まず結論から
- 公式サイトには、東京都墨田区両国にある吃音・どもりの治療専門の治療院であること、受付は多忙のためメールのみで行っていること、そして「頑張り次第で3ヶ月で改善出来ます」という案内が書かれています。
- 同じサイトが示す吃音の説明は、間違った発声法と間違った言葉のリズムが癖として定着したもの、というものです。一方、幼児吃音臨床ガイドラインは、発症の原因として最大のものは遺伝要因で7割程度、より直接的には脳の中で発話に関わる領域どうしのつながりが不良になっていることだとしています。
- 体験談ページには6人分の感想が、いずれも治療院側の解説つきで載っています。これは治療院が自分で選んで掲載したもので、第三者が確かめた記録ではありません。
- 学齢期の子どもへの治療について日本語の文献を網羅的に集めた報告では、条件に合った40本の大半が、1人または少人数の経過を追った記録でした。研究の世界でも、この分野の材料の多くは個別の事例の積み重ねです。
- 消費者庁は、一般の人が事業者の表示だと見分けにくい表示(いわゆるステルスマーケティング)が2023年10月1日から景品表示法違反になったと告知しています。感想の形をしたものを読むときは、誰が載せたものかを先に確かめてください。
ただし、この記事は特定の治療院を勧めるものでも、勧めないものでもありません。掲載された感想が本当かどうかを外から判定することはできませんし、この記事にもその手段はありません。できるのは、書かれている内容が何に由来するのかを見分けることと、同じ疑問を公的な窓口にぶつけ直すことだけです。
公式サイトに何が書かれ、何が書かれていないか
最初にするのは、感想を読むことではなく、その治療院が自分のページで何と名乗っているかを読むことです。杉吃音治療院のトップページは、東京都墨田区両国にある吃音・どもりの治療専門の治療院だと名乗っています。冒頭には、第一声がぱっと出ない、就職活動の面接でうまく話せない、電話に出るのが苦手、人前で話すことに恐怖を感じる、といった困りごとが箇条書きで並びます。そのうちの一つに「ネット商材で治らなかった」という項目があり、ここを見に来る人がすでに何かを試したあとであることが、ページの側でも想定されています。
案内として書かれているのは、受付が多忙のためメールのみであること、頑張り次第で3ヶ月で改善できるとしていること、アナウンサーの発声法と声・滑舌を身につけながら改善できるとしていること、そして電話・発表・プレゼンに効果があるとしていることです。サイトのメニューには、吃音克服法、レッスン案内、体験談、Q&A、予約・問い合わせが並びます。所在地の表記には「杉鍼灸院内」と添えられています。
吃音そのものの説明も書かれています。言いにくさを感じながら話し続けるうちに予期不安(また詰まるのではないかという、話す前の身構え)や苦手意識ができ、それが発語のためらいを生む。そうして本来の発声法と言葉のリズムが少しずつ変わり、間違った発声法と間違ったリズムが癖として定着したものが吃音だ、という組み立てです。だから正しい発声法とリズムを新しい良い癖として身につければ改善できる、と続きます。
ここが、公的な資料と読み比べられる一点目です。幼児吃音臨床ガイドラインは、発症の原因として最大のものは遺伝要因であり7割程度を占めること、より直接的な原因は脳の中で発話に関わる領域どうしの解剖的・機能的なつながりが不良になっていることだと書いています。同じガイドラインは、保護者が子どもの発話を気にしたり注意したりする行為や、育て方が悪いせいで吃音が生じるという説は否定されている、とも明記しています。どちらが正しいかをこの記事が決めるのではなく、説明が食い違っていることを知ったうえで、受ける説明を聞いてほしいということです。
では、書かれていないことは何でしょうか。ここで言えるのは、この記事が保存したトップページと体験談ページの2つの範囲についてだけです。その範囲には、担当者の国家資格の名称も、料金の金額も、施術者が所属する学会や公的な認定も見当たりません。書かれていないから無いという意味ではありません。問い合わせのときに自分から聞く項目になる、という意味です。なお、吃音に対する言語訓練は医療としても教育としても扱うことができ、教育として行う場合には専門的資格が要求されないこと、そして吃音の専門家の認証システムや登録システムがわが国には現時点で無いことは、ガイドライン自身が書いています。肩書きの有無だけで線を引けない理由はここにあります。
「何とかしたい」と思って、自分で通い先を決めるとき
体験談を読む前に、体験談を読んでいる自分のほうを一度見ておきます。通い先を探しているとき、人はたいてい「もうこれしかない」という気持ちで探しています。その気持ちの温度が、そのまま読み方に影響します。自助団体の会員が、自分が10代で通い先を決めたときのことを書いた記録があります。
当事者の声(東京言友会会員/当事者団体のサイトに載った回想・PART2)
学校の成績表を見るたびに、また自分が情けないと思い、いつも人の影に隠れている自分を見て、また自分が情けないと思い、こんな私は本当に劣等生で何のとりえもない人間なんだと思いました。
何のとりえもない私ですが、これでは本当に自分が惨めなので、どもりだけは何とかしたいと思うようになり、確か中学3年生頃、私は吃音の矯正所に自分の意思で行くことにしました。
決め手として書かれているのは、施術の内容でも、誰かの感想でもありません。「これでは本当に自分が惨めなので」という一行です。中学3年生が、親に連れられてではなく自分の意思で通い先を決めた——その順番を、本人が20年以上あとに振り返って書いています。この記録には続きがあり、通って1か月ほどで、それまでうまくできなかった朗読がつっかえずにできるようになり、朗読については自信がついたと本人は書いています。そのあと、母親と吃音の話をすると口論になったことも書き添えられています。本人にとって何が変わったのかは、本人にしか書けません。だからこそ、他人の感想を自分の判断に使うときには、その感想が何を測ったものなのかを見る必要があります。
出典: 遅れてすみませんが言えず、部活の先輩には言い換えていた(吃音とつきあう会)(台帳: V0454)
感想と研究の距離は、研究の側の事情を知るとはっきりします。あらかじめ探し方と選び方を決めてから、条件に合う文献を網羅的に集め、まとめて評価するやり方があります。学齢期の子どもへの治療について、1980年から2020年までに日本語で発表された文献をこのやり方で集め直した報告を見てみます。条件に合ったのは40本で、その大半は症例集積(何人かの経過をまとめた記録)か単一事例研究(1人の経過を詳しく追った記録)という形式でした。40本から179の介入プログラムが拾い出され、言語療法・心理療法・環境を調整する介入などに分類されています。
この報告の結論は、日本で学齢期の子どもに使われている治療の全体像を示せた一方で、今後は、学齢期の子どもへの吃音治療の効果を確立するために、より信頼でき、体系的で、厳密なエビデンス(研究で確かめられた裏づけ)を集める必要がある、というものでした。専門家が学術誌に発表した記録ですら、多くは個別の事例の積み重ねだということです。施設のページに載る感想は、それよりさらに手前にあります。
訓練の部屋の中で話せることと、外で話せること
体験談に多いのは「レッスンで教わったことをやったら、こう変わった」という記述です。ここで分けて考えたいのが、訓練の場で出せるようになった話し方と、日常の場で出せる話し方は同じかどうかという点です。1960年代に東京の吃音矯正所へ入寮した人が、教わった話し方を街で使ってみたときのことを書いています。
当事者の声(伊藤伸二さん・日本吃音臨床研究会会長/同会サイトに載った本人の歩み。当時は大学1年生)
息子の副院長は、アメリカの治療法を勉強して、どもる不安や恐怖があっても、どんどんしゃべろうと、わざとどもる「随意吃音」や、「軽く、楽にどもる方法」を教えてくれた。
院長の方法で、喫茶店で「カーレーラーイース」と言うと、嫌な顔をされ、笑われた。どもらないが、僕のことばじゃない。どもって自分のことばで言った方がよほどいいと思った。
場面は喫茶店です。教わったとおりに引き伸ばして注文すると、詰まらずに言えた。その代わりに、店の人に嫌な顔をされ、笑われた——書かれているのはこの順番だけで、感情の説明は足されていません。引用の中に出てくる「随意吃音」は、わざと軽くどもってみせる練習のことで、この人はそれを教わったと書いています。同じ寮生活について本人は、30日の間に自分の吃音は治らなかったこと、そこに来ていた300人のうち誰ひとり治らなかったこと、それでも初めて大勢のどもる人に出会えてほっとしたことを、並べて書いています。変わったことと変わらなかったことが、同じ記録の中に同居している——感想を読むときに探したいのは、この同居のほうです。
出典: 伊藤伸二の歩み(日本吃音臨床研究会)(台帳: V0124)
研究の側でも、ここは長く課題として残っています。吃音の分野で根拠にもとづく実践がこの20年でどこまで進んだかを点検した論考は、進んだ点を挙げたうえで、いくつかの懸念を並べています。吃音の性質を理解するための基礎研究と、実際に患者に対して使われている治療との間に隔たりが続いていること、治療の中で何が変化を生んでいるのかという仕組みの理解が足りないこと、そして早い時期の吃音への治療が、自然に収まっていく経過よりはっきり優れていると言えるかどうかを見きわめるのが難しいことです。同じ論考は、裏づけの弱い介入や助言が、就学前を過ぎても吃音が続く子どもに及ぼしうる悪い影響についても論じています。
「自然に収まっていく経過」というのは絵空事ではありません。幼児吃音臨床ガイドラインは、幼児期の発症率がおよそ8%、自然治癒率は70〜80%と考えられているとしています。大半は始まってから3〜4年までに自然に治り、人口比で1%前後の人が学齢期以降まで持続する、という見取り図です。同じガイドラインは、発吃からの経過が長くなるにつれて治癒の確率は減少するとも書いています。つまり、年齢が上がってから通い始めた人の変化と、小さい子どもの変化を、同じ物差しで並べることはできません。
「良くなった」は、何が変わったことを指すのか
感想の中でいちばん判断が難しいのが、「良くなった」という言葉そのものです。何がどうなったことを指しているのかは、書いた人ごとに違います。前の節に出てきたのと同じ人が、60年近くたってから新聞のインタビューに答えています。同じ人の、二つの時点の記録として読んでください。
当事者の声(伊藤伸二さん・当時82歳/新聞のインタビュー記事。前の節と同じ話者の、約60年後の発言)
「昔と比べて随分しゃべれるようになったが、訓練のおかげではない。仲間と気分良くしゃべっているうちに自然に変わっていく」
そう確信する伊藤さんだが94年、言友会とたもとを分かった。吃音への考え方が違うと感じたためだ。現在は「日本吃音臨床研究会」(大阪)の会長として、相談会などを開催。
21歳で矯正所に入った人が、82歳で「随分しゃべれるようになった」と言っています。変化そのものは起きた、と本人が認めている。そのうえで、その変化の理由を訓練には置いていません。記事には、この人が相談会で「治らない」と伝えるため子どもが泣いてしまうことがあると語り、それでも「どもっていても大丈夫」と伝え続けている、とも書かれています。同じ人の中で、話しやすさの変化と、吃音への向き合い方の変化が別々に進んでいる——これは一人の経験ですが、何を「良くなった」と呼ぶかで答えが変わることを、はっきり見せてくれます。
出典: 「吃音者宣言」から半世紀(中日新聞)(台帳: V0119)
大人の支援では、この「別々に進む」部分が正面から扱われています。吃音の研究プロジェクトの治療解説は、話し方の訓練だけで改善する例は少なく、過半数で心理面への対応が必要になるとしたうえで、考え方と行動の両方に働きかける方法(認知行動療法)や、自分が吃ることを周囲に開示して協力を求めるという、周りの接し方や場面のほうを変える進め方を挙げています。同じ解説は、わざと吃ってみせるなどして吃ることを宣伝すると心理的な負担が減り、楽にやりとりができるようになると書いています。話す行為そのものから注意が外れるので、かえって話し方のほうも改善しやすい、という説明です。
薬についても同じ解説がはっきり書いています。吃音に有効性が確立された薬物は無く、3分の1程度の症例に有効だと報告されているものはあるものの、吃音が適応として保険収載されている薬はありません。吃音が原因となった二次的な抑うつや社交不安障害に対して薬物療法が行われることはある、という区別も書かれています。体験談ページには、中学3年生のときに精神科で処方された薬を1年間のんだが変わらなかった、という記述を含む感想が載っています。効かなかった話も、効いた話と同じだけ、何を測ったのかを見て読む必要があります。
体験談や感想を読むときの4つの見方
ここまでの材料から、読み方を4つに絞ります。どれも良し悪しを判定するものではなく、目の前の文章が何に由来するのかを見分けるための物差しです。
1. 誰が載せたものかを最初に見る。杉吃音治療院の体験談ページには6人分の感想が載っており、宮城県の26歳、滋賀県の19歳、東京都の17歳、千葉県の20歳、埼玉県の37歳、愛知県の45歳という内訳です。いずれも感想のあとに治療院側の解説が付き、どんな計画でレッスンを組んだかが説明されています。これは治療院が自分のページに自分で選んで掲載したもので、第三者が集めたものではありません。消費者庁は、景品表示法が商品やサービスの品質・内容・価格などを偽って表示することを厳しく規制し、消費者がより良い商品やサービスを自主的かつ合理的に選べる環境を守る法律だと説明しています。さらに、一般の人が事業者の表示であることを判別することが難しい表示について指定と運用基準を定め、2023年10月1日からいわゆるステルスマーケティングが景品表示法違反になったと告知しています。事業者が自分で載せた感想は、それが事業者の表示だと分かる形で置かれている限り、この規制の問題ではありません。問題になるのは、事業者の表示だと分からない形で置かれている場合です。だから読む側がすべきなのは、告発ではなく確認です。
2. 載っていない人のことを数に入れる。6人分の感想から分かるのは、その6人が何を書いたかだけです。通ったが変化が無かった人、途中でやめた人、戻った人が何人いたのかは、ページからは分かりません。これは特定の治療院の話ではなく、自分のページに感想を載せるすべての事業者に共通する構造です。同じことを研究の側でやると、あらかじめ探し方と選び方を決めてから文献を網羅的に集め、条件に合ったものを全部数えます。「良かった話だけを選べない仕組み」があるかどうかが、感想と研究をいちばん強く分けます。
3. 期間と年齢を、自分の条件と突き合わせる。体験談ページに載る6人のうち、短期の集中レッスンで5日間に10レッスンを2回受けた人、4日間で変化を感じたと書く人、3か月で24回通った人、8か月・10か月・11か月と続けた人がいます。年齢は17歳から45歳まで開いています。治療院側の解説には、若い人は早く改善する、40代でも改善できる、といった説明が添えられています。読むときは、自分の年齢と使える時間に近い人の記述だけを見るほうが役に立ちます。幼児吃音臨床ガイドラインは、幼児期の自然治癒率を70〜80%とし、発吃からの経過が長くなるにつれて治癒の確率は減少すると書いています。年齢が違えば、そもそも比べている前提が違います。
4. 説明の中身を、公的な資料と1か所だけ突き合わせる。全部を照合する必要はありません。1か所でいいので、受けた説明と公的な資料を並べてみてください。たとえば体験談の1件には、指導者の言葉として、吃音は遺伝ではなく、周りに吃音のある人がいると幼児期にその口調を無意識に真似てしまって吃音になることがある、という説明が紹介されています。幼児吃音臨床ガイドラインは、発症の原因として最大のものは遺伝要因であり7割程度を占めるとし、双生児を対象にした研究で一卵性のほうが二卵性より一致率が数倍高いことを根拠に挙げています。同じガイドラインは、育て方が悪いせいで吃音が生じるという説は否定されているとし、吃音症状を叱ったり吃音が育て方のせいだとする指導には、行わないよう勧められるという最も強い否定の評価を付けています。説明の食い違いに気づいたら、そのまま質問にすればいい——それが、この照合の目的です。
この4点は、施設の良し悪しを判定する基準ではありません。読む側が同じ物差しで比べられるようにするための確認事項です。
お金を払う前に確かめられる、公的な相談先
民間の治療院を検討する場合も、しない場合も、公的な入口は別にあります。しかも多くは先に相談できます。幼児吃音臨床ガイドラインは、相談先の種類として、幼児の吃音の治療経験がある言語聴覚士のいる病院やクリニック、自治体の小児リハビリテーションセンター、大学教育学部に付属する発達や言語の相談室を挙げ、地域の児童発達支援センターには言語聴覚士が在籍する場合が多く吃音の相談窓口になっているとしています。就学後は小学校の通級指導教室(ことばの教室)が指導にあたり、就学前相談を受けている地域もあります。
ただし注意も書かれています。同じガイドラインは、相談に対応する機関の多くは治療には対応できないことも多いと明記しています。相談窓口と治療の場は別だということです。また、専門家が不足している現状を前提に、自然治癒をできるだけ生かすために直接的な治療介入に入る時機を妥当な範囲で遅らせる、という優先順位の付け方も示されています。待たされることには理由がある一方で、専門としていない施設での経過観察はしばしば放置も同然になる場合があり、その間に保護者の不安が解消されないという問題も、同じ節に書かれています。
地域から探すときの入口も公開されています。東京都言語聴覚士会は、会員の所属施設を市区町村別に並べた一覧をサイトで公開しており、病院・リハビリテーション施設・療育センター・教育相談所などが並びます。一部の施設は詳細欄まであり、対象とする障害に吃音を挙げているところもあります。⚠ この一覧には2020年11月末現在と明記されているので、現在の受け入れ状況は各施設に確認する必要があります。また、一覧の大半は施設名だけで対象が分からないため、ここに載っていない施設が吃音を扱わないという意味にもなりません。
大人の場合、訓練の中身の前提を知っておくと選びやすくなります。吃音の研究プロジェクトの治療解説は、話し方の訓練だけで改善する例は少なく、過半数で心理面への対応が必要になるとしています。また、障害者差別解消法などにより、雇用主は求められれば合理的な配慮をする義務があるとし、面接時間を長くする、電話業務を免除するといった例を挙げています。ただしこのためには吃音の診断書が必要とされることが多い、とも書かれています。診断書が要る手続きがある以上、医療機関との接点は、民間の通い先とは別に作っておく価値があります。
相談に行くときは、日付と場面と、そのとき何が言えて何が言えなかったかを書いたメモを持っていくと話が早くなります。紙のノートで構いません。
感想を読むときに陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 掲載された感想を、通った人全員の結果として読む
ページに並ぶのは、載せることにした感想です。通ったが変化が無かった人の記録は、そもそもそこには置かれません。これは特定の施設への非難ではなく、自分のページに感想を載せるという形式そのものが持つ性質です。研究の側がこの偏りを避けるために何をしているかを見ると、違いが分かります。学齢期の子どもへの治療を集めた先ほどの報告は、探し方と選び方を先に決め、条件に合った40本を全部数えたうえで、結論としてもっと信頼できる体系的な裏づけが必要だと書いています。数えた分母が見えるかどうかを、最初に確かめてください。
落とし穴2 − 「治った」と書かれた期間を、自分の見込みとして持ち帰る
体験談に出てくる期間は、4日から11か月まで大きく開いています。年齢も17歳から45歳まで幅があります。どれか一つを自分の見込みにすると、そのとおりにならなかったときに、自分の努力が足りないという結論に行き着いてしまいます。幼児吃音臨床ガイドラインは、吃音の始まりからの経過が長くなるにつれて自然に治る確率は減少するとしており、年齢と経過年数で前提が変わることを示しています。他人の期間は、自分の期間の予測にはなりません。
落とし穴3 − 説明の食い違いに気づいても、聞かずに帰ってくる
受けた説明と公的な資料が違うことに気づいたとき、その場で聞くのは気まずいものです。それでも、聞けるのは通う前だけです。たとえば原因の説明は、公的なガイドラインでは遺伝要因が最大で7割程度とされ、育て方が原因という説は否定されています。ここが食い違っているなら、「その説明はどの資料に基づいていますか」と尋ねれば済みます。答えの内容よりも、答えられる形で説明が返ってくるかどうかが判断材料になります。研究の側も、治療の中で何が変化を生んでいるのかという仕組みの理解が足りないことを、残された課題として挙げています。分からないことを分からないと言えるかどうかは、それ自体が一つの手がかりです。
聞いた内容は、その場でメモに残しておいてください。
よくある質問
杉吃音治療院は病院ですか?
公式サイトは、東京都墨田区両国にある吃音・どもりの治療専門の治療院だと名乗っており、所在地の表記には「杉鍼灸院内」と添えられています。この記事が保存したトップページと体験談ページの範囲には、担当者の国家資格の名称は見当たりません。医療機関かどうかは、問い合わせのときに確かめる項目になります。なお、吃音の専門家の認証システムや登録システムはわが国には現時点で無いと、幼児吃音臨床ガイドラインが書いています。
公式サイトに載っている体験談は信用していいですか?
本当かどうかを外から判定する手段は、読む側にはありません。分かるのは、それが治療院自身が選んで掲載したもので、第三者が集めたものではないということです。消費者庁は、一般の人が事業者の表示だと判別しにくい表示を規制の対象に加え、2023年10月1日からいわゆるステルスマーケティングが景品表示法違反になったと告知しています。事業者のページに事業者の名前で載っている感想は、この規制の対象とは別の話です。読む側がすることは、載っていない人の存在を数に入れることです。
「3ヶ月で改善」という案内は、どう受け取ればいいですか?
公式サイトには、頑張り次第で3ヶ月で改善できるという案内が書かれています。一方で、幼児吃音臨床ガイドラインは幼児期の自然治癒率を70〜80%とし、発吃からの経過が長くなるにつれて治る確率は減少するとしています。また、早い時期の吃音への治療が自然に収まっていく経過よりはっきり優れていると言えるかどうかを見きわめるのは難しい、と研究の側も課題に挙げています。期間の案内は、自分の年齢と経過年数に置き換えて聞き直すのが安全です。
吃音に効く薬はありますか?
吃音に有効性が確立された薬物は無く、3分の1程度の症例に有効だと報告されているものはあるものの、吃音が適応として保険収載されている薬はないと説明されています。吃音が原因となった二次的な抑うつや社交不安障害に対して、薬物療法が行われることはあるとされています。
通う前に、無料で相談できる場所はありますか?
幼児の吃音の治療経験がある言語聴覚士のいる病院やクリニック、自治体の小児リハビリテーションセンター、大学教育学部に付属する相談室、地域の児童発達支援センターが相談先として挙げられており、就学後は小学校の通級指導教室(ことばの教室)が指導にあたります。ただし、相談に対応する機関の多くは治療には対応できないことも多いとされています。東京都内であれば、東京都言語聴覚士会が会員の所属施設一覧を公開していますが、2020年11月末現在の情報なので各施設への確認が要ります。
まとめ
- 公式サイトには、東京都墨田区両国の吃音・どもり治療専門の治療院であること、受付はメールのみであること、頑張り次第で3ヶ月で改善できるという案内が書かれている。
- 吃音の説明として「間違った発声法と言葉のリズムが癖として定着したもの」と書かれている。幼児吃音臨床ガイドラインは、原因として最大のものは遺伝要因で7割程度、より直接的には脳の中で発話に関わる領域どうしのつながりの不良だとしている。
- 体験談ページの6人分の感想は、治療院が自分で選んで載せたもの。載っていない人のことを数に入れて読む。事業者の表示だと判別しにくい表示は、2023年10月1日から景品表示法違反になっている。
- 読み方は4点——誰が載せたか、載っていない人はどうか、期間と年齢は自分と近いか、説明を公的な資料と1か所だけ突き合わせたか。
- 払う前に相談できる公的な窓口がある。ただし相談に対応する機関の多くは治療には対応できないことも多い。東京都内の施設一覧は公開されているが2020年11月末現在の情報。