まず結論から
- 「カ行が言えない」には二つの中身があります。音そのものをうまく作れないのか、言いたい音は決まっているのに、なめらかに出てこないのか。後者が吃音です。診断の分類でも両者は別の項目として並べられています。
- 吃音の「言えない」は、繰り返す・引き伸ばす・間があいて出てこない、の3つの形で現れます。
- 手がかりは「波」です。吃音には状況によって症状が出やすかったり出にくくなったりする特徴があり、歌や独り言では一時的になめらかになる人が多いとされます。
- 「カ行だから難しい」とは言い切れません。研究をまとめた総説は、すべての吃音のある成人にとって特に難しい音というものは無く、個人差がとても大きいと整理しています。
- 発音の問題か吃音か迷うときも、相談先は同じです。学会資料は、小児を扱う言語聴覚士や、ことばの教室の教員に相談するようすすめています。
ただし、ここに挙げた手がかりは相談のときに伝える材料であって、自分で診断をつけるための基準ではありません。学会資料は、吃音に比較的多い併存症(合わせもつことのある状態)の一つとして構音障害を挙げてもいます。「どちらか一方に決める」のではなく、「どちらがどれだけ起きているか」を専門家と見ていくのが実際的です。
「カ行が言えない」には、二つの中身がある
この言葉は、性質のちがう二つの悩みをまとめて指してしまいがちです。一つは、音そのものをうまく作れず、いつも別の音に置きかわってしまう悩み。これは一般に発音の問題として語られ、「構音(こうおん)の問題」と呼ばれます。もう一つは、言いたい音ははっきりしているのに、その音が口から出てこない悩みです。
後者がどういう感覚なのかは、経験した人の言葉がいちばん早く伝えてくれます。
当事者本人(実名で手記を公開・バンドのギタリスト/NPO法人日本吃音協会のメディア掲載)
何かの拍子で、小学校の時に入っていたソフトボールチームの監督の「多田(タダ)監督」と言わなければならないタイミングがあった。頭では「多田」だとわかっているのに、口から「多田」と出ない。何だこれは?と思いながら、僕は「ど忘れした」と嘘をついた。そして誰かが「それ多田監督じゃない?」と言ってくれたものに「あーそうそう」と乗っかることしかできなかった。その日からタ行が言えなくなった。
言えなかったのは、小学生のころに入っていたソフトボールチームの監督の名前でした。頭の中には「多田」という二文字がはっきり浮かんでいる。それでも口が動かない——その場をしのぐために出てきたのが「ど忘れした」という嘘で、あとは誰かが名前を言ってくれるのを待って、それに乗るしかありませんでした。本人はこの日を境にタ行が言えなくなったと書いています(発症の時期は本人の記憶による振り返りです)。行はちがっても、ここで起きているのは「別の音に置きかわった」ことではありません。言いたい語ははっきりしていて、その音のところで話し言葉がなめらかに出てこない——学会資料が吃音の中核症状として説明しているのは、この形です。
出典: ばあちゃんの戸籍に入るよ(HAPPY FOX・NPO法人日本吃音協会)(台帳: V0208)
吃音は、話し言葉がなめらかに出ない発話障害だと説明されています。学会資料が中核症状の例として挙げているのは、どれも「からす」という同じ言葉です——「か、か、からす」「かーーらす」「・・・・からす」。言おうとしている言葉は変わっていません。変わっているのは、その言葉が口から出てくるまでの道のりのほうです。
いっぽう、音そのものをうまく作れない状態は、これとは別に扱われます。発達の途中で現れる状態を整理した診断の分類でも、音をうまく作れない障害・ことばの障害・吃音は、「コミュニケーションの障害」というひとまとまりの中に、それぞれ別の項目として並べられています。別のものだけれど、隣り合っている——この距離感が、「カ行が言えない」という一言に二つの中身が同居してしまう理由です。
吃音の「言えない」は、三つの形で現れる
では、その「出てこない」は、そばで見ているとどう映るのでしょうか。順番に番号を唱えるだけの場面で起きたことを、40代の当事者が書き残しています。
40代男性の当事者本人(広島言友会の公式サイト・体験談欄)
体育の時間で「いち」、「に」、「さん」、「し」と順番に来て、私のところで「ご」と言えずに何秒間か静寂ののち、やっとの思いで「ご」と言うたびに、「くすくす・・・」と嘲笑が聞こえてきました。
四人目までは滞りなく進み、五人目でだけ列が止まります。「ご」は、カ行に濁点のついた音です。声が出るまでの数秒間、本人にできることは何もなく、周りには沈黙だけが残る——この「ことばを出せずに間があいてしまう」出方を、学会資料は難発(ブロック)と呼んでいます。音を取りちがえているわけでも、声が小さいわけでもありません。本人は、どもることで恥ずかしい思いをした経験について「何年経っても忘れることはできません」と書いたうえで、約10年前に自助団体の例会に出て居場所を見つけた、と続けています。
出典: 3.40代男性(広島言友会・体験談)(台帳: V0195)
学会資料が吃音に特徴的な中核症状として挙げているのは、次の3つです。
- 連発(れんぱつ):音を繰り返す。例「か、か、からす」
- 伸発(しんぱつ):音を引き伸ばす。例「かーーらす」
- 難発(なんぱつ):ことばを出せずに間があいてしまう。例「・・・・からす」
「カ行が言えない」という言い方でイメージされやすいのは、3つ目の難発でしょう。思春期以降になると、症状は繰り返しや引き伸ばしよりも、最初の音が出しにくくなる難発が中心になるとされます。
では、こうした詰まりや繰り返しは、どのくらいの頻度で、どのくらいの長さ起きているのでしょうか。就学前で吃音のある子ども19人(平均3歳9か月)の自由な会話を録音して数えた研究では、音や音節の繰り返しが91回、音の引き伸ばしが149回、1音節の語をまるごと繰り返したものが96回、これらが重なったかたまりが13回でした。1回あたりの長さは、音や音節の繰り返しが平均0.87秒、1音節の語の繰り返しが平均0.99秒、引き伸ばしが平均0.63秒、重なったかたまりが平均1.78秒と報告されています。
数字にすると1回は1秒前後です。短いようですが、話す側はその1秒を語のたびにくぐることになりますし、聞いている側の記憶に残るのは、止まっていた時間のほうです。
同じカ行でも、言える時と言えない時がある
「カ行が言えない」と検索する人の多くが、実はもう一つの引っかかりを抱えています。いつも言えないわけではない、という引っかかりです。2歳5か月で娘の吃音が始まった母親が、娘が年長になったところでその3年間を振り返って書いています。
年長の娘の母(個人ブログ note・娘は2歳5か月で発症)
その後良くなったり悪くなったりを繰り返す中で
・「あ行」が言えない時期
・「ま行」が言えない時期
・「は行」が言えない時期
等いろんなパターンが出現しました。非常に興味深く観察していました。この子の脳みそはいまどうなってるんだろうなあと、何度も不思議に思いました。なお症状が悪化したりよくなったりの波はありましたが、最初の1~2週間ごろほど症状が酷く出ることはその後二度とありませんでした。
いちばん強く出たのは最初の1〜2週間で、そのあとは症状の強さだけでなく、「言えない行」のほうが入れ替わっていったといいます——あ行の時期、ま行の時期、は行の時期。母はそれを、縄を上下に大きく揺らしたときにできる模様にたとえ、大きな上下がありながら俯瞰すると少しずつ波が収まっていった、と書いています。年長になったころ、気づいたら数か月吃音が出ていなかった、とも記しています。子どもの吃音では、まったく症状が出なくなる時期もあるかもしれないと、学会資料に書かれています。
出典: 娘の吃音、はじまりとおわり(note・ちゃんしー)(台帳: V0079)
吃音の特徴として、状況によって症状が出やすかったり出にくくなったりすることが挙げられています。歌をうたうとき、2人で声を合わせるとき、独り言を言うときなどは、一時的に流暢になる人が多いとされます。さらに、調子の良い状態や悪い状態が数週間から数か月にわたって続くこともあり、こうした症状の変動を「波」と呼びます。
幼児期については、ことばの発達も発話の運動もまだ未熟で、疲れや環境の変化に影響されて症状がよくなったり悪くなったりすること、まったく症状が出なくなる時期もあるかもしれないことが書かれています。学齢になるころには、多い時期と少ない時期の波はあるものの、幼児期のようにまったく出ない時期を経験することは少なくなるとされます。
つまり、同じカ行でも「言える場面」と「言えない場面」があるのは、吃音では珍しいことではありません。波があるかどうかだけで結論が出るわけではありませんが、相談のときに伝えると整理が進む材料です。いつ・どんな場面で出て、いつは出なかったのかを書き留めておくと、そのまま持っていけます。
大人の「カ行が言えない」は、言い換えで見えなくなる
大人になってからの「カ行が言えない」には、子どもの場合とちがう見えにくさがあります。社会人1年目で会社の電話に行き詰まった女性が、母親に打ち明けたときのやりとりが残っています。
執筆時28歳の当事者本人と母の会話(社会人1年目・5年前の回想。自助団体の会報に載ったことば文学賞の受賞作。掲載時に句読点などが加筆・修正された版)
「カ行とタ行が言いにくい。最近、ア行も言いにくくなってきて、電話で最初にありがとうございますのアが出ないのがすごくしんどい」「えー!そんなん初めて知ったわ。そんなことってあるんや。でもいつも言えてるやん」「それは私が言い換えしてるからやねん」
打ち明けた相手は、母親でした。就職して1か月で会社の電話に追い詰められ、家に帰っては受話器を持って電話の練習や発声練習をしていた時期のことです。母は驚きます——日ごろは言えているように見えていたからです。見えていなかったのは、本人が言いにくい言葉を別の言葉に置き換えていたぶんでした。学会資料も、吃音を巧みに隠そうとして言いにくい単語を言い換えるなどの工夫をすることがあり、その場合、吃音は目立たなくなる一方で、実際は吃音が出ないかを日々警戒しながら生活するためストレスや悩みを抱え込みやすくなる、と述べています。
出典: 第7回ことば文学賞受賞作品(日本吃音臨床研究会)(台帳: V0164)
思春期以降になると、吃音の症状は繰り返しや引き伸ばしよりも、最初の音が出しにくくなる難発が中心になるとされます。発話に困難を感じやすい場面として挙げられているのは、中高生では部活動や入学面接、大学生ではゼミの発表や就職活動、社会人では職場の電話応対です。電話は、相手の顔が見えないうえに、最初のひと言が決まっている場面です。
また、発話場面での失敗体験が重なると、話し始める前に不安や恐怖を感じ、次第に会話や社交を避けるようになる、とも書かれています。周りから見て「いつも言えている」ように映るのに本人だけが負担を抱えている、ということが起こりえます。「カ行が言えない」と検索している人が、家族にも打ち明けていないことは、めずらしくありません。
苦手な行は、人によって違い、その人の中でも変わる
カ行が苦手だと、日常のどこで具体的に困るのでしょうか。高校入学の場面を書いた大学生の記録が、それを端的に示しています。
大学生の当事者本人(「か行」と「た行」が苦手/個人ブログ note)
自己紹介のときに吃音のことを話すべきかと考えたが、そもそも僕は「か行」を発するのが苦手で、『「き」つおん』という言葉を出してクラスの前で話すのは、ハードルが高かった。そのため、僕は入学して2週間後くらいにクラスのグループLINEで、吃音のことをカミングアウトすることにした。
高校の教室で、自己紹介の順番が回ってくる前の話です。打ち明けるかどうか以前に、「吃音」ということば自体が「き」で始まる——か行が苦手なこの人にとって、その二文字を人前で口に出すことが最初の関門でした。選んだのは、入学2週間後にクラスのグループLINEに書くという方法です。初めて自分の障害をみんなの前で告白するのはかなり勇気が要る行為だった、と本人は振り返っています。そして数年後、人前で話す機会のなかった浪人の1年のあいだに「か行」は少し言いやすくなり、代わりに「さ行」が言いづらくなった、苦手な「行」は変わることがあるなんて知らなかった、とも書いています。
出典: 吃音東大生の辛い人生(note・寛容植物)(台帳: V0207)
「どの音が苦手か」は、その人に固定された属性ではないようです。研究をまとめた総説は、古い研究が「どの音で吃りやすいか」の順位表を作ってきたことを紹介したうえで、そうした一覧がすべての吃音のある人に当てはまるという合意は、その後の研究では限られたものにとどまったと整理しています。そして、すべての吃音のある成人にとって特に難しいという音は一つも無く、個人差がとても大きいと述べています。
この総説は続けて、専門家がこの点を確かめる最もよい方法は、どの音がなめらかに出しにくいと感じるかを本人に尋ねることだ、としています。つまり「カ行が苦手だ」というあなたの感覚は、専門家が知りたがっている情報そのものです。相談のときに、真っ先に伝えてかまいません。
「カ行は難しい音だから」では説明がつかない
「カ行が言いにくいのは、カ行が発音として難しい音だからでは?」——自然な推測ですが、研究はこの説明にあまり味方していません。
まず、就学前の子どもについて。吃音のある子ども14人(平均3歳8か月・2歳7か月から5歳9か月)の親子の会話を分析した研究は、発話の最初の語で起きる繰り返しが、そのすぐ次に来る語の「発音の複雑さ」——言うのが難しい音や音の並びをどれだけ含むか——で予測できるかを調べました。語の使われる頻度・文の長さ・文の複雑さなどをそろえて見ると、次の語の複雑さは、音や音節の繰り返しの起きやすさも、語をまるごと繰り返す起きやすさも予測する要因ではありませんでした。
ただし、この論文自身が、6歳より上の子どもや大人では発音の複雑さと吃音の関連が観察されている一方、6歳未満の子どもでは観察されていない、と先行研究を整理してもいます。就学前の結果を、そのまま大人に当てはめることはできません。
では大人ではどうか。英語で話す成人40人——子どものころから続いている吃音のある35人と、脳の損傷のあとに吃音が出た5人——が文章を音読した記録を分析した研究があります。40人のうち38人は英語を母語とし、残る2人(ポーランド語が母語の1人とドイツ語が母語の1人)も日常的に英語を使う人たちでした。どもった語となめらかに言えた語を比べると、「語が長い」「名詞・動詞・形容詞・副詞である」「語の最初の音が子音である」という3つの条件では、どもった語のほうにその条件を満たすものが多くみられました。いっぽう、「文の出だし(最初の3語)で吃りやすい」という古くからの見方については、どもった語となめらかに言えた語で差はみられませんでした。発話の中で早く出てくる語ほど吃りやすいことは、かなり一貫した知見だと総説も書いています。ただし、その総説自身がこの Max らの研究を名指しで引き、語の位置以外のすべての要因が吃音の頻度に寄与したと紹介しています。宙に浮いた対立ではなく、総説の中で両方が並べて扱われている論点です。
著者たちは、どの語で吃るかは、ことばそのものの要因よりも、発話を運ぶ運動の要因のほうが強くかかわっていると解釈しています。子音は母音とちがって、口の中のどこかを閉じたり狭めたりする動きが要るからです。
注意したいのは、これが英語の音読を分析したものだという点です。日本語の「カ行」のように仮名の行ごとに調べた研究ではありませんし、この研究が見ているのも「語の最初の音が子音か母音か」という粗い区別までです。日本語では、あ行以外の行はすべて子音で始まります。ここから「カ行だけが難しい」を取り出すことはできません。
どこに相談する?——言語聴覚士とことばの教室
「発音の問題か吃音か分からない」ときも、相談先は共通しています。窓口になるのは、話し言葉の専門職である言語聴覚士(ST)と、ことばの教室です。学会資料は、楽に話しやすくなるように周りの人の接し方や場面のほうを整える方法、発話に直接働きかける方法、吃音のことを理解する方法などを年齢や状態に合わせて行うとしたうえで、小児を扱う言語聴覚士や、ことばの教室の教員に相談するようすすめています。
相談のときに持っていくとよいのは、次の3つです。
- どんな場面でカ行が出にくく、逆にどんなときは出やすいか(総説は、どの音が出しにくいかは本人に尋ねるのが最もよい方法だとしています)
- いつごろから続いているか。調子の良い時期・悪い時期の波があるか
- 言いにくさを避けるために、言い換えたり、話すこと自体をやめたりしていないか
3つ目はとくに、外からは見えにくい変化です。失敗体験が重なると会話や社交を避けるようになること、言い換えによって吃音が目立たなくなる一方で本人の負担は増えることが、学会資料に書かれています。
なお、子どものころに始まる吃音(発達性吃音)は、2005年に施行された発達障害者支援法の対象に含まれています。そして、学校や職場で発表や電話応対の免除、試験等での面接時間の延長といった配慮を求められるのは、2016年に施行された障害者差別解消法によるものです。その際、医師の診断書や言語聴覚士の報告書の提出などが求められる場合があります。様子見だけで抱え込まず、専門機関につながることが近道です。
「カ行が言えない」で陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 発音の練習だけで解決しようとする
もし中身が吃音(なめらかさの問題)なら、学会資料が挙げている支援は、話しやすくなるように周りや場面を整えること・発話に働きかけること・吃音のことを理解することです。音の作り方を練習することとは、出発点が違います。まずは「発音の問題なのか、吃音なのか」を切り分けるほうが先で、自己流の発音ドリルだけに頼るのは遠回りになりがちです。
落とし穴2 − 「カ行だけの問題」と枠を狭めすぎる
総説は、すべての吃音のある成人にとって特に難しい音というものは無く、個人差が大きいと整理しています。学会資料も、症状には場面や時期による波があるとしています。実際、この記事で紹介した2つのケース——母親が書き残した娘の経過と、本人が書いた大学生の記録——では、どちらも苦手な行が入れ替わっていました。「カ行だけ」と枠を狭めると、実際の状態を見誤ることがあります。
落とし穴3 − 一人で抱え込み、様子見を続けすぎる
ネットの断片情報だけで判断せず、言語聴覚士やことばの教室にあたりましょう。学会資料も、小児を扱う言語聴覚士や、ことばの教室の教員に相談するようすすめています。そのとき、いつ・どんな場面で・どんなふうに出たかの記録があると、切り分けの手がかりになります。総説が「どの音が出しにくいかは本人に尋ねるのが最もよい」としているとおり、あなたの実感は、そのまま相談の材料です。
まずは日々の様子を書きためることから小さく始めるのが現実的です。どんな場面でカ行が出にくいか、逆に出やすいのはどんなときかを残しておくと、波の把握や専門家への相談に役立ちます。言語聴覚士やことばの教室に相談できる場合は、あわせてご相談ください。
よくある質問
カ行が言えないのは吃音ですか?
どちらの可能性もあります。吃音では、カ行の言葉が「か、か、からす」と繰り返されたり、「かーーらす」と引き伸ばされたり、「・・・・からす」と間があいて出てこなかったりします。音そのものをうまく作れない発音(構音)の問題は、診断の分類では吃音と別の項目として並べられています。場面によって出たり出なかったりする波があるなら、吃音の特徴に近いと考えられます。迷うときは言語聴覚士やことばの教室に相談してみてください。
カ行が言える時と言えない時があるのはなぜですか?
吃音には、状況によって症状が出やすかったり出にくくなったりする特徴があり、歌や独り言、2人で声を合わせるときなどは一時的に流暢になる人が多いことが知られています。また、調子の良い状態・悪い状態が数週間から数か月続くこともあり、この変動は「波」と呼ばれています。同じカ行でも場面や時期によって変わるのは、この波の一つと考えられます。
カ行は難しい音だから吃るのですか?
一概にそうとは言えません。研究をまとめた総説は、すべての吃音のある成人にとって特に難しいという音は一つも無く、個人差がとても大きいと整理しています。就学前の子どもを調べた研究でも、次に来る語の発音の複雑さは繰り返しの起きやすさを予測する要因ではありませんでした。成人の音読を分析した研究が見ているのも「語の最初の音が子音か母音か」という粗い区別までで、日本語ではあ行以外の行はすべて子音で始まります。カ行だけを取り出して「難しい音」と位置づける根拠は、これらの研究からは得られません。
大人になってカ行が言いにくくなったのも吃音ですか?
その可能性があります。思春期以降の吃音は、繰り返しや引き伸ばしよりも、最初の音が出しにくい難発が中心になりやすいとされます。職場の電話応対は、発話に困難を感じやすい場面として挙げられています。言いやすい言葉に言い換えてしのいでいる場合、周囲からは目立たなくなる一方で本人の負担は増えるとも書かれています。断定はできないため、心配なときは言語聴覚士に相談してみてください。
何科・どこに相談すればいいですか?
話し言葉の専門職である言語聴覚士(ST)と、ことばの教室が相談先です。子どもの場合は、小児を扱う言語聴覚士やことばの教室の教員に相談するようすすめられています。大人の場合は、本人が吃音の治療を希望するなら言語聴覚士による発話訓練を受けるという選択肢がある、と書かれています。発音(構音)と吃音のどちらか迷う場合も、まとめて相談すれば切り分けの見立てをしてもらえます。どの音が出しにくいと感じるかは、専門家が本人に尋ねて確かめる情報なので、そのまま伝えてかまいません。
まとめ
- 「カ行が言えない」には、音そのものをうまく作れない発音(構音)の問題と、言いたい音は決まっているのになめらかに出てこない吃音の、二つの可能性がある。後者が吃音として説明されており、診断の分類でも両者は別の項目として並ぶ。
- 吃音のカ行は、繰り返す・引き伸ばす・間があいて出てこない、の3つの形で現れ、思春期以降はとくに難発が中心になりやすい。就学前の子どもで数えると、1回の長さは平均0.63〜1.78秒だった。
- 手がかりは「波」。同じカ行でも場面や時期で出たり出なかったりするのは、吃音では珍しくない。
- 「カ行が難しい音だから」とは言い切れない。総説は、すべての人に共通して難しい音は無く個人差が大きいとし、就学前児では次の語の発音の複雑さは繰り返しを予測しなかった。成人の音読でも、見ているのは子音か母音かという粗い区別までである。
- 迷うときは様子見だけにせず、言語聴覚士やことばの教室へ。学会資料は、小児を扱う言語聴覚士やことばの教室の教員に相談するようすすめている。どの音が出しにくいかは本人に尋ねるのが最もよい方法とされているので、実感をそのまま伝えてよい。
