。ただし、伝える場面による違いは、そもそも調べた研究が少ないとレビューは書いています。接客の場そのものを測った研究は、手元にありません。

「バレてしまう」というダイレクトメッセージには、日本の当事者の傾向が重なります。筑波大学の研究者らは、自助グループなどを通じて集めた日本の吃音のある成人180人に、自分から吃音を伝える度合いを測る尺度の日本語版で答えてもらい、その水準が米国の調査に答えた人たちより低かったと報告しています。伝える度合いが高いことと結びついていたのは、男性であること、自助グループに参加した経験があること、自分を受け入れている度合いが高いこと、吃音のある自分に否定的な見方を向けてしまう度合い(自己スティグマ)が低いことでした。著者らは、日本の当事者が伝えにくい傾向には社会文化的な違いが表れているのかもしれないと述べています。「バレないように過ごしたい」人と「知ってもらいたい」人が、同じ吃音のある人の中にいる。発起人が引用の中で認めていたことは、この数字の背景でもあります。

受験の面接で、面接官がテレビでこのカフェを見て吃音のことを知っていた——そんな連絡が発起人のもとに届いた、と記事は伝えています。先に知られている状態があると、本人が説明する負担は減ります。知られていないこと自体の負担は、吃音の認知度の記事で扱っています。

「テレビでは全然吃らないよ」——画面の向こうの大人を見た子どもたち

見る側、応援する側からは、何が見えているのでしょうか。ことばの教室(学校の中で、ことばの困りごとのある子どもが通う教室)の子どもたちが、吃音のある大人がどんな仕事をしているかを考えた記録が、担当教員の実践記に残っています。吃る人が身近にいない、またテレビにも出ないため、子どもたちは大人が吃りながらどう暮らしているのか、なかなかその様子を想像できずにいた、と教員は書いています。そこで、33の職業を並べて、吃る人がその仕事に就いているかを一緒に考えました。

ことばの教室の担当教員が記録した、通級する子どもたちのことば(自助団体のサイトに載った教員の実践記録。当事者本人の手記ではなく、支援者の職業上の記録である点に留意)

全部が○と分かると、パッと表情が明るくなった。全部の仕事に吃る大人が就いているという事実が、子どもたちに与えるインパクトは相当大きい。

ところが、しばらくすると「全部○にしなかった」と、×を付けたことを気にする様子が見られ始めた。理由を尋ねると、「普段は意識しないようにしていたけど、吃ると出来ないと思ったり、避けてることがあると気がついた」と言う。さらに、「アナウンサーの小倉さんは吃る人だと言ってたけど、テレビでは全然吃らないよ」「ビデオに出てきた先生、子どもたちの前では、ほとんど吃らない」と、仕事の時はあまり吃らないから、それほど苦労していない。あるいは、吃らなくなったから、その仕事に就いていると考える子どももいた。

表を前に、子どもたちは「先生やお医者さんは、相手に説明する時、吃ると通じないかもしれない」「消防士やガードマンは、早く伝えなければダメだから」と理由を挙げては×を付けていった、と教員は書いています。全部が○だと知って明るくなった表情が、しばらくすると曇ります。自分にも「吃ると出来ない」と避けていることがあった、と気づいたからです。そして出てきたのが、テレビの大人は吃らない、という観察でした。別の3年生の男の子は、「総理大臣とかプロ野球選手とかアイドルとか有名人になって、それから本当の吃音のことを話せば、みんながどもりのことを分かってくれる。そうすれば、吃ったままでも大丈夫」と考えをまとめていった、とも記録されています。画面の中の大人が吃らないように見える理由は、吃音の性質の側にもあります。

出典: ことばの教室の実践(日本吃音臨床研究会「吃音と上手につきあうための吃音相談室」)(台帳: V0046)

学会の解説が書いているとおり、吃音は状況によって出方が変わり、調子が良い状態・悪い状態が数週間から数か月にわたって続く「波」もあります。仕事の場面で出にくい人がいることと、吃音が無くなったこととは別です。加えて、この記事の最初に引いた note の書き手は、自分で編集できる動画からは吃音が出た箇所をすべてカットしていると書いていました。子どもたちが見ていた「テレビでは全然吃らない大人」には、その場では出にくいという吃音の性質と、出た場面が画面に残らないという作られ方の、両方が重なっています。長く話す仕事を続けた当事者本人の言葉は吃音症の芸人の記事に、名前の一覧の読み方は吃音の有名人の記事にあります。

3年生の男の子が言った「有名人になって、それから本当の吃音のことを話せば」は、実際に起きてもいます。英国の吃音支援団体 STAMMA が公開している著名人の一覧は、芸術・SNS・社会運動を通じて世間の見方を変えつつある人たちを紹介するのが目的だと冒頭で述べ、歌手や俳優、テレビの出演者と並んで、SNSで発信する人たちの区分を置いています。この記事の最初に引いた note は、その日本語の実例の一つです。ただし、有名な人が明かせば周りの見方が必ず変わる、と言えるだけの研究は手元にありません。レビューが集めたのは、話し手の側と、それを見聞きした観察者の側の指標で測った研究で、社会全体の見方の変化を測ったものではないからです。

打ち明けるなら、どう言うか——「同情しないで、笑わないで」の置き方

伝え方を比べた実験があります。模擬面接の冒頭で話し手が言うせりふとして、「始める前にお伝えしておきます。私には吃音があります。音や語句を繰り返すことがありますが、分かりにくいところがあれば遠慮なく聞き返してください」にあたる一文(事実として伝える言い方)と、謝る言い方と、何も言わない場合を用意し、観察者が印象を答えました。事実として伝えた話し手は、謝った話し手や何も言わなかった話し手より「友好的」と評定され、「自信がある」という評定では差がいちばん大きく、何も言わなかった場合との差が最も開きました。

系統的レビューも、謝らない形の伝え方のほうが、謝る形や伝えない場合より好意的に受け取られた研究が13件のうち12件だったとし、謝らない自己開示が、否定的な思い込みを向けられるかもしれないという負担(ステレオタイプ脅威)をやわらげるのを支持すると結論づけています。note の書き手が打ち明けの前に置いた、同情をしないで、笑わないで、無理に理解しようとしないで、可哀想だと思わないでただ読んでほしい、「へえ、そうなんだ。くらいの温度で」という言葉は、謝らずに事実として伝える形に近いと私は思います。ただし、それをこの研究が支持しているとまでは言えません。実験を行った研究チーム自身が、伝えることはすべての状況・すべての人に有益とは限らないと結論づけていて、レビューも、伝える場面・年齢による違いは調べた研究が少ないと書いています。ファンに向けて打ち明ける場面は、その「まだ調べられていない場面」に入ります。自己紹介や面接での伝え方は、吃音で自己紹介が怖い面接のカミングアウトの記事で扱っています。

見られる仕事をしていても、相談していい

人前に立てているからといって、困りごとが無いわけではありません。相談先を先に置いておきます。日本言語聴覚士協会は、聞こえやことばの障害、飲み込みの障害のある人を支援する専門職が言語聴覚士(ことばの専門職)だと説明し、専門知識と技術を用いて検査・訓練・指導や援助を行うとしています。同じページは、ことばの障害の種類を挙げるなかで、スムースに話をすることが難しい吃音もことばの障害に含まれると明記しています。

探し方には注意が要ります。吃音ポータルサイトは、言語聴覚士が国家資格で養成課程に吃音が含まれると説明したうえで、業務が多岐にわたるため、必ずしも全ての言語聴覚士が吃音の指導や支援を行えるわけではないと書いています。病院や協会、都道府県の言語聴覚士会に事前に問い合わせる、という手順もそこに示されています。大人向けの専門外来としては、国立障害者リハビリテーションセンター病院が成人吃音相談外来を設けていて、初診専用の外来なので予約センターで予約を取ったうえで受診するよう案内しています。受診希望者が多く予約が取りにくくなっているとも書かれています。

学会の解説は、本人が治療を希望する場合は言語聴覚士による発話訓練という選択肢があり、発話訓練だけで症状が改善しない場合や吃音に対する不安が強い場合はカウンセリングや心理療法が役立つこともある、としています。同じ立場の人と会う場もあります。学会は、吃音の自助団体について、当事者が「吃音があるのは自分だけではない」と認識し、共通の体験を語り合い、互いに援助し合うことが活動の中心だと説明しています。吃音ポータルサイトは、自助グループでは言語聴覚士のような学術的な知識や専門的な指導は受けられないと先に断ったうえで、同じ問題を持つ仲間と出会い、当事者同士でないと感じられない連帯感のなかで悩みを聞いてもらえる、と書いています。日本の当事者調査で、自助グループの経験が高い開示と結びついていたことも、あわせて思い出しておいてよいところです。

制度の側にもあります。学会の解説は、社会人では職場の電話応対が発話に困難を感じやすい場面として挙げられるとし、学校や職場では発表や電話応対の免除、試験等での面接時間の延長といった合理的配慮を求めることができ、その際に医師の診断書や言語聴覚士の報告書の提出などが求められる場合があると書いています。ステージやカメラの前で出なくても、事務所との電話や打ち合わせで困っているなら、それは配慮を求めてよい困りごとです。

次のようなときは、様子を見るだけにせず、相談を考えてみてください(当てはまらなくても相談して構いません)。

  • ステージや動画では出ないために「困っていない」と受け取られ、MC・物販・電話での困りごとを言い出せない
  • 言いにくい言葉を言い換え続け、動画も編集し続けていて、出ないかどうかを日々警戒するのがつらい
  • 打ち明けるかどうかで迷い続けて、話す場面や活動そのものを避けるようになってきた

この3つは相談を考えるきっかけとして挙げたもので、特定の資料が「受診の目安」として定めているものではありません。2つめの「隠すことの負担」は、学会の解説が書いている中高生以上・成人の特徴にもとづいています。

「アイドルにもいるのだから」で陥りがちな3つの落とし穴

落とし穴1 − 「ステージで歌えているなら、もう困っていない」と受け取る

歌や役を演じることは、一時的に流暢になる条件として並んでいますが、MCや名乗りはその並びにありません。発達性吃音は語や句の始めで目立ち、前と同じ音節で起こりやすいとされています。打ち明けた本人が「治っていません」と書き、名義を言える名前で選んでいるとおり、ステージで歌えていることは、困りごとが無いことの証拠にはなりません。周囲がここを取り違えると、本人は「あのときは話せていたのに」という言葉を受け取ることになります。

落とし穴2 − 「あの人が打ち明けたのだから、自分も言うべきだ」と自分を追い込む

自分から伝えることには好意的な結果が多く報告されていますが、実験を行った研究チームは、すべての状況・すべての人に有益とは限らないと結論づけています。日本の当事者は、伝える度合いがもともと低い傾向にあります。「バレないように過ごしたい」と考える人がいることは、カフェの発起人自身が引用の中で認めていました。伝えるかどうか、いつ・誰に・どう伝えるかは、本人が場面ごとに決めることです。

落とし穴3 − 推しの話し方から「あの人も吃音では」と推測して広める

英国の支援団体の一覧は、裏づけになる情報源が見つからない人物には名前の横に疑問符を付け、その理由を書き添えています。本人が公表していない吃音を推測して口にすることは、その人の健康の話を本人の手から離すことになります。吃音は、否定的な固定観念にもとづく偏見や差別と結びつきやすいと総説は述べています。打ち明けた本人も、声だけで配信していた時期に「どもり」としていじられ、吃音というレッテルは一度貼られたら剥がせないと気づいて泣く日があった、と書いています。この記事が扱ったのは、本人が自分の言葉で書き、その原文が残っている範囲だけです。

そのうえで、人前に立つ仕事をしているかどうかにかかわらず、記録は残しておくと役に立ちます。MC・物販・電話のどの場面で出やすかったか、どの場面では楽だったかを書き留めておくと、相談のときに自分の状態を説明しやすくなります。相談できる場合は、言語聴覚士に相談するのが確実です。

よくある質問

吃音のあるアイドルはいますか?

実在します。アイドルとして活動しながら、2022年に自分の note で吃音を打ち明けた本人の文章が公開されています。本人は、幼い頃に診断を受けたこと、言い換えで暮らしていること、名義を「どんなMCの時でもちゃんと言える名前」で選んだことを書いています。海外では、英国の吃音支援団体 STAMMA が、歌手・俳優・テレビの出演者・SNSで発信する人たちといった区分で一覧を公開し、本人の言葉を添えています。名前の一覧の読み方は吃音の有名人の記事にまとめてあります。

歌えるのに、MCや物販で詰まるのはなぜですか?

歌は、誰かと声をそろえること・メトロノーム・役を演じることなどと並んで、一時的に流暢になる条件として総説に挙げられています。学会の解説も、歌うときや2人で声を合わせるときに一時的に流暢になる人が多いと書いています。一方、発達性吃音は語や句の始めで目立ち、前と同じ音節で起こりやすいとされ、グループ名や自分の名前はその「始め」に毎回当たります。なぜ歌うと出にくいのかの仕組みはスキャットマンと吃音の記事で扱っています。

吃音があっても、アイドルや配信、声の仕事を目指せますか?

実際に活動している人がいます。ただしその仕事には、MC・物販・自己紹介・電話のように、一時的に流暢になる条件の外にある場面が含まれます。打ち明けた本人は、言い換えで吃音を目立たなくし、動画では出た箇所を編集で消していたと書いていますが、学会の解説は、隠す工夫は日々の警戒とストレスを伴いやすいとしています。目指すかどうかは本人が決めることで、困ったときの相談先として言語聴覚士や自助団体があります。

ファンに吃音のことを打ち明けたほうがいいですか?

「打ち明けるべき」と言い切れるものではありません。18件の研究をまとめたレビューでは15件で好意的な影響が示され、謝らない伝え方のほうが好意的に受け取られていました。ただし伝える場面や年齢による違いは調べた研究が少なく、実験を行った研究チームも、すべての状況・すべての人に有益とは限らないと結論づけています。日本の当事者の調査では、伝える度合いは米国より低く、自助グループの経験や自分を受け入れている度合いと結びついていました。決めるのは本人です。

推しのアイドルに吃音があるかもしれません。ファンはどう接すればいいですか?

本人が公表していないなら、推測して口にしないことです。英国の支援団体の一覧も、裏づけの取れない名前には疑問符を付けています。公表した本人は、同情しないで、笑わないで、「へえ、そうなんだ」くらいの温度で知ってほしい、特別扱いをしてほしいわけではない、と書いています。同時に、同じ吃音でも症状や望むことは人によって違うので、別の当事者に出会ったらその人の話を最後まで聞いてどんな対応をしてほしいのか知ってほしい、とも書いています。吃音は否定的な固定観念にもとづく偏見と結びつきやすいと総説は述べています。

まとめ

  • 吃音は状況によって出方が変わり、歌うとき・声を合わせるときなどに一時的に流暢になる人が多い。役を演じることも同じ並びにある。MC・物販・自己紹介はその並びにない。
  • 発達性吃音は語や句の始めで目立ち、前と同じ音節で起こりやすい。アイドルとして活動しながら打ち明けた本人は、名義を「どんなMCの時でもちゃんと言える名前」で選び、言い換えと動画の編集で吃音を目立たなくしていたと書いている。隠す工夫は日々の警戒とストレスを伴いやすい。
  • 見られる場に自分から立つ人もいる。全員が吃音のあるスタッフのカフェの発起人は、「バレないように過ごしたい」人がいることを認めたうえで、活躍する当事者が増えることがその人たちにとっても生きやすい社会につながると語っている。自分から伝えることは18件中15件で好意的だが、日本の当事者は伝える度合いが米国より低い。
  • テレビの大人は吃らないと子どもたちが考えた記録がある。仕事の場面で出にくいことと、出た場面が画面に残らないことの両方が重なっている。有名な人の公表が社会の見方を変えるかどうかを測った研究は手元にない。
  • 見られる仕事をしていても相談してよい。吃音はことばの障害に含まれ、全員が吃音を扱えるわけではないので事前の問い合わせが要る。大人の専門外来は予約制。電話応対の免除などの合理的配慮を求めることもできる。

参考文献

  1. 日本吃音・流暢性障害学会「吃音(きつおん)について」(広報委員会作成・2023年10月)
  2. Büchel & Sommer (2004) What Causes Stuttering? PLoS Biology 2(2).(吃音の原因を扱った総説)
  3. Craig-McQuaide, Akram, Zrinzo & Tripoliti (2014) A review of brain circuitries involved in stuttering. Front Hum Neurosci.
  4. Coalson, Rodriguez, Albaum, Allen & Byrd (2026) Self-disclosure of stuttering: A systematic review. J Fluency Disord.
  5. Byrd, Croft, Gkalitsiou & Hampton (2017) Clinical utility of self-disclosure for adults who stutter: Apologetic versus informative statements. J Fluency Disord.
  6. Iimura, Takahashi, Aoki, Yoshizawa, Yanai, Miyamoto & Boyle (2026) Relationships between psychosocial aspects of stuttering and self-disclosure of stuttering in a Japanese sample. J Fluency Disord.(筑波大学ほか)
  7. STAMMA(英国の吃音支援団体)「Influential People who Stammer」
  8. 一般社団法人 日本言語聴覚士協会「言語聴覚士に相談する」
  9. 吃音ポータルサイト「成人吃音のある方への支援・相談」
  10. 国立障害者リハビリテーションセンター病院「成人吃音相談外来」

当事者の声の出典: V0393(note・アイドルとして活動するRINさん本人の投稿)/ V0317(LIFULL STORIES・「注文に時間がかかるカフェ」発起人 奥村安莉沙さんへのインタビュー記事)/ V0046(日本吃音臨床研究会「吃音相談室」・ことばの教室担当教員の実践記録)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-09-05 公開