まず結論から
- 「た行が言えない」というとき起きていることは、多くがことばを出せずに間があいてしまう症状——難発(ブロック)です。思春期以降は、繰り返しや引き伸ばしよりもこの形が中心になるとされています。
- 吃音の出方には3つの形があります。音を繰り返す連発(例「か、か、からす」)、音を引き伸ばす伸発(例「かーーらす」)、ことばを出せずに間があいてしまう難発(例「・・・・からす」)です。
- どんな詰まり方をするかは、その語の最初の音とゆるやかに対応しているようです。英語を話す人の会話を分析した研究では、名詞や動詞などの語について、音の一部を繰り返す詰まり方は主に閉鎖音——口の中をいったん閉じてから開いて出す音——で起こり、引き伸ばしは主に息をこすらせて出す音で起こっていました。日本語のタ行のはじめの音は、口をいったん閉じて開く音の仲間です。
- 日本語を話す成人15人が意味のない語を音読した研究では、子音で始まる語で詰まりやすい人のまとまりと、母音で始まる語で詰まりやすい人のまとまりの二つが現れました。「特定の行だけがつらい」という実感は、この個人差として観察されています。
- ただし、すべての人にとって特に難しい音というものは見つかっていません。研究をまとめた総説は、個人差がとても大きいので、どの音が言いにくいかは本人に尋ねるのが専門家にとって最もよい方法だとしています。
ただし、ここで引いた研究は、英語を話す人の会話か、日本語を話す成人15人の音読を調べたものです。英語の結果を出した研究自身が、日本語には英語のような短い機能語が無いので、同じ対応が日本語でも成り立つかは確かめる必要があると書いています。「た行だから必ず詰まる」と決まっているわけではなく、あなたのた行がどうかは、記録と専門家との相談で見ていくことになります。
気づくのは、たいてい自分の名前を言う場面
た行の言いにくさに気づくきっかけは、特別な場面ではないことが多いようです。名字がた行で始まる人にとっては、名乗るという毎日の動作がそのまま関門になります。バンドのギタリストとして活動する当事者が、自分に何が起きたのかを手記に書いています。
当事者本人(実名で手記を公開・バンドのギタリスト/NPO法人日本吃音協会のメディア掲載)
役所、ホテル、飲食店、電話問合せ、電話予約etc。これらの場面での僕の様子が変わってきた。あれ?電話や受付で名前が言えない。何やこれ。緊張してるのか?いや、緊張するような局面ではない。ただただ口から言葉が出てこない。名前を無理やり引っ張り出そうとすると「タ、タタ、タッタナカです」となる。何じゃこれは。
並んでいるのは、どれも名乗ることが求められる窓口です。本人が書きとめているのは、緊張する場面ではないのに言葉が出てこない、という食い違いのほうでした。同じ手記では、この先の就職活動の面接や、店の予約、なくした財布のカードを止めてもらう電話まで、名乗る場面が続いていくことへの不安が並べられています。学会資料は、どもらないための工夫として、ことばを言い換える、言いやすい言葉を最初に言う、といった方法があることを紹介していますが、自分の名字にはその逃げ道がありません。
出典: ばあちゃんの戸籍に入るよ(HAPPY FOX・NPO法人日本吃音協会)(台帳: V0208)
吃音は、話し言葉がなめらかに出ない発話障害だと説明されています。そして学会資料は、吃音に特徴的な中核症状として3つを挙げています。
- 連発(れんぱつ):音を繰り返す。例「か、か、からす」
- 伸発(しんぱつ):音を引き伸ばす。例「かーーらす」
- 難発(なんぱつ):ことばを出せずに間があいてしまう。例「・・・・からす」
先ほどの「タ、タタ、タッタナカです」は、1つめの連発にあたる出方です。いっぽう「た行が言えない」という言い方でよく指されるのは、3つめの難発のほうでしょう。学会資料は、思春期以降になると症状の中心が連発や伸発から難発へ移っていくとしています。同じ「た行が苦手」でも、年齢によって出方の中身が入れ替わっていく、ということです。
「か行とた行」は、100年前の手記にも書かれている
「た行が苦手」という訴えは、今に始まったものではありません。大正時代に書かれた自叙伝に、陸軍幼年学校の食堂で立たされた場面が残っています。
大杉栄(1885-1923)。少年時代を回想した自叙伝の一節/青空文庫で公開
けれども僕には、そのかという音が、どうしても出て来なかった。吃りにはか行とた行、ことにか行が一番禁物なのだ。いわんや、さらにその下にもう一つか行のげが続くのだ。
「上弦でありません。」
仕方なしに僕はそう答えた。
「それでは何だ?」
「上弦でありません。」
「だから何だと言うんだ?」
「上弦でありません。」
「だから何だ?」
「上弦でありません。」
「何?」
「上弦でありません。」
問い返されればますます言葉の出て来ない僕は、軍人らしく即答するためには、どうしてもそう答えるよりほかに仕方がなかった。それを知っているみんなはくすくす笑った。
夕飯の席で、教官が出した質問は「きょうの月は上弦か下弦か」というものでした。答えが「下弦」だと本人は知っていた、と書かれています。それでも「か」が出てこないので、言えるほうの言葉を使って「上弦でありません」と答えるしかなく、問い返されるたびに同じ返事を繰り返し、罰として外出禁止を言い渡されます。本人は別の箇所で、父親が広告で見つけた「吃音矯正」の薬を買って試したが効き目はなかったとも書いています。言えない語を、言える語で回り道して置きかえる——学会資料が、どもらないための工夫として挙げている言い換えと、同じ形の動きです。
出典: 自叙伝(青空文庫・大杉栄)(台帳: V0501)
研究の側も、ずいぶん前から同じところを見てきました。総説によれば、20世紀の前半から半ばにかけて、吃音のある大人に文章を音読してもらい、どの語でどもったかの割合と場所を数えた一連の研究があります。そこから出てきた整理の一つが、母音で始まる語より子音で始まる語のほうがどもりやすい、というものでした。た行・か行はどちらも子音で始まる行です。
ただし総説は、そのすぐあとにこう続けます。どの音でどもるかは吃音のある大人の間で非常に個人差が大きく、すべての人に当てはまる「言いにくい音の順位表」があるとは確かめられていない。だから専門家がこの点を確かめる最もよい方法は、どの音がなめらかに出しにくいと感じるかを本人に尋ねることだ、と述べています。100年前の手記に書かれた「か行とた行」は、その人にとっての順位表であって、みんなの順位表ではない、ということになります。
人前で話す仕事と吃音は、両立しないわけではない
「言葉が出ない自分に、話す仕事は無理だ」と考えて進路を狭めてしまうことがあります。先ほどの手記の書き手も、教師という夢を諦めた理由として、クラスに苦手な音で始まる名字の生徒がいたらどうするのか、という想像を挙げていました。けれど、話すことが仕事の中心にありながら吃音と向き合っている人もいます。
当事者本人(実名で発信する舞台役者・財前優一さん。連声型・無声型と自述/個人ブログ note)
ここで行わないといけない事は情緒性反応を探る事です。情緒性反応とは、吃音の予期や不安、いわゆる、自分が拒否反応を示すセリフに目星を付けていきます。私の場合は母音始まりの言葉に苦手意識があるので、そのセリフをなんとなく覚えておきます。
そのあと私が、苦手なセリフを何度も練習すると思っている方。それは間違いです。何度も練習すれば治る程度でしたら、そもそもこんなに困りません。
これは、稽古の最初の段階である「本読み」で自分がしていることの説明です。台本を手にした時点で、詰まりそうなせりふに目星を付けておく。ただし、そこを繰り返し練習するわけではない——「今回は母音で始まるのが少ないからラッキー」という程度に留めておく、と書かれています。手当ては次の段階で打たれます。動線や配置を決める立ち稽古では、コンビニ店員の役で「ありがとうございました」と言うときに頭を下げる動きを足すというように、動作を添える。それでも残ったせりふは、通し稽古の段階で脚本家や演出家に相談し、同じ意味の別のせりふに替えてもらう。本人は、不安を残して舞台に立つのは自分の精神状態にもよくないので、この時は恐れることなく相談しましょう、と書いています。学会資料も、どもらないための工夫として、ことばを言い換えるという方法を紹介しています。
出典: 吃音症でも舞台役者になれるのか(note・財前優一)(台帳: V0037)
学会資料が、発話に困難を感じやすい場面として挙げているのは、中高生では部活動や入学面接、大学生ではゼミの発表や就職活動、社会人では職場の電話応対です。どれも、言うべき言葉があらかじめ決まっている場面です。そして総説は、吃音のある大人からよく聞かれる訴えとして、話し始めさえ越えられればこんなに詰まらないのに、というものを紹介し、それを発話の前半に詰まりが集まるという所見と結びつけています。
同じように、準備の量で不安に手当てをしている人はほかにもいます。静岡新聞の連載「吃音と歩む 思い伝えたい」に登場した俳優の谷田歩さん(47)は、舞台の稽古や映画・テレビドラマの撮影が始まる前に、出演者の誰よりも台本を読み込むと紹介されています。本人の言葉として引かれているのは「台本の練習は最低100回。完璧にしないと怖くて人前に立てないから」というもので、記事は、吃音と向き合いながら作品に臨む日々を伝えています(静岡新聞DIGITAL。無料で読めるのは冒頭部分のみ)。学会資料は、発話場面での失敗体験が重なると、話し始める前に不安や恐怖を感じるようになると説明しています。
なお、ここで紹介した稽古や準備の仕方は、この人たちが自分の仕事の中で選んだやり方であって、誰にでも勧められる対処法として書かれたものではありません。学会資料は、本人が吃音の治療を希望する場合には、言語聴覚士による発話訓練を受けるという選択肢があるとしています。
苦手な行は、その人の中でも入れ替わる
「た行が言えない」という状態は、一生固定されたものなのでしょうか。人前で話す機会がまったく無かった1年をはさんで、苦手な行の顔ぶれが変わったと書いている人がいます。
当事者本人(大学生。もともと「か行」が苦手で、のちに苦手な行が「た行」のみになったと自述/個人ブログ note)
この先の人生も含めて、唯一丸1年間吃音と無縁なのは、この浪人の1年だけだろう。1年間ただ勉強するだけで、人前で発表することは一度もない。本当に精神的に気楽であった。そして浪人時代になぜか、「か行」が少し言いやすくなったが、なぜか「さ行」が少し言いづらくなった。
僕の情報収集不足かもしれないが、苦手な「行」は変わることがあるなんて知らなかった。「さ行」は言いづらいと言っても少しであり、「あ行」は高校時代にある程度良くなっていたので、本当に苦手な行は「た行」のみとなった。
入れ替わりが起きたのは、人前で発表する機会が1年間まったく無かった時期でした。か行が少し言いやすくなり、代わりにさ行が少し言いづらくなる。その結果、この人にとって本当に苦手な行は「た行」だけになった、と書かれています。本人はそれを「知らなかった」と振り返っています。苦手な行が変わりうることは、当事者にもあまり知られていないようです。学会資料も、調子の良い状態あるいは悪い状態が数週間から数か月にわたって続く人が多く、こうした症状の変動を「波」と呼ぶと説明しています。
出典: 吃音東大生の辛い人生(note・寛容植物)(台帳: V0207)
この記事に登場した4人が挙げた苦手な行を並べると、た行、か行とた行、さ行、あ行とばらばらで、同じ人の中でも時期によって入れ替わっていました。総説が、すべての人にとって特に難しい音は見つかっておらず個人差が大きいと整理しているのは、こうした散らばりのことです。「た行だけ」と枠を決めてしまうより、いま自分がどの音・どの場面で詰まっているかを、そのつど書きとめておくほうが役に立ちます。
研究は「た行の音」をどこまで説明できているか
ここからは、研究の側が何を言えているのかを見ていきます。先に断っておくと、日本語の「た行」という単位で調べた研究は、この記事が引いた範囲には出てきません。研究が扱っているのは、もっと細かい音の作り方という単位です。
吃音が続いている話者の自由な会話を書き起こし、語のはじめの音の作り方と、どんな詰まり方をしたかの対応を調べた研究があります。この研究は、語を2種類に分けて分析しています。「the」「on」のような、文をつなぐための短い語と、名詞や動詞のように意味を運ぶ語です。前者は母音で始まるものが多く、まとめて数えると分布が偏ってしまうためだと説明されています。
結果はこうでした。文をつなぐ短い語では、語をまるごと繰り返す詰まり方が多く、意味を運ぶ語では引き伸ばしなど他の詰まり方が多い。そして意味を運ぶ語の中を見ると、音の一部を繰り返す詰まり方は主に閉鎖音——口の中をいったん閉じてから開いて出す音——で起こり、引き伸ばしは主に息をこすらせて出す音で起こっていました。ことばが途切れる詰まり方も、意味を運ぶ語では引き伸ばしの側ではなく、繰り返しと同じように閉鎖音で起こりやすかったと報告されています。
日本語のタ行のはじめの音は、舌を上あごにいったんつけてから離して出す音で、この閉鎖音の仲間です。ここから「た行では、繰り返しや、ことばが途切れる形の詰まり方が出やすいのではないか」と読むことはできます。ただし、この対応づけは記事側の読み方であって、この研究が日本語のタ行について確かめたことではありません。研究自身が、日本語には英語のような短い機能語が無いため良い検証の対象になること、意味を運ぶ語で見られた対応は日本語でも成り立つと予想されるが確かめる必要があることを、そのまま書いています。なお、この研究の参加者は男性に大きく偏っており(男女およそ4.5対1)、そのことは論文自身が限界として挙げています。
では、日本語を話す人を対象にした研究はどうでしょうか。自分には吃音があると答えた成人15人が、長さと親しみやすさをそろえた意味のない語190個を音読し、1回ごとに自分の詰まり具合を4段階で評価した研究があります。19種類の語頭の音ごとに評価をまとめて分類したところ、子音で始まる語で詰まりやすいまとまりと、母音で始まる語で詰まりやすいまとまりの、二つのグループが現れました。さらに、鼻から息が抜ける音(ナ行やマ行のはじめの音がこれにあたります)はどちらのグループでも詰まり具合が軽く、口の中で息をせき止める性質や、のどの奥で息を止める性質は、子音で詰まりやすいグループでだけ詰まり具合を重くしていました。
この論文は、参加者を「母音で詰まりやすい型」と「子音で詰まりやすい型」に分けることで、日本語の吃音における語頭の音の役割について、これまで食い違っていた報告を整理できると述べています。そして、こうした下位の型があることを知っておくことは今後の研究と臨床にとって重要で、一人ひとりの音の感じやすさを考える必要があるとしています。「自分はた行がつらい」という実感は、集団の平均から外れた例外ではなく、型の違いとして観察されているものだということです。
最後に、この手の結果を読むときの注意を一つ。総説は、語の長さ・文の中での位置・品詞・語のはじめの音といった要因は互いに絡み合っていて、どれがどれだけ効いているのかを切り分けるのは難しいと述べています。長い語ほどどもりやすいこと、その言語で使われる頻度が低い珍しい語ほどどもりやすいことも、繰り返し確かめられています。「た行だから」の一言で説明がつく話ではない、ということです。さらに総説は、ここまでにまとめてきた知見の大半が、一つの言語だけを話す人、それも多くは英語を話す人から得られたものだと断っています。
相談先と、学校や職場に求められること
「た行が言えない」で生活に支障が出ているとき、相談先は年齢によって分かれます。
- 幼児期・学齢期の子ども:小児を扱う言語聴覚士や、ことばの教室の教員に相談できます。そこでは、楽に話しやすくなるように周りの人の接し方や場面のほうを整える方法、発話に直接働きかける方法、吃音のことを理解する方法などを、年齢や状態に合わせて指導します。
- 中高生以上・成人:本人が吃音の治療を希望する場合、言語聴覚士による発話訓練を受けるという選択肢があります。発話訓練だけで症状が改善しない場合や、吃音に対する不安が強い場合は、カウンセリングや心理療法が役立つこともあるとされています。
- 自助団体:ほかの吃音のある人と出会うことが、吃音を否定的に捉えることが減るといった心理的な変化のきっかけになることもあります。1965年に発足した「言友会」は日本で最も歴史が古い団体として紹介されています。
相談のときに持っていくと話が早いのは、次の3つです。どの言葉・どの場面で詰まったか(総説は、どの音が出しにくいかは本人に尋ねるのが最もよい方法だとしています)。どんな詰まり方だったか——繰り返しか、引き伸ばしか、間があいたか。そして、調子の良い時期と悪い時期の波があるか。
制度についても触れておきます。子どものころに始まる吃音(発達性吃音)は、2005年に施行された発達障害者支援法の対象に含まれています。また、2016年に施行された障害者差別解消法により、学校や職場での吃音に対する差別的な言動や扱いは禁止されており、発表や電話応対の免除、試験等での面接時間の延長といった合理的配慮を求めることができます。ただしその際、医師の診断書や言語聴覚士の報告書の提出などが求められる場合があります。社会人の場合は、吃音について上司や同僚に相談することで、職場の配置や電話業務などで配慮を得られることがある、とも書かれています。
「た行が言えない」で陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 「た行の発音練習」で直そうとする
た行の音そのものを作れないのか、作れるのに出てこないのかで、話は変わります。吃音として説明されているのは後者——言いたい音は決まっているのに、なめらかに出てこない状態のほうです。学会資料が挙げている支援は、周りの人の接し方や場面のほうを整えること、発話に働きかけること、吃音のことを理解することで、音の作り方のドリルとは出発点が違います。どちらなのか迷うときこそ、自己流で練習を積む前に相談したほうが近道です。
落とし穴2 − 「た行がダメな人間」と自分を決めつける
この記事に登場した4人の苦手な行は、た行・か行・さ行・あ行とばらばらで、同じ人の中でも時期によって入れ替わっていました。総説も、すべての人にとって特に難しい音は見つかっておらず個人差が大きいと整理しています。学会資料は、調子の良い状態・悪い状態が数週間から数か月続く波があるとしています。いま苦手な行が、この先ずっと同じとは限りません。
落とし穴3 − 言い換えでしのぎ続け、誰にも言わない
言い換えはその場を乗り切る工夫ですが、学会資料は、吃音を巧みに隠そうとして言いにくい単語を言い換えると、吃音は目立たなくなる一方で、実際には吃音が出ないかを日々警戒しながら生活することになり、ストレスや悩みを抱え込みやすくなると述べています。中高生は吃音の悩みを一人で抱え込み、打ち明けられないことが少なくないとも書かれています。相談できる先は上のとおりです。
相談の前にできるのは、詰まった言葉・場面・その日の調子を書きためておくことです。記憶だけに頼ると、印象の強い失敗ばかりが残り、言えた日のことが抜け落ちます。記録そのものは治療ではありませんが、相談のときに渡せる材料になり、波を振り返る手がかりにもなります。
よくある質問
た行だけが言えないのは吃音ですか?
吃音の可能性があります。言いたい音は決まっているのに、なめらかに出てこない状態が吃音として説明されており、その出方には音を繰り返す連発、音を引き伸ばす伸発、ことばを出せずに間があいてしまう難発の3つがあります。一方で、音そのものをうまく作れず、いつも別の音に置きかわってしまう場合は、発音(構音)の側の話になります。どちらか迷うときは、言語聴覚士やことばの教室に相談してみてください。
なぜ「た行」が苦手になるのですか?
た行だけを取り出して説明できる研究は、この記事が引いた範囲にはありません。総説は、母音で始まる語より子音で始まる語のほうがどもりやすいとされてきたと紹介しつつ、すべての人に当てはまる「言いにくい音の順位表」は確かめられておらず、個人差がとても大きいと整理しています。日本語を話す成人を調べた研究でも、子音で始まる語で詰まりやすい人と、母音で始まる語で詰まりやすい人の二つのまとまりが現れました。
「タ、タタ、タ…」と繰り返すのと、何も出てこないのは別の症状ですか?
どちらも吃音の中核症状として挙げられているもので、前者が連発(音の繰り返し)、後者が難発(ことばを出せずに間があく)にあたります。思春期以降は、繰り返しや引き伸ばしよりも難発が中心になっていくとされています。英語を話す人の会話を分析した研究では、意味を運ぶ語について、音の一部を繰り返す詰まり方とことばが途切れる詰まり方が、どちらも口の中をいったん閉じて出す音で起こりやすいと報告されています。
苦手な行は、そのうち変わることがありますか?
変わることがあります。この記事で紹介した当事者も、人前で話す機会が無かった1年をはさんで、苦手な行の顔ぶれが入れ替わったと書いています。学会資料は、調子の良い状態あるいは悪い状態が数週間から数か月にわたって続く人が多く、この変動を「波」と呼ぶと説明しています。どの音が言いにくいかは一人ひとり大きく違うため、専門家も本人に尋ねて確かめるのが最もよい方法だとされています。
人前で話す仕事は、吃音があると無理でしょうか?
一律に無理とは言えません。実際に、話すことが仕事の中心にありながら吃音と向き合っている人がいます。ただし学会資料は、発話場面での失敗体験が重なると話し始める前に不安や恐怖を感じるようになるとも述べています。負担が大きいときは、学校や職場に対して発表や電話応対の免除などの合理的配慮を求めることができ、社会人では上司や同僚への相談から職場の配置や電話業務での配慮につながることもあるとされています。
まとめ
- 「た行が言えない」で起きているのは、多くがことばを出せずに間があいてしまう難発です。吃音の出方には連発・伸発・難発の3つがあり、思春期以降は難発が中心になっていきます。
- 英語を話す人の会話を分析した研究では、意味を運ぶ語について、音の一部を繰り返す詰まり方は口の中をいったん閉じて出す音で、引き伸ばしは息をこすらせて出す音で起こりやすいと報告されています。日本語のタ行は前者の仲間ですが、この対応が日本語でも成り立つかは、研究自身が「確かめる必要がある」としています。
- 日本語を話す成人15人の音読を調べた研究では、子音で始まる語で詰まりやすい人と、母音で始まる語で詰まりやすい人の二つのまとまりが現れました。「特定の行だけがつらい」は、型の違いとして観察されています。
- すべての人にとって特に難しい音は見つかっておらず、個人差が大きいため、どの音が言いにくいかは本人に尋ねるのが最もよい方法だとされています。苦手な行は、その人の中でも入れ替わります。
- 相談先は、子どもなら小児を扱う言語聴覚士やことばの教室、中高生以上・成人なら言語聴覚士による発話訓練やカウンセリング、自助団体です。学校や職場には、発表や電話応対の免除といった合理的配慮を求めることができます。